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5-6 招待をうけようと思います

 

 目が覚めると、そこは王宮内医務局のベットの上だった。

 ここに来るのは2回目だ。

 4年前、アイン殿下の暴走を止めた時に一度ここに運ばれている。

 あの時は、サイドボードの上に師匠からのメッセージカードが置いてあったが、残念ながら今回は見当たらない。だが、変わりと言っては何だが――


「よぅ、気がついたみたいだな」

「おはようヴァイン」


 ヴァイン=オルストイが気だるそうな顔をしながら、私の腕を握っていた。


「ずっと、オドを流してくれてたの?」

「まぁな。こんなのでも少しは楽になるだろ」

「うん、ありがとう……うっ!」


 まったくかなわないな。私は彼に礼をいいながら、身体を起そうとするが途中、痛みで強張ってしまう。

 見ると私の胴には包帯が何重にも巻かれており、仄かに薬草の匂いがした。


「あんま無理するなよ。内臓は大丈夫だったみたいだが、アバラが折れてるらしい。まぁ、内出血と頭の出血は止めておいたが、骨は流石に無理だからな」


 そう言われて頭に手をあてると、胴と同じように包帯が巻かれていた。

 決勝戦、ドライの一撃を受けて吹き飛ばされた私は、その時点でかなりのダメージを受けていた。その上で、最後のあの打ち合いだ。

 この程度の傷ですんだのは、運がよかった事もあるだろうが、それ以上にヴァインが居てくれた事が大きいだろう。彼にはかなり迷惑をかけたみたいだ。


「ありがとう、ヴァイン。貴方がいてくれて本当に良かった」

「お、おぅ。まぁウォルターさんにもお前の事を頼まれてたからな。しかた無しだ」


 ヴァインは私から視線を逸らし、そう答える。

 照れているのだろうか? ヴァインは私が褒めたりすると、こうして視線を逸らし気のない返事をする癖があった。まだ少年だし、褒められ慣れていないのかもしれない。そんな彼の子供じみた態度がなんだ微笑ましく思えていた。


「な、何笑ってんだよ!」

「え、ヴァインはやっぱりヴァインだなって思って」


 彼と出会って4年が過ぎていたが、彼のこの癖は変わる事が無かったし、それに前後した彼の態度もずっと同じである事に、私は余計に安心してしまっていた。


「まぁいいや。そういや、お前を見舞いに来た奴がいたぞ」

「え?」


 リズだろうか? 決勝戦で私は頭をうち朦朧としていたが、観客席の中に不安げな顔で私を見つめていた黒髪の少女の姿はちゃんと覚えている。ドライが出る試合だ。もちろん、いておかしいものではないだろう。だが――


(まるでゲームの剣術大会のようだな)


 あの時私はそう思っていた。

 もちろんドライの相手が私では、ゲームよりも幾分魅力に欠けてはいただろう。

 だが互いの剣をぶつけ合い、戦いの最中、ヒロインが攻略対象者を呼ぶ声が響くという点はおいて、ゲームのあのイベントと同じだったのではないだろうか?


(まぁ、ドライじゃなくて私の名前だったけど)


 それが嬉しくついついにやけ顔のなってしまう。


「変な顔してるけど、残念ながらお前の親友じゃなくて、来たのはドライだけどな」

「え?」


 なんでドライが?


『まるで児戯だな』


 私の剣をそう評した彼が、なぜ私の所になんて来るんだ?


「不思議そうな顔してんな。あれでもあいつは騎士を目指してるまっすぐな奴だからな。お前の剣を侮辱した事を謝りたかったみたいだぞ」

「彼が?」

「あぁ、特に最後の連撃から、相手の攻撃を飛んで躱してからのジャンプ斬りはあいつも高く評価していた。『女というだけで、力や技が男に劣ると決め付けていた事を恥じる』だそうだ」


 あぁ、実際あの時は風魔術で剣の威力を底上げしていたのだが、それは今は言わないほうがいいだろう。


「もちろん、お前が魔術でブーストしてた事は、分かる奴には分かってたからな」

「あうぅ」


 ヴァインはニヤニヤした顔で私の顔を覗き込んでくる。彼のこういうところは大嫌いだ。


「まぁ、魔術の使用が禁止って事は大会のルールに記載はされてなかったからな。お前が倒れた後、結構上で揉めてたらしいぜ。揉めた所で、そんなの意味ねぇ事だけどな」

「え、そうなの?」

「だって、お前程度に魔術が使える奴は、剣術大会になんて出ねぇだろ?」


 ああ、なるほど。ヴァインに言われ納得してしまう。確かに剣の修練に積むような人間が、魔術も同時に修練するなんて事はあまり聞かない話だ。


「そっか」

「おかげでお前がやった事に関して、親父達はまた頭を抱える事になるだろうけどな」


 そう言ってヴァインはケラケラと笑い出す。実際にヴァインは、後日ヴァイス様のところに今回私が使った魔術に関して、報告を上げるように指示を受けているらしい。私はいつまでも笑い続ける彼に、枕を投げつける。


