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6 魔法指南

「宮廷魔術師を務めておりますオイゲンです。そしてこちらはもうお会いしたでしょうが、ワシの愛弟子であるカリンと申します」


 剣術訓練は即終了。

 教える必要は全くないと騎士コンラットさんからお墨付きをもらえた僕たちだけど、続いて魔法の訓練になった。

 そこではオイゲンと名乗る白髪のお爺ちゃんと、僕たちが召還された時、最初に出会ったカリンお姉さんがいた。

 カリンお姉さんは、茶髪にソバカスのある地味な顔のお姉さん。

 眼鏡をすれば可愛いと思うけど、この世界には眼鏡がないのか、残念ながら眼鏡なしの素顔だった。


 実は眼鏡をはずしたら美人だった!

 なんて顔はしていないけど、やはりカリンお姉さんは胸の形と大きさが、とても素晴らしい。



「よいですかな、魔法とは世界の心理へ近づく技であり、いかに武勇に優れていようとも、魔術の深淵を極めることが出来なければ無意味なこと。戦いなぞ、所詮筋肉ダルマの騎士の領分です。勇者様には、ぜひともワシの元で共に魔術の深淵を探求しようではありませんか。そもそもワシが魔術を治めるようになったきっかけは……」


 国王様の時もだったけど、お年寄りの話というのは長い上に、物凄くどうでもいい事を話し続ける。

 しかも、この人って魔法の先生って言うより、魔法キチオーラがするんだけど。


「ポリポリポリ」

「ヤヌーシャ、私にも分けてくださいな」

「ボクにもちょーだい」

 あまりに退屈なものだから、絶とリゼがポッキーをヤヌーシャから分けてもらう。


「僕も欲しいなー」

「じゃあ、私が今食べてるポッキーをあげる」

「関節キッスだね」

「……抜け駆けはダメですわ!」


 今までヤヌーシャが口に入れて、先っぽには涎までついているポッキー。

 だけどどうしてだろう。

 ポッキーを欲しがったら、僕だけリゼに却下されてしまった。


「ウオッフォン。勇者差様方、ワシの話を聞いておりますかな?」

「まあまあ、長くなりそうですし、ここはお菓子でも食べながら……」

「ワシは深淵なる世界の心理について語っておる所。それを菓子などで……」


 う、うわー、面倒くせぇー。

 このお爺ちゃん、逆切れしてきたよ。


 額に青筋浮かべて、今にも怒鳴ろうとしている。

 でも、その姿勢のまま、なぜか固まって動かなくなってしまった。


「あれっ、どうしました?」

「ヌッ、ヌヌヌヌッー!」

「お師匠様、また腰ですか」

「……」


 沈黙するオイゲンさんに、訳知った顔で尋ねるカリンお姉さん。


「もしかしてギックリ腰?」

「ギックリ腰というか、お師匠様は年なので、腰が弱くなってるんですよ」

「ああ、なるほど。それで怒鳴ろうとしたら、こうなっちゃったと」


「ううっ、腰が、腰がー」

 先ほどまでの勢いはどこへやら。今度は弱々しい声になって、その場にヨロヨロと崩れ、座り込むオイゲンさん。


「仕方ないな。ヒール……ん?これだけじゃダメみたいだね。ハイ・ヒール、フル・ヒール、リジェネート、"死者蘇生(リザレクション)"」


 大天使スキルを使って、回復魔法のオンパレード。さらにHP回復のバフに、おまけで蘇生魔法までかけてあげた。

 さすがに蘇生魔法は必要ないだろうけど、相手はお年寄りだからこれくらいしてもいいと思う。

 蘇生魔法は老衰に対して効果がないけど、何しろ相手は生きてる時間より、もうじき死ぬ時間の方が近いご老人だからね。


「んっ?ぬおおおっ、今までワシを悩ませていた腰痛が、嘘のように治った!勇者様、あなたこそが回復魔法を極めしお方。きっと天使様のお力を持つに違いない」

「まあ、天使ですから」


 僕、ハーフだけど、半分本物の天使だから。

 それも下級の天使ならいざ知らず、大天使だから。


 先ほどまでの威張り腐っていた態度を捨てて、僕はオイゲンさんになぜか両手をガシリと掴まれてしまった。


「ぜひともワシに、回復魔法の深淵をご教授くだされ!」

 なんて言われて、逆に懇願される羽目になる。


 魔法の先生役はどこへ行ったんだー!


「カリンお姉さん、助けて……」

「すみません、師匠は魔法になると見境がなくなってしまうんです」


 ご老人に懐かれてしまうなんて、勘弁して欲しい。

 助けを求める僕だけど、心底申し訳ない顔をするカリンお姉さん。


「ほら、お師匠様、勇者様が困ってますよ」

「ヌオオオッ、馬鹿弟子よ!今ワシは回復魔法の深淵を掴むために……」

 以下、ウンタラカンタラ。


 ……なんだろう。

 オイゲンさんって宮廷魔術師っていうより、歳をとりすぎて融通が利かなくなった、頑固でボケた老人にしか見えなくなってきた。

 そして弟子であるカリンお姉さんは、老人介護をしているように見えてくる。


 なんだか、関わり合いになりたくない人に関わってしまったなー。

 もっとも、オイゲンさんの暴走を止めようとするカリンお姉さんの胸は、相変わらず大きすぎず小さすぎずの、体にとてもフィットする大きさ。

 完璧な形の胸だ。

 それを眺めることが出来るのが、この場にいるせめてもの救いだ。


「イデデデッ」

「シオン様、鼻の下が伸びてますわよ」

「シオンのエッチ」

「すけべぇ」


 ああ、せっかくの福楽がー!

