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終末世界の便利屋 ~復讐を誓いし少女は憎き機械の手を握る~  作者: 終乃スェーシャ(N号)
二章:ラインフォード商会とフェンリル人体工房
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依頼

 踵を返してレイルが下に降りていく。ソラは棒立ちになって【紫紺の涙】を凝視したが、妥協するように腰のベルトに引っ掛けた。


 後を追って梯子を下りた。リーダーは爽やかな笑みを浮かべてソラに駆け寄る。


「いい物貰えたんだな。よかったじゃねえか。ラビットサイトって高いんだぜ? スラムにいるだけじゃあ一生買えねえ。まぁ? レイルの兄貴がお前に殺されるなんて可能性はあり得ねえですがなぁ!?」


「あんたは何か貰ったことあるの?」


「ああ、そんな科学製品じゃねえぜ。オレはな。異界道具を一個貰ったんだ。けど奥の手だからな。絶対見せねえけど」


 誇らしげに緋色の瞳がきらめくのを見てソラは咄嗟に【紫紺の涙】と【色彩音】を手で隠した。思わず表情が濁る。少しばかり優越感が込み上げてぶんぶんと顔を横に振った。考えないようにした。


「レイル……自警団の……たばこ臭い怖いおんなのひと、が。仕事――名指しで。便利屋の。企業からの、だから……拒否できないって」


 朝に弱いらしい。リーミニは昨日以上に無気力で寝ぼけた眼をぐしぐしと拭う。翡翠の髪は寝ぐせでひどく乱れていた。


「急ぎの案件か?」


「……うん。フェンリル人体工房から……【黒機の死神】に。瓦礫通り中央クレーターに向かえって」


「俺は――【死神】ではないんだがな」


 憤るようにレイルは俯く。握りしめた黒機の拳から弾けるように蒼電が迸る。


「急ぎの用ならすぐに行こう? そのためにあんたからもらったこの鬱陶しい機械も身に着けてるの」


『訂正を要求します。うっとうしいではなく。頼りになる。格好いい。可愛いと言うべきです』


 ソラが側頭部の機械を撫でると骨を震わせて音が響く。ラビットサイトが発した女性の合成音だ。


「はぁ? どういうことだよレイルの兄貴! なんでこいつまるで……兄貴の仕事に同行するみたいな口ぶりなんだよ」


「口ぶり……じゃなくて。私はこいつについていくことにしたの。仕事で殺したのは理解した。でも目的も何も知らないままこの野郎を殺す殺すって思いながらただ待つつもりはないの。私は私のためにこいつを見定める」


「……一日だけでも分析できることがある。彼女は精神的に頑強な分強情で頑固で無謀だ。断れば彼女は一人で追うだろう。そして殺される」


 レイルの言い草にも物怖じせず、ソラは自嘲を含んだ笑みを浮かべた。引っ張るように服の裾を掴む。


「そ、それに新入りの餞別のためにオレわざわざ一番高い缶詰買ったんだぞ!」


 スタスタとリーダーに歩み寄って、彼が持っていた缶詰を流れるようにぶん盗った。壁に吊るされていたナイフで勢いのままに蓋をこじ開けて、『完全食ステーキ味』と書かれた得体のしれないグミを全部口に放り込み、咀嚼。


「……こいつ、一気食いしやがった!」


「んむ……。思ってたよりジューシーだったし美味しかった。ありがとね。これお礼。パパが……殺される前に渡してくれた缶詰。あげる。そんなのより全然美味しいから。味を知ってくれる人が増えるなら嬉しいかな」


 ソラは持っていた缶詰を投げ渡した。リーダーとリーミニがラベルを二度見して目を見開く。


「こ、これ……! スラムじゃ出回らない……やつじゃ!」


「ソラ……いいの? これ、きっと……大切なもの」


 リーミニが不安がるように見上げる。レイルもだんまりではあったが怪訝そうにソラを注視していた。


「お礼……って言えばいいの? その、私はレイルのこと良く思ってないのに。それに関係なく優しくしてくれたし。……友達みたいで、悪くはなかったし。……リーダーも。私のためにいいものくれたみたいだし」


 恥ずかしくなって顔を反らしたがリーミニに手を握り締められた。少女は無感情そうな顔でソラを見上げ、見つめる。


「…………ありがと」


「改めて言わないでよそういうの。私はたぶん……すぐに顔に出るから。あんまり言葉でいろいろ言ったり言われるの苦手なの」


「でも、言わないと……つたわらない。わからない」


「ん……」


「……帰ってきてね。レイルも。二人で」


 プレッシャーとも違う。逡巡のようなものがソラのなかに圧し掛かる。


「……言うこと聞けるかわからないけど。まぁ受け取っておく」


「心配する必要はない。少なくともキミに殺されることは間違ってもない。それよりも仕事の場所へ急ごう。ノロノロしてると自警団にドヤされる」


 レイルとソラは部屋を後にした。錆びついた扉を開けると鼻につくカビ臭さが漂う。むわりとした静寂のなかを水が滴る音だけが反響していた。


 ◆ ◆ ◆ ◆ ◆


【色彩音】

 大きさ:手のひらに収まる程度。

 重量:32g

 八分音符の形状を模した黒色の異界道具です。衣服に取り付けることで効力を発動しますが、ピアスとして用いることでより繊細な効力を体感することができます。ゴムのような弾性を持ち、つねに一定の熱を持った状態で脈打っています。

 【色彩音】の適正条件は音に対する共感覚を持つこと。絶対音感を持つことのいずれか1つが前提であるとされていますがそれ以外の適正条件は不明です。ただし、適正がない人物が【色彩音】の効力を得ようとするとつねに耳を劈くようなノイズに苛まれます。

 ひどい場合は耳から原因不明の出血を起こし死亡します。

 【色彩音】は物や生物が持つ音を色として見る能力があります。色の波長が大きく、激しいほど所有者に対して攻撃性・危険性を帯びています。意識の向いている方向・心音などを見ることができます。

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