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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

~吊り橋効果の検証~兄をクソ毛嫌いしている妹は激しい雷雨の夜に兄大好きっ子に変わるのか?

短編投下しますうっ!

ゴロゴロゴロ


「この音は雷か?!」


窓から外を見ると晴だったはずの8月の青空が真っ暗になっていた。


「いつの間に?」


とりあえず俺はベランダに干してある洗濯物を取り込みに行く。


「もう少し干せれば完全に乾いたんだけどな」


両親が旅行に出かけていて3日前から明日までは俺が家のことをやらなくてはならない。


別に頼まれたわけっでもないが、さすがに3日分の洗濯物が溜まったら洗わざるを得ないと思ってしまう。


いや、厳密には両親が出かける日は選択してなかったので4日分か。


本当は妹がやってくれると助かるんだがな…と思っていたが妹の下着を見られるのは役得だと割り切って洗濯をした。


べ、別に喜んで妹の下着を洗っていたわけじゃないからなっ…って俺は誰にツンデレしてるんだ?



ちなみに妹の玲奈は中学2年生で絶賛反抗期中。

高1の兄に対して尊敬などありえないし、いつもゴミを見るような冷たい視線を向けてくる。

ツンデレじゃなくてオールツンだ。


まあ無視されるよりはマシかもしれないけど、昔のように仲良くできればいいのになあ。


玲奈も小学3年くらいまではお兄ちゃんべったりで可愛かったのになあ。


一度その事を玲奈の前で口にした時、『黒歴史。忘れないと殺すわよ』なんて言われた。


だからその黒歴史とやらは俺の心深くに沈めておくことにしたんだ。

忘れるとか無理だよ。

だって、俺は妹が大好きだからな。


血がつながっているのに変だって?

そんなもの、子供を作らなければいいんだよ。

結婚できないって?

もう籍は一緒じゃないか。


そう、俺たちはすでに夫婦同然の環境に居るんだ!


なんて妄想してもむなしいだけだよな。

なにしろ妹はいつも『アニキはお風呂最後にしてね!』とか言うので最後に入ろうとするとお湯が抜いてあって、『馬鹿アニキがあたしの残り湯で悪さするといけないから抜いたのよ』なんてことを言う。


まあ、その後湯船が綺麗に洗ってあるから俺はお風呂を沸かしなおすだけで済むんだが。

それもおそらく善意じゃなくて自分の体毛が残っているのを見られるのが嫌なんだと思う。


でも時々脱衣所で服を脱いでからお湯が無いことに気づき、お風呂を沸かしている間に腰にバスタオルを巻いただけで部屋に戻ることになったりする。


そうすると決まって廊下で妹と鉢合わせて、『やっ、何て格好してるのよ?!信じられない!』とか言って自分の部屋に逃げていくんだ。


俺としては美少女の妹に半裸を見られるだけでドキドキしてしまうんだが。



話を戻そう。


つまり両親が留守で大量の洗濯物を不慣れな俺が洗った結果、最後の1回分を干すのが夕方になってしまったわけだ。



ゴロゴロゴロ


まだ雷の音だけで雨も落雷も無い。


しかし帰宅部の俺と違い陸上部の玲奈は夏休み中も部活があり、まだ帰宅していない。


いつもなら夜7時くらいに帰ってくるのだが、今日もそんなに遅くまでやるのだろうか?



乾いた洗濯物を畳みながらテレビを見ていると、『北部地方に雷注意報。竜巻の恐れ』なんてテロップが出て来た。


玲奈は学校まで20分くらいかけての徒歩通学だ。


ど田舎なのでその間に店など無くて農道一本道だから雨宿りもできない。


陸上部のエースだから走れば数分で帰ってこれるとは思うけど、傘って持って行ってるのかな?


