表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
2/3

第七魔王編

今回は「第七魔王編」です。

怒らないで、軽い気持ちで読んでください。

 ゆうしゃ けん CV 鈴村健一

 

 ニャニャ魔王  CV 堀江由衣



 「ミートボールゥ…アターック!」

「ぐはっ、ああぁぁ……」

 男の頬に、魔王が繰り出した必殺パンチが見事に炸裂した。必殺パンチを喰らったにもかかわらず、男の表情は、恍惚としていた。声も、悲痛な声ではなく、腰砕けになる蕩けた声だった。

 なぜなら、「ミートボールアタック」を打ち出した拳が――ネコの手だったからだ!

 男の頬に「ミートボールアタック」が炸裂したときの炸裂音は――プニィ…♡ だった。

 ミートボール……、直訳すれば――『肉球』


 そう。その魔王は――ネコだった。しっぽが2本、漆黒の闇のような、二又のクロネコだった!


 「ニャーッハッハハハァ! 貴様の力はそんニャものか、ゆうしゃ けん! そんニャことでは第九階まではおろか、ここ、第七階を通すことはできニャい、ぞ♡」

 クロネコはこう言って、小首を傾げた。

 人を魅了する、小さなネコの姿をしたその者は――第七魔王だった。

 その姿は正にネコそのものだったが、しっぽは二又に割れ、右のしっぽは白く、左のしっぽは黒のモノクローム、目は金色に輝いていた。


 そのクロネコは、もともとは「ホーリー・A・ユイ」という、天界に住む天使だった。

 だが、ジャンクフードとお菓子ばかりを食べ、部屋を片付けずにゲームばかりしている自堕落な生活から堕天してしまい、ネコの姿へと変えられてしまったのである。

 それでも、霊力の強さから二又のクロネコとなり、右側のしっぽが白いのは、天使の名残かもしれない…。

 そして今、第七……、いや、第ニャニャ魔王として、ゆうしゃ けんの前に立ちはだかった。

 

 「フッ。なかなかやるな、ニャニャ魔王! だが、威力は何ともない」

 見事に必殺パンチをもらってしまい、肉球を頬に押し付けられたまま、ゆうしゃ けんは苦し紛れに良い声で言った。

「威力はニャんともニャいとは……、そのセリフ、もう一度言ってみろぉ!」

 ニャニャ魔王は怒りに、その小さな身体をプルプル震わせた。

「喰らえっ! ミートボールアタァーック!!」

 プニィ♡ ニャニャ魔王の必殺ネコパンチが、再びけんの頬に炸裂した。

「ぐ、はああぁ……」

 喰らったけんは恍惚の表情を浮かべる。

「ミートボールアターック!」

 プニィ♡

「は、ああぁぁ……」

 やはりこんなもの、いくら喰らっても――。

「ミートボールアターック!」

 プニィ♡

「ああぁぁぁ……」

 ミートボールアタックを喰らうたび、けんは蕩けた声をだし、腰砕けになっていった。

 けんは防御することもせず、無防備に4度5度と、ミートボールアタックを喰らった――自ら頬を差し出すように。

 そして、けんはいつしか――横になって床に寝転んでいた。

「……はっ!? どっ、どういうことだ……? 痛くもかゆくもないパンチなのに!?」

 第七魔王城、床に大の字になって、けんは目を見開き狼狽した。その頬には、ニャニャ魔王の前足が乗っかっていた。

「ニャーッハッハハハァ! どうニャ、これが『ミートボールアタック』の真の威力ニャ」

 けんを見下ろし、ニャニャ魔王は高らかに笑った。


 『ミートボールアタック』――その肉球の独特の感触から、喰らうたびに体の力は抜け、その独特の香りはクセになり、いつまでもいつまでも飽きることなく触っていたいと思わせ自ら喰らってしまう、恐ろしい技だった。


