悲劇のヒロイン
この物語の終わりを一言で表現するとそれは『メリーバッドエンド』だ。
物語の起承転結の起は、とある魔女騒動から始まる。
シスター亜子が魔女でなのでは?という噂が突如立ち、シスター亜子が火刑に処されることになるのだ。
はい! そこでシスター亜子の命を颯爽と救う聖なる牧師ロキ! ロキは村人たちを説得し亜子を遠くの町に移すことを村人たちに提案する。殺したら魔女に呪われるから、遠くに追いやろう、と。そうしてシスター亜子は命を救われるのだ。
はーーい! 何というマッチポンプ!! 何という醜悪根性!!
シスター亜子が魔女なのでは?という噂を広げたのはそもそもロキでしょ!? なにヒーロー面してんのよ!! これは完全なるマッチポンプです!!
馬鹿! 馬鹿! あの馬鹿悪魔め!
はい、ということで物語中盤、遠くの町まで逃げて来たシスター亜子と牧師ロキ。
シスター亜子は自分のことを助けてくれたロキに対し物凄い信頼を置くのだが、町に来たその日の夜、ついに正体を表した牧師ロキによって――『魔女』へと作り変えられてしまう。
うん、ほんと、あの…、いかがわしい行為によって。
シスターを『魔女』にするためにはそういった行為が必要になるらしいです。
ここ、BLの…、しかもR18の官能小説の世界ですもんね。そういう行為があって当たり前ですよね。
……。
はっきりいって、最初はこの物語に介入するつもりはなかった。二時創作として読む分には主人公闇落ち系官能小説なんて大好物以外の何物でもなかったけど、現実として体験する分にはあの世への片道切符以外の何物でもないから。
だから、主人公――シスター亜子のことも見捨てて、家庭の事情とか何とか理由を付けてシスターを辞めてやるっ!!……て、転生した日の夕方ぐらいには思ってました。
多分夢なんだろうなとは思ってたけど、もし現実だとしたら、やっぱり自分の身が可愛いかったから。
なのに、転生した日の夜、夜中に偶然起きたら、同室のシスター亜子がいなくなってて、不審に思って教会内を探したら、シスター亜子は、懺悔室にいた。
懺悔室とは本来罪を犯した信者が罪を牧師に話し、懺悔をするための部屋だ。
そこにシスター亜子は一人でいた。
電気もつけず、牧師も呼ばず、ただ懺悔室の中の椅子に静かに座り、祈りを捧げるように手を組んで、懺悔していた。
ボソボソとしか声は聞こえなかったけれど、シスター亜子は確かにこう言っていた。
「ごめんなさい。ごめんなさい。誰にも愛されなくて、皆から嫌われてて、せめて神には愛されたいと……、そう思って、そんな邪な理由でシスターになってしまって、本当にごめんなさい。どうかお許しください……、神よ…」
誰に聞こえないように、誰にも聞こえない場所で、1人で神に懺悔するシスター。
……。
私は、知っている。
彼女は、この先、唯一愛を求めた神にすら助けられることなく、魔女にされてしまうことを、知っている。
彼女が小さい頃から継母に疎まれて過ごしてきたことも、働けるとこともなく痩せ細っていたところを牧師のロキに拾われて、そのロキにすら利用するために拾われたことを彼女がこの先知ってしまうことも。
全部、全部、全部、私だけが知っている。私しか、知らない。
悲しい。
涙が出そうになった。
電気のない暗闇の中で、ボソボソと声が響いて、10月の冷え切った木造の部屋の中、彼女だけが1人ぼっち。
そんなの、悲し過ぎる。
……。
私が、ぼっちな陰キャだからかもしれない、けど、なぜだか気持ちがよく分かるから。
私が、彼女を愛したいと思った。
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「亜子ちゃん、私、亜子ちゃんのこと大好きだからね! あ、勿論友達としてだよ? でも大好き! ほんとに大好き! 愛し……、愛してるぐらい大好き! だから、自信持って!」
「……は、…はぃ…」
パッと色づいた花のように一気に顔を赤面させた亜子ちゃん。
指先をモジモジさせながら恥ずかしがっている。
ううっ…! か、可愛い…!
突然同僚からこんなこと言われたらさすがに引くかなと思ったけど、赤面してるってことは少なくとも引いてる訳じゃないよね。うん、ということでこれからは1日5回、朝と昼と夜、掃除の時間と祈りの時間にこの気持ちを亜子ちゃんへと伝えることにしました。
「亜子ちゃん、大好き!」
「うぅ…、はい、ありがとうございます……」
「亜子ちゃん、亜子ちゃん、今日も綺麗で可愛いね、大好き!」
「そ、そうですか? ありがとう……ござ…」
「可愛い! 亜子ちゃんのその、ふとした時の表情が可愛い! 世界一!」
「うぅ……」
大好きだという度、亜子ちゃんは顔を赤面させた。
何度も、何度も、一日中可愛いと思った瞬間に可愛いと言ったし、同じベッドで寝たいとせがんで、寝かせて貰った。あと、勿論食事は一緒に食べるし、お風呂も……、その、恥ずかしいけど、銭湯とかいったりして、交友を深めた。
さすがにこれはうざがられるかな?とは思ったけど、亜子ちゃんは大抵顔を赤面させるだけで、絶対に拒みはしなかった。
ただ亜子ちゃんが優しいからなのかもしれないけど、やっぱり新しい友達が出来るのって凄く幸せ。
……もしかすると、家族や、友達に会えない寂しさを、私が亜子ちゃんで補っているだけなのかもしれないけど……。それでも、やっぱり私は亜子ちゃんが大好きだから。
「亜子ちゃん、大好き!」
と、今日も今日とて好意を伝えるのです。