俺は玄関の傘置き場を見ると、玲奈の傘が2本、普通の傘と折り畳み傘がそこに鎮座していた。


折り畳みのほうくらい持って行けよと思ったけど、今日は朝からいい天気だったから仕方ないよな。



ザアアアアアアアアアアアッ


来たっ、大雨だっ!


ゴロゴロゴロゴロ


雷の音も大きくなっている。


俺は家族で作っているRINEを確認したが連絡は無い。


言う間でもなく玲奈と俺は直接RINEではつながっていなから家族RINEを見るしかないんだよな。




とりあえず大雨だから部活は中止になったかもしれない。


そう思って俺は玲奈の傘を持って外に出た。


農道は水たまりだらけだが歩けないほどではない。


「玲奈、今お兄ちゃんが行くぞ!」




俺が農道を学校に向けて歩いていくと、向こうからスポーツリュックを頭に乗せて走ってくる玲奈の姿が見えた。


普通なら誰か判別がつかないくらいの遠い距離だが、俺が妹を見間違えるはずが無い。


俺も急いで走っていく。



「玲奈!傘持ってきたぞ!」

「アニキ?!」


水たまりを避けるために足元だけを見ながら走ってきた玲奈は前から来る俺に気づかなかったようだ。


「傘持ってきたぞ」

「う、うん、ありがと」


玲奈が素直にお礼を言うなんて何年ぶりだろうか?


ピカッ


「ひっ?!」


雷の閃光に驚いた玲奈は身をすくめる。


「1、2、3…」


一方雷が平気な俺は距離を測るためにカウントし始めた。


ピシャアアアンッ!


「いやあああっ!」


悲鳴を上げてうずくまる玲奈。

俺は慌てて駆け寄り、玲奈に傘を差してやる。


「馬鹿アニキっ!傘差したらだめえっ!落ちる!雷落ちるっ!」


バンッっと傘を払いのける玲奈。


「雷が光ってから音が鳴るまで10秒だからだいたい3キロちょい離れていると思うぞ。家まで走ろうか?」

「…ないの」

「ん?」

「腰が抜けて立てないのよっ、馬鹿アニキっ!」


良く見ると制服のスカートがめくれるのも構わず地べたにしりもちをついている。


おそらく下着はベタベタどころでは済まないドロドロだろう。


仕方なく俺は傘を閉じてしゃがみ、玲奈に背中を向ける。


「なによ?」

「負ぶっていくから乗れ」

「いやよ、そんなの恥ずかし(ピカッ!)きゃあああああっ!」


そして雷鳴まで9秒。


「ちょっと近くなってきたな」

「いやああああっ!」


叫びながら俺の背中にしがみつく玲奈。


玲奈をおんぶしたのってそれこそ何年ぶりだろうか?


