弔花 ♯終
「……そうか」
ベッドに横たわったままのゴライアスが、無感情に呟いた。いや、無感情に見えるだけで、胸中にはさまざまな感情が渦巻いている事だろう。だが、彼がそれを表に出す事はなかった。
「悪かったな、疑って。ありがとよ」
ゴライアスは小さな声で礼を言った。それきり黙り込み、何も言わなくなった。
◆
「アラタだったか」
依頼主だったボルスは残念そうに呟いた。隣のボディガード、チルゥも、目を伏せている。
「……何にせよ、辛い役目を押し付けて悪かったな。報酬だ、受け取れ」
現金が入ったカードを渡しながら、ボルスは溜息を吐く。依頼が解決したとはいえ、部下が死んだのだ。手放しで喜べるハズもない状況だった。
◆
「……分かった」
ミネーは、アラタが使っていた携帯を受け取りながら頷いた。この携帯からやり取りのデータを復元すれば、大きな手掛かりになるだろう。
「まあ、お前もお疲れさん。貸しが出来たな、困ったらいつでもGUFを頼ると良い。ミネーの関係者だって言えば通るぞ、ははは」
彼女は豪快に笑っていたが、やがて笑みを顔から消し、ぽんぽんと肩を叩いた。
「……本当に、お疲れさん」
◆
その日は、雨が降っていた。
アラタの葬式は、とても少ない人数で行われた。身寄りもなく、おのれを偽って生きてきた男には、繋がりが少ないのだ。
花を供える番になったショウが、立ち上がった。その前に花を供え終えていたゴライアスは、ショウとは目を合わせず、自分の席に座る。
ショウは棺の前まで歩いて行き、花を置いた。その時、彼は棺の隣に置いてある弔花を見た。沢山の花が、命を謳歌するかの如く咲き誇っている。
自分もこんな風に死ねるだろうか。ショウは、不意に懐の拳銃の重みが増したように感じ、苦笑いした。そしてまた、無表情になった。