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終末世界の便利屋 ~復讐を誓いし少女は憎き機械の手を握る~  作者: 終乃スェーシャ(N号)
 三章:《十三の紫》と旧ミスカ大学地下図書館
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情報

 瞬間、知りもしない情報の濁流が一人と一機へ。脳と記憶メモリに流し込まれていく。


 ――《十三の紫》。外側の世界の存在。力の根源。紫紺の光の映像。抽象的な言葉の羅列と映像が五感を埋め尽くす。酷く吐き気がした。


 ソラは咄嗟に口元を覆った。嗚咽が込み上げ、情報の渦が消えるのを、目を強く瞑りジッと堪え続けた。涙が滲む。


「…………力の、継承。違ウ、空間、で」


 無自覚のまま、か細い声を漏らした。突き刺す頭痛が不意に消え失せる。ゆっくりと目を開けた。レイルの姿が視界に入る。…………どれだけの時間、向かい合ったまま呆然としていたか。一人と一機には理解しえなかった。長い沈黙を置いて情報の濁流が消えたとき、ぽつんと。


 望んでいた情報だけが脳裏に刻まれていた。




 ――――同じ感情を持つ者同士であれば《十三の紫》の力は継承できる。どんな行動でもいい。鍵となる行動を決め、実行することで能力は離れる。


 力への対価。怪物へ身を窶す現象は祝福を与える存在と同じ空間にいない限り影響はなく、継承の際も別空間で行われることで外部の影響を受けない。


 すなわち、隔絶された空間において《十三の紫》の力を持つ者を死亡させることで紫紺の光は完全に消滅する。




 ……与えられた情報はそこで終わりだった。ソラから、《十三の紫》の力を引き剥がす方法だけだった。


「カノン・クロムウェルを破壊する方法は――ッ!?」


 背筋に悪寒が走った。ソラは声を荒らげ咄嗟に振り返ったが。館長の姿はおろか、図書館の書架も暖かな薄明りも見当たらない。


 深夜の先の見えない暗闇が広がっていた。荒涼としたビル群の影がぼんやりと視界に映る。


「別の空間に行く方法ならある。ソラ、キミが最初にいた場所だ。【隔絶空間キューブ】を借りに行く」


「…………それが、唯一の方法なんだね」


 抑揚を押し殺した呟きが夜の闇に溶けた。


 《十三の紫》の力だけでは太刀打ちできない。レイルの性能では上位互換に太刀打ちできない。だから、力を直接的に合わせる。理解はできたが、胸にぽっかりと穴が開いた想いだった。


 ――ようやく、本当に隣に立てた気がしたのに。


「行こっか。終わらせるって、やれることはやるって言ったの。私だもん」


 それでもソラは必死になって笑顔を装った。振り絞った空元気では隠せない瞳の蛍光が不安定に揺れていた。


「……待て。誰かが来る。警戒しろ」


 瞬時に煌めく青い光刃。


「その人たちは大丈夫だよ。気配の色、見えてるけど。敵意じゃない」


 伸ばした腕の先も見えない闇の中、漠然と視界に映し出される気配の色が急速に至近する。全て見覚えのある色だった。


「ようやく出てきやがったか。黒機様に白の十三番よぉ。くたばってたら面白かったのによ」


 粗暴な声。獣の息遣い。待ちかねていたとばかりに、黒い影の中から襲狼者達とヴェディルが姿を見せた。ミオフィル、アレウスも一緒だった。


「報酬、貰って。帰っちゃったと思ったのに」


 怪訝と安堵の混じった言葉をアレウスは鼻で笑い返した。


「仕事だ。ド・マリニー時空管理会社まで貴様らを護衛すればさらに金が貰えるんでな。ついでに臨時雇用枠として企業の保護と支援金の確約。空間技術装備の支給に定期的な予知の無償――」


「……とやかく言ってるけど受けなくてもいい仕事を引き受けただけだよ」


 したり顔を浮かべ専門用語を捲くし立てるアレウスの横で、ミオフィルは告げ口するようにソラの耳元で囁いた。


「たわけめ。余計なことを口にするな。生憎お喋りの時間はない。図書館を出た以上、敵は戦力を躊躇わんぞ。黒機、それに乗れ。ヴェディルを殺しかけた愛機だろう?」


 球体車輪の二輪車が瓦礫に寄り添い停車していた。レイルは便利屋達に一切の言葉を交わさないまま、ソラの手を引いて運転席に跨った。金属の手がハンドルを握り締める。


「……奴らの言っていることは事実だ。上空で駆動音が聞こえた。かなり速度を出すぞ。ソラ――」


「分かってる。振り落とされないようにする。信じて」


 空元気ではなくなった笑み。耳が寒さと熱で赤く染まる。ソラはぎゅっと、レイルの機体にしがみ付いた。


「……めちゃくちゃ冷たい」


「我慢しろ」


 バイクの灯りが正面を照らし出す。瓦礫に埋もれた道路へ。ペダルを踏み上げ、アクセルを強く捻った。激しい排気音が轟いていく。

 これで三章は終わりです。もうラストパートが近いですね。もしよろしければブックマークや評価p、レビューなどは糧になるので応援してくれると嬉しいです。

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