しかし…


「おい、もっとしっかりしがみつけよ」

「変態アニキの背中になんか絶対しがみつかな(ピカッ)きゃああああああっ!しぬううううっ!」


舌の根も乾かないうちに俺の首が苦しいほどに抱きついて中2にしては大きすぎる胸を押し付けてくる玲奈。


役得とか言ってる場合じゃない。

雷が近づいてくるなら急がないと。


俺は全速力で走りだす。



走り出してすぐに『あっ』と声がして胸が俺の背から遠ざかった。

ぬう、気づいたか。




「アニキ、こんなに速く走れるのにどうして高校で陸上部入らないのよ?」

「……」


俺はそれに答えられない。




俺は中学校の時に玲奈と同じ陸上部に入っており、全国大会に行けるほどだった。


しかし、中学最後の大会を前に俺は足を故障してしまった。


故障の原因は風呂場の脱衣所を玲奈の入浴中にうっかり開けてしまい、浴室の戸に映る玲奈のシルエットを見て慌てて逃げて足をひねってしまった事。


この怪我のことは恥ずかしすぎて誰にも言うことができなかった。


だから高校になってから陸上部に入りたかったけど、またみんなの期待を裏切ったらどうしようかと思ってしまい、二の足を踏んでいる。


今はこんなに走ることができるのに。


こんなに高く飛べるのに。


俺は全力疾走しながら水たまりを次々と飛び越えていく。

ハードルの選手だった俺にとっては楽勝だ。


「いやあっ!何でジャンプしてるのっ?!」

「水たまりに突っ込んだらベタベタになるだろ?」

「いやあっ!落ちるっ!」

「しっかり捕まってろって!」


振り落とされまいと玲奈が再び強く抱き着いてくるので、また背中に良い感触が戻ってきた。




しかし足が速すぎるのも考え物だな。


あっという間に俺たちは家についてしまった。


俺はそのまま風呂場に直行し、玲奈を脱衣所に下ろす。


「風呂沸かしておいたから入れよ」


いくら真夏でも風邪をひくと思い家を出る時にお風呂を沸かしておいたんだ。


俺もあとで入るかな。


ピカッ


「1、2、3(ズズズズズズズウウウウウン!)近いな」


音は秒速約340メートルだから1キロくらいまで近づいてきたか。


雷が光るとカウントしてしまう癖は地震の時も同じ。

縦揺れから横揺れに変わるまでを何秒か数えて4を掛ければ何キロ先が震源かわかるのだ。


ビーッ!ビーッ!ビーッ!ビーッ!

ビーッ!ビーッ!ビーッ!ビーッ!


このブザー音は風呂場についている非常ボタン?!


うちには祖父母や体の不自由な人が居るわけじゃないけど、風呂場にはデフォルトで非常ボタンが付いているんだよな。


「どうした、玲奈?!」


俺は風呂場の外から声を掛ける。


しかしブザーは鳴りやまない。


「開けるぞっ!」


そう言うと俺は脱衣所に入っていく。


色々脱いだものが見えるが、それはこの際気にしない。

水色の縞か…


「玲奈!大丈夫か?!」

「おにいちゃあん…」


お兄ちゃん?

いつも俺の事をアニキと呼ぶ玲奈がお兄ちゃんだって?!」


「どうした玲奈っ!中で転んだのか?!」

「雷、怖いの…怖いから…」


そうか、怖いだけか。

良かった、怪我でもしたらどうしようかと思った。


玲奈は俺と違って全国大会に出てもらわないといけないからな。


「怖いから一緒に入って、おにいちゃん」

「は?」


セイイットアゲーン?!


ピカッ


「きゃあああっ!」


ゴゴゴゴゴゴゴゴッ!


近くに落ちたのか、家が揺れる。


パチッ


しかも停電か。


おかげで非常ボタンも鳴りやんだけど。


「おにいちゃああん。おねがあい。れいなとおふろはいってえ」


自分の事をあたしじゃなくて玲奈って言うのも小学校までだった。


もしかしてショックで幼児退行した?


「わかった!入ってやるから待ってろ!」


停電で外も真っ暗だからお風呂の中も見えないほどに暗いから玲奈の裸は見ないで済むだろう。


途中で停電が直って見えたら不可抗力だよねー。


俺は風呂の戸をそっと開けると…ぐいっとすごい力で中に引っ張り込まれた。


「おにいいいいいいいいい、こわああああああああいっ!」


俺に抱きついてがくがく震えている玲奈。


玲奈よ、お前も大変だろうがその恰好で抱きつかれているお兄ちゃんはもっと大変なんだぞ。

特にお前の甥っ子(兄のムスコ)が。



俺は全力で理性を働かせて玲奈を抱きしめるとそっと頭を撫でてやった。


「おにい、おにい、こわ、こわいのお…はあ、はあ、はあ、ハア?!」


ん?イントネーションが変わった?!


「何してくれるのよ、このバカアニキッ!」


どごっ!


玲奈の前蹴りが俺の胸に炸裂して俺は脱衣室まで吹っ飛ばされる。


ピシャッ!