 「な、なんということだ…。この感触から逃れられない! くっ! このままでは2度と立てなくなる……、その前足をどけろぉー!」

 小さく軽いクロネコなど、力づくでどかせることもできるのに、けんはしない、できない。いつまでもその肉球を押し付けていてほしいとさえ思っていた。

「ニャーッハッハハハァ! ニャーッハッハハハァ!」

 高らかに笑うニャニャ魔王の笑い声を聞きながら、

(あぁ……。俺も、ここまでか…)

 と、けんの心が折れそうになった、その時。けんの脳裏に、クマのぬいぐるみと化した――恋人の姿が浮かんだ。

「やられはせん……」――そうだ! ここで俺までもが倒れたら……、誰が、皆を人へと戻せるのだ。

「やられはせんぞおぉぉーーー!!」――彼女を人の姿へ戻すため……、

 けんはニャニャ魔王の肉球が頬に押し付けられたまま、人類のため、愛する者のために立ち上がる。

「ニャ…、ニャんで立ち上がれる……? ニャにがお前を奮い立たせるニャ!?」

 ニャニャ魔王は驚愕した。いまだかつて、自分の必殺技「ミートボールアタック」をここまで喰らって立ち上がれた人間はいなかったからだ。

「彼女の――『おっぱい』を元に戻すためにいいいい!!!」――モフモフに化したおっぱいをプルプルに戻すために!!!

 立ち上がったけんは魂の叫びを発した。

「………。えぇ……」

 ニャニャ魔王は後ずさった。目の前の男に――正直、退いた。

「………。ニャニャ魔王っ! なぜ立ち上がれるかと訊いたな。それは、この俺の正義の心が、皆を、人々を救えと急き立てるのだ! だ! だぁ……」

 ビシィッ! とニャニャ魔王を指さし、ゆうしゃ けんは勇者らしくキメ顔でこう言った。自分で編集点を演出し、エコー音まで言って……。

「えぇ……」

 ニャニャ魔王はさらに退いた。

「……ニャニャ魔王っ! 覚悟しろ!」

 けんは、強引に戦いに持っていこうとした。

「えぇ!? なんか……いやだぁ……」

 ニャニャ魔王はうろたえた。『ミートボールアタック』を何回か打ち込めば簡単に勝負はつくだろう。けれど、なんか…打ちたくなかった。

 目の前の男が、鼻の穴を広げ、高揚した、紅潮した顔でずんずんと近づいてくる。

「? どうした、ニャニャ魔王。逃げるのか」

 ニャニャ魔王は逃げた。

「ニャーッ! 来るニャー!」

 ネコは追えば逃げる。

「ユシャシャシャシャシャシャ。この俺の正義の心に、怖れをなしたな?」

 けんが口の端を持ち上げてこう言うと、ニャニャ魔王には助べえそうな笑みに見え、ゾゾゾとしっぽが毛羽立った。

「くぅー! バカにするニャ! 貴様の『性』義の心がキモいだけニャ!」

 ニャニャ魔王はしっぽを立てて威嚇する。

「こうニャったら……、もう一つの必殺技で、貴様を恐怖のどん底に落としてやる!」

 ニャニャ魔王は4本の足を踏ん張っていった。そして、

『キャーッツ…アーイ!!』

 と、もうひとつの必殺技の名を叫ぶと、ニャニャ魔王の金色の眼が光った。

「く、今度は何を……?」

 けんは、光るニャニャ魔王の眼から光線が出るかと思って身構えたが、ビームなどは出ず、ただ、ニャニャ魔王は――魔王城の天井を見上げた。

「………」

 ニャニャ魔王は、ただ、見上げている――何もない天井を。

「………。え、えっ? ええ!?」

 けんも天井を見上げるが、やはりそこには何もない。

「………」

 ニャニャ魔王は見上げる……、なにもないはずの天井を。

「ちょちょっ……、何? なんかいるのぉーっ!!? ちょっと待ってぇえええー!!!」

 ニャニャ魔王は背中の毛まで逆立て威嚇のポーズをとった。

 けんは天井から視線を外し、膝をつき、精神的にぎりぎりまで追い込まれた。

(どうニャ? 怖くてこの魔王城にはいられニャいだろう…!?)

