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光属性の攻撃魔術

 

 ゲームにおいて、光の封剣守護者アイン=ファーランドが使用していた魔術。

 それが、単体攻撃魔術【光線(レイ)】と範囲攻撃魔術【光輝(シャイン)】だ。

 だが、こちらの世界で私が師匠から学べた光魔術は【小灯(ライト)】だけだった。


 ある日、何気なくその事について聞いたみた事がある。


「師匠。光属性の攻撃魔術、例えば光で敵を焼いたりといったのは無理ですか?」


 師匠は眉を寄せ考え込む。


「中々難しいな。まず、光の魔素に関してだが、お前なら分かると思うが集めるのにはかなりの労力を要する」

「はい、炎や水に比べるとかなり大変です」


 師匠が言うとおり、光の魔素は集めようとすると、炎や水の魔素の10倍以上の内在オドを消耗する。


「だが逆に【小灯(ライト)】はオド転換に必要な魔素の量が極端に少ない。【点火(トーチ)】のほうが多いぐらいのはずだ」

「はい」

「これは、各属性が持つ本質と術者自身の認識力に左右される」

「本質と認識力ですか?」

「あぁ、まず本質だが、炎の本質は熱と燃焼だ。光の場合はその名とおり光である事こそが本質だな」

「なるほど」

「次に認識だが、これは魔術を使う上で術者が属性に対してどのように認識しているかという事だ。例えば、炎属性なら熱や燃焼として認識することは容易いし、光属性なら灯りとして認識することも容易い。だが光属性を破壊や焼失として認識できる人間は少ない。この差がオド転換の難易度に関わってくる」


 ゲームでは炎魔術は殺傷力が高く設定されている。それに対して、水魔術は殺傷力が低く設定されていた。これはつまり、炎による熱や燃焼で人を害するイメージは持ちやすいが、水では持ちにくいからという理由だろうか。


「光の魔素は集め難い性質がある。これは光属性が得意属性の人間の数が著しく少ないせいだ。魔素の元となる精霊自体の数の影響と考えられている。その上で、認識し辛い魔術はオド転換効率が著しく低下するため、必要な魔素量は増大する。結果として、光属性の攻撃魔術を使うことは俺レベルの天才であっても難しいという結論に至るわけだ」


 では、ゲーム【ピュラブレア】でアイン=ファーランドが用いる【光線(レイ)】や【光輝(シャイン)】は何なのだろうか。


「ですが師匠、封剣の守護者が用いる力も、魔術師が用いるのと同様のものだと思うのですが?」

「ほう、お前そんな事まで知っているのか。それも例の予言か」

「はい。そんな感じです」


 ゲームの知識に関して、師匠は『記憶の予言』という事を信じてくれている。おかげで、こういった相談が非常にし易くなったのは助かっていた。


「封剣の守護は、司る属性以外のすべての属性の魔素を奪い去る。これは以前教えたな?」

「はい」

「では封剣が奪った魔素はどこに行くのか。それに関して王国創設以来、多くの魔術師達が生涯の命題として探求し続けていた。そして近年ある魔術師-まぁ俺と兄貴の師にあたる人物なんだがな、その人がついに見つけた」

