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【完結】異世界で猫になったからのんびり暮らしたい  作者: 猫柳渚
第三章:人見知りの魔法使い
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試行錯誤

 共同研究を始めてから早くも一週間が経過していた。その間に物体を転移させられる距離は伸び、1mほどの魔法陣で10mの転移には成功していた。


 転移させられる物も木の棒一本から拳大の鉄球までグレードアップしている。相変わらず鉄球でさえも破損することは変わらないが、最初と比べれば飛躍的な進展だ。転移物が壊れるのは仕方がない、それはもう一方のチームの成果に任せるしかないのだから。


 転移物の質量増加はひとまず切り上げ、今度は転移間の問題に着手する。これまでは一度も、邪魔になるような物体は間に差し込まず実験を行っていた。それを今回は2m四方の薄い木の板を差し込んでみる。


 以前は魔法陣の間に障害物があると魔法自体が発動しなかったが、改良を重ねて出力も上がった1mの魔法陣ならどうなるか。その確認だった。


 これまでと同じようにセッティングを済ませて、ミクロアが魔法を発動させる。


 瞬間、辺り一帯を凄まじい衝撃が駆け抜けた。体育館くらいある室内の隅っこにいた俺でさえ体が吹き飛ばされるほどの衝撃波が障害物として設置していた板から発せられ、実験場全体を揺らす。


 近くで観察していたモータルはもちろん、魔法を発動させたミクロアは10m近く吹き飛ばされて壁に激突していた。


 俺とモータルはすぐさまミクロアへと駆け寄り、安否の確認を行う。


「大丈夫? 意識はしっかりしてる?」


 こういう事態に慣れているのか、モータルはミクロアの頭の防具を外して淡々と外傷と意識確認を行っていた。


「大丈夫、です。問題ありません」


 無事を確認すると、モータルはすぐにいつもの調子へと戻った。


「うはぁ、凄まじい魔法事故だったねぇ。びっくりしちゃった」


「ま、巻き込んじゃって、ごめんなさい」


「いいっていいって、よくあることだからさぁ」


 どこか楽しそうな声音で応える。ミクロアを気遣って、というわけでじゃなくモータルは本気で楽しんでいるのだ。


 実験を共にする中で分かったことだが、彼女は実験で失敗することを楽しんでいる節があった。


 見ている限りわざと失敗している、ということはなさそうだが、そう感じたのは転移実験の失敗で鉄球が砲弾みたいに飛んでモータルの腹に直撃した時だ。


 魔法陣からかなり離れていたのと防具・防壁があったおかげで大事には至らずに済んだのだが、衝撃で体が吹き飛ぶほどの事故だった。にも関わらずモータルは、

「これこれ……! これこそ実験の醍醐味だよねぇ……!」

 と、笑って立ち上がったのだ。この時ばかりは流石に俺もドン引きした。


 だが、ミクロアは特に反応していなかったので、もしかしたら魔法学者はこれがデフォルトなのかもしれない。


 すでにさっきの爆発もなかったみたいに散らかった道具の片づけを始めているし、今さらながらにとんでもない事に足を突っ込んでしまっているのかもしれないと戦慄した。


「おいおい、デカい音がしたが何があったんだ?」


 散らかった道具たちを片付けていると、実験場に見覚えのある男がやって来た。


「あ、リーダー。お疲れ様でーす」


「お疲れ、じゃないんだよ。いったい何があったのか聞いてるんだ」


 あれは確か、モータルが物の大きさを変える実験をしていた時のチームリーダーだ。そう思い出していると少し遅れてこれまた見知った少女が入ってくる。


 オルトの部下のラムダだ。どうやら騒ぎを聞いて駆けつけてきたようだ。軍服は着ているものの鎧はない。護衛任務とかではなさそうだが。


「襲撃ですか。敵はどこに」


 そう言って辺りを警戒するラムダ。そんな二人に、モータルが事の成り行きを説明する。


「ったく、ちょっと目を離すとすぐこれだ。そもそもこういう実験はもっと机上検証を重ねてだな」


「いやいやぁ、百回検証するより一回実践した方が早いし確実じゃないですかぁ」


「それで死人が出たらどうするんだ。オレたちはそのくらい危険なことをやってるって自覚しろ」


「技術の発展に犠牲は付き物ですよぉ。人の命で新技術が完成するなら安いもんじゃないですかぁ」


「安くねぇわ、バカ!」


 おぉ、的確なツッコミが。魔法学者にまともな人もいてよかった。


「ところで、どうして騎士さんがここに?」


「彼女には強化魔法について教えてもらってるんだ。ちょうど暇してるって聞いてな」


「はい、療養中の身ですが技術提供であれば可能かと」


 療養中、と聞いてパン屋の前でノーレンスの魔法にやられていたのを思い出す。あの時の傷が、まだ癒えていないのだろうか。


「おかげで硬化魔法の方は順調だ。そろそろそっちの魔法陣と合わせてみたいんだが……今日はお前一人か?」


「え? いえ、ミクロアさんと一緒ですけど……あれぇ?」


 実験場を見渡して、ミクロアの姿がないことに気が付く。どこに行ったんだ、と思ってよく探してみれば、障害物として用意した板の予備の後ろに隠れていた。


 俺はミクロアの元へと歩み寄り、声をかける。


「にゃあ?(なにやってんだ?)」


「しっ! あっちに行って、見つかっちゃうでしょ」


「ミクロアさん、どうしたのぉ?」


「モ、モータルさん……! いや、その、知らない人が……」


 あぁ、突然、知らない人間が来たからビビッて隠れたのか。部屋からは出られるようになったが、まだ他人と対面するのは無理らしい。


「あの人、顔と物言いは怖いけど根はいい人だからぁ。怖がらなくても大丈夫だよぉ」


「で、でも……やっぱり、いきなりは、ちょっと……」


「まぁ、いきなりは厳しいよねぇ。じゃぁ、あたしが話してくるから。魔法の合わせをしたいらしいんだけど、問題ないよね?」


「間に障害物さえなければ……転移自体は可能なので、問題ない、と思います」


「了解、伝えてくるねぇ」


 そう言ってモータルは何事かと近くまで来ていたリーダーの元へ振り向き告げる。


「許可、取りました。大丈夫だそうですぅ」


「そうか。でもなんで隠れてるんだ」


「リーダーの顔が怖いから」


「そんな馬鹿な……え、本当なのか? 確かに子供受けはしない顔だが……」


「い、いえ! そういうわけではなく! こっちの問題なので、気にしないでください!」


 割とガチ目にショックを受けていたのを察したのか、板の裏からフォローする。


「そ、そうか? ならいいんだが」


 どこか釈然としない様子を見せながらも、合わせの日程を取り決めて二人は去って行った。

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