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【完結】異世界で猫になったからのんびり暮らしたい  作者: 猫柳渚
第三章:人見知りの魔法使い
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一時撤退

 告発文を作成したのはいいものの、ジャスタと会うことは出来なかった。いつもの時間には間に合ったのだが、図書室に現れなかったのだ。


 人のいなくなるギリギリまで待ってみたが、結局その日は最後まで来なかった。


 仕事が忙しいのだろうか。空間魔法の第一人者らしいし、毎日時間を取ることは出来ないだろう。


 逆に、以前遭遇できたのはかなり運がよかったのかもしれない。


 一応、オルトも探してみたがすでに施設内にはいないようだった。


 こうなってくると夜間、どこで過ごすかが問題になってくる。


 ミクロアの部屋は、例え彼女に危害を加える気がないとしても、話を聞いてしまった俺を放っておいてくれるかは別の話だ。


 ミクロアを傷つけず、俺だけを始末する方法なんていくらでもあるだろう。副所長という権限を持っているのなら尚更どうとでも出来る。


 こうなったら夜は施設の外で過ごした方が安全かもしれない。施設内よりも町の方が隠れられる場所は多いし、俺も逃げやすい。


 ここ半月近くはずっとミクロアの部屋で寝泊まりしていたから野宿に戻って眠れるのか不安はあったが、背に腹は代えられない。


 ついでにパン屋の様子も見に行こう。久しぶりにレノアのパンも食いたいしな。


 告発文書は、ひとまず図書室の奥の、更に隅っこに追いやられた本の間に入れておくことにする。


 埃を被って忘れ去られているような書籍だ。誰かに見つかる心配もないだろう。


 しっかりと隠した位置を覚えておいて、周りを警戒しつつ夜中の町へと駆け出した。


 尾行されていないか、何度も後ろを振り返って確認しながら出来る限り猫しか通れないような複雑な道を辿ってパン屋まで行く。


 近づくにつれてほんのりと嗅ぎ慣れたパンの香りが鼻孔をくすぐった。


『よお、兄弟。こんな時間にどうした?』


 声に視線を上げれば屋根の上辺りに真ん丸の光る眼が浮かんでいて、それがストンと俺の目の前に着地する。街灯に照らされてシャム猫が姿を見せた。


『おう、お疲れ。変わりはないか?』


『全然、なーんにもなさすぎて退屈なくらいだぜ。順調に人間の行き来も増えてる。順調って奴だな! アハッ、アハッ!』


『それはよかった』


 任せておいた店の見張りはしっかりとこなしてくれていたみたいだ。本当にコイツは見かけによらず頼りになる。


『というか、最近ご無沙汰だったじゃねぇか。また馬車にでも轢かれてお陀仏したんじゃないかって仲間たちで話してたところだぜ』


『二回も轢かれるほど間抜けじゃないって』


 からかうように言ってくる。仲間内の事故とかは猫ネットワークを使えばすぐに把握できるので、俺が無事なことは知っていたはずだ。これはいわゆる野良猫ジョークなので俺も笑いながら反論しておく。


『あと、アリィもちょっと寂しがってたぜ。最近、顔を見ないなって言ってた』


 おっと、それに関しては悪いことをしてしまった。野良猫が急に顔を見せなくなったら心配をかけてしまうのは容易に想像が出来たことだったのに。


 いや、まあ俺もここまで顔を出せなくなるとは思わなかったんだ。


『明日、顔を出すよ。俺も会いたいしな』


『ところでオマエ、その首輪どうしたんだ?』


『あぁ、これはちょっと色々あって』


『そういえばオマエ、前々から人間に飼われたいって言ってたもんな。やっとご主人サマが見つかったのか?』


『うーん……ご主人様ってわけでもないんだよなぁ』


 世話してるの俺だし、構ってくれるわけでもないしな。


 寝床と飯が簡単に手に入るのはかなり助かってるが、俺が目指しているのはそのさらに先なのになかなか目的が達せられない。


 まあ、俺が本気で飼い主を探してないのが悪いんだが。


 それよりも厄介な問題を抱えてしまったのはどうにも辛い所だ。


 正直言ってしまえば、危険を冒してまでミクロアを助ける義理はない。ここまで来るのに追跡されたわけでもないし、向こうだって俺が施設からいなくなればそこまで深追いはしてこないだろう。


 だが、だ。一度首を突っ込んだ案件を途中で放り投げるのは俺のプライドが許さない。


 未知の化け物がいる以上、あの施設にいる人たち職員たちだって危ないかもしれないんだ。これで放っておいてミクロアやジャスタ、モータルやシュルートに何かあれば絶対に後悔する。


 しかもそれがアリィにも関係するかもしれないとなれば猶更だ。下手するとこの町全体の問題に発展しかねない。


 そうなれば、のんびり飼い猫ライフとか言っていられなくなる。未来の安寧のためにも、見て見ぬふりは出来なかった。


『オマエはいつも難しい顔をしてるな。また悩み事か?』


 何も考えていなさそうな顔をして、コイツはなかなか察しがいい。だからこそこの店を任せられるのだが。


『俺になにかあったら、ここを頼むぜ。兄弟』


『馬鹿言うなって、オマエがどうにかできないことをオレがどうにかできるわけないだろが。アハッ、アハッ!』


 きっと冗談だと受け取ったのだろうシャム猫は茶化すように言った。


 今はそれでいい。俺だって死にたくないし、死ぬつもりはない。


 だがある日いきなり背後から刺されることだってあるんだ。自分がいなくなった場合の保険を確保しておくのは大切だろう。


 なんていうのは流石にちょっと考えが卑屈過ぎるか。自分のキャパオーバーな出来事に遭遇して少しセンチメンタルになってしまっているのかもしれない。


 今日は友人と、何も考えずに夜を過ごそう。


 そう思い直して、俺はシャム猫に施設での生活自慢をしてやれば、予想通りのリアクションを得て満足するのだった。

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