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第一魔王編

今回は第一魔王が登場です。


ゆうしゃけん CV 鈴村健一

第一魔王 CV 伊藤かな恵 

 「ここが……――魔界、か……」

 ゆうしゃ けんは、ぼそりと呟いた。

 ゆうしゃ けんは、魔界への入り口に立っていた。目の前には、魑魅魍魎がうごめく世界が広がっていた。シン……と静まり返り、空気は重く、ピリピリと肌を刺すような雰囲気に包まれている。

「この最下層に、ヤツはいるのか……」

 

 ゆうしゃ けんは壮大な冒険の末、魔王クマオが、九階層からなる魔界の最下層に君臨する魔王だということを知りえた。

 その魔界へと通じる山があることを知り、ゆうしゃ けんは山の頂上へと登った。

 その山の名は――阿譜麗皇主多慈王(あふれこすたじお)

 苦難の末、山の頂上へと登ったけんの目の前には、恐ろしき魔王がいるはずの魔界への入り口。

 九階層からなる魔界には、それぞれの階に君臨する、恐ろしき魔王がいるという――。


 魔界への入り口に立つゆうしゃ けんの膝が、笑っていた。

「くそっ! ここまで来て何を怖がっているんだ、俺は!?」

 ゆうしゃ けんは自らの脚を叩いた。

 準備は万端に整えた。どんな道具も99個まで入る不思議な道具袋に装備やアイテムを詰め込み、艱難辛苦を乗り越えここまで来たのだ。

 俺は勇者だ! 俺の名は――ゆうしゃ けんだ!!

「行ってやろうじゃねえか、勇者らしく! 笑ってなあ!」

 ゆうしゃ けんは無理やりに笑顔を作り、魔界へと足を踏み入れた。

「初めのいーっぽ!!」


ゆうしゃ けんは、魔界の平原を歩いていた。時折、モンスターと遭遇したが、魔界にまで到達したけんにとっては敵ではない。

「クスクスクスリ…」

 その時、口元を抑えた押し殺すような笑い声が聞こえた。

「誰だ!」

 けんは叫び辺りを見渡すが、そこには誰もいない。しばらく警戒したが、やはり声の主の姿は見えず、けんはまた歩き出した。

 すると目の前に、地下空間にあるとは思えぬ、中世のころと思われる――荘厳な城が現れた。

「もしかして、ここが――」

 魔王城――か!

 突き出た塔がいくつも並び、白い壁に、装飾が施された柱が並ぶ。

「あそこに……、魔王がいるのか」

 けんは震える声でつぶやき、冷や汗が頬を伝った。

 ここは魔界の地下一階層。地下二階へと行くには、この城の中にある階段を下るしかないらしい。そこにはもちろん、この階層に君臨する魔王――第一魔王がいる! その魔王を倒さなければいけない!

 目的は地下九階層に君臨する魔王――第九魔王“クマオ”!!

 ここは()()魔界の地下一階層。こんなところで足踏みしているわけにはいかない。けんは力強く足を前に踏み出した。

「………んん? …あれ!?」

 魔王城の門扉の前まで来て、けんは戸惑った。

「なんか……大きさが……、おかしい?」

 けんは首を傾げた。目の前の門の向こうにある魔王城は、確かに荘厳な建物だった。城壁もコンクリート造りで強固なものだった。

 が! 小っちゃい……。

 ちょっと背伸びをすると、城壁の上から城内がのぞける。城壁の向こう側、緩やかな丘の上にある城は二階建てなのだが、明らかに一階建てより少し大きいくらいの高さしかない。

 大きいのは大きいのだ。立派は立派なのだ。

 ただ。大きさが普通の4分の3なのだ。

「…………」

 けんは不審に思いながら、警戒をゆるめることなく――ビクビクとびびりながら――城門を開け緩やかな丘を登り、重厚な城の扉を開け、城内へと足を踏み入れた。扉を開けると、そこには赤いじゅうたんが敷かれ、その先には幅の広い5段の階段があり、頂点の奥には豪華絢爛な玉座があった。

