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猫耳娘と大魔王の剣  作者: ナオ
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魔剣と武術家

 「勇者の一行が戻りました!魔王城潜入の報告の為、謁見の許可を申し出ております!」

 ガレージア王の元に待ちわびた知らせが飛び込んできた。すぐに許可を出し、謁見の間へ勇者の一行を迎え入れた。しかし、魔王討伐の報告を期待した王にとってそれは、反応に困るものであった。

 「それでは魔王は死んだことは死んだが、魔王を殺したのは謎の剣であると…。」

 「我々が踏み込む直前でございます。」

 「して、それを見ていたのがそこに連れてきた魔物なのか。」

 「魔王の側近です。その場にいた為、詳細を聞き出し、剣の捜索に役立てるため連行しました。」

 王は困惑した。確認しなければならないことがある。

 「危険ではないか?」

 「結界術師により魔法や術を封じております。拘束を解かなければ何も出来ません。」

 危険は無いと聞き、王はその魔物に対し興味が湧いてきた。魔物はフードをかぶっていて顔が見えないが、体型は人間とさほど変わらないように見える。王はまだ、魔王の側近を務める程の魔物は見たことがない。

 「魔物の姿を見せてみよ。」

 「見るべきではございません。不浄の物です。高貴なお方が目にすれば、毒気により汚されてしまいます。」

 そう言われると子供じみた好奇心を咎められたようで、無理に見せろとごねるのは恥のように思われる。しぶしぶ収めた。その腹いせもあるが、勇者に苦言を投げた。

 「我が国が勇者の血筋に対し、代々厚遇を与えている理由は理解しておるな?魔王が現れ魔物が人への危害を活発化させるたび、我が国は勇者を送り魔王を討伐することで権威を示し、世界各国に対する強い発言力を維持しておる。魔王は倒れたが勇者は何もしていないなどと噂されれば、我が国の権威はどうなる?」

 「申し訳ございません。」

 「魔王討伐がかなわなかった以上、名誉も褒賞金もお主らにはやれぬ。」

 「ちょっと待ってくれ!それじゃあ俺達は…!」

 「黙れ!無礼だぞ!」

 勇者の後方に控えていた戦士と武術家は、褒賞金が支払われないことに抗議しようと立ち上がったが、すぐに近衛兵たちに押し戻され、退室させられた。

 「粗暴な連中を連れておるな、不愉快極まる。だが希望はやろう。魔王を倒した剣は魔物のような物であろう。ならば野放しには出来ぬ、捕らえて砕かねばなるまい。」

 「勿論、その所存でございます。」

 「なれば、魔剣討伐を命ずる!魔王に打ち勝つ程のものを倒したとなれば、各国に我が国の権威を示せるであろう!その時に改めて名誉と褒賞金を与えよう!」

 


 謁見を終え、勇者の一行は控えの間で今後の事を話し合っていた。

 「王の反応は予想通りだったな。」

 戦士がふてくされながら言う。

 「褒賞金はお預けか。ばか正直に報告するからこうなる、どうしてくれるんだ?」

 武術家の方も不満がある。喧嘩腰で勇者を問い詰めた。

 「やめてください、勇者様が報告しなくても私のほうから報告しています。私には魔王討伐に伴う活動内容の精査を義務付けられています」

 結界術師がいさめる。

 それぞれの立場と関係性を言えば、勇者は王の命令を受け、魔王を討ち取るため国境を跨ぎ活動することを許されている。その活動で発生する雑業務や経費管理、戦闘においても勇者をサポートするのが結界術師である。勇者と結界術師はガレージアの国民であり、平時は王宮勤めである。戦士と武術家は金で雇われた他国出の傭兵であり、魔王を倒せばさらに褒賞金から分け前を貰える契約となっている。

 「我々が魔王を倒していないことは事実だ、王は魔剣討伐後に褒賞金を出すことを約束してくださった。」

 無愛想に勇者がこたえる。

 「魔王の側近を尋問しあの剣が何者なのか、どこに潜伏しているのか手掛かりを聞き出す。2人は3日程休暇を取ってその後合流してくれ。」



 娘は剣に尋ねた。

 「これからどうするの?」

 剣は少しばかり思案したが、やはり封印が解けた直後に持っていたはずの目的は思い出せない。

 「とりあえずお前の存在は面白い。しばらく行動を共にしてやっても良いぞ。」

 実際は、自力で広範囲を移動出来る程の魔力は回復出来ていないから行動するなら運んでもらうしかない。ただ、娘の境遇や身体能力に興味があるのは本音だ。

 「それじゃ剣さん、お腹すいたから食べ物を探しに行こう。」

 捕らわれていた屋敷を脱走してから、食料の確保は難しい問題だった。娘は幼いころに家庭菜園を手伝うことは行っていた為、食べられる野草を摘んでサラダにするくらいは出来たが、それ以外は果実くらいしか口にするものが無かった。火も起こせず鍋も食器も無い為、煮炊きすることが難しく肉や魚を手に入れる方法も無かった。