 僕はリゼに耳を引っ張られ、絶とヤヌーシャから総スカンを喰らってしまった。


 ク、クソウ。

 訳の分からない年寄りに絡まれたんだから、これくらいご褒美があってもいいだろうに。




「ウオッフォン。勇者様の回復魔法は、既に魔法の極みに達しております。ですが、よろしいですかな。勇者様だけでなく、そのご一行である方々にも魔法の神髄を……」


 あの後色々あったけど、オイゲンさんはまた偉そうな態度に戻った。


 僕のことは合格どころか、魔法を教える必要なしの認定をしてくれた。逆に自分を弟子にしてくれと、年甲斐もなくねだられたほどだよ。

 ハハハ……。


 爺さんを弟子にするとか、何がいいの?

 カリンお姉さんなら、喜んで弟子入りを認めるけどさー。

 やっぱりあの胸は、パーフェクトだと思う。


 それはそれとして、オイゲンさんの視線が、僕の連れであるリゼたちへ向けられる。


「ファイアーボール」

 で、面倒くさくなったようで、リゼが人差し指を弾いて、小さな炎の球を作り出した。

 それを壁に向かって投擲。


「魔法が使えるといっても、そんな蟻のように小さなファイアーボールでは……」


 ――ドガーンッ


 オイゲンさんの言うように、リゼの放ったファイアーボールはパチンコ玉よりも小さい火の玉だった。

 ただしそれが壁に激突した瞬間、直径一メートルを超える巨大な火の玉に変化する。

 火の玉が一瞬で壁を飲み尽くし、やがて消える。

 火が命中した場所は、そこだけ壁が溶けて蒸発し、何も残っていなかった。

 壁に穴が出来て、そこから向こう側を見通すことが出来た。


「よろしければ、これを連続して撃ちましょうか?」

 さらにリゼは10本の指にファイアーボールを浮かばせて、物騒なセリフを吐く。


 頼むから、壁を穴だらけにしないでほしい。

 ここって室内だから、穴だらけになってしまうと、外の風が吹き込んで使いものにならなくなる。

 最悪、建物の倒壊の危険があるし。


「ファイアーボールでこれだけの威力!しかもその指に浮かぶのは、先ほどのファイアーボールと同等の威力を持っているのですな!リーゼロッテ様は、さらなる魔法を使いこなせるご様子。ぜひとも、この非才無知蒙昧なワシに、魔法のご教授をー!」

 またしても立場が逆転。

 オイゲンさんはリゼに平伏して、弟子にしてくれと懇願し始めてしまった。


 そんなオイゲンさんの横で、

「サンダーブレード」

 絶も魔法をぶっ放す。


 雷でできた巨大な刃が構成され、それが180度弧を描いて、空間を縦に切る。

 だけど、ここは室内なんだよ!


 サンダーブレードが通過した後、超高電圧に接触した天井と石造りの壁が、プラズマ化して光り輝き、そして消え去った。


「ああ、太陽の光が差し込んできて眩しいなー」

 サンダーブレードが通過した個所だけ、何も残っていない。

 建物が倒壊しなかったのはよかったけど、手加減しているとはいえ、高威力の魔法を室内で使わないでもらいたい。

 僕はちょっとした現実逃避に入ってしまい、天井の隙間から降り注ぐ太陽の光に、少し目を細めた。


「絶様、ワシにぜひとも魔法のご教授を。なんでしたら、靴を舐めてでも……」

「ヒエッ、そんなことしなくていいから!」


 ……老害爺さんが耄碌して、とんでもないことを言い出したので、絶がその場から飛び退く。

 そのまま僕の背中に隠れて、オイゲンさんを怖がって出てこなくなってしまった。


「……」

 そして最後に残されたヤヌーシャだけど、いつものように無言無表情。

 ただし、ポッキーを杖かタクトの様に構えて、体から膨大な魔力を放出していく……


「ヤヌーシャも、あの変態お爺さんに構って欲しいの?」


 ――ポトリッ


 派手な魔法をぶっ放そうとしていたけど、僕の一言で我に返ったようだ。

 手に持っていたポッキーを取り落とすとは、それだけヤヌーシャも動揺したんだろう。


「……」

 そして我に返ったヤヌーシャだけど、地面にポッキーを落としてしまったので、ガックリとうな垂れてしまう。

 未練がましく、地面に落ちたポッキーを黙って見ている。

 なんというか、哀愁漂う姿なんだけど。


 ――ガブッ


 直後、ヤヌーシャの影が蠢いて、影が地面に落ちたポッキーを食べた。



 ヤヌーシャも人間じゃないからね。

 目に見えている部分が、ヤヌーシャの全てじゃないとだけ、僕は言っておこう。


 なお、この出来事にオイゲンさんとカリンお姉さんは、全く気付いてなかった。




 しかしこんな感じで、僕たちは剣術の訓練に続いて、魔法の訓練も見事にパスしてのけた。


「あり得ない。あんな魔法、私は知らない……」

 なお、熱烈な弟子入り希望のオイゲンさんに対して、カリンお姉さんは僕たちが使った魔法を見て、うわ言の様に呟いていた。


 ?

 僕たちが使った魔法だけど、僕の世界(魔界)では、子供魔族でも使える遊び魔法なんだけど。



 もしかしてこの世界の魔法って、凄く遅れてるのかな?

 勇者を異世界から召喚することができるのに、不思議だね。


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