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俺が異世界に?


「いいよ。行くことにするよ」



 その言葉は割と簡単に俺の口から出てきた。決める内容は俺の人生に関わるもののはずだ。なぜならその決定によって俺は今までの人生を捨て、出会いを捨て、俺自身を形成したすべてを捨てることになるからだ。


 しかし、俺に迷いはなかった。別に自分の人生に不満があったわけじゃない。それなりに順調だったし、親しい友人だっていた。残念ながら捨て子だった俺に家族と呼べる存在はいなかったが、それが決断する要因の一つになったのかもしれない。



「行ってくれるか・・・・・・。本当にすまない。こんな形で異世界に行ってもらうなど」



 異世界。そう、俺は今から異世界に行くことになる。その手の話が好きな友人がいたため知ってはいた。だけど、それはあくまで創作の中での話で実際に自分の身に起きるとは思いもしなかった。友人が聞いたら血の涙を流してうらやましがりそうでついつい吹き出してしまう。



「別に気にしてないよ。それにこれはこれでありだろ。それにもう戻ることはできないんだろう? 」



「本当に申し訳ない。しかし謝っていても話は進まないから、勝手ながら話を進ませてもらう」



 目の前にいるダンディーなおじ様は申し訳なさそうな顔から真剣な顔に切り替える。

 ちなみにこのおじ様は神様というらしい。俺の人生にまさか神様が現れるとは思いもしなかったが、会えてラッキーではある。だって他の人はおそらく会えないだろうからな。



「それで今回君には異世界に行ってもらうわけだが、こちらの不手際とわがままで異世界に行ってもらうため君には多くの権利が発生する。その一つが能力をつけるということだ」



「能力か」



「そうだ。君に行ってもらう異世界は日本で流行っている小説などと同じような魔法だとか魔物だとかが存在する世界だ。それを考慮したうえで決めてもらいたい」



 ここの展開は小説でもよくありがちだ。ここで最強の力をくれだとか、無限の魔力をくれだとか、ほかにもいろいろな能力をもらうのが所謂テンプレなのだと俺は数少ない読んだ小説から学んでいる。


だが俺にはそんなことよりも常々思っていたことがある。爆発は芸術だと。あ、別に俺に芸術のセンスなどないし、顔のついた太陽をシンボルにした塔を作る趣味があるわけでもない。



「爆発能力はないかな? 」



「ん? 良いのか? もっと強い能力とか、不死の能力とかを欲しても良いのだぞ? 」



「いや、別に俺は不死とか興味ない。それに爆発的な能力をもらえるなら他は求めないよ」



「そうか。君は人間にしては珍しいのだな」



「そうか? 多分あんたも色々な人間を見てきたと思うけど、そいつらと俺は同じだと思うぞ。ただ俺の場合、ベクトルが他の人と違うだけだ」



「それもそうだな。しかし、最初に私が神だと名乗ったときや異世界に行くと告げたときのあっさりとした対応には驚いたがな」



「うーん。まあ自分で言うのもなんだがあまり驚いたりが顔に出ないからな。心の中では少し驚いてたし」



 俺の言葉を聞いておじ様の表情が少しあきれたように変化する。



「その少しっていうのが凄いところだがな。まあいい、それでは君の想像しているような爆発系の能力をつけておくことにしよう。君の爆発の使い方には面白い物もあるようだしな」



「ありがたいな。それと俺の考えてることとか分かるんだな」



「そこは当たり前だと言っておこう。仮にも私は神であるからな。君の心は私があまた見てきた人間の中で最も静かだな」



 別に心を読まれるのが嫌なわけじゃないが、こうナチュラルに読まれるとああ神様なんだなと実感する。






「心が静かと言われても自分じゃよく分からないな」



「そうだろうな。だが、君にはそのままでいてほしいものだな。なかなか君のような人間はいない」



 さっきからめちゃくちゃ褒められている気がするが、これが小説で出てくる大物に「面白い奴だ」とか言われて目を付けられるというやつだろうか。

 できればそれは遠慮したいところなんだが・・・・・・



「はっはっは。心配するな。そのようなことはない。私は常に平等、悪く言えば無関心であるからな。でないと神などやってなどおれんよ」



 神をやるのもなかなか大変らしい。想像では全て誰かに任せて気ままに遊べるものだと。可能性など皆無だろうけど、もし俺が神になることがあったら是非断らせていただきたい。



