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終末世界の便利屋 ~復讐を誓いし少女は憎き機械の手を握る~  作者: 終乃スェーシャ(N号)
 三章:《十三の紫》と旧ミスカ大学地下図書館
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片隅

 ――門の中、得体の知れない紫紺の光輝に呑まれる感覚は数瞬だった。


 視界はすぐに開けた。紫光が消える。


 褐色混じりの曇天の灰空。日は傾いてきていた。暮れ時の薄暗さが広がりつつある。錆びついたような、埃っぽいような、冷たい空気がソラの頬に触れた。


 周囲を見据える。摩天楼の残骸こそあったが、建物として残っているものは僅かだった。赤錆びた地面に点々と聳え立っていた。


「随分と移動させられたものだな。だが完璧な転送技術だ。異界道具なしで正規的な転送をできるほうが珍しいはずだが」


「完璧ではないさ。同胞の元にしか行けないし、一瞬に思えても時間はそれなりに経過してる。大量の力も使う。付いてきて。教会まで微妙に位置がズレたから」


 男はひび割れた道路を歩き始めた。バラック群は見当たらない。地上に人の気配は無い。廃墟の荒野はある場所を境にして途切れ、崖のようになっていた。


「…………不思議な場所」


 荒涼と風が吹き付ける。瓦礫を踏み締めて、ソラは惹かれるように眼下を覗いた。数百メートルはある絶壁。途方もなく広がる荒野。枯れ木の森。低い廃墟群。今までいた場所とは何か違っていた。


「……凄い」


 思わず目が見開いた。何も知らない双眸が退廃し、傷だらけの大地を一望し、驚嘆の声を零す。


「ここは都市の端っこなんだ。だから人はほとんどいない。崖から先は都市じゃなくて、下町って呼ばれてる。ずっと昔から。なんでこんな風に分断されたかは誰も知らないけどねぇ」


 《十三の紫》の男も感慨深そうに崖を見下ろして、ソラへと歩み寄っていく。レイルはすぐに割って入った。【肉の剣】の柄を強く握る。


「そんな警戒しなくても彼女を傷つけたりはしないとも。大切な仲間なんだからさぁ」


「貴様は信用にならない」


「酷いなぁ。貴様だなんて。僕にはエフィアって名前があるんだ。呼んでくれてもいいじゃないか。エフィア……エフィア、エフィア……ぁぁ、エフィアぁ……ってさぁ」


 男は名乗ると同時、恍惚として体をくねらせる。明滅する紫の光。おどけた態度を取りながらも一切の隙はなく、一撃を見舞う機会はなかった。


『ギャアアア! 気持ち悪いぜこいつ! ネチョネチョした喋り方しやがってッ! なーにレイルに色目使ってんだよ! てめえはこいつの趣味じゃねえ!』


「どっちも黙れ。耳障りだ」


「冗談だとも。ユーモアと笑顔がない人から早死にしちゃうんだよ? キミにはさぁ、白の十三番のためにも長生きしてほしいなぁ……。ほら、教会まで案内するよ。ついておいで。リーミニもそこにいるから」


 エフィアは満面の笑みを浮かべたまま歩き出したが、ソラはずっと崖の下を、眼下に広がる赤い荒野と灰色の雲を眺めていた。


「……気に入ったのか?」


「広いなぁって。私が見てた偽物の景色より空は汚いし、どこも壊れてて、死にかけてるけど。最初のときより嫌いって思えなくなった。……気に入ったかどうかは……。うん、気に入ったのかも。好きなのかもしれない。銀色の雲だって、悪くはないと思うんだ? レイルは?」


「考えたことがない。だが、この灰色の空を綺麗だとは――」


「なら、考えといてね? 知りたいから」


 違和感もなくレイルの手を握る。無骨で冷たい手にこびりついた血は、もう乾きかけていた。


「怖くはないのか?」


「こわいよ。でも、怖いレイルが私のことを守ってくれてる。だからもう、怖がらない。さっきはちょっと……驚いちゃったけど」


「違う。俺のことじゃない。ソラ、キミのことだ。奴らは力に掛けられた安全装置を解こうとしているんだ。得体の知れない力だ。何が起こるか分からない。それでもいいのか? 正直な話、俺は……怖いと思っている」


「……」


 表情のない顔がソラを見詰めていた。沈黙すると、風音だけが遠くまで響いていた。


「私は――何もできないまま利用されたくない。レイルにだけ苦痛を負わせたくない。できることもしないまま後悔もしたくない。最初にも言ったけど、私は納得したいの。どんなことがあったとしてもだから怖くても、無力なままは嫌」


「…………確かに。力が無ければ俺を殺すこともできないな」


 抑揚のない声。それが冗談なのか本気なのか、ソラには断言できなかったが。なんとなく、……照れ隠しのようにも思えてしまうと、さっきまでの自分の言動まで途端に恥ずかしくなった。


「……ん、そう。だから力がいるの」


 とっくに心にもないことを口走って、レイルの手を引いた。顔を向けられなかった。ただ前を向いて、大股に歩き進んだ。

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