女勇者ユウカの帰還 ~レベルカンストして魔王を倒し現世に戻った私は、愛しの彼氏の前でか弱い少女を演じる~
【柚木優花は日本に住む普通の女子高生だった。
肩まで伸ばした黒く艶やかな髪。
スラリとした背筋に、華奢な腕と血色のよい脚。アイドルのように整った顔だち。
どこにでも居る、ちょっと可愛い女の子】
【ところがある日……】
【彼女は選ばれし勇者として、異世界へと召喚されるのだった!】
【そこは魔王によって征服されつつある世界。
滅びかけた人類の命運を背負って、優花は立ち上がるのだった!】
なんで私が、こんなことを!!
普通に暮らしたいだけなのに!
愛しの明守君と、一緒に高校生活を楽しみたいだけなのに!!
【そう、
彼女は、大好きな彼と学生生活を満喫しようとしている、ごく普通の乙女だったのだ!!】
【かくして女勇者ユウカは、5年8ヶ月と12日にも及ぶ長い月日の冒険の末、ついに仲間と共に魔王ハイザーを打ち倒すことに成功したのだった!】
【魔王の居城。
魔王と人類との最終局面。
ついに決着の瞬間。
最上階にて行われた激しい戦闘も終わりを迎えた。
女勇者ユウカは、全ての元凶である魔王の胸に、その剣を突き刺したのだ!】
【響き渡る魔王の断末魔!】
【それすら耳に入らない女勇者ユウカ!】
【彼女の思うところは、たつた一つ】
【それはこの世界の平和でも、勇者としての悲願達成でもなく、日本に置いてきた最愛の彼への慕情】
これでようやく終わるのね。
この無意味で! 無駄な冒険が!
やっと、元の世界に帰れる!!
「くくくっ……よくぞ我を倒した……さすがは異世界から召喚されし勇者よ。だがな、我が消えたとしても……」
「うるさい。いいから早く、こと切れなさい」
【ありきたりな死に際のセリフを吐く魔王の、長ったらしい未練たらたらなセリフを聞く暇すら惜しい女勇者ユウカ】
【そのまま魔王を蹴り倒し、最上階から落下させる!】
【この、悪を赦さぬ非常さ! まさに勇者!!】
「おぉ、さすがです。ユウカ殿!」
「ユウカ様、遂にやりましたね!」
【駆け寄るドワーフとエルフ】
「勇者殿、お見事です!」
「ユウカ様のお陰で、この世界にも平和が訪れます!」
【祝辞を述べる戦士と僧侶】
【仲間達の脳裏には走馬灯のように、これまでの苦難の旅路での想いが、長い長いロールプレイングゲームのエンディングのように駆け巡る】
【しかし、こんなB級映画にも劣るような、映画のスタッフロールなんて最後まで座って見ていられるほどユウカは暇ではなかった】
「さあ、帰るわよ!」
「勇者殿……?」
【喜び一転、困惑する一同!?】
「私は一刻も早く彼に、明守くんの待っている日本に帰らなくちゃいけないのよ!!」
【彼女にとってのこの旅の目的は、彼女の想い人である同級生の明守の元へと戻りたいという、ただそれだけ一心】
【喜びの表情など一切見せない女勇者!
魔王を倒した気の緩みなど周りに見せず、凄みを感じさせる気迫ある顔で帰路へとつくのだった!】
【そんなストイックで、喜びの感情など微塵も感じさせない女勇者ユウカに、仲間達は畏敬の念すら感じさせられるのだった……】
【魔王を倒したのも束の間、女勇者一行は王の待つ城へと帰還をはたす】
「きゃー 勇者さまー」
「ありがとうございます!!!」
「美しく気高いユウカ様!!」
【街道沿いには、女勇者を讃える老若男女の群衆!
すでに魔王討伐の報を聞き付けた民衆が、国王への謁見へと向かう女勇者の一行を一目見ようと道を覆いつくし、握手やサインを求め取り囲む】
邪魔ね、こいつら!
手をこまねいて見ているだけしかできなかった民衆どものくせに!
私はさっさと日本に帰りたいの!
道を開けなさいよ!
最後くらいは私に協力しなさい!!
