表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
5/9

転―1

 

 

 

「……諦める?」


 扉を開けることも出来ず、絶望で顔を染めて座り込むヒトコに、そう声が落とされました。


「諦めても罰はない。ただ、あなたが願いを叶えるに価しない人間だったと判断されるだけ。結局、あなたは病気でなくても何も出来なかった」


 言い返す気力もないヒトコの頭に、神さまは続く言葉を落としました。


「エリカとは、違って」


 また、エリカ。


 ヒトコはのろのろと顔を上げ、神さまを見上げました。


「あなたはエリカなら、マッチ売りの少女を幸せに出来るって思うんですか?」

「出来るだろうね」


 一瞬の躊躇いもなく、神さまは言い放ちました。

 ヒトコは絶望も忘れて、ぽかん、と口を開きます。


 繰り返す失敗のなかで、ヒトコは試行錯誤を重ねました。自分が読んだたくさんの本を、思い出しながら。

 ヒトコなりに精一杯頑張って、知恵を振り絞って、それでも駄目だったのです。

 それを、やってみてもいないエリカが出来ると、神さまは確信を持って言います。


 ヒトコとエリカ、ふたりの少女の、何が違うと言うのでしょう。


「エリカは広い視野で現実を直視して、自分にとって不都合な事実でも受け止めることが出来る。それを元に自分が取るべき行動を考え、動くことも」


 ヒトコの疑問を汲み取ったように、神さまが言葉を続けました。


「そのパソコンを開くことすらしないあなたとは、覚悟も行動力も違う」


 ヒトコはきゅっと眉を寄せ、ずうっと放置されたままになっていたエリカのノートパソコンを見ました。

 ヒトコに足りない知識がその中にあることを知りながら、見ないふりをしていたものです。

 何も言えないヒトコを見下ろして、神さまは扉を指差しました。

 今まで何度もくぐって来た黒い扉。その横に、真っ白な扉が現れます。


「諦めないなら黒い扉を、諦めるなら白い扉を選べば良い」


 言い残して、神さまは消えました。


 残されたのは、ヒトコと二枚の扉、そして、埃を被ったノートパソコンです。


 ヒトコは、白い扉を見つめました。


 真っ黒の扉と見比べると、その真っ白な扉は、まるで希望のように思えます。

 この扉をくぐれば、もう、辛い思いも恐ろしい思いも、しなくて済みます。

 もしかしたら、健康で幸せな子に生まれ変わることだって、


「ううん」


 現実から逃避しかけて、けれどヒトコは首を振りました。


 世界がそんなに優しくないことを、ヒトコは知っています。

 どんなに祈ってもヒトコの病気が治ることはなかったし、どんなに繰り返してもマッチ売りの少女を救ってくれるひとは現れませんでした。

 だから、条件をこなせないヒトコに、神さまが甘い未来を与えてくれることだってないのでしょう。


 逃げ出したい。諦めてしまいたい。


 弱く挫けそうな自分を奮い立てて、ヒトコは白い扉から目を離しました。

 埃を被ったパソコンに目を向け、徐に手を伸ばし、触れる直前で、ぎゅっと握って引っ込めました。


「エリカなら出来るなんて、そんなの」


 嘘だ、とは、言えませんでした。


 エリカはヒトコよりずっと色々なことを知っていて、ヒトコよりずっと、幸せなのです。

 だって、ヒトコと違ってエリカは、学校に行くことも出来ていたのですから。


「ずるい」


 どうして、エリカばかり。


 どうして、恵まれている、裏切り者のエリカは神さまに願いを叶えて貰えて、可哀想なヒトコは願いを叶えて貰えないのでしょう。


「ずるい」


 呟いて、ヒトコはパソコンを引っ掻きました。

 積もった埃が、ヒトコの爪に入り込みます。

 それをはたき落とし、ヒトコはパソコンの埃を払いました。


 諦めたくない。負けたくない。


 ヒトコを突き動かしたのは、エリカに対する対抗心でした。

 パソコンを開き、電源を入れます。長い間放置されていたにもかかわらず、パソコンはすんなりと起動しました。

 エリカに教わったパソコンの使い方は、しっかり記憶に残っていました。


 立ち上げたパソコンが、ヒトコに伝えます。


 [新着メールが届いています]


「……メール?」


 携帯電話も持たないヒトコでしたが、メールの存在は知っていました。それが、パソコンでも使えることも。


 エリカは、メーラーを放置したままこのパソコンをヒトコに渡したのだろうか。


 訝しく思いながらも、ヒトコはパソコンに指示されるままメーラーを開きました。

 現れる、たくさんの未読メール。

 差出人は、全て同一人物。


「……エリカ?」


 エリカのパソコンに届いていたのは、そのパソコンの元の持ち主からのメールでした。


「どうして……」


 その疑問は、未読のまま遺された最初のメールの日付で、察せられました。


「……エリカがいなくなった、一週間後」


 このメールがどこに届くのか、わかってエリカはメールを送っているのです。いいえ、それどころか、メールが届けば通知されるよう、あえて設定までして渡してすらいたのかもしれません。


 見たい、見たくない、そんなことを考える前に。

 ヒトコの指は、エリカからのメールを開いていました。

 

 

 

拙いお話をお読み頂きありがとうございます

続きも読んで頂けると嬉しいです

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