そして間髪入れずに戸が閉められる。


「この馬鹿アニキ!変態!大変態!(ピカッズズーン!)きゃあああああっ!」


すぐに戸が開いて、再び俺が引っ張り込まれた。


「いやあああああっ、だめえええええ、ここに居て…あっ…ア、アニキ、後ろ向いてそこに座ってて!」

「え?」

「すぐ!」

「はいっ!」


俺は即答してドアのあたりで後ろを向いて座った。

何故か正座だ。


「お風呂出るまでそこに居て!それでアタシが出たらそのままお風呂入ってね!アニキもずぶぬれなんだから!」

「わかった」


それから雷鳴に負けないほどの玲奈の悲鳴を耳が痛くなるほど聞こかされたあと、俺の眼をつぶらせたて玲奈はお風呂を出て行った。


「あれ?今日はお湯が残ってる?」

「あっ、それはもういいのよ!でも飲んだりしたら殺すわよっ!」

「…飲まないよっ!」

「何で即答じゃないのよっ!この変態アニキっ!」


俺は服を脱ぐと玲奈の出汁風呂に入った。


毛は浮いていないのは無毛なのか暗くて見つけられないのかどっちかなー♪




風呂から出ると、玲奈が俺をリビングに招き入れた。


「夜ご飯作ったから」


テーブルの上にはカレーが2人分並べてある。


「作ったって、レトルトだろ?」

「べ、別にいいじゃないの!どうせアニキだって大したもの作れないんでしょ?」


確かに何でもいい。

それよりも問題は席の配置だ。


カレーを置いた席が隣同士じゃないか。


俺が席に着くと、玲奈がズズッと椅子を俺から少し離して席に着く。


「何で隣なの?」

「まだゴロゴロ言ってるから(ピカッ)きゃああああああっ!」


俺に抱きつこうとしたのか上半身をこっちに向けて抱ききかけたが、椅子を離していたためそのまま倒れそうになる玲奈を俺は慌てて足を踏み出して抱き止める。


ズズズズズズズウウウウウンッ!


轟音と共に家が揺れる。


「ふえええん、おにいちゃん、うちに落ちたああ!しぬ、しんじゃうっ!」

「大丈夫だ。うちじゃないよ。それに玲奈の事は俺が守るから」

「うん…ぐすっ、おにいちゃ…あ、ありがとアニキ」


正気に戻った玲奈はささっと自分の席に戻るが、立ち上がると椅子を俺の真横にくっつけて座りなおしてきた。


腕が密着するくらいの距離だ。


「雷で驚いて椅子から落ちるといけないから、そういうの防止なのよ?わかる?」


暗くて顔色はわからないけど照れているのかもしれない。


まさかオールツンからツンデレに昇格?!


そうか、雷に対する恐怖のつり橋効果ってやつだな!


よし、この機会に玲奈との関係を昔のように戻すんだ!



とりあえずカレーを食べよう。


ぱく……は?


ご飯は冷たく、カレーは常温。


そういえば停電していたんだった!