 その玉座には、誰も座っていなかった。

「どういうこと……だ?」

「クスクスクスリ」

 その時、またも笑いをこらえるような声が聞こえた。

「誰だ!」けんは叫び辺りを見渡す。「……魔王か!? いるのはわかっている、姿を現せ!」

 けんは剣の柄に手をかけた。

「クスクスクスクス…。この魔界、ここ第一魔王城に久々にあらわれた者がどんな奴か期待したものだが、なんてことはない、ただの人間ではないか! クスクスクスリ」

魔王城内に響いたその声に、けんは今いる場所も状況も忘れ、思わずこうつぶやいた。

「声……――可愛いぃ………!」

「………え!?」

 口を突いて出た言葉にけん自身が驚き、いまだ姿を現さない者の――戸惑いの声が城内に流れた。

「なっ!? ななな、な! …何言ってんの!? バッ、バッカじゃない!! か…、可愛いって……」

 よく通る、透き通った、高音ながらも耳障りに感じない声で悪態をついた言葉を言って、語尾は消え入りそうな小さな声で、それでいてはっきり聞こえる声が、けんの鼓膜を震わせた。

「かわえ~声やぁ…。……は!? 違う、そうじゃない」けんは恍惚の表情を浮かべた後、はっと我に返り頭を左右に振った。「第一魔王だな!? いい加減に姿を現せ!」

 鞘から剣を抜き放ち、けんは剣を構えた。

「かわえー声って…。……はっ!? ん、うんん」声の主も照れたように言った後、我に返ったような咳ばらいをした。「どこを見ている、人間。我はここにいるぞ」

 声の主は、取り繕うよな精一杯の荘厳な声をだして言った。

「……どこだ? どこにいる?」

 けんはへっぴり腰で剣を構え、辺りを見回した。

 姿が見えないというだけで、これほどの恐怖を感じるとは…。このプレッシャー、威圧感…、それと可愛い声……! これが――魔王……!!

 けんの背中に、ジワリと冷や汗がにじむ。

「………。どこを見ている!? さっきから目の前にいるぞ」

「…なんだと?」

 声の主の言うとおり、声は前方、すぐ近くから聞こえる。けんは目を凝らして前方を凝視するが、前には玉座らしきものが見えるだけ。

「嘘をつくとは卑怯だぞ、魔王! 姿を見せて正々堂々、俺と戦え!」

「う、嘘なんかついていない! ちゃんとお前の正面にいるぞ」

「…正面に?」

 けんは目を細めて正面を凝視するが、やはり誰の姿も見えない。

「…………した」

 その時、小さな声でそれだけ聞こえた。

「え?」

 けんは訊き返した。

「……した」

「…ええ?」

「した」

「え、何が?」

「しーた」

「ええっと、だから何が?」

「だから、しー! たー! 下を見なさいよ!」

「…下?」言われた通り、けんは下を見た。「ン~…。……はっ!?」


 そこには。小さな、ちいぃ~さな――リスがいた!

 クルミを手に持ち、頬を膨らませたリスがそこにいた。


「か、可愛いぃ……」

 足元にいた小さなふわっふわの存在に、先ほどまでの緊張や警戒心など吹っ飛び、けんは表情を緩ませた。

「え。…可愛いって、わたしのこ……と!?」

 睨み付けるように見上げていたリスは、顔を真っ赤にして「可愛い」と言った目の前の男性を見つめた後、照れくさそうにうつむいた。だが、ふわふわのしっぽの毛はさらに毛羽立ち、フリフリと揺れていた。

「え、ええ!? 君が魔王なの? どう見ても……リ――」

「リスじゃないもん! ちゃんと魔王なんだから! バカにしないでよね!」

 ツンとそっぽを向いて、まだ頬が赤いそのリス――魔王は、可愛い声で力強く言った。

 その言葉通り、一見リスに見えるが、ふわふわの大きなしっぽは二又に割れ、手に持つクルミと思われた丸い物体は――名称“RGO IMPACT”――ロシア製の手榴弾だった。

「我が名は、ツン・D・レリス! ここ第一魔界を任された――第一魔王よ!!」

 小さな身体をふんぞり返らせて、第一魔王ツン・D・レリスは名乗った。だが、けんにはこう聞こえた。

「え、『ツンデレです』?」

「~~~~~っ!!」けんの言葉を聞き、ツンデレ…じゃない、ツン・D・レリスは怒りで顔を真っ赤にさせた。

「ツンデレじゃなーーーい!!」

 次の瞬間には手榴弾の安全ピンは引き抜かれていた。

「……え」

 カランコロンと足元に転がってきた茶色く丸い物体が――炸裂した。

 ちゅどーん!!

