第九魔王編
とにかく、軽い気持ちで読んでください。
怒らないでください。
CS放送 AT-X内で放送している「すずまお荘」という番組を観て、思いついたお話です。
ゆうしゃ けん CV 鈴村健一
クマオ CV M・A・O
これは、AT-XというCS放送を観て、思いついたお話です。
「クマクマァ…クマーッシュ!!」
「ぐはあーーーっ!!」
アッパーとフックの中間から打ち出される『クマクマクマッシュ』が、男の顎に見事にヒットした。
男の身体は数メートルも吹き飛び、赤い鮮血が飛び散った。
それほどの破壊力を持つ『クマクマクマッシュ』が炸裂したときの破壊音は――モッフ~ン!! だった。
なぜなら、その『クマクマクマッシュ』を打ち出す拳が――モフモフだったからだ!
拳だけではない、脚が、腕が、身体が、頭も含めて全てがモフモフだった。
そう。その者は――クマのぬいぐるみだった。
「くっ……。なんて破壊力だ、クマクマクマッシュ…!」
クマクマクマッシュを喰らった男はこう言って、あごに手を当てなんとか立ち上がった。
「クマーッハハハア! 貴様の力はそんなものか、ゆうしゃ けん! 私の悪行を止めてみせると言った最初の威勢はどうした? クマーッハハハア!」
クマのぬいぐるみはこう言って、モフモフの手でビシッと指差した。
指差された男の名は――ゆうしゃ けん。
指差したぬいぐるみの名は――クマオ。
「さあ。そろそろ――お前をクマのぬいぐるみにしてやろうか!」
クマオは邪悪な笑みを浮かべ、ゆうしゃ けんに向かって歩を進めた。モフ、モフ、モフっと、柔らかそうな足音を立て、1,6メートルはあろう程の大きなクマのぬいぐるみが、ゆっくりと迫ってくる。
ぬいぐるみなだけに邪悪には見えないが、どちらかと…いや、はっきり言えばファンシーな笑顔だったのだが、クマオがニパッと浮かべた笑顔でいったその言葉を聞き、けんは恐怖に震えた。
クマオの能力、それは人間を――生けるクマのぬいぐるみにしてしまうことだった。
クマオはある世界から気まぐれに人間界に来ては、その特殊能力によって人を、クマのぬいぐるみに変えていった。今や、人類の半数はクマのぬいぐるみになってしまった…。
このままでは、人類は全て――クマのぬいぐるみとなり、地上は――クマのぬいぐるみランドと化してしまう!
数多の猛者がクマオに立ち向かっていったが、全て返り討ちにあい、クマのぬいぐるみとなった……。
そんな時。1人の男が立ち上がった。男の名は――ゆうしゃ けん。
ゆうしゃ けんは冒険の末、クマオの住処が魔界であることを突き止めた。
地下九階層からなる魔界へと赴き、第一から第八までの魔王を激闘の末に倒し、あるいは封じ込め、ついに最下層、第九魔界に君臨する第九魔王――クマオと対峙していた。
「まだだ! まだ終わらんよ!」
ゆうしゃ けんは不敵に笑う。
「クマーッハハハア! そんなに膝が笑った状態で何ができる」
クマオの言うとおり、ゆうしゃ けんの膝まで笑っていた。もうガックガクの大笑いだった。
「これは武者震いってもんだ、ユシャシャシャシャシャ」
けんは勇者らしく、高らかに笑う。だが、窮地に変わりはない。このままではクマのぬいぐるみへとなってしまう。モフモフになってたまるか!
「こうなったら……、アレを召喚するしかない!」
「アレ? クマーッハハハア! この期に及んで何を召喚するつもりか知らないが、この第九魔王、何が来ようと負けはせん!」
クマオは腰に手を当て胸を張った。
「言ったな?」けんは口の端を持ち上げた。そして、右手を高く上げ、高らかに叫んだ。
「その大いなる愛でもってすべてを包み込め……、いでよっ! 『おかあーさぁーーーーーん』!!!」
ビシャーーーーーン!!!
魔界に、天から稲光が落ちた。
「お母さんだと!? …クッククク……、クマーッハハハハハハァ!! おっ、お母さんって……、ゆうしゃ けん、なさけないぞ! いい年して親離れもできないのか? ママに泣きつくとは…」
クマオは笑った、腹を抱えて大笑いした。……だが――けんも不敵な笑みを浮かべていた。その表情を見て、クマオが怪訝な顔をしたとき、稲光が起こした爆煙が晴れ、召喚されたその者が姿を現した。
「どうもぉー。いつもウチのマオがお世話になってますぅ」
開口一番、こう言って下げた頭を上げた者の顔を見て、クマオの顔は青ざめた。
「おかあぁーーーさあぁあーーーんんんーーーーー!!!??」
クマオは声の限り叫び、狼狽した。
「あ、鈴村さん。いつもいつも、ウチのマオがお世話になってますぅ」
「いえいえ、そんなことないですよ」
「おっ母さん!?」
お母さんが頭を下げ、けんも笑顔で頭を下げる。クマオはあたふたする。
「ウチの子、迷惑かけていませんか? ちゃんとやっているのか心配で心配で…」
「いえいえ、すごくちゃんとしてますよ」
「お母さん!」
「本当ですか? この子ったら、家じゃな~んにもしないんですよ」
「そうなんですか」
「お母さんん?」
「そうなんですよ、小さいころから…、あ! 小さい頃と言えば、この子が中学生のころかしら。部屋で1人、変なポーズ取ったりして…」
「ほうほう、それは興味深い」
「お母さんっ!?」
「大丈夫かしら? なんてちょっとだけ心配していたのですけど、それから地球を守る職業についたりして、あっ、この練習してたのねって安心しましたぁ」
「ハハハ、それは一安心ですねぇ」
「おかあーさああーんん!!」
「そうそう、ほかにもこんなことがあって、聞いてくれます?」
「はいはい、是非!」
「やあーめえーてええええええーーー!!!」
それから――。お母さんはクマオの子供のころの出来事を次々と明かし、けんと話し込んだ。母に黒歴史を暴かれたクマオは、精神的に立ち直れないダメージを負った。
「ヒッ、お母さん……、帰ろ」
クマオは半泣きでお母さんの袖をつかむ。
「もう、なんなの? お母さん、鈴村さんとまだお話あるのよ、あっ、これ、つまらないものですけどスタッフの皆さんとどうぞぉ」
「これはどうも、お気遣いなくぅ」
お母さんは菓子折りをけんに手渡す。
「うううぅー、かーえーる! おウチかーえーる! かーえーろ! おがあさああああぁぁ~!!」
掴んだ袖をブンブンと振って、クマオはお母さんに号泣しながら懇願した。
「もう、この子は…。すみません、鈴村さん。今日はこの辺で…」
「いえ、また来てください」
2人、深々と頭を下げ、お母さんはクマオを連れだって家へと帰って行った。
「勝った…! だが、戦いとは……、いつもむなしいものだな…勝っても負けても」
手を振って見送ったけんは、いい声で言いながら振っていた手を握り締め、頬はこらえきれずに緩んでいた。
ゆうしゃ けんは、こうして、第九魔王クマオを倒した。
クマオが倒されたことにより、クマのぬいぐるみになっていた人間は元の姿に戻り、世界は救われた。
クマオは家に引きこもり、お母さんに甘えているらしい。
ありがとう、けん! ゆうしゃ けん!!
〈めでたし めでたし〉!?
鈴村さん、M・A・Oさん、ごめんなさい。