冷蔵庫にあった残りもののごはんにレトルトをそのままかけたのか。


「電子レンジ使えないから仕方ないでしょ?!」


俺が何か言う前に予防線を張る玲奈。


「ガスは付いただろ?」

「だって、こんなに暗いのにガスとか怖いもん!」


仕方ないなあ。


ちょっとだけデキる兄な所を見せてやろう。


「おい、ちょっと貸せ」

「えっ?どうするの?」


俺は二人のカレーを集めると、熱して油を敷いたフライパンに投入した。


「カレーチャーハンみたいにするからな」


俺も言えるほど料理はできないが、チャーハンとオムライスくらいなら作れる。


昔は二人で留守番していた時によく玲奈にオムライス作ってやったもんだな。


オムライスと言っても卵をうまく巻けないから、大皿の上に薄焼き卵を載せてケチャップライスを載せ、手で半分に折っただけなんだけどな。




「できたぞ」


俺は玲奈の目の前に大きな皿を出す。


「オムライス?!」

「中身はカレーご飯だけどな」


そのくらいなら多少暗くてもできる。


それにいつまでも暗いのも困るから、俺は小皿に食用油を入れたものにティッシュを紐状によって作った芯を入れて、チャッカ〇ンで点火する。


これは災害時の明かりの作り方として学校で習ったんだ。


「あとで懐中電灯探すけど、ひとまずこれな」

「すごい、明るい…」


とりあえず玲奈の表情がわかるくらいの明るさにはなった。


「あったかい…おいしい……ありがと」


ぼそっとお礼を言ってくれる玲奈に感激しつつ、俺もオムカレーライス(?)を食べる。





「雨と雷は収まったみたいだけど、停電はまだ直らないんだな」

「ユキからRINE来てたけど、変電所に落ちたみたいって」


それなら復旧に時間かかるかもな。


「時間速いけど寝るか。真っ暗でも寝れば変わらないだろ」

「うん…」


玲奈はトボトボと自分の部屋に戻っていく。


ちなみに俺の部屋の隣が物置代わりの姉の部屋で、その隣が玲奈の部屋だ。


ちなみに姉は結婚して家を出ている。


『玉の輿よ!』


とか言って50も年上の相手と結婚したんだよな。



それはさておき、俺は自分の部屋に籠ってようやく落ち着く。


今日の玲奈は可愛かったな。


色々おいしい目にもあえたし、時々雷鳴らないかな?


でも、こんなに雷鳴るのって10年ぶりくらいだよな。


あの時もまだ園児の玲奈が怖がって、一緒に寝てやったっけ。


寝る前に確か…


ピカッ……ズズズーン


2秒か。まだ雷近くに居たのかよ。


コンコンコンコンコンコンコン


すると俺の部屋のドアを高速で叩く音がする。


家には玲奈と二人きりだから当然玲奈の仕業だ。


ガチャリと戸が開いて懐中電灯を持った水色のパジャマ姿の玲奈の姿が。


「アニキ、トイレついてきて!…あっ、そうじゃなくて、トイレが真っ暗で見えなくて怖いから、ドアの外に居て!」

「懐中電灯渡しただろ?」

「だってえ」


そんな甘えたような表情で言うなよ。

無条件で承諾するじゃないか。



『アニキ!耳ふさいでね!音聞いたら殺すから!』

「耳をふさいだら呼んでも聞こえないだろ?」

『トイレで助けてって呼ぶわけないでしょ?!』


それもそうだ。


で、また怖くて腰を抜かして俺が助ける羽目になったり…しないよな。



ピカッピカッピカッ


おっ?三連発?


ズッゴゴゴゴゴオゴゴッゴオゴゴゴゴゴンンンンッ!!

『きゃああああああっ!!』


雷の音と玲奈の叫び声が耳をふさいでいても聞こえるぞ。

家も揺れてるし。


『ひゃん』

「ん?何か言ったか?」


俺は両耳の穴から指を抜く。


「おにいひゃん、うごけない…」


マジかよ?!


