7 伝説の粗大ゴミを手に入れた
剣術と魔法に関して、無事に合格点をもらえた僕たち。
「勇者よ、これが我が国に伝わりし伝説の聖剣である。これからの戦いに役立てるがよい」
てなわけで、これもお約束の展開。
国王様に玉座の間に呼ばれ、そこで聖剣をもらえた。
銀色の輝きに、金と青の文様が彫り込まれた剣。
「聖銀に魔法回路を付与した魔法剣か」
その剣を見ての、僕の判断。
軽く魔力を流してみると、聖剣から"聖力"の輝きが放たれる。
この"聖力"いうのは、魔力とはまた違った力だ。
魔族に対してかなり効果的な力を持つが、その才能を持つ人間は滅多にいない。
勇者や聖女と呼ばれる人であれば、聖力を持っているケースが多いが、まず一般人が持つことのない力だ。
そのために、一部では伝説の力なんて呼ばれることもあった。
なお、天使の場合はデフォルトで使える力なので、その血を持つ僕も、当然ながら使えた。
「おお、勇者が手にしたことで、聖剣が本来の力を取り戻した!」
聖剣が光り出したことで、玉座の間にいる偉い人たちが、感嘆の声を出している。
多分、この国にとって、この剣は本物の聖剣なのだろう。
実際聖力に反応しているから、聖剣と言って間違いない。
でも、僕が使うと、この剣は振ってるだけで、すぐに折れてしまう。
基本材質がミスリルなので、僕の馬鹿みたいに高すぎるステータスだと、武器の方が耐えられないからだ。
そして国王様たちには言えないけど、実は僕が所持しているマイ武器の方が、圧倒的に性能が高かった。
だって、オリハルコン製の武器を持ってるんだよ。
このオリハルコンと言うのは、僕の世界では外宇宙船の装甲に使われている材質だ。
宇宙空間で秒速数万キロの速度で飛んでくる宇宙塵の直撃を受けても、瑕一つつかない頑丈さだ。
ちなみに、超高速で飛んでくる宇宙塵の直撃を鉄で受ければ、衝突した際の運動エネルギーで、鉄が融解して溶けてしまう。
いやさー、僕の世界ってマジで地球より科学技術が進んでるから、「これからは宇宙開発をドンドンしていこうぜ」って感じなんだよね。
しかも僕の世界は、地球と違って月が7つもあるので、「まずはすべての月に人工生活空間を作って、生活圏を広げるぞー!」なんてノリになっていた。
なお、「お前魔王の息子で、ファンタジー世界の住人だろう。なんでSFしてるんだ!」という抗議は受け付けない。
魔法は個人によって得手不得手があるけど、科学は設備さえあれば誰にでも使うことが出来るからね。
でも、どうしよう。
聖剣とは言うけど、こんなゴミもらっても、全然嬉しくない。
「あ、ありがとうございます。大切にしますね」
僕は、国王様たちの期待を裏切らないよう、表面ではにこやかな表情をしておいた。
こういうときも、僕はとことん相手を裏切らないように、上辺でいい態度をとってしまう。
そういう性格なのだから仕方ない。
まあ内心では、『骨董品として、大切にします』と付け加えたけど。
そして骨董品の聖剣をもらえた後だけど、
「勇者には、さらに伝説の防具を用意したので、それを装備するとよいだろう」
国王様からの、さらなるお達しだった。
用意されたのは鎧を始めとする防具一式で、基本は騎士のコンラットさんが着ている鎧によく似ている。
ただし、コンラットさんが着ていたのが鉄の鎧だったのに対して、僕用に用意されたのは、またしてもミスリル製だった。
「あら、またゴミですわね」
「あれなら僕の拳でも壊せるよ」
「ポリポリポリポリ」
僕の後ろで、リゼと絶が小声でそんなことを話してる。
あとヤヌーシャ。お前はいつもポッキーを食べてるけど、一体地球でどれだけ買い込んだんだ?
この世界に召喚されてから、もう50箱とか100箱くらい食ってるんじゃないか!?
