私が結婚できないのはてめぇの所為だ。モテないOL、美少年ヒューマノイド相手に愚痴を言う
本作は勢いを重視して会話文100です。
「ただいまー」
「お帰りなさいマスターって、家帰るなり冷蔵庫開けて何飲んでるんですか……」
「氷結ストロング」
「また安い酒で手軽に酔おうと――はいはい、弱いんですから全部飲まないでください」
「返してー! 私にはもうそれしかないの!」
「はい、熱い梅昆布茶でも入れますから、飲んで落ち着いてください。はいこれ両手で持って。落とさないでくださいね」
「うめえ。もう飲まずにはやってらんねーよ」
「飲んでいるのが梅昆布茶でも、言うことは変わりませんね」
「あのさ」
「何ですか」
「今日は何の日だと思う?」
「大晦日です」
「そう、大晦日。今日で、今年という1年が終わる大切な日――いやいや、昨日始まったくらいじゃないの? 何か間違ってない?」
「年を取ると、時が経つのを早くかんじ――」
「うるせぇ!」
「すみません、繊細な話題でした」
「そうだよ。気を使ってくれ。それで、今日は大晦日なのにさ、またこうやって去年と同じこと言ってるんだよ。ここで。梅昆布茶飲みながら!」
「別のにしますか?」
「いいよ! 梅昆布茶で!」
「ねぇ」
「はい」
「何でだと思う?」
「もうすぐ三十路のマスターが、今年も、クリスマス、大晦日と続けて一人でやさぐれながら梅昆布茶を飲んでいる理由ですか?」
「それであっているけど、もうちょっとマイルドに表現してくれないかな。心にね。大分ぐさっとくるんですよ」
「わかりました。うーん、理由か……まぁ、それは、普通にマスターが――」
「普通に答えなくていいの! 優しい答え! 優しく! 一番耳に優しいタッチで!」
「マスター。来年、頑張りましょう。来年」
「もうそれ絶対ダメなパターンじゃん。うう……ぐすん」
「大丈夫ですよ、マスター。マスターには、私がずっと付いています」
「……あのー、あのさ。それ心に響くいい言葉なんだけどね。それはさ。優しく肩とか抱いたり、抱きしめたりしながら言う台詞じゃないのかな。なんでそんなキッチンの遠くの方に立ってんの?」
「私は、そういったことはしませんので」
「『しません』って、20代 (ぎりぎり) のOLが『一人の夜が寂しいです』って言ってんのに、『しません』はないだろう? 君、美少年型ヒューマノイドだよね?」
「マスター。そういったご要望があれば、追加料金としてオプション代を――」
「オプションとか言ってんじゃねえ! 確かにオプション代ケチったけど、オプションとか正直に言ってんじゃねぇ! 『OL、美少年』というワードに反応した全国のおねショタファンがこの向こうで待ってるんだ。そのニーズに、応えてやろうよ!」
「ダメです」
「現実、厳しー」
「あの、マスターはOL――Office Ladyではありませんよね」
「あ、そこに突っ込んじゃう? 正直に書くとサラリーマンとか作業員とかなんだけど、正直に書くと萌えないでしょ? たまにオフィスで働いているお姉さんなんだからOLでいいんだよ。その言葉だけで、ぴちぴちのスーツ着て働くエロいお姉さんを皆想像してくれるから、現実は違うかもしんないけど少しくらい盛っていいんだよ」
「そういうものですか」
「そういうもん。世の中そういうもん」
「あのさー。今検索してるんだけど、オプション代高すぎじゃない? 前、見たときより上がってるんだけど」
「円高と、あのときは新規購入者様ご優待価格でしたので」
「あー、思わずテンション上がって買っちゃうやつだ」
「そうです」
「私はその誘惑には耐えきったが――いや、さぁ。肩を抱くとか、抱きしめるぐらいでいいんだけど、何でこんなに一気に過激な内容のオプションになんの? 入門編くらいでいいのに、いきなりハーデストじゃん。もっと控えめにして安くなんないのかな。男じゃないんだからさ」
「いえ、マスター。始めはマスターの言うようなオプション設定にしていたのですが、女性であっても、要求の行き着く先は結局同じで。最後までご購入される方がほとんどだったという経緯から、まとめて買うとお安く――」
「あー、そういう話」
「はい。そういう話です」
「いやぁ無理だよ。こんな金さすがにないよ。まだ借金も返せてないし」
「15年ローンでのご購入ありがとうございます」