「師匠の師匠?」

「あぁ。まぁ、その人に関しては今度詳しく教えてやる。とりあえず、俺の師匠は魔素がどこに行くのかを見つける事に成功した。結果は大方の予想通りだったんだが」


 そういうと、師匠は地図を取り出した。


「これが王都フェルセン。そしてここがベイルファーストだ」


 王都からベイルファーストまでは馬車で5日はかかる距離にある。【杜 霧守】の感覚でなら250km、東京-浜松間ぐらいの距離だ。


「そして、魔素の行き先はここだった」


 師匠が指差した位置は、ベイルファーストよりさらに西、隣国であるオウス公国の領内だ。


「オウス公国……ですか?」

「あぁ、ただしこれは水の封剣の守護に関しての調査結果であって、他の封剣では異なる場所を示したと報告にあった」

「つまり、すべての封剣が別々の場所に奪った魔素を運んでいるという事ですか?」

「正解だ。そしてオウスの地で師匠が見つけたのは高さ10m以上もある巨大な石の塊だった」

「石?」


 師匠は紙にペンで簡単な絵を書き始めた。

 それは木々が生い茂る小さな丘の上に立つ巨大なの石の塊。


「あぁ、その地では巨石の事を【神籠(ひもろぎ)】と呼んでいたらいた。神を迎える場という意味だそうだ」


 それを聞き、最初に思い浮かんだのは淡路島の岩上神社にある神籬石だった。

 ゲームの題材に実際のパワースポットを用いたという事だろうか。

 まぁ、ゲームのシナリオとしてそういったものを用いるのであれば、たぶんその中にこそ――


「その巨石の中に本物の封剣が眠っているんですね?」

「あぁ、師匠もそう結論づけた」


 やはりそうか。


「奪われた魔素は神籠の中に?」

「あぁ、魔素は石に吸い込まれた形跡を残し消えていた。だが不思議な事に、その巨石の周りから水の魔素以外は感じられなかった」


 そうなると、魔素は封剣に吸われ消失したという事だろうか。

 それとも――


「封剣は周りの魔素を奪い、自らが司る魔素に変えてしまうのですか?」

「少し違うな。封剣が自らが司る魔素以外を奪うのはその通りだが、それを別の魔素に変えるわけじゃない。簡単に説明すると、封剣とはある種の精霊のようなものだ」

「剣が精霊なんですか?」


 精霊とは人の魂が変異した姿ではなかったのか?


「正確には違う、だから()()()()()()ものだ。普通の精霊はその身を保つことは出来ず、時間がたてば魔素として世界に帰る。だが封剣の場合は自分の眷属以外を喰らい尽くす事でその運命から逃れている。俺の師匠はそう結論づけた」


 それは、神の化身と言われる姿とはあまりにかけ離れた、貪欲に生にしがみ付く醜い化物のように思えた。


「そして、封剣は自らが生きる手段として守護者を選び、見返りとして自らの力を守護者に与える」

「それが、封剣守護者の魔術?」

「そうだ。封剣が守護者に与えられるのは、封剣が司る属性以外への絶対防御と、封剣自身が宿す精霊としての力だ」


 いかなる魔術も無効化し、絶対的な火力で敵を殲滅する。

 ゲームにおける初心者救済のユニット。

 光の封剣守護者アイン=ファーランドの力。


 それは、神の化身たる封剣自身の力だった。



 □□□


「ナターシャ! リーゼロッテ! すぐここから離れなさい!」

「でも、ヴァージニア様はどうなされるの!」


 あぁ、どうしてこんな事になったんだろう。


「私はアイン殿下をお止めする!」

「そんな、無茶です!」


 リーゼロッテは震える手で私の腕を必死に抑えようしてる。

 ナターシャも心配そうに私を見つめていた。

 本当にいい子達だ。

 彼女の頭をそっとなで腕を解く。


「大丈夫よ、私こう見えて、魔導には結構自信があるから」

「ヴァージニア様……」

「ナターシャ、リーゼロッテをお願い」

「はい……」


 ナターシャがリーゼロッテの腕を掴んでホールを出て行く。

 あとに残されたのは私と、白銀色の光に包まれたアイン殿下。


 そう、私の目の前に立ちはだかるのは、最強の封剣守護者。


「うううううぅうううあああああああああ!」


 その瞬間光が弾けた。

 床を焦がす匂いが鼻先をかすめる。

 単体攻撃魔術【光線(レイ)】。

 高密度の光の力で相手を焼き尽くす魔術。

 私はぎりぎりのところ床に転がり光線を交わす。


 止めなければ。


 暴走した彼が発動しようとしているのは範囲攻撃魔術【光輝(シャイン)】。

 発動すれば、多くの人が巻き込まれてしまうだろう。

 立ち上がり、アイン殿下の元に走りだす。


 あぁ、どうしてこんな事になったんだろう。



 私はまるで走馬灯のように、数刻前の出来事を思い出していた。

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