 剣は頼もしい道連れとなった。ちょっとした火炎魔法を使える。前夜はそのおかげで火を起こせた。また、川で魚を取る方法を教わったり、木を切り簡単な加工を施して食器がわりに出来た。

 魚を焼き、満足のいく食事を久々に取ることが出来た娘は剣に提案した。

 「お屋敷に戻ろうと思うの。」

 「何を馬鹿な、嫌で逃げ出したんじゃろう?」

 「うん、でもなぜわたしがあの場所に閉じ込められていたのか知りたい。食事を用意していた人がいるはずだから、探して聞き出したい。1人だとまた捕まってしまうかもしれないから考えられない事だったけど。」

 「ワシをそれに付き合わせるつもりか。」

 剣はまた思案した。この娘の正体は確かに知りたい。

 「よし、付いていってやる。」

 娘が逃げ出したのは7日ほど前だという。屋敷から1日かけて海に着き、それから海岸にそって歩いてきた。途中で海から離れて今の場所にいる。屋敷を目指すなら海の方へ戻る必要がある。早速、娘と剣は海を目指し始めた。

 途中、廃村を見つけたため物色することにした。魔王が現れると普段人を避けるような魔物も積極的に人を襲うようになる。そうなると防衛能力を備えた大きな町などへ村ごと引っ越すことが必要になり、廃村となる。ここもおそらくそうした村だろう。大したものは見付からなかったが、荷物を入れるカバンや剣を隠せる大きな布、娘の猫耳を隠せる帽子などがあったため拝借する。剣と相談したが、その場しのぎで野草や獲物を探すより保存できる食料を手に入れて持ち歩いたほうが効率的な為、一度町に行ってみることにした。それには人前に出れるよう目立たない格好をしなければならない。

 廃村を出て2日たつ。比較的大きな港町に着き、山で集めた果実を朝市にまぎれて路上で売る。そこそこのお金を手に入れることができ、小さな金属鍋と干し肉や芋など保存のきく食べ物が手に入った。

 町を出たあたりで何者かが後をつけていることに剣が気付いた。

 「娘、走るぞ。」

 尾行を撒くため逃げ出した。人間の足では娘の速さに追い付けないだろうと剣はたかをくくっていたが、相手も人間離れした速度で追ってくる。

 「バカな!?」

 予想外の状況になり、逃げ切るのが難しいと判断した剣は相手の正体を探ることにした。

 「娘、止まれ。相手に用件を聞いてみるぞ。」

 立ち止まり、相手と向きあった娘は息も絶え絶えになりながら叫ぶように尋ねた。

 「何か…、ハア…、用が、あるの…!?」

 歳は40くらいだろうか、男は息切れもせず冷ややかな目で睨んでいる。両者の間は20mくらい離れているが、ただならぬ雰囲気は伝わってくる。

 (まずい相手かもしれない…。)

 くるまれた布の中、様子は伝わってくる。娘は剣に促され、いつでも戦闘に入れるよう柄を持ち直す。

 一方、相手はあまりの偶然に昂っている気持ちを必死に押さえつけていた。

 (まさか、休暇で顔を出した故郷から戻る途中で…。)

 (見つけたぞ!魔王の死骸に残留していた魔力と同じだ、気功術の応用で俺は魔力の区別がつく、間違いない!)

 「魔王を倒したのは、お前だな?俺は勇者とともに魔王を退治するはずだった…。横取りされてムカついたぜ?」

 「何のこと…?」

 娘はキョトンとした顔をしている。ただ敵意を感じ張りつめた緊張感を見せている。危険だと思い剣をくるんでいた布を取った。

 「娘、こいつはゴブリンとは比べ物にならないくらい強い。今のワシとお前では勝ち目がない。とにかく隙を作って姿をくらます方法を考える。攻めるんじゃなく、避ける、かわす方に足を動かせ。」 

 剣は娘にそうささやいた。

 武術家はほくそ笑んだ。

 (間違いない、あの剣が魔王殺しの魔剣だ、そして魔力を使い果たして弱体化している。楽に勝てそうだ、褒賞金を1人締め出来る。)