とはいえ、僕は表面はにこやかにして、
「ありがとうございます、国王様」
と、答えておいた。
こうして、国王様との謁見は終了した。
「勇者様、よろしければ鎧姿をぜひわたくしに見せてください」
国王様との謁見の後、部屋を移すと白豚王女様にそんなことを言われた。
「そうですね。折角ですので、着てみましょう」
一応期待に応えないとね。
ミスリル製の粗大ゴミ鎧だけど、一度くらいは着てもいいと思う。
まあ1回着たら、これも骨董品にしてしまおう。
次に魔王城に帰った時、廊下に飾っておけばいいんじゃないかな。
城には護衛兵として、リビングアーマーという鎧型モンスターが廊下に列をなして並んでいるので、そこに本物の鎧を一つ加えても、違和感がないはずだ。
そして、いざ鎧に着替えようとしたけど、サイズが全然違った。
「畜生、なんで大人サイズなんだよ!僕だって、好きでチビじゃないのに……」
鎧に魔法がかかっていて、着れば自動的にサイズが調整される。……なんてことはなく、鎧が大き過ぎて、着ることが出来なかった。
何が僕用に用意した鎧だ。
マジで、粗大ゴミを渡された気分なんだけど!
「ゆ、勇者様、落ち込まないでくださいな」
鎧のサイズが全然合わないと分かって、王女様がフォローしてくれた。
「ハ、ハハハッ、僕はチビじゃないから、絶対、背は伸びるから……」
でも、僕は大丈夫。
そんなことは、全然気にしてないから……
「シオン様、いくらご自分が小さいからって、そこまで落ち込まないでくださいまし」
「シオン、どんよりオーラが出てるよ。元気出してー」
「ポリポリポリ」
リゼと絶から、慰められてしまった。
ヤヌーシャは、いつも通り平常運転。
「だ、だから、僕は身長の事なんて、全然気にして……ヴっ、ヴヴヴっ」
ち、違うんだ。
泣いてなんかないから!
これは、心の汗だ!
そう、ちょっと汗が、目から流れているだけだから……
チクショウ!
僕は絶対にチビじゃないからなー!
とまあ、僕の身長を改めて自覚させられる、物凄く嫌なイベントがあった。
今回もらった粗大ゴミセットは、永遠にしまってしまおう。
僕は青い宝石が付いたペンダントを首から下げているのだけど、実はこれは量子テクノロジーが使われた、"科学製品"だったりする。
名前は"量子ドライブ"。
これを握りながら、
「インポート」
と言うと、今回もらった粗大ゴミセットが、青い量子の光へ分解され、消え去った。
と言っても本当に消えてしまったわけでなく、これは物質を量子情報化して、量子ドライブ内に格納しただけ。
次に「エクスポート」と言えば、ドライブ内にある情報データを再度物質化して、元の形で取り出すことが出来た。
「勇者様、もしかしてこれは勇者様だけが使えるという、伝説の"無限収納"の魔法ですか?」
なお、科学とは無縁な王女様が、この光景を見て驚いている。
魔法のインベントリとは原理が全く違うのだけど、説明するのも面倒だ。
「まあ、そんなところです」
僕は大幅に説明を省いて、答えておいた。
なお僕の世界には、数万年前に存在した古代文明の遺産が残っていて、その当時既に電気技術を通り越して、その先にある量子テクノロジーの技術が、一般家庭でも使われるほど進歩していた。
これは魔法とは関係なしで、純粋な科学の産物だ。
この古代文明は、古代に崩壊したことで失われてしまい、この時代の科学技術も、今では遺跡から発掘品として出てくるだけだった。
当然、何万年も前の代物だから、どれもこれも壊れていて使い物にならない。
けど、僕の国には長命の種族がいて、寿命が普通に数万年なんて魔族や天使たちがいた。
「ああ、かなり懐かしい時代の物ですねー」
なんて言って、当時を知っている連中は、発掘された量子技術の産物を見ては、チョチョイと修理して、使えるようにしてしまう。
なぜ修理できるかだけど、何しろ古代文明時代から生きてた連中だからね。
「いやー、あの頃は機械いじりをするのが楽しくてですね。何万年たっても、昔覚えた修理技術が使える物ですなー。ハッハッハッ」
とのことだった。
なお、僕の父さんが世界を統一してしまった後は、長命種の連中が、若手の技術指導を始め、古代文明時代の科学技術を現代に蘇らせてしまった。
今では古代文明時代の技術を復活させるどころか、さらに発展させてしまい、新しい技術の開発が貪欲に行われていた
量子技術以外でも、反重力技術を用いた、浮遊自動車やフロートバイク。
軍事技術でも、フロート戦車や、飛行空母に飛行戦艦なんてものも存在した。
科学技術のおかげで、数百メートルの巨大な空母や戦艦が空を飛べる。
まさに科学万能!
