第1章 第2話 陰キャVS陰キャ
「じゃあまず整理するか」
放課後の教室。クラスメイトの女子と二人きり。いかにも青春らしいシチュエーションで、青春から遠く離れた俺たち陰キャが会話を重ねる。
「夜桜は陽キャになりたい、ってことでいいんだよな」
「あっ、その、陽キャっていうか……人気者になってみんなからちやほやされて、なんかいい感じの高校生活を送りたい、です……」
まともに目も見えないくらい前髪の長い夜桜が、それでも目を逸らしているとわかるくらい挙動不審な態度でそう言った。
「友だちいっぱいいて……かっこいい彼氏いて……すごいイケてる感じになりたいんですけど……」
「ふーん。じゃあまずは友だち作りからか。あんまりお前のこと詳しくないけど、仲いい奴いる?」
「高校2年生で今が一番多く人と話してます……」
「そっか。じゃあ自分から話しかけないとな」
「むっ、無理ですそんな……! 私は私のままで人気者になりたいっていうか……無理して友だち作ってもしょうがないですよね……?」
「おいおい……」
呆れて言葉も出てこない。どこまで人間臭いんだ。
「あのな、お前が夢見てる人気者も多かれ少なかれ周りに合わせてるぞ。自分のやりたいようにやって、それでもみんなから愛される。そんな都合のいい話があるかよ」
「で……でもそういう人はいますよね……? カリスマっていうか、何をやっても上手くいくような人は……」
「でもお前は違う。これで話は終わりだ。なりたいものがあるなら努力するしかないんだよ。いじめをなくしたいんじゃない。いじめられないような人間になりたいんだろ。その気持ちは決して間違えてない。だからがんばれよ。せっかく俺が手を貸してやるって言ってるんだから」
「うぅ……でも……」
俺がここまで言っているのに、夜桜の態度は煮え切らない。まぁ今のところ言葉だけだからな。こんなこと誰だって言えるか。
「とりあえず行くぞ」
「い……行くってどこに……?」
「知り合いのところ。それが一番手っ取り早い」
「ひ……比嘉くん……でしたっけ……って、友だちいるんですか……?」
「俺を何だと思ってんだよ」
「で……でもいつもひとりぼっちじゃないですか……私と同じで。いつも教室の片隅で誰にも見られないようにじっとして……それなのになんで、私にはいない友だちがいるんですか……?」
さっきまでと同じ、グチグチとした言葉。だがその態度には間違いなく意志があった。おそらくマイナスな感情だろう。陰キャなのに友だちがいるなんてすごいではなく、なんでお前ごときが自分が持っていないものを持っているんだという僻み。わかるよ、その気持ちは。
「俺も本質的にはお前と同じだよ。心の底から陰キャだ。まぁお前と違って陽キャになりたいだなんて思ってないが」
「じゃ……じゃあなんで私よりも……上、なんですか……?」
上とか下とか本当にくだらない……なんて思うのは、やはり俺は夜桜とは違うからなのだろう。あるいは、俺が既にこいつが言うところの上にいるからか。
「そりゃ努力したからだよ。俺が俺でいるために。そして俺は手に入れたんだ」
そう、俺は掴み取った。
「この学校を裏から牛耳る力を」