「勇者さまー!!」
「好きです! ユウカ様!」
「こっちむいて!!」
「邪魔よ、ちょっとどいてってば! 私は急いでるんだから!」
「ユウカ殿、これは我々を歓迎しているもの達。その声に少しは答えてあげては……?」
【ユウカにささやく戦士。
しかし耳を貸さぬユウカ】
「ちょっと、戦士、ドワーフ。道を作って!」
「「え? あ、は、はい……」」
「エルフと僧侶、魔法でこいつらを黙らせて!」
「「は? は、はい!」」
【そして王宮へと帰還した勇者一行。そこで国王からの歓迎を受ける】
「おお、勇者ユウカよ。良くぞ魔王を打倒してくれた」
赤い法衣をまとい、白い髭を蓄えたこの国の王。
玉座をその汚い尻で温めることしかできなかった、この無能!!
こいつよ、こいつ!
こいつのせいで私の青春が台無しよ!
私にとって本当の敵は、こいつ!!
このサンタクロースのような爺さんに、私はとんでもないクリスマスプレゼントを突き付けやがって。
魔王討伐という、とってもファンシーでロマンティックな贈り物を!!
花の16歳、誰もが羨む女子高生の私は、愛しの彼、明守君と耽美な放課後を過ごそうとしていたところに……
学校でいきなりこの世界に召喚されるという、前代未聞な拉致をされたのよ!!
しかもあろうことか、かよわい乙女に魔王討伐を要請!!
そんなことは自分の世界の人間に頼みなさいよ!
他力本願もいいところよ! こんな世界、勝手に滅びなさいよ!!
魔王を倒せば元の世界に還してくれると聞いて、はや5年8ヶ月と15日……
当時セミロングだった私の髪も手入れが行き届かずカサカサに、腰まで伸びてしまう。
重い鎧と武器を身に着けたせいで、リュックしか持たなかった華奢だった体が、今ではゴリゴリの筋肉質に。
自慢だった白く細い指も、傷だらけでゴツゴツまめだらけの指に。
身体のあちこちには切り傷や火傷のあとが。
身長も伸びて、彼を越してしまった。
こんなゴリラみたいな状態で再開したら……
彼に幻滅されて……
嫌われちゃう!!
「感謝するぞ、勇者ユウカよ」
「帰るわよ……」
「これからはこの国で、平和の守護神として……」
「今すぐ元の世界に戻しなさい」
「ついては王子と結婚して、この……」
「もう十分でしょ! 魔王倒したんだから! 早く私がいた元の世界に送りなさい!!」
「お、おぉ……た、確かにそのような約束ではあったが……」
「5年8か月と15日!
私の青春を返してもらおうじゃないの!
利息もキッチリつけて!
ちゃんと当時の姿に戻してよ!
その時よりもちょっとだけ可愛くして、鼻を高くして、目をパッチリと一回り大きくさせて……」
「それでは……も、もとの姿とは、かけはなれて……」
「それくらいの権利はあるわ!」
「と、とにかく今宵は晩餐会に、明日はパレードと、祝賀パーティーに……」
「私には関係ないの!
早く帰らせろぉ―――!!」
【国王に掴みかかろうとするユウカを、全力で止めに入るパーティー!】
「あわわわわ、できれば勇者にはこの世界にとどまっていただき、この国の将来を……」
「なんですって!!」
【女勇者剣を抜いた!!】
「わ、分かった分かった。すぐ手配いするので、しばらく待たれるがいい……」
【慌てふためく国王とその従事者たち】
あぁ、長かったわ。
この日のためにどれだけ苦労したことか。
5年8ヶ月と15日前……
全てはこの役立たずの老いぼれ国王から、私の悲劇ははじまったのよ……
【長い苦難の日々を思い返しているユウカ。
その間に帰還儀式の準備は整い、女勇者ユウカ一行は祭壇へとおもむく。
そこでは数人の司祭たちが、ユウカを日本へと戻すために召集されていた】
「ユウカ様、準備が整いました」
「よし! いいわね、私が連れてこられた同じ時間に、同じ場所に戻すのよ!」
「かしこまりました!」
「姿かたちも当時のままよ!」
「はい!」
「歳も、肌年齢も、16歳の時の……いや、15歳の状態に戻すのよ」
「は? はい……」
「服装も! ちゃんと高校生の制服で。こんな鎧着たまま戻したら、叩き斬るわよ!!」
「かしこまりました!」
「鼻は今より高くして、目は大きく。背はあと5センチ高くして! 髪質は細く柔らかく……」
「無理です!!」
「おぉ……勇者よ。本当に戻ってしまうのじゃな」
【いまにも泣き崩れそうな国王】
「ええ、帰りますよ!」
「ユウカ様、私、悲しいです。おいてかないで下さい……」
【未練たらしく足にしがみ付くエルフ】
「そんなに急ぎ帰らんでも……」
【名残惜しそうにたたずむドワーフ】
「あなたたちエルフやドワーフにとっての5年8ヶ月と15日なんて、たいした月日じゃないでしょうけど!
