表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【完結】異世界で猫になったからのんびり暮らしたい  作者: 猫柳渚
第三章:人見知りの魔法使い
46/107

予期せぬ脅威

 皇帝の訪問騒動の後、俺は一人、モータルから教えてもらった空間魔法についての本を探すため図書室をうろついていた。


 今日はいつもと違って利用者がいない。みんな皇帝陛下の出迎えで出払ったまま戻ってきていないのだろう。受付の人もいないのは少し気になったが、まあ利用する分には問題ない。


 昼間の人のいない図書室というのはなんとも異質な雰囲気に包まれている。しんと静まり返っているのに文字という情報を読み取っているため脳内は騒がしい、そんな独特な空気感が俺は結構好きだ。たまにしか堪能できないという特別な感じもポイントが高い。


 そうやって特異な状況を楽しみながらゆっくりと本棚に目を通していき、目的の書籍を発見したが、中段にあったのを見てげんなりする。上段にあるなら上から簡単に取れるんだが、中段だと取りづらいんだよな……。


 しかも、この辺りの本は大判が多くて本棚に足を乗せられそうな隙間もない。本棚の下からジャンプしたり、天板から手を伸ばしたりして取ろうとしたが届かず四苦八苦していると話し声が聞こえた。


 自分じゃ取れそうにないし、頼んで取ってもらおう。そう思いながら話をしている人物へと近づく。と、どこかで聞いた覚えのある声だと気づいて足を止めた。


 あまり好印象ではない声――副所長のクルントだ。皇帝と一緒にどこかへ行ったはずだが、もう解放されたのだろうか。


 クルントは所長の使い魔である俺を目の敵にしているっぽいし、周りに人のいない場所で接触したら何を言われるか分からない。ここは諦めて自分で頑張って取ろう。


 そう思って引き返そうとしたのだが、クルントの話す声音がヤケに潜んでいることが気になった。


 図書室だから、ではなく人を警戒するような、そんな感じだった。しかもかなり小声なのか近づいても何を言っているのか聞き取れない。


 というか、相手の声も聞こえないんだよな。気配を消して近づき、本棚の影から通路を覗き込む。すると、背を向けた状態のクルントが立っているのが見えた。けれど、他には誰もいない。


 電話的な魔法で誰かと会話しているのだろうか。


「……えぇ…………は想定外ですが、問題はありません。しかし……は依然として、進んでおらず…………今度こそ、転移魔法の完成を……」


 転移魔法、と興味深い単語が聞こえて俺は更によく聞こうと近づいた。そこでクルントが振り返る。


 ばっちりと目が合った次の瞬間、俺は反射的に逃げ出していた。


 気配を消していたのに気づかれて驚いたからでも、俺を目撃したクルントから殺気が放たれていたからでもない。


 奴の眼が、青く染まっていたからだ。


 一瞬だったから、もしかしたら見間違いだったかもしれない。けれどあれはパン屋の前でノーレンスが変異した化け物と似ていた。


 奥まで走り、雑多に積まれている本の山の隙間に隠れる。クルントが俺を探している気配がする。


 図書室内は広い、けれど奴は確実にこちらへ近づいて来ていた。


 静寂に包まれた空間で、足音が大きくなっていくのに比例して俺の心臓の音も大きくなる。ここに隠れ続けて、やり過ごせるか? 猫の素早さがあれば見つかったとしても外まで逃げられるのでは? いや、そもそも隠れる必要はないんじゃないか。


 そんなことを考えている間にも足音は近づいてくる。そうして、俺の隠れている本の山の手前までやって来て、足を止める。俺の位置からではクルントの姿は見えないが、確実に俺を探しているのが気配で分かる。


 堪らず、一か八かを賭けて飛び出そうとしたタイミングで、ガラリと図書室の扉の開く音が響き渡った。


 誰かが来た。きっと俺たちとは全く無関係の職員だろう。それでも俺にとっては救いの神にも等しい存在に思えた。クルントはしばらくして諦めたのか去っていく気配がした。


 それでもすぐに出て行くことは出来なかった。というよりも、さっき見聞きした情報が強すぎて動けなかったと言った方が正しいかもしれない。


 あの謎の化け物がここの副所長だって? しかもそいつが、どうして転移魔法の話なんてしてたんだ。


 もしかして、ミクロアの父親が凶行に走ったことと何か関係が……? いや、いくらなんでもそれは考えが飛躍し過ぎか。アリィの父親がノーレンスに殺されていたことと無理やり結び付けているだけだろう。


 ともかく、恐らくこれは誰かに知らせるべきだろう。でも、誰に?


 やはりエクルーナ所長に言うのが一番だろうが、問題は彼女もグルの可能性があるということだ。クルントはエクルーナに対して敵対感情を抱いているような振る舞いをしているが、それはあくまでも演技で裏では繋がっている可能性は充分に考えられる。


 何より、転移魔法を研究しているミクロアを一番気にかけているのがエクルーナ所長だ。仲間、とまではいかないまでも化け物との関連を疑うには充分だった。


 それに、あの化け物が人間に擬態できる以上、本当に信用できる人間でないとこの件を摘発するのは危険だ。


 ここはオルトか、ジャスタに伝えるのがいいだろうか。あの二人はレノアの騒動の時は化け物からレノアを守ろうとしていたし、化け物も側であるとは考えにくい。


 クルントに俺が話を聞いたことがバレている状況もマズい。闇討ちされかねないし、今後単独で行動するのは控えた方がいいかも。


 擬態をしているということは、相手も周囲に正体がバレたらマズい状況ではあるのだろう。無暗に人目の付く状況で襲ってはこないはずだ。というか、そう願うしかない。


 俺がミクロアの部屋に住み着いているのは把握されているだろう。だが、ミクロアに危険が及ぶ可能性は、恐らくないだろう。


 クルントは、話を盗み聞いた感じ転移魔法の完成を望んでいる。現状、タブー視されている転移魔法の研究はミクロアしか行っていないから、わざわざ彼女を襲うようなことはしないはずだ。


 だが、どうして奴らは転移魔法を完成させたがっている? それを突き止めない限りは対策のしようがないか……?


 ひとまず、クルントの件はジャスタに伝えよう。出来ればオルトにも。


 充分に人が集まるのを待ってから、俺は出入口ではなく図書室の窓から外へ出た。いつの間にか空が赤くなっている。暗くなる前にタイプライターで手紙を作って、ジャスタと接触できなさそうならどこか安全な場所に身を潜めなくてはならない。


 思いもよらない所でヤバい案件に引っかかってしまったな……。俺はただのんびり生きたいだけなのに。


 今後の生活に暗雲が立ちこみ始めたのを感じて、俺は内心で溜息を吐き出しながらも行動を始めた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