捕らわれた過去と俺の行動は?
私は今どこにいるのだろうか。とりあえず人目に付くような場所でないことは分かる。だとしたらここは森だろうか。とにかく今の私にはすべてが分からない。怖くないと言えば嘘になる。だけど今の私が最も強く感じているのは怒り。もしも今私を拘束しているこの拘束具が無ければ今すぐにあいつらを八つ裂きにするのに。
私は昔からメイドを生業としていた。メイドとしてのスキルもさることながら戦闘スキルも高かった私はかなり多くの人からスカウトを受けていたので仕事に困ることはなかった。でもその能力の高さがゆえに周りのメイド達からはよくイジメのような行為を受けていた。
私の性格上、そういうことに屈しなかったのがいけなかったのか周りのメイド達はいつも不満そうな顔をしていた。
でも一時期からそういった行為がなくなったので、ようやっと飽きたのかと気が楽になった矢先に事件が起きた。
雇い主が大事にしていた調度品が壊されていたのを、あろうことか私のせいにしたのだ。雇い主は大事にしていただけに激昂し、なんの弁明もできずにクビになった。
一度ミスしたメイドは例え有能であっても、再び雇ってくれるところはない。それに私の場合は雇い主がいけなかった。雇い主は国の中でも力を持っている貴族で、かなり黒い噂をもつ方だった。だから余計に私の居場所はなくなってしまった。
だけど神様とはいるもので、困っている私を拾ってくれる方がいた。その方たちは貴族でありながら家督もすべて子供たちに譲り、田舎でゆっくりと暮らしていた。その方たちは私の話を聞いて、可哀そうだからと雇ってくださった。夫婦お二人とも、とても優しくしていただき、楽しくも充実した日々を送っていた。
でも、そんな日々もすぐに崩れ去った。その原因が今私の周りにいるであろう盗賊たちだ。彼らは国に指名手配されるほどに凶悪で大きな組織だった。そんな彼らのターゲットとなったのが、私の雇い主だった。
夫婦は家督を譲ったといっても仮にも貴族。一般の人々に比べたらお金も持っていたし、その他調度品もあった。
盗賊たちは夜の寝静まったときに屋敷を強襲してきた。家を荒らしまわり、破壊し、お金や高そうなものを奪っていった。そして、それだけに飽き足らず夫婦を殺し、執事や男たちも殺され、メイドなどの若い女性は彼らに犯され、辱めれてから殺された。
私は、ある程度の強さがあったため必死に抵抗していたが、結局数には勝てずに拘束具によって能力などあらゆるものが封じられてしまった。
私も他の者たちのように辱められるのだと悟った。だけどその時私の心にあったのは、怒りと怨みだった。困っていた私に手を差し伸べてくださった方たちを弄びながら殺し、温かく迎えてくれた同僚たちのことを思うと、今すぐにこいつらを殺してしまいたいぐらいだった。
だけれど、盗賊たちは私を捕まえるだけで何もしてこなかった。
私は聞いた。私を犯さないのかと。殺すのではないのかと。声のあらん限りに叫んだ。
そうしたら、盗賊たちは笑いながらこう言ってきた。
「お前さんには俺たちは手を出さねぇよ。お前さん、今まで見てきたなかで一番と言える程のべっぴんさんだ。俺たちだって味わってみてぇさ。だけどよ、これがボスにばれると俺たちの命があぶねぇのよ。だからお前さんはボスへの献上品ってわけさ」
「それによ。お前さん、ある意味ここにいる奴らよりも地獄を味わうことになるぜ。うちのボスは容赦ねぇからな。簡単に死ねるとは思わないほうがいいぜぇ」
そう言って盗賊たちは下卑た笑い声をあげながら私に布を被せて連れていった。
あぁ、私は何て無力なんだろうか。いくら能力が高くても数には負け、周りが死んでいくにも関わらずかたき討ちもできない。挙句の果てに生き延びている。私は盗賊たちを許せない。例え何が起きたって私は絶対に屈しない。それが私の決意だから。
▽
俺が盗賊たちの後ろを付いて歩いていると茂みの前で立ち止まった。
盗賊のうちの一人が手を二回叩くと茂みが自然と割れていき、洞窟の入り口があらわになってくる。
「これぞファンタジーって感じの仕掛けだな。さてどうするか」
洞窟の中に消えていく盗賊たちを見送りながら今後について考える。
普通はここでいきなり助けに行かないだろう。リスクが多き過ぎるし、それに見返りもない。仮に助けた女性がどれだけ美人であったとしてもそれで何かが返ってくるとは考えられない。
そもそも助ける義理がないと言ってしまえばそれだけかもしれない。さらに助けるということは盗賊たちと戦うということになるわけで、ということはこの手で人を殺めるということになる。
こういう時、物語の主人公だったら迷わずに助けるんだろう。友人もそう言っていた。だが現実はそう簡単にはいかない。
別に人を殺めることに抵抗はない。いやその言い方はよくないか。経験があるというだけだ。だが、精神的にどう感じるかは別問題ではある。
「まあ考えていても何かが変わるわけではないんだよな。それに、この世界は人の命は軽いと言っていたしな」
だから俺は今から助けに行く。今から俺は鬼になる。