人間にとったら長い年月なのよ!
その間愛する人と離ればなれになるなんて、堪えられると思ってるのぉ!!」
正直あなたたちには嫉妬してるのよ!
半分でいいから、その若さと寿命を私にもちょうだいよ!
「勇者殿にはお世話になりました。御武運を」
「勇者様、ありがとうございました。神のご加護を」
【戦士と僧侶は二人並んで、ユウカを見守る】
「武運なんて女子高生に必要ないわよ!
神なんか役にたたないわよ!
あなたたちはいつも2人でいいわよね。私は最愛の人に、会いたくても会えない日々をすごしてきたんですから!」
実は戦士と僧侶が愛し合っていることを知ったのは3年前。
私の見えないところで隙あらば、いちゃ付きやがって。
どこへ行くにも仲良く、くっつきやがって!
これ見よがしに、私への当てつけか? え!?
こんな時でも!!
「勇者ユウカよ。もう一度考え直して……」
「うるさぁぁあい!! 早くしろぉ!!」
【食い下がる国王を一蹴するユウカ!】
【司祭らは慌てて呪文を唱え、その場が光で溢れかえる】
「もう二度とこんなところ来ないから!
あなた達も二度と呼ぶんじゃないわよ!!」
【捨て台詞だけを残し光に包まれるユウカ】
――そして――
……
…………
うっ…………ここは?
【辺りを見渡す優花。
そこは見慣れた、懐かしい場所】
この建物は確か校舎の裏側?
無事にもとの世界へと帰還することができた!
【両手をまじまじも見つめる優花。
その手は可愛らしいまま。剣を握り振り回し過ぎてできたマメやタコなど、どこにもない。傷一つ無い艶やかな指】
服は?
【体には学校指定の制服が。
可愛らしく胸元で結ばれたリボン。
ひざ丈のプリーツスカート】
あの、肌触りの悪い異世界の服でも、くそ重い金属の鎧でもない、今時の可愛らしい女子高生の身に付けている制服だわ。
【そして思い出したかのように、カバンの中をあさる優花。
取り出したのはスマホ】
時間が!
あの時の日付に!
戻ってる!
【ポーチの中の手鏡で自分の顔を見る。
雑草のように荒れ放題だった髪が、当時のちゃんと手入れされたセミロングまで戻っていた】
【戻ってきたのだった】
【確かに女勇者ユウカは】
【突然拉致召喚され、異世界に飛ばされ、魔王だかなんだかを倒すためだけの、あの忌々しい日以前の……
あの日に帰還していたのだった】
「優花ちゃん? ここにいたんだ。急に消えちゃうからビックリしたよ」
あっ! 愛しの明守くん!!
久しぶりの彼の姿。
5年8ヶ月15日ぶりの、目の前で動きしゃべる本物の明守くんだわ!!
細く華奢な手足。
ユウカよりも少し背の高い身体。
短めの黒くさらさらな髪の毛。
メガネの奥に光る優しく丸い瞳。
【校舎裏から姿を表した青年。
それは紛れもなく
優花にとっての愛しの彼だった!!】
「こんなところにいたんだ。探したよ、急にいなくなっちゃうから」
【嬉しさと、
愛しさと、
淋しさと、
様々な感情が押し寄せる優花の目には、
抑えきれない涙が溢れる】
「会いたかったわ、明守くん!! 5年8ヶ月と12日ぶりに!」
「え? さっきまで一緒に授業受けてたよね?」
「それくらい待ち遠しかったってことよ!」
「ど、どうしたの急に?
抱きついたりして?
