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幸せで不幸な世界

誤字脱字などがありましたら、ご報告いただけたら幸いです。




 私は、18歳の女子高生だ。普通の公立高校に通い、クラスの陰キャとして目立たず過ごし、それでも友達は数人いたから、オタクとしては比較的ぼっちにならずに済んでいた。


 そして、そんな私には特筆すべき特徴があった。それは私が――『腐女子』だということ。


 いや、最初のうちはBLを否定する気はないけど、友達がキャーキャー言ってるのを聞いて何がそんなにいいのかな?と思っていました…。でも、友達に勧められるうちに、なんか…、段々、あのライバルキャラと主人公…、思わせ振りじゃん、と思うようになり、実際にそのキャラ同士のBL二時創作を読んだところ――、


『ロキ亜が尊い…!!』


『…うん。急にどうした?』


『再新刊のロキが…っ、ロキが…っ、「私は亜子君を信じてる」って!!』


『…お、おう。良かったね』


 …と、トーク画面で引かれるぐらいには立派な腐女子になりました。


 因みに最推しCPは私を腐女子へといざなった最初のCP――『ロキ亜』です。


 で、なぜ私が長々とこんな身の上話をしているのかというと――、


「あ、おはようございます。シスターマイン」


「……。おはよう。シスター亜子…」


 その亜子君がいる世界へと転移をさせられちゃったからです。


 といっても、亜子君たちの本当の世界、原作漫画の『探偵と蛇』の世界ではなく、その二時創作の世界、のようですが。


 もう何がなんだか分からない。


 ……ただ、一つ心当たりがあるとすれば、寝る前にいつものように二時創作投稿サイトで読んでた「ロキ亜」のCPの二時創作の世界とよく似ている、気がする。


 この世界に転移してもう数日経ちますが、最初は単にオタクにとってこれ以上にない幸せな夢の中にいるのかと思って絶対起きてなるものかと決意していたけれど、何日経っても目が覚めないのでこれは現実なのでは?とついさっき思い至ったところです。 


「…ね、ねぇ…、亜子ちゃん?」


 私の問い掛けにふわりと薄青の髪を踊らせて振り向いたのは――『シスター亜子』だ。


 勿論原作の亜子は歴とした男の子で、凛としたまさに好青年だった。だが、そう、ここは「ロキ亜」CPメインの二時創作の中。


 当然のように亜子は少女へと性転換していて、しかもこの二時創作『シスターパロ』であるため、亜子ちゃんは今では立派なシスターさんになっていた。


 原作とは違い腰まで伸びた流れる水のような薄青の髪、星屑を閉じ込めた夜空のような深青の瞳、質素なシスター服を清廉さと純潔を持ち合わせた佇まいで着こなす少女。


 その整った顔立ちにもう何度も見ているはずなのに、つい見惚れてしまう。 


「はい? なんですか? シスターマイン」


「…ううん、何でもない」


 眩しい透明感のある笑顔で微笑むシスター亜子。


 うん、てゆうかムズ痒過ぎるから私のことシスターマインって呼ぶのだけは止めて欲しい…。


 この世界での私はどうやらヒロインである亜子ちゃんの親友役、シスターマインというらしい。


 もともと本名が「真衣まい」という名前だったためそこまで違和感はないが、かなり恥ずかしい。


 それでも、まあ、自分の名前すら覚束ないこの世界でなんとか今までやってこられたのは、ひとえに亜子ちゃんのお陰だ。


 教会の中の部屋の案内に、西洋風料理の作り方、信者への施しに、聖典の読み方、主神への祈りの捧げ方。「ちょっと忘れちゃったや」と言ったら全部亜子ちゃんが献身的に教えてくれた。


 正直いってもう私は亜子ちゃんに祈りを捧げたくなったよ。


 だが、献身的な美少女シスター亜子ちゃんに支えられて、苦労はあれども幸せな日々――とは、さすがにいかなかった。


「おや? どうしたんだい、シスターマイン、浮かない顔だね?」


「……。…なんでも、ありません」


 ポンと私の肩に手を置いた、蠱惑的な声の持ち主。


 その声に反比例するかのように神に使える僕として清廉された厳かな紺色の服に身を包んだ長身の甘いマスクの男性。


 何を隠そう、この男性、この教会の最高責任者である――悪魔だ。


 あ、違う。違うくないけども、違う。


 この蠱惑的で色気ムンムンな男性は、この教会の最高責任者である――牧師様だ。


 勘のいい方はお気付きだろうが、この二時創作の中でここまで存在感を放っていてモブな訳がない。


 この牧師様は『探偵と蛇』の主要人物、ロキだ。


 この二時創作の中ではロキは牧師様をしている。なぜならばここが『シスターパロ』の世界だから。


「…本当に大丈夫ですか? シスターマイン、悩み事があるなら、言ってくださいね?」


「ほんとに、何でもないの」


 不安げに俯く私に気付いた亜子ちゃんが私の頬に手を置いて心配してくれる。


 はぁ…。ホントにええ子や。


 透き通った頬に心配げな潤んだ瞳、もうその顔を見るだけで癒される。


「そうだよ、シスターマイン、心配事があるなら、いつでも言ってね」


 優しく微笑む牧師――『ロキ』。


 心配事はお前だよ。


 私は一応、寝る前にこの二時創作を全て読み終えていた。


 この二時創作の世界でのロキは、牧師様であり、そして――悪魔だ。


 しかも淫魔だ。


 …あ、待って、今ちょっと顔が熱くなった。


 ご、ごほん。そう、この世界でのロキは淫魔なのです。しかも、かなりの鬼畜ときた。


 人を人とは思わず、ただひたすら快楽に溺れさせ、精力を吸い取る最低最悪の悪魔。


 小説の最後にはシスターである亜子ちゃんを……、その…、あの…、と、とても人前では言えないような状態に堕落というか…、その…、はい…、淫魔としての本懐を遂げる訳ですよ。


 だから、私はこの天使のようなシスター亜子ちゃんをこの下種エセ牧師から守ってあげたいのです。


 といっても、


「無理はよくないよ。ほら、掃除は少し休んで、広間で紅茶でもどうかな? 最高級のクッキーもあるんだ」


「わぁ…、楽しみです! ね? シスターマイン!」


「あ……、うん…、そうだね…」


 亜子ちゃんに微笑み掛けられてつい頷いてしまう。


 だって、だってですよ? 皆さん考えて下さい。推しCPが現実にいて、目の前でイチャイチャするんですよ。


 ほら、皆さんも推しCPで是非妄想してみて下さい。


 穏やかな午後のティータイム。攻めがケーキを受けにあーんします。それを受けが恥ずかしがりながらも赤面して食べるんですよ? 天国? 見てるこっちが幸せです。   


 くっ…、攻めであるロキが鬼畜下種最低淫魔でさえなければこのまま推せたのに。


 せめて、原作通りのロキだったら…。


「さ、行きましょうシスター亜子、シスターマイン」


「はい!」


「……はい」


 何の疑いもせずロキの後に続く純粋な亜子ちゃん。


 だが、私は知っている。


 この物語はこの後、亜子ちゃんにとっての最悪の展開を迎えると。



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