「おい、助けてほしいならせめて拭いてパンツとズボン上げろ」

『う、うん、で、できた…』


俺はドアを開けて玲奈をお姫様抱っこで抱え上げる。


「………って、なんでこんな抱き方してるのっ?!」


少し落ち着いて正気に戻ったか。


「昔は良くしたじゃないか」

「こんなの、旦那様にしてもらう抱き方だから!」


ポカポカ胸を叩かれるが、俺はかまわず自分の部屋に連れて行く。


そして俺のベッドの上に玲奈をそっと寝させた。


「ひっ…だ、駄目だからっ!あたしたちは兄妹なんだからっ!変な事したら舌噛んで死ぬからねっ!」

「じゃあ玲奈の部屋に勝手に入って良かったのか?」

「えっ?だからこっちに?…まぎらわしいわよっ!」


紛らわしいもなにも、俺が玲奈に変なことするわけないだろ。


世界で一番大切な妹なんだからな。


「じゃ、じゃあ動けるようになるまでここで寝させてよねっ!」

「ああ、そうしてくれ」


そして俺は押し入れから布団を引っ張り出すと床に敷いて寝ころぶ。


「どうしてそんなところで寝るのよっ?!」

「じゃあリビングのソファーに行ってくるよ」

「違うわよ馬鹿アニキ!寝るならあたしの横!だって…まだ雷鳴ってるんだもん…」


幼児退行していないけど俺が隣に寝ていいのか?


いや、これはチャンスだ。

俺が横に寝ていて、玲奈が雷の音で抱きついてくる。


そして俺が玲奈を抱きしめて頭を撫でてやると、玲奈は俺の事を見直してくれるんだ。



なんて少し妄想しながら俺はベッドに乗る。


「ひっ」


雷が鳴ったわけでもないのに小さな悲鳴をあげる玲奈。


「どうした?」

「アニキ、あたしに何もしないよね?」

「するわけないだろ?玲奈を守ることはするけどな」

「馬鹿アニキ、なにカッコつけてるの(ピカッドシャーン!)あんあんあんあななんあんぎゃあああ、おにいちゃんおにいちゃんおにいちゃん」


嫌そうに言ったあとに雷鳴で大混乱してから思いっきり抱き着いてくる玲奈。


パジャマ越しの胸の感触が最高です!


「だめだめだめ、死ぬ、死んじゃう、死んじゃうかも、死んじゃうから」


死ぬの4段活用か?


「死ぬ前にアニキに言いたいことあるの!」

「えっ?!」


ま、まさかこの展開は?!


「ずっと言い出せなかったけど、あたしはアニキのことがす、す、す…」

「玲奈…」







「アニキの事がスケベだってわかってるからっ!」

「は?」



え?何?

好きって告白じゃないの?

いや、ある意味これも衝撃の告白。


俺がスケベ?

どういうこと?


「だってアニキはあたしが風呂に入っていたのを覗いて、慌てて逃げようとして足首ひねって全国大会行けなくなったのよね?」


バレてるうううう?!


「あ、あれはちょっとした事故で!」

「それとあたしの下着をどうして把握してるの?」

「え?どういう意味?」

「畳んであった下着、お母さんのとあたしのが分けてあったんだけど?」

「そりゃあブラはサイズが違うからわかるよ」


母親のことはあんまり言いたくないがJだ。

そして玲奈は中2としては驚きのGだ。

よくそんな大きなものを付けて走れるなと。

いや、むしろロケット型で流線形になっているのでは?!


「サイズ見たのね?」

「見ないとわからないから仕方ないじゃないか!」

「分けてなくてもあたしが自分で持っていくわよ!それと、パンツのほうは何で区別つくのよ!」

「カン?」

「普段からあたしの部屋とか覗いてるんでしょう?!きっとそうに違いないわ!」

「単にこの柄は玲奈らしいなって思って」

「やっぱりスケベじゃないのっ!」


そういうのもスケベのうちなのか?


「だいたい玲奈の部屋は俺の部屋と違ってロックかかるだろ?どうやって覗くんだよ?」


中学に入ってから玲奈は部屋に鍵を付けてしまったのだ。


だからうっかり間違えて開けるとかいうラッキーハプニングは起こせなくなった。


…いや、人為的には起こしてないからね。

食事を呼びに行って返事が無いから心配になってドアを開けたら下着姿でヘッドホン付けていたのを見てしまっただけで…あっ、その後に鍵を付けられたんだっけ。


「他にも妹が出てくるゲームばかりしてるじゃないの!」

「別にエッチなゲームじゃないからいいだろ?」

「それになんであたしの名前を付ける訳?キモすぎっ!」

「何でそこまで知ってるんだよっ?!」

「えっ?本当だったの?」


玲奈の眼が点になっている。


「ア、アニキ、あたし自分の部屋に戻るわ。歩けるようになったみたいだし」


凄い真顔で自分の部屋に帰ろうとしてる?


