人類を滅ぼすシミュレーションゲーム
ざぁざぁと雨の降る夜だった。
俺がゲームアプリケーションを起動すると、軽快な音楽と共にゲームのオープニングが流れ始めた。
最近新しく発売されたゲームで、インターネットでも話題の作品、そのタイトルは「人類を滅ぼそう!」である。
このゲームには、小さなカラー用紙が同梱されていて、そこには簡単な遊び方が書いてあった。
◇◇◇
・プレイヤーが考えた現象や出来事を一つ、このゲームに入力する事ができます。
・人類が全滅すればゲームクリアです。最高のシミュレートAIにより、人類の行く末をリアルに楽しむ事ができます。
◇◇◇
人類が滅びそうな出来事といえば、やはり核戦争だろう。
俺はゲームで核戦争が起こるように設定し、ゲームを遊び始めた。
「全世界を巻き込んだ核戦争が始まれ」
ゲームの中で、俺の思惑通りに核戦争が始まった。ゲームでは、刺激的な光とミサイルの音が再現され、囂々と鳴り響いていた。俺はしばらくその様子を楽しみながら、ゲームの結果を確認した。
地球の大陸のいくつかが吹き飛び、不毛の大地から白煙が上がっている。俺は、人類が全滅したと思った。しかし、地下に隠れていた数百人の人間が生き残っていた。生き残った人類は、地下に都市を作ってそのまま立て直してしまった。
ゲームオーバーの文字が画面に映し出された。失敗だ。
俺は、ゲームのデータを作り直して、もう一度このゲームを遊びなおした。
今度は、伝染病で滅ぼす作戦にしてみよう。人間がすぐ死ぬようなウイルスで、感染力もとても強いものだ。このウイルスで人類を滅ぼしてやるぞ。
俺はゲームに、ウイルスとその伝染病の特性を入力して、シミュレーションを開始する。
「最強の殺人ウイルスが突然発生して、それを人類に感染させろ」
かくして、北の大陸でウイルスが発生し伝染病が流行した。その感染力と殺傷能力は凄まじかったが、伝染病はすぐに収束してしまった。ウイルスに感染して症状が出ると間違いなく死亡するのだが、殺傷能力が強すぎて感染者がすぐ死んでしまい、広範囲に伝染しなかった。北の大陸の人類は全滅したが、他の大陸は無事だった。
俺はこの反省を生かして、ウイルスが人を殺すまで一週間ぐらいかかるように設定してみた。
今度も上手くいかなかった。全世界にウイルスは運ばれたのはいいのだが、感染者が死ぬまでに時間がかかりすぎたせいで、ワクチンが開発されてしまった。人類の総人口は半分以下になったが、すぐに何事もなかったかのように人類は活動を再開していた。
難しいが面白いゲームだな、俺はそう思いながら、次の手立てを考える。いっその事、宇宙人に人間を攻めさせてみよう。人類より進んだ文明と武器を持った宇宙人だ。これなら、人類を滅ぼしてくれるだろう。
「最新最強の兵器を持った宇宙人が、地球に攻めこめ!」
ゲーム画面の中で、タコ型の宇宙人が地球に攻め入った。とてつもなくデカイ宇宙船やロボットと共に宇宙人が攻め入ってくる。人類は核兵器をぶっ放したけど、文明の進んでいる宇宙人の兵器にはまったく効果がなかった。いよいよ人類は宇宙人に降伏して停戦を申し入れるが、宇宙人は了承しなかった。ついに宇宙人が地上に降り立って、人類を掃討しようと白兵戦を開始した時、異変が起こった。
宇宙人が苦しみだして、バタバタと倒れ始めたのだ。地球のウイルスや細菌に耐性を持たなかった宇宙人は、環境の違いに耐え切れず、次々と死んでしまった。またもや人類は生き残った。
いい所まで行ったのになぁ、俺はそう思いながら、次の作戦を考え直す。ここまで来たら何が何でも人類を滅ぼしてやりたくなるのが人情というものである。いっその事、地球を爆発させてみよう。
「地球に隕石がぶつかって、地球は爆発しろ!」
地球が木っ端微塵に爆発して、宇宙空間を星の欠片がキラキラと流れていった。これなら、人類はもうどうにもならないだろう。攻略を確信したその時、ゲームオーバーの文字が躍った。
宇宙探査のために宇宙船で滞在していた宇宙飛行士が、数人生き残っていた。そのまま宇宙船を使って火星に降り立ち、人間が暮らせる環境を整えてしまった。人類は新たな故郷として火星を選んでいた。
――このゲーム、どうやったら攻略できるんだ!
俺はとうとう攻略できない苛立ちを感じ、インターネットで攻略情報を探し回ってみた。インターネット上で、色々と議論されているようだが、どの方法も人類を滅ぼせないようだ。一番惜しかったのは「天変地異が起きて氷河期になる」だったようだが、これも人類は地下に難を逃れていた。
人類とは、こんなにも強いのか、俺は舌を巻いた。
俺は思いつく限りの事を、ゲームで試してみたが、人類を滅ぼすことはできなかった。だからこそ俺はこのゲームに熱中していて、ゲームをしない日も、どうやって人類を滅ぼそうか考えていた。
燦燦と晴れ渡った日、俺は部屋に籠りゲームを続けていた。次こそはと、頭の中で策略を張り巡らせていた。
そんな時、母から一本の電話が掛かってきた。父が倒れたらしく、すぐに病院に来てくれというものだ。俺はすぐさま家を飛び出し、病院へ向かった。幸いにも父は大事に至らず、快調に向かっていた。
俺は、父の元気そうな顔を確認してホッとした気持ちになったので、そのまま家に戻った。
帰宅した俺は、ゲームを起動させたまま、しばらく出かけてしまった事に気が付いた。
しまったなぁ、そう思って部屋のドアの前まで来ると、豪華なファンファーレが聞こえてきた。
俺は部屋に入って、ゲームを確認する。
「人類は滅びました。Congratulations!」
(了)
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