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再建計画始動

 翌日の早朝、俺はどうしても気になってパン屋を訪れていた。時間としては朝の四時くらいだろうか、パンを作り始める時間帯を見計らって、俺は裏口の窓から中を覗き込む。


 高い位置の小窓から伺える室内は厨房になっており、ちょうどレノアが調理を始める所だった。こうしてパン作りを見るのは初めてだ。エプロン姿のレノアは材料や器具を並べると、軽く右手を振るった。


 その指先から、輝く粉……いや、もっと細かい粒子のような物が舞うと机の上に並んだ物たちへ降り注ぎ、ふわりと材料や器具が浮かび上がって独りでに材料を混ぜ合わせ始めた。


 おぉ、魔法を使ってパンを作るのか。毎日それなりの量のパンを作っているのでどうしているのかと思っていたが、これなら人手は少なくて済む。本当に便利だな、魔法って。


 生地を作らせている間に、レノアは四角い容器を取り出して眺め始める。恐らく食パンを作る時に使う容器であろうそれに、今度は左手を振るうと粒子が容器へ纏い、ベコベコと形を変えていく。


 ……たぶん、あの容器は鉄製だと思うんだが、薄いとはいえ苦も無く鉄の容器の形を変えるなんて半端ないな魔法。


 そうして出来上がったのは丸みを帯び、二つの突起――猫耳が付いた容器だった。どうやら猫形のパンを作ってくれるらしい。あの手紙で伝わったことにひとまず安堵する。


 そうしている内に混ざり終わった生地がレノアの元へと飛んで来て目の前の机に置かれると、自分の手でこね始めた。


 てっきり全ての工程を魔法で行うのかと思いきや、どうやら捏ねる工程だけは魔法を使わずに作っているらしい。


 何かこだわりがあるのか、それとも出来上がりに違いが出るのかは定かじゃないが、ともあれ美女の手でしっかりと捏ねられているようで安心した。


 正直、調理過程を見えるようにするだけでかなりの集客が見込めると思う。美女の手料理、というだけでその付加価値は計り知れないからな。まあ、店の改装で金と時間がかかるから今は無理だろうが。


 生地を捏ねるレノアの横で器具たちが新たな生地を混ぜていき、捏ね終わった生地は発酵処理を行う為か、どこかへ飛んで行く。


 生地を作り、捏ねるを繰り返している間に発酵が終わった生地が独りでに戻って来て、猫型の容器に収まり、今度は窯の中へと入っていく。


 時間が経つにつれて厨房は慌ただしくなっていき、パンの焼ける香ばしい匂いも漂ってきた。


 厨房内はレノアの魔法の粒子でキラキラと輝き、器具たちが踊るように材料の混ぜ合わせたりパンの運搬作業を行っている。


 それはまるで、昔見たネズミの主人公が魔法を使って大掃除をするアニメのようで、それほどまでに神秘的な光景が目の前で繰り広げられていたのだ。まあ、あいつは全部魔法でやって失敗したわけだが……。


  パンを捏ねるレノアの周りを器具や猫パンが飛び回るという、ファンタジー全開の景色を、俺は特等席から時間を忘れて眺め続けていた。


 その中に、いつの間にか食パン以外にも香箱座りをした猫の形のクロワッサンも混ざっていることに気が付く。どうやらあの資料はかなり積極的に採用してくれているらしい。


 気が付けば完全に日は登り、街が起きてくる。厨房も落ち着き始めたので、俺は表の方へ向かった。


「あ、ヨゾラー、おはよう」


 玄関前の掃除に出て来たアリィが挨拶してくる。「にゃー」と返事をすると、彼女は嬉しそうに俺を抱き上げて店内を見せてくれた。


「ほら、見て。猫さんパンだよ。こんなにたくさん並んでるとかわいいね」


 どうやら焼き上がったパンたちはすでに店先で並んでいたようだ。


 うん、可愛いしどれも旨そうだ。見せてくれるなら一個くれないかな。


「昨日ね。猫さんみたいな形のパンが欲しいって手紙があったの。誰からかはわかんないけど、それ見てお母さん張り切っちゃって。これならみんなお店を見てくれるだろうし、お客さんも増えるよね」


 もちろんだとも。増えるだろうし増やしてみせる。俺に任せとけ。


 アリィの腕の中で、頭や喉を撫でられる感触を堪能しながら密かにほくそ笑む。


 しかしまさかここまで積極的に挑戦してくれるとはな。せいぜい店の一角にちょこんと設置されれば上出来くらいの期待値だったのだが。


 きっと藁にも縋りたい想いもあるのだろう。それでもレノアは俺の案に乗った。なら俺も、成功するように全力でサポートするまで。これで終わりじゃない、ここからがスタートだ。


 店内からレノアがアリィを呼ぶ。俺は優しく地面に降ろされ、いつものようにアリィは手を振った。


「じゃあね。またパンが余ったらあげるから」


 そう言って店内へと引っ込んでいく。余ったら、か。余られると案を出した俺としても困る。売れるかどうかは俺の働きにもかかっているだろう。ここまで全力で俺の案を実行してくれたのなら、俺も全力で応えなければならない。


 だが、動くにはまだ早い。朝方の時間はこれから仕事へ行く人間が多く、集客には向かないので、ひとまずは常連たちの反応を観察することに徹することにした。

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