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【完結】異世界で猫になったからのんびり暮らしたい  作者: 猫柳渚
第三章:人見知りの魔法使い
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進展と障害

 後日、魔法合わせのためにミクロアとモータル、そしてリーダーが集結していた。


「こうして会うのは初めてだったな。俺は物体変化の魔法を専門に研究しているリーダンだ。今日はよろしく頼む、ミクロア・オルタン……だよな?」


 リーダー改めリーダンと対面するのはモータルだったが、向けられている言葉はその背後に隠れるミクロアだ。実験用の防具をフルで着込んでいる。リーダンが困惑するのも無理のないことだ。


「よよ、よろしくお願いします。ミクロア、です……」


 隠れながらであるが、一応は挨拶を返すミクロアにリーダンは困り顔で話を進める。


「ひとまず、現状の転移魔法陣を見せてもらえるか? 硬化魔法と合わせられるかを確認したい」


「は、はい! わかりました……」


 脱兎の如く駆け出して魔法陣を取りに行くミクロア。そんな彼女を見ながら、リーダンはこそっとモータルに尋ねかける。


「なぁ、オレってそんなに怖いか?」


「まぁ、ちょっと?」


 しょんぼりと落ち込むリーダン。若い子に怖がられるのはおっさんとしてはショックだよな。分かるよ。俺も何度か経験あるし。


 そうしている間に準備は整ったようで、リーダンは床に敷かれた魔法陣を観察し始める。それに加えて、ミクロアは魔法陣に関してまとめた資料の束を渡していた。


 リーダンも自分が持ってきた魔法陣と資料をミクロアに手渡す。


「凄いな、これ。本当にお前たちだけでやったのか?」


 パラパラと目を通してリーダンは感嘆の声を上げた。


「いやぁ、あたしはほんのちょっと、手を加えただけですよぉ。ほとんどはミクロアさんの成果です」


「噂に違わぬ天才っぷりだな。で、問題は転移物がぶっ壊れることと、間に障害物があった時に……暴発すること。あぁ、あの時の振動はこれか」


 資料を見ただけでどんどんと理解していくリーダン。流石はチームリーダーを務めるだけあってかなり優秀な人間のようだ。


「これにオレたちの硬化魔法を組み込めるかどうかだが……どう思う?」


 話を振られたミクロアだったが、リーダンから手渡された資料と床に広げてある転移魔法と見比べて、ブツブツと何やら呟いている。すでに彼の声は聞こえていないようだった。


「あぁ、こうなっちゃったら長いんですよねぇ。とりあえず、個別に魔法発動させて試してみますぅ?」


「お前はまたそうやってすぐ……拒絶反応起こして魔法爆発が発生したらどうするんだ」


「その時はその時ですよぉ」


「お前、マジでいつか死ぬぞ……なら、先にもう片方の仕事を進めとくか」


「もう片方……あぁ、物体の大きさを変える魔法陣の方ですかぁ。あっちにも硬化魔法を応用するんですよねぇ?」


「そうだ。あっちはあっちで別の人間に進めてもらっているが、お前の意見も聞いておきたくてな」


 各々が魔法研究に没頭する様子を眺めていると、実験場の出入口付近から気配を感じて振り向いた。閉めたはずの扉が開いている。隙間から、誰かが覗き込んでいるのが見えた。


 覗き込む人物が誰かを認識する前に扉は閉まった。実験場の空き状況を確認しに来た人間だろうか。それにしては俺の視線を避けるみたいに感じたが、気のせいだろうか。


 クルントの件もあるし、念のため正体を確認しようと窓から外へ出た。廊下に出ると、本館へ去っていく人物の背中を見つける。他に人影は見当たらないので、さっき覗き込んでいたのはコイツだろう。


 中年の男だ。顔は知らないが服装から見えここの職員で間違いない。やはり空き状況を確認しに来たのだろうか。それにしては足取りが忙しない気がした。


 それに、ちらりと横を見やれば実験場の空き状況を記したボードが設置されてあった。それを見れば二つ、空いている場所があることが分かる。


 なのにわざわざどうしてミクロアの実験場を覗き込んだのか。リーダンやモータルに用があるのであれば声をかけるはず。


 怪しい。もしかしたらクルントに頼まれて様子を窺いに来た人間かもしれない。俺はそっと、男の後をついて行った。


 男の足取りに迷いはない。どんどんと実験場から遠ざかり、本館も通り抜け、辿り着いたのはミクロアが住み着いている小屋だった。


 男は注意深く辺りを見渡すと、窓から中を覗き込み、それから扉の方へ回るとペット用の穴から腕を突っ込んだ。


「にゃあ(なにしてんだ)」


 びくんっ! と大袈裟なくらいに驚いて男は腕を引っ込めると振り返った。


「な、なんだ。猫かよ。脅かせやがって……っ!」


 安堵しかけたのも束の間、男は俺の首にかかっている首輪を見て目の色を変えた。焦りと恐怖、そんな負の感情が一瞬見えたかと思うと、男は「チッ」と舌打ちをして去って行った。


 去り際に、ぐしゃりと何かを握り潰したのを俺は見逃さなかった。


 しばらくその場で待って、男の尾行を開始する。深追いするのは危険だが、何かあればエクルーナへ知らせればいい。もしかしたらクルントの尻尾を掴めるかもしれない。


 それに何をしようとしたのか気になった。コソコソ隠れてやっていることなのだからよからぬことだろう。


 男はそのまま食堂へ向かうと、軽く辺りを見渡してから手に持っていた物をゴミ箱へと捨てた。男の姿が見えなくなると同時にゴミ箱から投棄された物を拾い上げる。


 くしゃくしゃに丸まった紙を広げると、魔法陣が描かれていた。効力は分からないが、危害を加える物だということは分かる。


 それからも、男の後をついて回り探ってみたが、クルントと接触する様子はなく普通に仕事をして帰って行った。


 終業後、俺はエクルーナへ事の経緯を報告しに行く。


「これは、遠聴(とおちょう)の魔法ね。あなたの首輪についている物と同じような物よ。」


 なるほど、盗聴しようとしたわけだな。女の子の部屋にそんなもんを仕掛けようとするとはとんだ変態野郎だ。


 というのは冗談として、いったいどうして。やはり奴らが絡んでいるのだろうか。


「クルント副所長の指示、ではないでしょうね。彼がこんなわかりやすいことをするとは思えないもの」


 俺の予想はバッサリと否定される。確かにこんなずさんな行動をしているなら、とっくの昔に正体は掴めていたはずだ。


「きっと、ミクロアの転移魔法についての情報が欲しいのでしょうね。外から来たのか身内の人間か。どちらにせよ新しい技術と言うのは貴重な物だから、あわよくば横取りしようと考える輩でしょう」


 あぁ、そういう系の奴か。どこだろうとズルをしようとする輩は出てくるのだろう。


「他人の成果を横取りしようだなんて、研究者の風上にも置けないわね。知らせてくれてありがとう、早急に対処するわ」


 顔には微笑みを浮かべ、声も穏やかであるが明らかな怒気が放たれていた。魔法陣を仕掛けようとしていた男には明日にでも処罰が下るだろう。


 しかし、クルント以外にも注意しなければならない人間が現れるとは。この一件で済めばいいが、どうしても今後の雲行きに不安を感じざるを得なかった。

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