「待ってくれ、誤解なんだ!」

「何が誤解(ピカバリバリドッシャーン!!)ひぎゃああああっ!」


俺の横を通り抜けようとしてそのまま俺に抱きついてくる玲奈。


「あうあうあうあうあうあう…おにいちゃん」

「玲奈?大丈夫か?」

「ううううう」

「おい、しっかりしろ」


俺は玲奈をベッドに座らせる。


「アニキのベッドなんてもう嫌(ピカッ)ひっ?!自分の部屋に戻(ピカッ)ひいっ?!」


ドドドドドドゴオオオオオオンッ!


「いやあああああああっ!だめっ!もうだめっ!」


ぎゅううううううううっっと痛いくらいに抱きついてくる玲奈。


「はあ、もういやあ。何とかしてえ」


何とかしてと言われてもなあ。


ピカッ!


「ひいっ?!(もにゅ)あっ、きゃあああああっ?!」


しまった、雷光に驚いてベッドから落ちかけた玲奈を抱き止めようと思ったらうっかり胸を触ってしまった!


「このスケベ(ズズズズズズズウウウウウン!)アニキッ!(バシッ)」

「痛っ!」

「どこ触ってるのよっ?!」

「今のは玲奈を助けようとしたからだよっ!」

「スケベだからそんなふうになるのよ!あれ?」

「ん?どうした?」

「あたしって、さっき雷が鳴った時、平気だったかも」

「そりゃあ俺のほっぺ叩くのに夢中だったからな」

「ということは…ねえ、アニキ」

「何?」

「ちょっと恥ずかしいけど…他に方法無いから仕方ないよね?」

「何の事?」


何の事と言いつつちょっと期待している俺。


「だから、雷が鳴りやむまで、アニキにあたしの胸を触らせたりとか……していいかな?」

「は?」


硬直する俺。


「聞き間違いか?俺が玲奈の?」

「胸を触るの」

「それで雷が怖くなくなるのか?」

「うん。雷どころじゃなくなると思う」


そうかそうか。


可愛い妹にそんなことを頼まれたら仕方がない。


「ならば全力で応えてあげよう!」


俺は手をワキワキさせると玲奈の胸を…



ピカッどごっズズーン

ピカピカッげしっズズズズウウン

ピカアッ!どごぉっ!ズズーン!






やがて雷は去り、俺は玲奈にフルボッコにされて床に横たわっていた。


「胸を揉ませてくれるんじゃなかったのお?」

「フリをしてほしいだけに決まってるでしょっ!」

「全力で殴ったり蹴ったりしてきたじゃないか!」

「馬鹿アニキが本気で触ろうとしてくるからよっ!」

「うう、あんまりだあ」

「うっさい、死ね、スケベアニキ」




どうやら吊り橋効果は無かったみたいだ。


でも、玲奈に抱きつかれたりしてもらえたから悪くもないか。









〇玲奈side〇


夕べは本当にひどい目に遭ったわ。


でも色々助けてもらったし、朝ごはんくらい作ってあげないと。


コンコン


「馬鹿アニキ、朝だからね。ご飯作ったわよ。べ、別にアニキのためじゃなくてついでだったから」


って、なにツンデレムーブしてるのあたし?!


「アニキっ!もう、開けるわよ!」


ガチャ


「何よ、またスマホ触ったまま寝落ちしてるの?」


寝たまま握っているスマホをとりあげて、ついでにアニキの指紋でロックを解除する。


「ほらまたこのゲームしてる」


美少女の精霊を育てて戦わせるとかキモッ。


しかもこのトップ画面に出てくるお気に入りの精霊に実の妹であるあたしの名前つけてるとかありえないわよね。



☆お気に入り精霊☆

名前:クリス

能力:……


は?


