表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
3/9

起―2

 

 

 

 ゆっくり目を瞬いた綺麗なひとは、心底わからないと言いたげに問いました。


「誰に?」


 ヒトコは怖じ気付きながらも、答えます。


「あなたに」

「どうして?」

「だって、あなた、神さま……ですよね?」


 ヒトコの問いに、綺麗なひとはよくわかっていない顔で頷きました。


「確かに、ヒトの言う、神に相当する存在ではある」


 目の前のひとが神さまであることに安堵して、ヒトコは続けました。


「あなたが、神さまだから、お願い事を叶えて欲しいんです」

「……」


 神さまは、不可解そうに眉を寄せます。


「どうして?」


 どうして?


 問い返され、ヒトコは言葉にきゅうしました。


「それは、えっと」


 だって、神さまだから。神さまだから、そう。


「神さまだったら、叶えられる、から……?」


 自信なさそうに答えたヒトコに、神さまは不可解なものを見る顔を崩さないまま、頷きました。


「確かに、叶えられることではあるけれど」


 神さまは、疑問も露に続けました。


「叶える理由がない」

「え……?」


 呆然とするヒトコに、神さまが言います。


「ヒトの願いくらい叶えられるし、願い事を叶えることもあるけれど、それは叶えるだけの理由があればの話。理由もなく願い事を叶えることはない」

「理由……」

「あなたは神さまに願いを叶えて貰えるだけの、なにをしたの」


 なにをしたのか?


 ヒトコは、違う、と思いました。


「わたしは、なにも、出来なかった」


 ヒトコの目から、ぽたりと涙が溢れました。


「普通の子が出来ること、なにひとつ、病気のせいで、出来なかった……!」


 もっと外に出たかったし、運動もしたかった。遊園地も動物園も海も山も、色々なところに行って、色々なことをしてみたかった。

 なにより、学校に、通って、たくさん友達を作りたかった。


「やりたいこと、なんにも、出来なかった……っ!」


 しくしくと泣き出したヒトコを神さまは静かに見下ろしました。


「つまり」


 静かな声が、ヒトコに落とされます。


「病気で、何も出来なかったから、願い事を叶えて欲しいってこと?病気で苦しんだ、可哀想な子だから」


 感情のない声でした。

 哀れみも、同情も、蔑みもない、無色透明な声。


 そうだ、と、ヒトコは思い、けれどそうだとは言えませんでした。


「病気でなければ、なにか出来たの?」


 病気でなければ?

 普通の子みたいに、健康な身体があれば?


「なんでも」


 そう、病気なんてなければ、なんでも出来た。

 病気だから、なんにも出来なかったのだ。


 泣き腫らした顔を上げたヒトコを、神さまは棒に留まったトンボのように見返しました。


「わかった」


 感情のない声のまま、神さまは言います。

 その無機質な声は、温かさも冷たさもなく、なぜか神さまらしいと痛感させられるものでした。


「あなたの願いを叶える」


 顔を輝かせかけたヒトコを咎めるように、神さまはただしと続けました。


「ただでは叶えられない。理由がないから。だから、条件を出す。病気でなければなんでも出来たと言うなら、出来るはず」

「そっ」

「嫌だと言うなら、それでも良い。代償も用意出来ない者の願いなら、叶える必要もない」


 そんなと反論しようとしたヒトコの言葉を遮り、神さまは言いました。


「願うには対価がいる。それくらい、ヒトにとっても当たり前の話でしょう」


 言葉を封じられたヒトコに、神さまは条件について説明しました。


「あなたを物語の主人公に生まれ変わらせる。病気ではない、健康な身体に。あなたはあなたの物語を、幸福な結末に導きなさい。それが出来たら、あなたの願いを叶える」

「物語……なんの?」

「マッチ売りの少女」


 そんなの無理だ。ヒトコが言う暇も与えず、神さまはヒトコを生まれ変わらせました。


 誰もが当たり前に知っている、不幸な物語の主人公へと。

 

 

 

拙いお話をお読み頂きありがとうございます

続きもお読み頂けると嬉しいです

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