「そうかそれは安心だ。それで他にはあるのか? 」



「そうだな。いろいろとあるんだが、君には必要がなさそうだと分かったからな。ただし、容姿についてだけは変えてもらいたい」



 容姿ときたか。まあ確かに新しい生活でもあるからな。



「それもあるんだが、君の容姿については少し問題があってな。周りと比べると浮くのだよ」



「確かに珍しさで人の目を引くのは不本意だな。あんまり思い入れもないから別に構わないんだが、どう変えるんだ? 」



 俺が聞くとおじ様は腕を一振りした。すると目の前に出てきたのは一つの画面だった。



「君にはこれからここに映される君の容姿を自分で変えてほしい。なに、ゲームと一緒だよ」



 おじ様が言い終わると同時に、目の前の画面に俺の姿が映る。


 相変わらずの自分の容姿を見つめる。髪の毛も無造作に伸ばし口元もひげに覆われている。歳は二十八と若くもなくかといっておじさんというわけでもない。昔から俺のことを知っている友人からは、よく髪とかひげを整えろと言われた。なんでも俺の容姿は結構整っているらしい。あんまり興味がないから特に整えることはなかったが。



「まあでもこれから新しい場所で生活するんだからな。髪も短くしてひげも剃るか。」



 そう思って画面をタッチすると自分の想像した通りに変化する。すると俺の隠れていた顔があらわになる。



「確か、小さいころはこの顔でよくからかわれたな」



 俺の顔は日本人顔ではない。いわゆるハーフと言われるものだ。まあ親の顔も知らないからどこのハーフなのかは分からないが。

 小さい子はとにかく自分達と違うものやことには強い反発感を持つもので、よくからかわれていた。中学高校くらいになると、そんなこともなくなっていったのだが。



「なあ。顔変えるのは面倒だから色変えるだけじゃだめか? 」



「そうだな。君はそう言うと思ったがそれくらいでもいいだろう。色に関しては多くあるからとりあえず好きに変えてみてくれ」



 なんでも好きなものと言われると困ってしまう人が多い気がする。あいにく俺はそんなこともないので、どんどんと髪や瞳の色を変えていく。



「これにするよ」



 しばらく試して決まった色は、髪が白銀で瞳が金色。短めの髪を後ろになでつけてある。



「ふむ。まあいいだろう。多くの人間は容姿をよくしたがるものだが、君には必要なさそうだしな」



 決定した俺の姿を見ながらつぶやくおじ様が手を一振りする。すると今まで浮かんでいた画面が消え、魔法陣のようなものが俺の体を通過する。



「・・・・・・ん? 」



 何も変わった感覚がないことに少し疑問を覚える。いや、視界は広がったか。



「君の決定のもと君の容姿を変更させてもらった。見るかい? 」



「いや、大丈夫だろう。別に大した思いがあるわけでもない」



「そうか。君はそういう人間だったな」



「で、いよいよなんだろう? 」



「ははは。そうだな。そろそろ君ともお別れのようだな。最後に一つ、君はこれから異世界に行ってもらう。最初に飛ばす場所は人間の国が近くにある森だ。強い魔物はいないから安心してほしい。ただ、森のどこに飛ぶかまでは分からない」



 いや、わからないのかよ。なんかちょくちょくこの神様抜けてるきがするのは気のせいだろうか。別にそれで何が起きるわけでもないんだが。



「神様も全能ではないということだよ。すまないな」



「事実というのは常に想像とは違って平凡だということか」



 平凡というのは少し言い過ぎかもしれないが、やはり過度な期待はいけないのはどこに行っても同じだということだ。



「まあそこはいいだろう。さて、本当にここまでのようだ。準備はいいか? 」



 そうか。これで俺のままでの人生は終わり、新しい人生が始まるのか。まさか異世界に行くとは思わなかったが、これも良い経験になるだろう。



「準備はOKだ」



「そうか。では、君のこれからに栄光があらんことを」



 おじ様が言葉を発すると、視界が眩しく光ったあと暗転する。


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