は、恥ずかしいよ……」
【そして万感の想いを胸に、抱き締める優花】
「ちょっと痛いよ……優花ちゃん。そんな強く……」
【彼の温もりと触感。
これは確かに彼が存在しているという事実を感じられる瞬間!】
あぁ……
確かに明守くんだ……
私の大好きな明守くんだ!!
【今までの会えなかった辛く苦しい日々が、走馬灯のように駆け巡る】
【そして響き渡る異音!?】
グギボコッ!!
【何かが砕け散る音!!】
グブッボッ!!
【何かが破裂する音!!】
ベチャグチャ!!
【何かが滴り落ちる音!!】
デロッデデロ……
……えっ?
イヤャァァァァァァァァ―――!!!!!
明守くんがぁあ!!
私の明守くんがあ!!
白目むいて!?
穴という穴から血がぁ!!
上半身の骨が砕け散って、軟体動物みたいに!?
いろんなものが、飛び散ってるぅ!!!!
スライムみたいになってるう―――――!!!
なんてこと!
異世界から戻ってきたのはいいけれど。
姿かたちはあのままでも。
レベルがカンストした状態で戻ってくるなんてぇぇ!!
あいつらぁ!!
元に戻せって!!
あんだけ言ったのにぃ!!
なんで能力値は、そのままなのよ!!
絶対! 許さないから!!
「……って、明守くん!!
大丈夫!!」
【返事がない……
まるで屍のようだ……】
ああっ!!
どうしたらいいの!?
救急車救急車!!!
番号何番だったかしら?
118?
ステータス画面は?
装備、アイテム一覧?
いや違うわ。スマホよ、スマホ!
たしかポケットにしまった……
グニチャア!!
なにこの……
鈍い金属がひしゃげる音は!!?
【スマホが優花の握力に耐え切れず、ぼろ雑巾のように崩れ落ちる!】
なんて貧弱なアイテムなの!!
どうしようどうしようどうしよう!?!?
このままじゃ、私の明守くんが!!
私の経験値になっちゃうぅ――!!
これ以上レベル上がらないのに!!
そ、そうだわ!
レベルが引き継がれているということは、魔法も使えるはず。
【女勇者は回復魔法を唱えた!】
ヒール!!
ヒールヒール!!
ヒールヒールヒールヒール……
……
…………
あぁ……
明守くんの寝顔、なんて可愛いのかしら……
【不得意な回復魔法を唱えること数十回】
【そこには彼を優しく膝枕する優花の姿があった!】
私の膝枕で静かに寝ている明守くん。
可愛いわぁ。
その姿を見ているだけでも、ご飯10杯は食べれそう。
あっ……ついヨダレが……
【滴り落ちる雫が、明守の額に落ちる!】
「……ん……ぁ……あれ? 僕はいったい?」
【目を覚ます明守に、満面の笑みを向ける優花!】
「よかったぁ……
明守くんたら、久しぶりに再会したからって、嬉しくて気絶しちゃうんだもん。私びっくりしちゃったわよ」
「え? 久しぶりに? さっきまで一緒にじ……っ!?」
【これ以上あらぬ詮索をされぬよう、優花はとっさに彼に口付けをし、口を塞ぐのだった!!】
【しばらくの静寂の後、唇を離す。それは彼への再会の喜びと、変わらぬ愛の証だった!】
5年8ヶ月と12日ぶりの明守くんの唇、美味しい!
美味しすぎるわ!
異世界で食べてきたどんな食べ物よりも美味!
「あ、あの、優花ちゃん? 今日はどうしたの?」
【唐突な優花の味見に、困惑する明守!】
「人工呼吸かな?」
【苦し紛れの言い訳に、キョトンとする明守】
赤くなってる明守くん。可愛い……可愛すぎるわ。
胸キュン過ぎて、私の心臓が止まりそう。
そしたら人工呼吸してくれるかな?
【優花は終始困惑状態だった!!】
「さあ、明守くん。帰りましょ」
「え? うん。そうだね……
あれ? メガネ……?」
【2人の足元には女勇者の犠牲となった、枯れ枝のように折れ曲がったメガネと、小石ほどに粉砕されたスマホが転がっていたのだった】
「えーっと、それは……明守くんが倒れたときに、その……私が踏んじゃって……」
しかし、この力、なんとか制御しないと……
うっかり明守くんの手でも握ったら……
粉々にしてしまうかも!?
【元女勇者ユウカの苦悩は続くのであった!】