 けんは高橋留美子先生が描くマンガのような、親指と人差し指と小指を立てたポーズで吹っ飛んだ。 

「何? ツンデレって。なんか、すごくバカにされた気分。わたし、その…ツ、ツン、デ? レ!? なんかじゃないんだから!」

 ツン! とそっぽを向いて、ツン・D・レリスは言った。

「……ご、ごめん、ごめん。そうだよねえ」けんはなんとか立ち上がり、いきなり手榴弾投げるか!? お、恐ろしい……と思い、機嫌を取ろうと作り笑顔を浮かべて言った。「けど、身体は小っちゃいけど、ホント声は良く通る――」

「ちっちゃくなーーーい!!」

 次の瞬間にはどこからともなく手に現れた二発目の手榴弾の安全ピンは引き抜かれていた。

「ちょちょっと待っ――」

 ちゅどーん!! またもけんはあのポーズになって吹っ飛んだ。

「何? 初対面の相手をちっちゃいって。バカにしないでよね。……ま、まあ!? 少しは小さいかもしれないけど、これでもれっきとした大人…、子供じゃなーーーい!!」

 次の瞬間〈以下略〉

「何も言ってなーーーい!!」

 けんは〈以下略〉


「ぐ、ぐふぉ……」

 三発の手榴弾の爆発に、けんのHPは限界まで削られた。RGO IMPACTは小さな体にもかかわらず、破壊力は抜群だった。

(ま…、まずい……! このままでは死んでしまう。可愛いナリと声でも、魔王は魔王か……)

 けんは倒れ込んだまま、回復薬を取り出そうと身をよじり、不思議な道具袋から『エリクサー』が入った小瓶を取り出した。それを飲もうと口へと近づけた、その時――

「なに、それ?」 

 ツン・D・レリスが、けんのすぐ目の前にいて、小首を傾げて尋ねてきた。

「………」

 いつの間に? けんは驚きと、ツン・D・レリスが手に持つ手榴弾への恐怖から、声を失った。

「それ……、おいしいの?」

 右に傾けていた首を左に傾げ、ツン・D・レリスは続けて尋ねる。

「……あ、ああ。あまりおいしいもんじゃないけど――」

 けんは言いながら、まずいぞ、これを魔王に渡すわけには…と思い、他に美味しいものを渡せばと考えた。

「こ、これなんかどうでしょう?」

 すでに精神的に配下のような気持ちで言って、けんは不思議な道具袋からお菓子を取り出した。

「なにこれ?」ツン・D・レリスは目を輝かせ、目の前に並べられたお菓子のひとつ、おかきを手に持った。

「アー…、あっ!? ……コホン、食べていい?」

 ツン・D・レリスはすぐ口に運ぼうとした、が、はしたないと思ったのか頬を赤らめ、けんに食べていいか上目づかいで訊いた。

「ええで~」けんは表情を緩ませていった。

 ツン・D・レリスは「わーい」と小さな口でおかきをカリカリと食べ始めた。

(い、今のうちに……)

 食べる様子を見たかったが、けんはツン・D・レリスがおかきに夢中になっているうちにエリクサーを飲もうとした、が、

「おいしかったぁー」

 ツン・D・レリスはすでに食べきっていた。

「えええー!?」

 もう食ったんかい! けんはそうツッコみたい言葉をぐっと飲み込んだ。なぜなら、魔王はすでに四個目の手榴弾を手にしていた。異次元から無限に手榴弾を取り出すことができる、魔王ツンデレの能力だった。