「いや、やっぱどうせ買うんだったら、早くからいてくれた方がいいでしょ? 私ずぼらだから、この誘惑に耐えられそうになかったしね。それに、毎日家が綺麗で、美味しいご飯が待ってたら嬉しいよ。だから、うわーボーナスだ! 買っちゃうぞ! って180回分割ローンを組んだことは後悔してないんだ。でも、このオプションまでつけちゃうともう終わっちゃうよね。お金もそうだけど、人として、色々と」
「15年ローンで美少年型ヒューマノイド買っちゃうやつが今更何言っているんだ、って言おうとしたでしょ! 今!」
「まだ何も言っていませんよ」
「こんな私だけど……こんな私だって! 一度くらい結婚してみたいと言う意思はあるんだ! 一回だけ、一回だけでいいんだ! だけど、ただちょっと、ちょっとめんどくさがりなだけ! それなのに、なのに――」
「はい。急にスイッチが入ったようですが、落ち着いてくださいね」
「休日に、『外出する』コマンドが出てこなくて、一日中家にいるのはそんなに悪いこと?」
「真面目な顔をしていますが、結婚をしたいという観点では、それはダメです」
「休日の朝、今日という一日が楽しみすぎて5時に起きちゃうのに?」
「趣味があって休日を楽しみにしているのは良いことですが、外に出ないのであれば、それはダメです」
「世の中厳しすぎるだろう……」
「ねぇ、聞いてよ」
「聞いていますよ」
「料理やってないでもっと真面目にさ! さっきから酢の匂いが部屋の中に充満しているんですけど!」
「明日の朝食用にサンドイッチの付け合わせのピクルスを作っているのですが、不要ですか」
「邪魔してすみません。続けてください」
「はぁ」
「あの。そういえばなんか食べるものない? まだ氷結ストロングと梅昆布茶しか飲んでないから、お腹減ったんだよね」
「冷蔵庫におでんがあるので、レンジでチンしてください」
「うひょー。おでん。おでん」
「何分?」
「4分です」
「うずらのある?」
「うずら巻きですか? お正月の準備でスーパーの端に追いやられていて探すの大変でしたけど、ちゃんと入っていますよ。はいこれ、お茶です。チンできたら持って行くので、これ持ってあっちで座っててください」
「はいはーい」
「はい、どうぞ」
「いただきまーす!」
「んでさ。聞いてよ」
「食べながら、話は続けるんですね」
「こないだ会社の金でセミナー行ってきたんだけどさ、そのセミナー高尚なセミナーだったから、みんな名刺入りの名札を胸に付けてんの。でさ、胸に戦闘力貼ってあったらやっぱり見るでしょ? んでちらっと会社名を確認したあとに、顔をさっと見ては、『うひょー良い男』となる訳ですよ」
「は、はぁ」
「で、思ったんだ。こんなに良い男がたくさんいるのに、何で私は余っているんだろうって」
「あ、そう続くんですね」
「いや、こんなにたくさんいたら、一人くらい私でもいいって言う人いるよね? 一人くらいこの慎ましい胸でもOKって言ってくれる人はきっといるよね?」
「マスターが結婚できないのは、貧乳は関係がな――」
「うるせぇ!」
「すみません。繊細な話題でした」
「首を曲げて、下を見て、地面しか見えない貧乳の毎日がどんなに悲しいことか、考えたことがある? 下を見て、あんなパラダイスな光景が毎日広がってるんだったら、私だってもうちょっと真面目に生きたと思うよ? それなのにあんまりだ」
「マスター。落ち着いてください」
「女に生まれて得することなんて、女風呂を逮捕されずに覗けることくらいだよ。露天風呂に巨乳が来たら『こっちはこんなんですみませんが、ありがたや。ありがたやー』って、毎回拝むからね」
「マスターは、あの同性愛者ではないですよね?」
「違うけど、女の人もおっぱい大好きなのだよ」
「そうなのですか?」
「だって、君たちの中にも、『ファビュラス』タイプっていう、背が高くて胸と尻がバーンとなってるのがあるでしょ? あれほんと高いけど、女の人にも大人気じゃん」
「確かに……あのタイプは男性、女性の両方に売れています」
「私もほんとはあっちが欲しかったんだけど、ほんとびっくりするくらい高いよね。しかも、姉タイプと妹タイプの両方買いそろえないと不具合起こるんでしょ? 『どうしたの?お姉様に相談してみなさい』って、胸に顔をうずめて頭なでなでされたかったんだけど、いやぁ貧乏人の財布に2体は厳しいわ」
「あっちが欲しかった……?」
「おっと、こっちの話。気にしないで。で、話は戻るけど――」
「無理矢理ですね」
「今日の議題は、私が、結婚できないことについてだ」
「自分で言ってダメージを受けてませんか?」