これだけの科学力が、あれば世界征服なんて余裕だせー!
と言いたいけど、うちの国の高位魔族の場合、単体でそういうのをポトポト落とせる実力があった。
まあ、僕もその中の1人に入っちゃうけど。
そして、父さん(魔王)曰く、
「技術の停滞は社会の停滞だ」
なんて言って、技術研究にすごく熱心だった。
それはそれとして。
粗大ゴミ装備を量子ドライブにデータ化して格納したので、代わりの物を用意しよう。
さすがにこの世界で、これからも制服着たまま戦おうって訳にはいかないからね。
と言うわけで、量子ドライブのデータの中から、よさそうな装備を見繕って取り出す。
量子ドライブには、神経接続機と呼ばれる技術が用いられていて、頭の中で考えれば、それだけで量子ドライブ内に何が入っているかを、リストで確認することが出来た。
その中から目的の物を選択。
青い量子の光が舞い、量子情報化されていた装備品が再物質化されて、僕の目の前に現れる。
黄色と白を主軸にした、厚手のコートを思わせる服。
見た目はコートっぽいけど、これはオリハルコン繊維を使った、超高硬度の防具だ。
所々にミスリル糸の刺繍が施されていて、さらに大天使(母さん)の加護付き。
物理防御だけでなく、魔法に対しても圧倒的な耐性を持ち、多少の汚れなら付着せず、傷がついても自動で修復してしまう機能までついた一品だ。
"天使の抱擁"と呼ばれる、神級アイテムだった。
これに黒の指ぬきグローブを取り出す。
「うんうん、やっぱりこのグローブをしてると落ち着くなー」
これは僕が戦うときに愛用している一品だ。
もちろんこのグローブにも諸々の加護と機能がついていて、"天使の抱擁"には劣るものの、それでも伝説級クラスの性能を持っている。
あと、量子ドライブの中に"勇者の剣"というのがあった。
これは確か僕の家(魔王城)で、昔宝箱から見つけたものだ。
僕の家って、やたらと壺が置かれていて、その中にアイテムが入っていたりする。
あと、侵入者防止用という銘打った、無駄に行き止まりになっている通路が多いのだけど、そういう行き止まりには宝箱を置いてあることが多かった
……父さんって今でこそ魔王だけど、元は日本人だ。
異世界召喚されて、その結果魔王になったものだから、RPGのお約束気分で、魔王城の各所にアイテムを設置してしまった。
子供の頃の僕は、宝箱や壺のアイテムをこっそり収集していて、その時"勇者の剣"も見つけていた。
父さんが魔王をしているけど、何しろ世界征服までしちゃった魔王だ。
たぶん過去に城にやってきた勇者を返り討ちにして、その時手に入れた剣を宝箱の中に放り込んだまま、その存在を忘れてたとかだろう。
今では僕の持ち物なので、今回はこれを武器にしよう。
ちなみに勇者の剣はオリハルコン製なので、僕が使ってもまず壊れることがない。
そしてこの剣にも、様々な加護や、機能が付与されていた。
その機能の一つに、"勇者にしか使えない剣"という項目があったけど、僕が大天使の加護持ちだからか、普通に使うことが出来た。
ちょっと魔力を通して見れば、剣から眩い聖力が放たれる。
「ああ、なんて神々しい光なのでしょう。まさに"神剣"と呼ぶにふさわしい力を感じますわ」
さっきの粗大ゴミ剣の時以上の反応で、王女様が滅茶苦茶感動していた。
両手をすり合わせて、まるで拝むような仕草をしてるんだけど。
この国の聖剣って、僕が持ってる"勇者の剣"の、超々劣化版以下の性能じゃない?
本当に、使えない粗大ゴミだね。