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ヒロインの嘆き



 草原に広がるほのかなオレンジ色の光。今、私は教会裏の原っぱで亜子ちゃん2人で洗濯物をしまっています。


 白い洗濯物、どこか物悲しくも神秘的なオレンジ色の夕暮れ、それを背に瞳を細めるシスター服の美少女、亜子ちゃん。


 はぁ……。絵になる。


「可愛い……」


 つい口からも賞賛の言葉が出る。


 すると、私の呟きが耳に入ったのか、亜子ちゃんが特徴的な薄青の瞳をこちらに向けた。


 亜子ちゃんにしては珍しく無表情のような…、どこか表情を伏せた瞳で私を見つめる。

 

「最近…、シスターマインは私によく『大好き』と、言ってくれますよね……」


「え、うん…、大好きだから」


「――――っ」


 亜子ちゃんが唇を噛むのが見えた。


 原っぱに一陣の風が吹き抜けて、一瞬白い洗濯物に視界を遮られる。


 次に見た時、亜子ちゃんは薄青色の髪を靡かせながら――泣いていた。

 

「なぜ私なんかを愛してくれるのですか!? なぜ……。どうして急に愛するようになったの!? 私、なんか好かれることした!? 同情!? 戯れ!? 分かんない!! 分かんないよぉ……っ!!」


 亜子ちゃんは頭を抱えながら泣き崩れた。


 突然の亜子ちゃんの絶叫に、私はただただ思考も忘れて……、ポカンと、して、しまった。


 亜子ちゃんの絶叫が……、不安を声に体験した絶叫が、なかなか頭から離れない。


 私は、亜子ちゃんに言われて初めて、ここ数日の自分の行動を振り返った。


 亜子ちゃんに大好きだと、一日中囁いた。亜子ちゃんとべったりくっ付いて行動した。


 でも、その前は? その前の私は? 転生する前にも、私は私としてここにいた筈だ。この小説の世界に住んでいた筈なのだ。けれど、その私は亜子ちゃんに対してどんな態度を取っていたのだろうか?


 もしかすると、素っ気ないとまでは言わずとも…、かなり愛想のない人だったとしたら?


 そんな愛想のない人がある日突然、大好きだとすり寄ってきたら?  

……私だったら、何か企んでるんじゃないかって、疑うと思う。「急に何なの?」って、かなり警戒、する。


 もし、亜子ちゃんも、そんな思いだったのだとしたら……。私はなんてことを……。


 亜子ちゃんは涙声で、鼻水をすすりながら、それでも懸命に、必死に心の内の声を言葉にしてくれようとしていた。 


「私……、何も好かれることしてないから……、髪も目もこんな色だし…、人から好かれる性格じゃないし……。シスターマインが考えてること、分かんない……。大好き…って、本心なの? あたふたしてる私を楽しんでる? あなたに新しい友達が出来たらすぐ捨てられちゃうの?」


 自分が好かれてるのには何か利用するための理由があって、その理由がなくなったらまた他人のように接せられるのでは……と、そう亜子ちゃんは思っているのだろう。


 確かに、私が理由なしに人を好きになることはない。大抵の人間はそんなもんだと思ってる。


 でも、


「薄青の瞳も、薄青の髪も、大好き。優しい亜子ちゃんが大好き。人を思いやって自分より他人のこと優先しちゃうとこ好き。私にいっつも優しくしてくれるとこ大好き。――愛してる」


 私は、いくらでも亜子ちゃんの大好きなところを――大好きな理由を、上げられるから。


 口をパクパクさせて私を指差す亜子ちゃん。


 そんな顔も可愛い。やっぱり美人はどんな顔でも映えるなぁ。


「……で、でも……、でも…、なんで?」


 未だに私の好意が信じられないといった様子でポツポツと声を漏らす亜子ちゃん。


 その声があの懺悔室での亜子ちゃんの声と重なって…、凄く、凄く悲しくなった。


 亜子ちゃんは頬に流れ落ちた涙を拭いながら、私に問い掛けた。


「珍しくないの? この髪…、う、薄青なんだよ?」


「え? 綺麗じゃん」


 それが私にとっての至極当たり前の答えだ。


 ……だが、多分、この世界じゃ当たり前じゃない。


 この世界は中世ヨーロッパを元にした…、魔女狩りとかが本気マジである世界だ。迷信やカルト信仰はありありと残っているし、未だに世の多くの人がそれを信じてる。


 そして、この世界でも薄青の髪と瞳はとても珍しい。


 さすがに私のような黒髪は中世ヨーロッパではあまり見かけなくても、いない訳じゃないし、最近では東洋との貿易も盛んになってきたから特別差別される訳じゃない、けど。


 亜子ちゃんは違う。


「私は、髪や目で差別しない。…いやっ、亜子ちゃんの髪とっても綺麗だって思ってるけど…、ちがうくてね? あくまでも亜子ちゃんの心が綺麗だから大好きなんです。勘違いしないでよね?」


 なぜか後半がツンデレ口調になってしまった……。ちょっとずつ恥ずかしさがせり上がってくる。


「ふふっ! あははっ! あははは!」 


 亜子ちゃんが耐えきれないといったように噴き出した。


 そのままお腹を抱え、ゲラゲラと笑っている。


 ……。私、そこまでおかしなこと言ったかな?


 でも、嗚呼、やっぱり――、


「私の髪も目も……、心も、褒めてくれたのはあなたが初めて……」


 そう微笑む亜子ちゃんの笑顔は、夕日に照らされてるせいか本当に、世界の宝石のように見えた。




ゆ、百合成分強くない? 百合にするつもりはなかったんだけど…。

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