「なぜ、多くの未婚男性が社会にはおりながら、私が結婚できないのかを真剣に議論してみたいと思う」
「強引に進めますね」
「まず、私が休日に外出しないことについてだが、それについて詳しく述べると話は進まないので、今回この件は割愛する」
「そこについて議論しないと意味がないと思うのですが」
「つぎに、私が貧乳であるという件についてだが、貧乳派の男性も12パーセント存在するということから――えっ!? 12パーセントしかいないの!? いや、これ何かの間違いでしょ? 『貧乳を認める俺かっこいい』ってやつもいるから、ホントはもっと少ないってことだよね? いや、いや、この世界に貧富の差なんてものはなく、すべては尊いはずだ。何かの間違いだ。深呼吸してー、はい。本気で調べるからちょっと待ってて、OK?」
「はい」
「もうだめだ。終わった」
「世界は無慈悲だった」
「マスター。おでん冷めますよ」
「でも私も巨乳派だから、誰にも文句が言えない。冷めた大根も粋な物なのだよ」
「熱いお茶、入れますね」
「『胸が重くて肩こっちゃったー』とか、『これ脂肪の塊だよ。将来垂れるだけだから意味なんてないよー』とか、私も人生で一度くらい言ってみたかった」
「なんかリアルですね」
「本当に言うからね。あいつらは。貧乳に気を使って、ちゃんとデメリットも言ってくれるからね。あいつらは」
「マスター。涙拭いてください。はい、これサイバーマンデーで買った今治タオルです」
「ごめん。ありがとう……」
「で、私、何の話してたっけ?」
「えっ? これ私、言っていいんですか?」
「ああ、そうだ。こないだセミナー行ってきて、『こんなにたくさん男がいるのになんで私は余っているんだ』って思った件だ。良いところの会社の人だとしても、みんながみんな結婚している訳じゃないし、未婚者の中には一人くらい私のことをタイプだって思ってくれる人もいるよね?」
「ねえ!」
「はい、います」
「それが、パッと見わかんないのが問題だと思う」
「わかったらわかったで、現実を突きつけ――いえ。何でもありません」
「こうドラゴンボールみたいに、必要なときだけゴーグル掛けたら、ピピピと好感度とか顔の横に出てくるといいんだけどね」
「恋愛ゲームではないんですから……」
「好感度がわかれば、あとはコーヒー持って好みのタイプにえいとぶつかって、『あらぁ、私としたことが、スーツに染みを! よろしければ今から――』ってやれば出会い完成でしょ? 今の世界は、コーヒーぶっかけてもその相手が、既婚者か未婚者かもわからないし、恋人いるかいないかもわからない。単純に言葉だけでも確率は3分の1だ。コーヒーをぶつける割に合わない」
「あの、マスター。どうしてコーヒーを――」
「つまり。これまでの話をまとめると、私が結婚できないのは現代社会が悪い」
「あのマスター。やはり言わせて頂いてよろしいでしょうか」
「ダメだ」
「あの――」
「ダメだ。明日私は初詣にも行かず、おせちもお雑煮も食べず、暖房をガンガンに入れた部屋で、朝から優雅に淹れたてコーヒー飲みながら、焼きたてパンでサンドされたサンドイッチを食べるんだ。そしてその準備をするのは、すべて君だ!」
「いえ、マスターのお望みとあらば作りますけど……」
「ねえ、マスター。マスターはどうして結婚してみたいのですか?」
「それは……」
「どうしてですか?」
「……もうこの年だし、今の時代さ。結婚が幸せとイコールではないことはわかっているんだよね。だけど、人生で一度くらいは、『あなたのことが一番大切だ』と嘘でもいいから言ってもらいたいんだよ。女の子はみんな、一度くらいお姫様になってみたいものなんだ」
「でも、そのために努力をするのは面倒なのですね?」
「そうです!」
「はぁ……」
「ねえ、マスター」
「なに」
「私は、あなたのことが一番大切ですよ」
「……あの。あのさ。砂漠のような肌に、染み渡るくらいいい言葉なんだけどね。なんか……立ち位置遠くない? 気のせいじゃなかったらさっきよりも」
「私はそういったことは――」
「しないのはわかったから、襲わないって! 別に!」
「マスター。私の、目を見て、言ってください」
「オソイません。ヤクソクします」
「もういいや。私は今から風呂に入って、寝るわ」
「バスタオル洗面所に置いてますよ」
「ありがとう。じゃあ、『おっけー。ぐーぐる』明日は7時に起こしてね」
「一月一日の7時ですね。かしこまりました」
「お休み」
「お休みなさい。マスター」
良いお年を!




