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4-5 訓練をしてみようと思います

 

 晴れ渡る空の下、ベイルファースト領軍野戦訓練1日目が開始された。


 訓練初日という事もあり、ウォルターは各部隊間の連帯行動演習にその重きを置いた。

 特に歩兵間の連絡要員でもある竜騎兵と、範囲魔術による支援援護も行う魔導歩兵の実働訓練は、通常の訓練内容では十二分に詰める事は難しく、2日目以降に用意され部隊間での模擬戦闘を進める前に、どうしても実施しておく必要があった。


「師匠、私達はどうするんですか?」


 私と師匠は、今回の野戦訓練でゲストとしての参加が認められている。

 だがその詳細を私はまだ聞いていなかった。


 今回の野戦訓練で、私が特に気になっているのは、歩兵としての能力と魔術師としての能力を有する魔導歩兵の存在である。というのも、私はあの王都の一見以来、魔術師の継続戦闘能力に関して疑問に思う所があった。実際に内在オドが切れかけた時、私は耐え難い虚脱感に、危うく意識を失いそうになっていた。内在オドの不足状態は、それほどまでに体に負荷を強いるものであった。そのような状態で、魔術師達は継続して戦闘を行うことができるのだろうか? 私はそれを知っておきたかった。


「ジニー。()()()参加するのは魔導歩兵の演習内容になる。かなりハードなものになるから覚悟しておけ」

「やはり、厳しい内容なんですね」

「あぁ、魔導歩兵の特質は、魔術を使用しながらの継続戦闘に尽きる。今回の訓練もこの点を徹底して行うこれは俺達魔術師にも十分意味のある内容だろう。特にお前にはこれまで魔術師として、如何(いか)に魔導を効率的に用いるかをのみ重点的に教えてきた。まぁそのせいで、実践での魔術使用に関しては、まだまだ問題が山済みだ。今回の演習は、そんなお前に何かを掴むきっかけになるだろうさ。まぁ、気合をいれて頑張れ!」


 師匠はにやりを笑いそう言うと、私の背中を強く叩いた。

 そんな師匠に私はちょっとムッとする。

 師匠と私の間にはどれほどの差があるのだろう。

 きっと、師匠にとっては私はまだまだ半人前以下の魔術師にすぎない。

 そう思うと悔しい気持ちで一杯になる。


 だが、確かに師匠の言うとおり、これまで私は、継続戦闘に関して一切考えずに魔導を行ってきた。

 ここから先に進むには師匠の言うとおり、今回の演習で何かをつかむ必要があるのだろう。


「はい、師匠、頑張ります!」

「おう、いい返事だ」


 少しでも師匠に追いつきたい。

 私はそう決意を強くする。


「さて、言ってなかったが、今回の訓練にはこいつも一緒に参加する。おぃ、ヴァイン!はやくこっちに来い!」


(あぁ、そんな気はしていた)


 重い足を引きずるかのようやって来る彼をじっと睨みつけながら、私の中で先程までのやる気が、急速に失せていくのを感じる。

 私の中でまだ、昨日の事は全然終わってないのだ!

 なのに彼は私を睨み、逆に言い放った。


「フィルツ! こいつなんかと一緒は嫌だ!」


 はぁ? 何を言って下さってますか、このお子様は。

 舐めているんですか?

 私は切れそうな気持ちを必死で抑える。

 師匠がいなければ、今すぐにでも昨日の続きを初めていただろう。


「おぃ、ジニー、その手に持ってる石をこっちに渡せ。全く、洒落になってねぇぞ、お前。ヴァインお前もだ! ったく、俺は子守じゃねぇんだぞ」


 危ない、ぜんぜん抑えきれて無かった……。

 師匠は私の手から石を奪うと、ヴァインを引っ張り、私の目の前に連れて来る。


「いいか、ヴァイン。これから4日間、俺を呼び捨てにするな。この3日間は俺がお前の師匠だ。いいな?」

「なっ!?」


 ざまぁみろだ。

 私は嫌そうな顔で師匠を睨みつけている彼に、心の底から祝福してやりたい気持ちで一杯になった。


「お前もだ、ジニー。まったく、今日はおかしいぞ、お前。いいか? こいつは言ってみればお前の兄弟弟子だ。仲良くしろとまでは言わないが、殴り合いとかはやめろ。いいな?」

「はい……」


 師匠に言われるなら仕方がない。しぶしぶそれを承諾した。


「よろしく、ヴァイン」


 私は寛大な心を必死に呼び起こし、彼に握手をしようと手を差し出す。


「なんで、呼び捨てなんだよ」

「え? 何言ってるの。私が兄弟子だからに決まってるでしょ?」


 何を言っているんだろう彼は。ほんと理解できない。

 ()()に従うのはしごく当然の事ではないか。


 まぁ、そんなでも彼は一応、私の()弟子。

 ()弟子たる者、寛大な心で愚かな弟の愚考を許してあげるべきではなんだろうか!


「おまっ、そこはせめて姉弟子だろ?!」

「お前じゃない、ジニー()()って呼びなさい! いい? 弟弟子の分際で兄弟子に逆らうのはだめ! わかった?」

「わ、わかったよ。ジニー先輩」


 あらやだ、素直じゃない。私の握り拳が気になって、つい言ってしまったなんて事はないよね?

