ー16ー
「アデライド様、あのう、私は……」
「他の国の方ならいざ知らず、我が国の貴族の言葉とは思えません」
なんだかいつもの自分の声と違うように聞こえた気がします。
それでも不快感を露わにせず、淡々とした態度と丁寧な口調を崩さずにいられたと思いました。しかしクロエ様はすっかりうろたえておりました。
「自国の王子に向かってなんという言いぐさでしょう。最低限の敬意というものがあれば、とてもそんな口はきけないと思いますが」
王家の血筋というだけでなく、彼がいなければタリース国はもっと多くのものを奪われていたでしょう。例えば、法外な要求を繰り返した私の祖国が健在なら、この冬は飢えて死ぬ国民が出ていたに違いありません。安全に守られた王宮で過ごしているので感覚が麻痺しているのでしょうか。
「あ……。も、もちろん感謝していますわ。二度とこのような事は申しません!」
「そうして下さいませ」
どこまでわかって下さっているのか、それでもさらに言い合いを続けるのは不毛でしょう。これ以上は遺恨を残すだけだとのみ込むことにしました。
私は彼女に向き直り、改めて問います。
「そもそも、貴方は一体何がしたいのです?」
本当に意味がわからなくて聞いているだけなのに、彼女は怯えた顔をしています。
「あ……その……」
「シャルロット様に許して欲しいとおっしゃっていたはずなのに、同時にずいぶんと腹を立てていらっしゃるようですわね。それほどお嫌いなら、仲直りなどしなくて良いのではないですか?」
「それは、そういう意味ではなくて……!」
令嬢のなさっていることは矛盾だらけです。
敵対したいのか、仲直りしたいのか。
「ちやほやされてるシャル様が目障りだ。だけどその恩恵にはあずかりたい……ということでしょうか?」
「そ、そんな、失礼ではありませんか!」
「シャル様の身近な人間に悪い噂を広めたかったのですか? 真に受けてもらえば、彼女はさぞかし居心地の悪い思いを味わうでしょうからね。……ああ、もしかして廊下で突然話しだされたのも、他の方に聞かせる意図があったのでしょうか。だとしたら誰もいない中庭に連れ出してしまったこと、お詫びいたしますわね」
クロエ様は顔色を青から赤に変化させました。