何で名前が変わってるわけ?!

ずっとあたしの名前だったのに?!


ゲームを変えてもお気に入りのキャラにはあたしの名前つけていたくせに、何で変えたの?!


馬鹿アニキのくせに生意気よっ!


☆お気に入り精霊☆

名前:レイナラブ

能力:……


これで良しっと。





〇俺side〇


いかん、またスマホゲーしながら寝落ちした。


レイナたんおはよう、いや、もうクリスたんになったんだよな。


玲奈にゲームの画面を見せてとか言われたら困るから泣く泣く名前を変えたけど、やっぱりレイナじゃないと気が載らないなあ。


「ほらほら、アニキ。さっさと朝ごはん食べて」

「待ってくれよ。今行くから」

「また朝からゲームしてるの?そう言えばあたしの名前をゲームのキャラにつけてるって言っていたわよね?」

「付けてないからな!見ろこれを!あれえっ?!」

「『レイナラブ』?何?告白のつもり?うわっ、キモッ、最低っ」

「え?え?え?な、な、何でえ?!無意識に本音が?!」

「本音って?な、何を言ってるのよっ?!」

「え?何赤くなってるの?まさか玲奈も俺の事が好き…」

「こ、これは怒りで真っ赤なのよっ!」


ばっごおおおおおんっ!


見事な顎を狙ったショートアッパー、いただきましたっ!





「しかし玲奈ってみそ汁とか作れたんだな」

「適当に色々入れただけだからおかしな味よ」

「…本当だ。みそ汁なのに中華やコンソメの味もする」

「嘘でも」

「おいしいよ」

「それなら黙って食べなさいよね」

「あれ?玲奈は飲まないのか?」

「あ、あたしはもう飲んだのよ。だから全部飲みなさいよね。あたし特製・・のおみそ汁なんだから」

「愛情が入ってるんだな」

「馬鹿っ、入れたとしても雑巾のしぼり汁よ」

「ブブッ!」

「冗談に決まってるでしょ?!」

「どうせ絞るなら玲奈の汗の染み込んだ下着とかにしてくれればいいのに」

「えっ?!見てたの?!」

「えっ?!入れたの?!」


……

……


「何マジな顔してるの?超ウケるんですけど?まさかこんなボケに引っ掛かるワケ?」

「お前口調が変わってるぞ」

「う、う、だ、だって、夕べのであたし、アニキに対する気持ちが変わっちゃったんだもの」

「えっ?!まさか俺の事…」

「うん、アニキが好きになったの」

「本当かっ?!」

「うん」




アニキをいじめるのが・・・・・・・・・・好きになったの!」

「えっ?」

「アニキの事をぶったり蹴ったりしていたら、何だか気分が良くなって…それでお礼のつもりでおみそ汁作ったんだけど、そういえば昨日しりもちついてドロドロになったパンツがそのままだったって気づいて、これでダシを取ったらどうだろうって思って…」


玲奈が目をキラキラさせてしゃべっている。


「妹大好きでスケベなアニキだからそういうことされたら嬉しいよね?あたしも嬉しいからウィンウィンじゃない?」

「え?えっと…」


どう答えていいかわからない俺。


「あとでアニキのこと踏んでいい?素足がいい?それとも靴下?それでアニキが馬鹿なことを言って私がぶったり蹴ったりするの!」


これってどういうこと?

また兄妹仲良くなったって喜ぶべきなの?

それともいじめられているのを悲しむべきなの?


「どうせ踏むなら短いスカート履いてくれる?」

「何?踏まれる時に覗く気なの?うわキモッ!最低ねっ!このスケベアニキ!」



そして特製のおみそ汁を完食した俺の前に、いつの間にかミニスカートを履いた妹が現れたのだった。

お読みいただきありがとうございました!

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