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連載はじめてみました。よろしくお願いします。
「ああっ、ごめんなさい! ごめんなさいっ……!」
数分前まで和やかなお茶会だったはずなのに、どうしたことでしょう。一人の貴族令嬢がポロポロと泣きながら謝罪しています。
……たった今、怒りの形相でカップの中身をぶちまけた相手に向かって。
シンと静まり返った会場の中、謝罪された少女だけは違う空気をまとっていました。
「よろしいのですよ。さあ、顔をおあげになって」
やわらかな金の髪に、陶器のようにすべらかな肌。神々しいまでの美貌に相応しい慈愛に、誰かがため息をつきました。
「そんな、まさか……許してくださいますの?」
「許すも許さないも、私たちお友達じゃありませんか。ただほんのちょっと、すれ違ってしまっただけ」
「あ……あ……」
「ね? そうでしょう」
にっこりと微笑まれ、ぷつんと糸が切れたように令嬢が号泣します。感じやすい年頃の令嬢達も、つられたようにシクシクと泣き出し、会場中が感動の渦に包まれたのでした。
――まあ、何事にも例外というものはあるわけで。
その会場の端にただ一人、その場の空気から完全に置いてきぼりにされた私がいるわけなのですが。
(とりあえず、タオルをいただけると嬉しいのですけれど)
歓談している最中、ふらりと近寄ってきた方の様子がおかしいことに気がつきました。そしてとっさにかばって紅茶をかぶり、頭から雫を垂らしているのが現状です。
「ですがきっと、しばらくの間はこちらに御厄介にならない方がよいでしょうね」
天使は悩まし気に呟きました。
その正体は近隣国の公爵令嬢、シャルロット様。我がタリース国と友好を深めるため外遊に来ていただいてる、大切な大切なお客様。たった今大泣きしている侯爵令嬢は、ホスト役を引き受けていたはずでしたのに。
ぶちまけられたのは熱湯ではなく、すっかり冷え切った紅茶。シャルロット様にかけられても火傷はしなかったでしょう。ですがもちろん、この事態を軽く扱うわけにはいきません。
「でしたら、私の所に!」
「いえ、私の屋敷にどうぞ。是非令嬢にご覧にいれたい家宝がありますの!」
さっそく我先にと令嬢たちが名乗りをあげました。シャルロット様はまだこちらにきて数日ですが、その輝くばかりの美貌と心の美しさで、すっかり人気の的なのです。
「まあ皆様、本当にありがとうございます」
シャルロット様は感激した面持ちで周囲を見回しました。
「ですが差し支えなければ、私はアデライド様のお世話になりたいと思います」
「……へ……」
思わず声が漏れた。
「だってとっさに、まるでナイトのように私を助けてくださったのですもの!」
無邪気に提案されたシャルロット様の言葉に、会場がざわつきました。
私、アデライド・ヴィンターハウゼンは、正確にはこの国の貴族ではありません。公爵家の孫でありながら、血筋は別の国の貴族令嬢。そんな中途半端な立ち位置は、私をほんのり周囲から浮かせておりました。
「ね? よろしいでしょう、アデライド様」
「へ……へ……へっくしょい!」
ついに限界が訪れ、たまらずくしゃみで返事をしてしまいました。もちろん、周囲の令嬢たちが凍りついたのは言うまでもありません。