 ニャニャ魔王はにやっと、いや、ニャアと笑顔を浮かべた。

「このままでは……、俺の精神がもたない……。アレを出すしかない!」

 けんは恐怖に震える手を、どんな道具もどれだけの量の装備品も入ってしまう『不思議な道具袋』の中に入れた。

「アレ…? ニャーッハッハハハァ! この期に及んでニャにを出すかは知らニャいが、この第ニャニャ魔王、ニャにが出ても負けはしニャい!」

 ニャニャ魔王は腰に手を当て胸を張る。

「これは虎と龍さえも封印すると言われている……」

「虎と龍…ニャとぉ…? ニャフッ、そんニャものと一緒にされたくはニャい……」

「フッ、これを見てもそんなセリフが言えるかな……。見よ! これが…」

 そう言ったけんが道具袋から出したものは、4本の脚と四角い体を、柔らかでふかふかの綿が入った布で覆い隠した――

「『虎龍』(こたつ)っだあーーー!!!」

 炬燵――だった。

「…ニャ、ニャん……、だとぉ……」

 ニャニャ魔王は、今まで聞いたこともないような低い声で劇画調に言った。顔まで劇画調になっていた。

「ニャんニャ……、ニャんニャのニャ、こたつ…ってえええ!?? 初めて聞いて見た物ニャのに、魅かれる……、どうしようもニャく心惹かれるニャーーー!!」

 ふらふらっと、警戒しながらも、ニャニャ魔王の足はこたつへと向いた。

「……~ッ! だめニャ、この中に入ったら最後、2度と出られニャい気がするニャ!」

 ニャニャ魔王の第六感が、警鈴を鳴らした。首を振って思い直す。

 それを見て、けんはこたつの布団をまくり上げた。

「はあああぁぁ……」

 こたつの中で煌々と灯る茜色の柔らかな光が、ニャニャ魔王の魂を誘う。

「だめニャ!」

 ニャニャ魔王は前足で踏ん張った。

(もうひと押しだな……)

 だがけんには、後ろ足に体重を乗せた、ネコ科の動物が今にも飛び掛からんばかりの狩りの様子に見えた。けんの手が、道具袋に伸びる。

「さすがだな、ニャニャ魔王……! だがこれでどうだ、この魅力ですべてを終わらせる…」

 けんの手が袋から出た時、その手に持っていたモノは――

「『虎龍』(こたつ)に、『魅完』(みかん)っだあーーー!!!」

 蜜柑――だった。

「こたつに、みかん、っだとおぉーーーーー!!!」

 ニャニャ魔王は、劇画調に叫んだ。そして、

「……ニャフッ」

 と、鼻で笑った。

「こたつにみかんとはどういうモノか知らニャいが、そんニャものにこの、第ニャニャ魔王が封じ込められるとゴロニャ~ン♡」

 ネコはこたつで丸くなった。


 「勝った…! 苦しい戦いだったが、戦いとは勝っても、むなしいものだな……」

 何もない天井を見上げ、ゆうしゃ けんは渋い顔でいい声で言った。

 こうして。ゆうしゃ けんは第七魔王を封じ込めることに成功した。これで来年の春まで、いいや、あのニャニャ魔王のことだ。夏になったら「あともう少しで秋だし、出しっぱニャしでいっかあ」となるに違いない。

 がんばれ、けん! 第九魔王を倒すその時まで、戦いは終わらない。人類がすべてクマのぬいぐるみと化す前に、戦え、けん!

 次は第八魔王が待っている。



                             〈つづく〉!?  


鈴村さん、堀江さん、ごめんなさい。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