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【完結】異世界で猫になったからのんびり暮らしたい  作者: 猫柳渚
第三章:人見知りの魔法使い
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周囲の評価

 リーダンの持ってきた硬化魔法のおかげで、転移魔法は順調に完成へと近づいて行った。今ではもう木箱程度であれば破損なしで10mの距離を転移させることに成功している。


 ただ、転移間に障害が生じたときの問題は解決の兆しすら見えていなかった。


 それに加えて、モータルが担当していた”物の大きさを変える魔法”が最終段階に入ったとかで、そちらの研究へと戻ってしまった。


 すぐに戻ってくる、とは言っていたが、それまではミクロア一人だ。また部屋に引き籠るだろう。かと思ったが以外にもミクロアはモータルがいなくても実験場へと通い、転移魔法の研究を続けていた。


 流石にまだ俺が付き添わないといけないし、住み込みの利点を生かして早朝に移動するなど、人前を歩くことは避けているが、それでも当初と比べればかなりの前進だ。


 だが、新たな問題も発生する。ミクロアが転移魔法について本格的な研究を始めた、という話が広まって見物人が集まり始めたのだ。


 魔法学についての探求心で、というなら全然いい。たぶん、なんやかんやでミクロアは対応するだろう。だが、半数以上は”ミクロア本人”への好奇心と妬みなどのやっかみだ。


 今のところ、移動中に話しかけてきたり実験場を覗く、入ってくる(ルールとして原則禁止されている)などはないものの、時間の問題だろう。直接的な嫌がらせ行為もしてはこないが、陰口的なモノは常々、聞こえてくる。


 幸い、というのもなんだが早朝と終業後に移動しているおかげで直接ミクロアの耳に入るような状況には至っていないが、わざわざ実験場の前に来てグチグチ言ってくる輩もいるのでこちらも、いつかは彼女の耳に入ってしまうだろう。


 モータルがいない今、俺がどうにかミクロアを守らなければならない。魔法研究で力になれない分、メンタル面のサポートは徹底してやる。


 小屋の方はエクルーナが大々的に初犯野郎を処罰したので現状、手出しはされていない。警備も一応、監視の魔法陣を設置することで強化してある。


 やっかみ共も俺が追い払ったり注意を逸らしたりと、なんとかのらりくらりと躱していたのだが……ある日、ついに事件は起こった。


 俺が弁当を貰いに食堂へ行って戻ってくると、実験場の出入口で何やら言い争いが起きていた。若い女性職員二人がミクロアと対面して何か言っている。


「えっと、あの、いまは、わたしが、つかって……」


「だから、ずっと占領されると困るのよね」


「研究してるの、転移魔法だっけ? どうせ出来っこないんだからずっと引き籠ってればいいのに」


 きっとトイレに行く時にでも捕まってしまったのだろう。占領、と言っても他に場所はいっぱいあるし、使用許可はちゃんと俺が取ってある。完全に言いがかりだ。


「というか、たまに凄い爆発してるみたいだけどなにしてんの? 今度は殺戮魔法でも作るつもり?」


「父親に似て野蛮ね。所長に気に入られてるからって調子に乗ってるの?」


 いや、言い争い、というのは間違いだ。一方的な罵倒だ。すぐ助けに入ろうかと思ったが、俺が直接行くよりも効果的な方法があるのでそっちを実行した。


 言いたい放題にミクロアへ口撃を続ける二人に、俺は近づいて行く。


「父親がとんでもない事件起こしたのに、その父親のコネで仕事して恥ずかしくないの?」


「ねぇ、さっきから黙ってるけど、何か言ったらどうなの。凶悪犯のこ――」


『あなたたち、何をしているの?』


 所長の声がして振り向いた二人は青い顔をするが、俺しかいないことを知って安堵の表情を見せる。


「しょ、所長……!? いえ、これは……あれ」


「いないじゃない。ってかなにこの猫」


 だが、それも束の間、片方が何かに気づいた様子でわなわなと震え出した。


「え、待って……この猫って所長の――」


『何をしているのかと聞いているの』


 ぴしゃりと言われて二人は背筋を伸ばす。先ほど俺が発動させておいた魔法によって、首輪が通話中の電話みたいな役割を果たしているのだ。映像は見えないらしいが、今は問題ないだろう。


「え、えっと……私たちはちょっと、実験場の」


「実験場の使用権を譲ってもらおうと思いまして! ミクロアさんに頼もうと」


『言いたいことをただ口にするのが、あなたたちの交渉なの?』


 うぐっ、と二人は口を噤む。首輪からは『はぁ』と大きなため息が聞こえて来た。


『一応、勘違いがないように伝えておきますが。ワタシただ国にとって有益かどうかを基準に支援を行っているの。決して親のコネや境遇に同情したから、そんな私情は一切挟んでいないわ』


「で、ですが……それでも彼女への待遇は、不公平だと、思います」


『それなら、あなたたちは単独で新しく、画期的な魔法の開発はできるの? ミクロアはたった一人で転移魔法の基礎を作り上げ、二年足らずで完成の目途が立つ状況にまで進めている。もし、あなたたちにそれと同等以上の実力があると言うのであれば、彼女に何かを言うのではなくワタシに実績を持ってきなさい。そうすればしかるべき評価と援助を行いましょう』


「「…………」」


『それができないのであればこんな所で無駄な時間を使っていないで、自分の研鑽に励みなさい。今回は見逃してあげるけれど、次はないわ――わかったわね?』


「「は、はい……!」」


『では、行きなさい。ワタシも彼女も忙しいの』


「「は、はい! 失礼しました!」」


 そうして二人組は逃げるように去って行った。これでしばらくは落ち着くだろう。やはり権力、権力は全てを解決するのだ。あとはモータルが帰ってくるまで平和でいてくれればいいが。


「あ、あの……所長。ありがとう、ございます」


 おずおずとミクロアが言った。


『いいのよ。それにお礼を言われるようなことではないわ。それよりもミクロア、最近とてもよく頑張っているようね』


 さっきとは打って変わって明るい声音でエクルーナは告げる。


「い、いぇ……わたしなんて、全然……」


『そう自分を卑下しないで。ワタシがあなたの才能に期待しているのは本当よ。あなたはやればできる人間なのだから自信を持ちなさい』


「……はい」


『これからもいろいろと大変でしょうけれど、ワタシはいつでも見守っているからね』


 そうして魔法は切れる。ミクロアはしばらく俺と見つめ合った後、一度深呼吸して気持ちを切り替えて仕事へと戻って行った。

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