 その小さい体のどこにお菓子が入るんだと思ってみると、ツン・D・レリスの頬が膨らんでいる。そうだ、リスには頬袋があった。

「じゃ、じゃあ、これなんかはどうでしょう」

 けんは新たに、せんべい、たいやき、アイス等々…、不思議な道具袋から次々と食糧を取り出してはツン・D・レリスに献上した。

「え、こんなにいいの?」

「どうぞ、どうぞ」

 それを食べているうちにエリクサーを、と、けんは思ったのだが、ツン・D・レリスはそれらをぺろりと平らげた。

 そして、その眼はけんがかたくなに手から離さない、エリクサーが入った小瓶へと注がれた。

「の、飲みますか?」

「いいの?」

「どうぞ、どうぞ。ボク、たくさん持ってますんで」

 やばい、今すぐ飲まなければ――と思うのだが、四発目の手榴弾を喰らえばその時点で終わる。けんはエリクサーを、笑顔で第一魔王に手渡した。

「ありがとう!」ツン・デ・レリースはお礼を言って、手渡された小瓶に口をつけ、エリクサーを一口含んだ。

「まずい! いらない」

 だが、口に合わなかったのか、すぐさまけんに小瓶をつき返した。

「そ、そう? じゃあボクがもらうね」

 内心、こんちくしょう…! という怒りを押し殺し、けんは自分の命に一刻の猶予もなかったため、つき返された小瓶に口をつけ、一気に飲み干した。

「あ! ちょっ――」ツン・D・レリスは顔を真っ赤にした。「それって、間接……キ――」

 スじゃない……! さっきから私に美味しいものをくれるし、私の声、ほめてくれるし、え、ええ!? ちょっと待って。もしか……し、て――。

「ぷはあ! 回復したー」

 けんは自分がした行為によって、ツン・D・レリスがあさっての方向へ思考を巡らせている間に回復を果たした。これで戦えると思って見ると、ツン・D・レリスは下を向き、真っ赤になりながらブツブツと独り言をしゃべっていた。

「魔王、ツン・D・レリス! 今度こそ――」

「…ねえ」

「はい!」

 剣を構え啖呵を切ろうとしたけんに、ツン・D・レリスが一言発すると、けんは直立不動で返事した。

「なんでこの魔界に来たの?」

「…あ、ああ。この魔界の最下層、第九階に君臨するという魔王に用があるんだ」

「第九魔王に…?」

 けんの話に、ツン・D・レリスはゴォッ! と不穏な空気を纏った。

「え」

「何? 私というものがいながら、第九魔王になんかしようっていうのぉ~!」

「ちっ、違うんです! 話を聞いて!?」

 あれえ? 俺、なんでこんな弁解しなきゃいけないんだろう…と思いながら、けんは説明した。自分の国の人々が第九魔王クマオによってクマのぬいぐるみとなってしまった、その者たちを元の姿に戻すため、クマオを倒すために第九階まで行こうとしていることを、誠心誠意、話した。

「ふうぅ~ん…。じゃあ地下へと進みたいんだ?」

「はい」

「ふーん。べ、別に、あなたがどうしても行きたいんだったら、行かせてあげても、い、いいけど!?」

「ほんとに?」

 けんが身を乗り出して訊くと、ツン・D・レリスは頬を真っ赤にさせた。

「か、勘違いしないでよ!? こ、これは美味しいものたくさんくれたからなんだからね! あなたのことなんか、何とも思ってないんだからね!」

「あ、ああ。ありがとう」

「バ、バッカじゃないの、お礼なんか言っちゃって。あんたみたいな弱っちいのが第九階まで行けると思ってんの?」

「それでも、俺は行かなきゃならない」

「なんでよ」

「それは。俺が――勇者だからだ」

 決まった! けんは自分で言って、自分でそう思った。

「…………」

 シン……。ツン・D・レリスの心には、無音だった。


 「じゃあ、行ってくるよ」

 地下二階へと降りる階段に足を踏み入れ、けんは後ろを振り返って言った。

「………ねえ。そういえば、あなたの名前、聞いてなかったんだけど」

 ツン、とそっぽを向いたままツン・D・レリスは言った。

「ん? そうだったか!?」言ってけんは、ツン・D・レリスの前まで戻った。そして、高らかに名乗った。「俺の名はけん! ゆうしゃ けんだ!!」

「……変な名前」

 ツン・D・レリスの言葉に、けんは「へへ」と笑顔を見せると地下へと視線を向け、あとはもう振り返ることなく階段を駆け下りていった。

「ほんとに九階まで行けると思ってんの?」

 ツン・D・レリスがけんの背中に向かって言うと、けんは「行ってみせるさ」と後ろを振り返らずに威勢よく応えた。

「………」

 ツン・D・レリスはけんの姿が見えなくなると、後ろを向き玉座に戻ろうとした、が!

「もう!」

 ツン・D・レリスは踵を返し、地下二階へと降りる階段へと歩を進めた。

「か、勘違いしないでよ! けんのことが心配で行くんじゃないんだから! けど、このままだと第二魔王にやられちゃうから、そうなるとあのおいしいお菓子、二度と食べられなくなるからなんだからね!!」

 と、独り言を言いながら、ツン・D・レリスは階段を下りた。 




この話を書いている途中で「すずまお荘」の終了の報がありました。

そんな感じがしていましたが…。さみしいです。

今後、1年に1回でも放送してくれたらなあ、と願っています。


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