「おぃやめろって!」

「うるさい!」

「思ったより、元気そうだな」


 私達が争っていると、鎧姿の男性が声をかけてきた。その途端、ヴァインはまるで幽霊でも見たかのように顔を凍りつかせる。


「アゼルのおっさん!」

「おっさんって言うな! 相変わらず口が悪いな貴様は。まったく昔のあいつにそっくりだ」


 ヴァインの頭をごつんと殴り、アゼル様は私に向き直り口を開かれる。


「見事な試合だった、ヴァージニア=マリノ嬢。その小さい身体でまこと見事な立ち回りだった。何よりドライにいれた一撃。私も年甲斐もなく興奮してしまったよ」

「王国騎士団長殿にそう言っていただけるなんて感激です!」


 王国最強の剣の一族であるオーガスト家の当主にして、王国騎士団長アゼル=オーガスト。その彼が私を褒めてくれたのだ、嬉しくないはずがない。


「君の剣はウォルターが教えたのかね?」

「はい、そうですが。王国騎士団長殿は叔父をご存知なのですか?」

「アゼルでいい。そうだな、君の御父君であるマリノ卿とウォルターの二人は学院時代、私の後輩でね。とはいえ、学年は大きくかけ離れていたがね」


 ゲーム【ピュラブレア】ではなかった設定だ。まぁ、御父様とアゼル様の年齢を考えれば十分にありうる。


「私やヴァイスが学院の高等部にいたころ、初等部に剣の申し子と魔導の申し子が現れたと噂になってね。魔導の方は分かるだろ?」

「師しょ……フィルツ=オルストイ様ですね」

「あぁ、そうだ。君の魔導学の師匠フィルツ=オルストイだ。そして剣は君の御父君マリノ卿とその従兄弟ウォルター=マリノの事だった」


 師匠が当時から有名だった事は聞いていたが、御父様やウォルター叔父様がそれほど学園内で有名だった事は知らなかった。西方守護伯としての武はあくまでベイルファースト領軍としてのものだと思い込んでいたのだ。

 何より、御父様やウォルター叔父様はゲーム【ピュラブレア】において、特別なキャラとして登場していなかったはず。戦闘フェーズでも、あくまで領軍指揮官としてのステータス表記しかされていなかったのを覚えている。


(意外に知らない事が多いな)


 ゲームの知識があっても、実際のこの世界では、ゲームでは明記されていなかったような事が多々ある点に気づかされる。未来を掴むためにはゲームの知識だけではなく、実際のこの世界の事を知っていかなくてはならないだろう。


「まぁ、昔話は次の機会にしよう。私が君に声をかけたのは、今回の君の健闘を称え、是非とも我が家に招待したいと思ってね」


 アゼル様の意外な申し出に私は呆然としていた。なぜ、王国騎士団長自らが彼の家に私なんかを招待してくれるのだ? 隣で未だ、頭をさするヴァインに視線を送る。ヴァインはそれに気がつき、ゆっくりとうなずきかえしてみせる。その表情と仕草は()()()という意味だろう。


「分かりました。是非ともご招待を受けたく存じます」

「そうかそうか。まぁ今日はもう遅いし、マリノ卿も心配されるだろう。後日、うちの者をそちらに向かわせるとしよう」


 アゼル様はそうおっしゃりながら、私に手を差し伸べられる。その手をおずおずと取り彼の手を握りしめる。そんな私にアゼル様は強く握り返してこられる。


「では、また会おう。ヴァージニア=マリノ嬢。あぁヴァイン、貴様もついでだから来るといい。飯ぐらい出してやろう」

「へいへい」


 アゼル様がそうおっしゃられ、医務局を後にされた。彼の姿が見えなくなるまでヴァインはずっとふてくされたままだった。


「そんなに苦手なの?」

「苦手ってか、あのおっさんにとって、俺は今でもあの頃の悪ガキのままだから。俺はもう昔とは違うってのによ」


 そんな事で膨れていたのか。

 ヴァインは今の彼自身の姿をアゼル様に認めてもらいたいのだろう。そんな事、気にする必要なんて無いと思うのだが。


「ヴァインが変わったってのは、アゼル様にすぐ伝わると思うよ」

「べ、別にそんな事気にしてねぇし!」


 まぁ、アゼル様ならヴァインが以前の彼では無い事なんて、すでに気づいていらっしゃるかもしれないが……。


「たく、お前といると、余計な事にばかり巻き込まれちまう」

「はいはい、どうもすいませんね。でも本当は嬉しいくせに」

「な、お前、その態度!」

「あははは」


 その後、お見舞いに来て下さった御父様とウォルター叔父様にアゼル様の件を告げると、二人は何故か頭を抱えしゃがみこんでしまっていた。

 


オーガストの家への招待、決勝戦で戦った彼と再び合間見える事に、私はほんの少しだけ高揚していた。

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