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【完結】異世界で猫になったからのんびり暮らしたい  作者: 猫柳渚
第三章:人見知りの魔法使い
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決着

 わたしは走った。こんなにも走ったことなんてほとんどなくて、今にも倒れてしまいそうだったけど、必死に足を踏ん張って。


 助けに来てくれたリーダンさんに、突然わけのわからない化け物に変異したクルント副所長を任せて辿り着いたのはグラウンドの隅、朝の認証試験で使われた客席の骨組みが仮置きされている場所だった。長い鉄の棒や板が綺麗に山積みになっている。


 息を整えながら振り返れば、クルント副所長とリーダンさん。そしていつの間にか集まったチームメイトの人たちが戦っていた。防壁魔法や圧縮魔法、物体操作魔法などを駆使して足止めをしてくれている。


 骨組みに向き直って魔法陣をまとめた本を開いた。そうして物体操作の魔法陣が描かれた紙を破り取って地面に置き、魔法を発動させる。一メートル以上ある鉄の棒を数本、操作して側面をくっつけて筒を作り出す。

 棒を繋いで作った筒の中へ、さらに短めの鉄棒を差し込み、筒の先を副所長へ向けた。


 操作魔法が解けないように注意しながら空いている方の手で本をめくり、今度は膨張魔法陣を記したページを開く。


 しっかりと狙いを定めて、深呼吸をして集中。筒の中で膨張魔法を炸裂させた。


 破裂するように膨張した空気に押されて差し込んでいた鉄棒が筒の中か飛び出し、真っすぐに副所長へと向かって行く。そうしてわたしの狙い通り、鉄棒は副所長の右肩へ突き刺さった。


 成功を喜ぶ暇もなく、次弾を装填。さっきと同じように筒の中で膨張魔法を炸裂させる。左足に命中。


 装填、発射、左腕に命中。装填、発射、右足に命中。と次々に鉄棒を副所長の身体へ突き刺していく。


 親しい間柄じゃなかったとはいえ、化け物の姿をしているとはいえ、顔を知っている人間をここまで容赦なく傷つけられることに、自分でも驚いていた。


 せっかくできた友人に危害を加えられた怒りや、父親が凶行を犯した原因だった憎しみが、無理な魔法の行使による身体的危機が、精神を鼓舞していた。


 四肢に穿たれた鉄棒。あれを物体操作の魔法で操って拘束すればお終いだ。外れた時のために次弾は装填してあるが、後はリーダンさんたちに任せればいいだろう。


 わたしが勝利を確信して気を抜きかけたと同時に、副所長の身体から触手が伸び、身体を貫いていた鉄棒を引っこ抜く。しかもみるみるうちに傷口が塞がっていた。


 触手たちがリーダンさんたちを薙ぎ払う。ぐりんと、気持ちの悪い目玉がこちらを向いた。真っ白の化け物が、わたしの方へと駆け出してくる。


 抜けかけていた気持ちを引き締め直し、筒の先を副所長へ。体力的にも距離的にもこの一発で仕留めなければ死ぬ。一度途切れてしまった集中を戻すことには時間が掛かる。加えて最後の一発を外せば死ぬ、という重圧が思考を硬直させる。


 狙うは頭部だけれど、的が小さく動いているし、弾かれる可能性もある。そんな失敗ばかりが頭の中を占領して、わたしの行動を抑止していた。


 副所長との距離が数メートルの距離まで迫る。終わったと思った――その時だ。

 黒い毛玉が副所長の身体を伝って駆け上り、目玉を裂いた。


「ヨゾラ……!」


 副所長の足が止まり、痛みを堪えるように両手で顔を覆った。分厚いが、掌程度なら貫通できる。


 わたしはここ一番の魔力を籠めて魔法を炸裂させた。筒を構成していた鉄棒がはじけ飛び、衝撃でわたしも後ろへ吹き飛ぶ。放たれた鉄棒は顔を覆っていた掌ごとクルント副所長の頭部を貫いた。


 穿たれた穴から反対側が見える。本当は突き刺さったままの状態で留めておきたかったに、威力が強すぎた。これではまた再生してしまう。


 そう思ったのも束の間、副所長は力なく膝から崩れ落ち、ボロボロと体が崩れ始める。そうしてようやく、目の前の男が死んだのだと悟った。


 結局、転移魔法は奪われ、敵の正体もわからないまま。今回の事件については何もかもが不明のままで終わってしまった。


 それでも、これは個人的な感情だけれど、お父さんが何の理由もなく研究結果を、仲間の虐殺を実行したんじゃなかったんだとわかって、ホッとしていた。


 自分の手でお父さんの仇を討てて、あのメッセージは自分に向けられていた物じゃなかったんだとわかって、目の前で砂みたいに消えて行く副所長の身体と一緒に、ずっと心に付きまとっていたモヤモヤも消えて行くような、そんな感覚を覚えた。


「にゃー」


 足元で猫が鳴く。そういえばこの子が来てから、自分の運命が大きく動き出したな、とぼんやりとする頭で考えて――。


「おい! ミクロア、大丈夫か? しっかりしろ、おい――」


 駆け寄って来てくれたリーダンさんが、どこか遠くから呼びかけるような声を聞きながら、わたしは魔法の使い過ぎによって昏倒した。

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