エピローグ
久し振りに扉のあるはずの場所に立ったヒトコの顔は、絶望に染まってはいませんでした。
真っ黒な扉も、ありません。
ヒトコの口許には、やり遂げた、と言いたげな満足感が乗せられています。
「お疲れさま」
掛けられた声に振り向けば、言い表し様のないほど綺麗なひと、神さまが、ヒトコを見下ろしていました。
「貧民から王子の侍女になって、王になった王子の侍従長に求婚されて結婚して、子供を産んで孫も生まれて、貧民の女神と慕われて死ぬ。幸福な結末だね?」
「うん」
ヒトコは頷いて、微笑みました。
「貧民街と娼館をなくすことは出来なかったけど、せめて待遇を改善出来て良かった。奴隷制度は撤廃出来たし、子供の保護も厚くなった。十全とは、まだ言えないけど、出来るだけのことは出来た……と思います」
「そうだね。合格だ」
神さまが目を細めて頷きます。
「それで、転生したい物語があるのだったね?」
「あっ、あの」
ヒトコは顔を上げて、神さまの目をしっかり見据えました。
「お願い事、変えても、良いですか?」
「良いけれど、なに?」
「わたしはどうでも良いから、エリカを、幸せにして、下さい」
ヒトコの言葉を聞いて、神さまは、ぱちり、と、目を瞬きました。
うっと怯んで、ヒトコが首を傾げます。
「だ、駄目、ですか?」
「あなたたちは……」
神さまも首を傾げて、ヒトコを見つめました。
「揃いも揃って、同じ願いを口にするの?」
「え?」
「言ったでしょう。エリカなら、願いを叶える理由があるって」
そう言えば言われたな、と、ヒトコは頷きます。
「その、エリカの願いが、あなたを助けて欲しい、だった」
「エリカ……」
「エリカは自分の人生に満足していて、でも、あなたのことだけが、心残りだって」
ヒトコの瞳に涙の膜が出来、まばたきと共にこぼれ落ちました。
「エリカは、幸せに?」
「幸せかどうかはわからないけれど、元気に生きている」
「良かった……」
ヒトコが、ぐすりと鼻を鳴らします。
そんなヒトコを見下ろして、神さまは問いました。
「それで?」
「え?」
「願い事はどうするの?」
ヒトコは考えるようにゆっくり三回まばたきしてから、神さまを見上げました。
「それじゃあ」
エリカとまた、友達になりたい。
ささやくように吐き出された願いに、神さまは頷きました。
「わかった。じゃあ、お行き」
神さまがヒトコの背後を指差し、振り向けば白い扉がありました。
「ありがとうございます。行って来ます」
ためらいなく、ヒトコは扉に手を掛けました。
どんな世界でも幸せを勝ち取る方法はあると、ヒトコはもう、知っていたからです。
「じゃあね」
旅立つヒトコを神さまの声が送り出しました。
拙いお話に最後までお付き合い頂きありがとうございました