 武術家は棍を構えた。お互いに戦闘体勢になる。だが当然娘は素人構えに加え逃げ腰であり、隙だらけである。

 (まずい、見た目で油断でもしてくれればと思ったが、それも期待出来ない。)

 対峙している状態で既に娘が気を失ないそうな程の圧力を感じる。殺意が伝わる。

 「おそらく捲き込まれただけだろうが、あんたも魔物だろ。可哀想だが、」

 娘に対しても見逃す気配はない。

 「速攻で殺してやるよ、苦しまないようにな。」

 武術家の構えが変化した。足を前後に開く。いつの間にか練り上げた気の流れが両手で持つ棍を螺旋状に伝わり、紫色の龍のように見える。螺旋のまま棍の先端に達すると同時、足を踏み込み棍を突きだした。

 「紫龍爆散!!」

 棍を中心とし、衝撃波が凄まじい速度で広がる。30年余り修練に明け暮れ、武術において世界に並ぶものがいないとされた達人の最強の技である。武術家の前方約30m、螺旋状に広がる破壊のエネルギーは地をえぐりながら娘と剣を飲み込んだ、かに見えた。土埃の合間から見えた娘の姿に武術家は思わず叫んだ。

 「避けたのか!?」

 娘はその反射神経で接近する螺旋の衝撃を回転方向に合わせて飛び避けようとした。結果、大きく吹き飛ばされたものの、致命的ダメージは負わずにすんだ。しかし、やはり無償とはいかず衝撃で気を失っている。

 「チィッ、往生際が悪い。」

 武術家はとどめを刺すべく娘のもとへ行こうとして、事態が急変したことに気付いた。

 「信じられん反射神経じゃ、よくやった、娘。まだ時期尚早ではあるが、命には変えられん。一か八か堪えてもらうぞ。」

 立ち上がった娘を見て、武術家はすぐに何が起きたか把握した。

 「乗っ取りやがったな。」

 意識がない状態なら身体を自在に操れる、ということだ。多数の魔物と戦闘をこなしてきた武術家にとって想定外でもない。

 「もう一度食らわせてやる!」

 が、武術家が構える間もなく魔剣は突っ込んでいった。尾行から逃げ出した時や紫龍爆散の回避からその速さは予測していたが、それを上回る。攻撃に転じるタイミングを逸した。

 (娘の身体に負担がかかるのを承知で潜在能力を引き出したのか?やっかいだ。)

 嵐のような激しい連続攻撃を棍で捌き続けるが、無呼吸での防衛に限界が迫る。

 (仕方ない、武器を犠牲にする!)

 わざと防御のリズムを崩し、棍で剣撃を正面から受けた。魔剣の攻撃にもズレが生じ、結果お互いに間を取らざるを得なくなった。が、代償に武術家の棍は半分ほどの長さに切断されていた。切り飛ばされたもう半分は地面に転がっている。

 (俺の武器、鉄芯入りの棍を易々と切りやがった。まあ、想定の内だ…。)

 (押しきれると思ったが、止まってしまった。これ以上娘の身体に負担をかけると回復不可能なレベルの反動を受けかねん。次の一手で仕留めるしかない!)

 見ると、武術家は気を練り始めている。

 (さっきの技か?まともにくらうと身体をバラバラにされる。なんとしても避けなければ…。)

 魔剣は先に動いた。横に飛ぶ。正面からではなく回り込んで武術家に接近するようだ。

 (技の発動前を狙う気か?浅はかだぜ!)

 手元に残った棍の半分を投げつけた。魔剣が避ける動きにより一瞬下がる。その隙に気が螺旋状に右拳に達する。

 (紫龍爆散拳、本来の技はこっちで棍を使うのは応用、攻撃範囲は狭まるが威力は上だ!)

 技の発動動作に入った瞬間、何かが飛んできて体勢が崩された。

 「なにっ!?」

 立て直すまで、魔剣は待ってくれない。すでに切りつけられていた。その瞬間、武術家は飛んできたものが何だったのか考えた。

 (そうか、切り飛ばされた棍の半分を拾うために回り込む動きをしたのか…。)

 死の間際に答えは出た。

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武術家アスフィン

勇者の仲間。気功術の達人。ファン王国出身で武術が盛んな村に生まれた。幼少の頃から修練を積み成人してからは各地でボディーガードや武術指南などにより生計を建てている。長男。家族は母と弟妹合わせて8人、結婚して家を出た弟と妹が5人の大家族。42歳独身。

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