 私は先程までのむかむか思いが消えた気がして、ついつい笑顔になっていた。


「わかればいいのよ。さ、行くわよヴァイス!」

「お、おぅ。わかったよ」


 私はヴァインの手を引いて、歩き出す。


「!!」

「何? ほらいくわよ?」


 ヴァインは緊張した面持ちで、私から目をそらそうとする。

 何を緊張しているだろう。そんなに野戦訓練が怖いのだろうか。

 私は首をかしげながら、すたすたと先に進んだ。


「……なんだよ、こいつ……調子狂うなぁ」

「ん、何?」

「な、なんでもねーよ!」


 ヴァインはぶっきらぼうにそう放つ。

 ほんとよくわからない子だな。


「……ったく、仲が良いんだか悪いんだか」


 師匠が呆れ顔で、そう呟くのが聞こえた気がした。



 □□□


 魔導歩兵の訓練を行うにあたり、私達には1人の男性が付いてくれる事となった。


「カルロ=ラーバヘインだ。領軍第5軍の副隊長をしている。今日はよろしく頼むよ、2人とも」


 カルロさんは人懐っこい笑顔でそういった。


「よろしくお願いします。ヴァージニア=マリノです。ジニーって呼んで下さい」

「ヴァイン=オルストイだ。よろしく」

「あぁ、よろしく。ジニーさん、ヴァインくん。確認だけど、二人とも水の魔術は使えるかな? 今回はそれを使用した訓練になるから」


 水魔術はヴァインも私も得意とする魔術である。

 ゲーム【ピュラブレア】ではヴァインは広範囲に水の領域を魔術で生み出して敵の行動を抑制したり、斜面を水魔術を用いて崩落させるなど、普通の魔術師には困難な広域水魔術さえ実践で用いている。


「私もヴァインも大丈夫です」

「できます」


 カルロさんはうなずいた後、私達に腕章をつけてくれた。


「君達には軍服が無いからね、これがその代わりだ。今日1日は俺達、魔導歩兵の一員としてがんばってもらいたい」


「「了解しました!」」


「カルロ。んじゃ頼むわ」

「あれ、フィルツは参加しないのかい?」


 師匠は苦笑をし、私達を指差した。

「好き好んで、そんな疲れる事したいって奴がいると思うか? そういうのは若い奴がやればいいんだよ。」

「お前、相変わらずだなぁ。わかった。じゃぁ、今日1日2人は預かるよ」

「あぁ、頼むわ。ジニー、ヴァイン。夕方には向かえに来る。それまでカルロについてせいぜい励めよ。」


 師匠はそういって野戦施設のほうへと去っていった。


「おぃ、フィルツこねーのかよ!」


 あぁ、うん。

 今だけは同じ気持ちだよヴァイン。

 師匠がまさか私達をおいて、そのまま野戦施設に戻るとは流石に思いもしなかった。


「じゃ、じゃぁみんなのところに行こうか」


 カルロさんは引きつった笑顔を浮かべつつ、他の魔導歩兵達のところまで、私達を案内してくれた。



 □□□


 その日最初の魔導歩兵の訓練は、森の中に走りながら水魔術で的に当てるというものだった。コースに何箇所か標的が設置されており、一定以上の距離から水魔術を当てながらコースを走り抜けてるという単純なものだ。


 問題はこれを走りながら行うという事だった。


「ジニーさん! 遅れてるよ!」


 カルロさんが私に速度をあわせて檄を飛ばしてくれる。だが、無理なものは無理だ。

 まず、森の中を走るという行動が幼女の体には非常に厳しい。

 その上で、移動しながらの魔術の使用である。

 水の魔素を移動中に感応吸収し、ターゲットが見えたら魔術として水のオドを具現化させる。

 これが非常に難しい。


 息の上がった状態で、オドを感応する事

 水のオドを魔術として発動させず目的地まで維持し続ける事

 さらに、動きならが魔術を発動させ標的まで誘導する事


 この3つをクリアしてはじめて、この訓練は達成されることになる。


 だが、私はこれまで移動しながら魔素感応を行った事はないし、オドの状態で維持することなんてやったことがない。ましてや動きまわりながら、魔術を誘導して標的に当てるなんて芸当が出来るはずはなかった。


「ジニーさんは、感応力と魔素の制御力は高いけど、維持や誘導は苦手なようだね」


 カルロさんは私に水筒を手渡しながらそう説明してくれた。

 私は水筒の水を一気に口の中に流し込む。

 正直ここまでつらいものだとは思いもしなかった。


 走ることによるスタミナの消耗だけではなく、オドの維持や誘導を進める事により内在オドもどんどんと消耗していく。その結果、身体を襲う疲労感は一気に頂点に達し、私は標的を半分以上残し力尽きてしまった。


「まぁ、初めてならそんなものだと思うよ。僕らだって最初からできたわけじゃないしね」


 そういいながらも、次々と標的に魔術を当てていくカルロさんに、私は自己嫌悪に陥りそうになっていた。


「あぁでも、ヴァインくんはすごいね。ここまで全部の的にちゃんと魔術を当てている。大したものだ」


 私は地面に座り込みながら、水魔術を標的まで誘導して当て続けるヴァインの姿を眺めていた。

 やはり彼の魔術の才能は、私なんかよりずっと卓越したものだったのだ。


「ヴァイン!」

「なんだよ……」


 1度目のランを追え休憩していたヴァインは、私の呼びかけに嫌そうな顔をしながらも答える。

 兄弟子として弟弟子の実力は褒めてやるべきなんだろう。


 だが、私にはそれ以上に彼に言わなければならない事があった。


「ヴァイン……このとおり! 私に維持と誘導を教えて!」


 それを聞いたヴァインは、一瞬驚いた顔をした後、にやりとした笑みを私に向けてこう言い放つ


「……ヴァイン様、だろ?」



 私は怒りに震える拳を押さえ、ヴァイン()に頭を下げるのだった。

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