2 お菓子タイム
クッソ退屈な国王様の話が終了して、僕たちは王女様と一緒にのんびりお菓子タイムを取ることになった。
ただし、お菓子に興味津々だったお后様だけど、国王様と別の用事があるということで、僕たちと同席することにはならなかった
城のテラスにある、いかにもティータイム用の机と椅子が用意されている。
そこで召喚される前にスーパーの買い出しで手に入れたお菓子を取り出し、パリパリ、ボリボリと食べて寛ぐ。
ポテチにポッキー、それにチョコレートなど。
ほとんどジャンク品だけど、王女様はそんなお菓子を食べながら、「おいしいおいしい」と目を輝かせていた。
「さすがは白豚ですわ。一国の王女が食べるような品じゃないでしょうに」
「それを言うと、僕も日本のお菓子を食べちゃいけないことになるのかな?」
「……シオン様は例外ですわ」
一国の王女がジャンク菓子を嬉しそうに食べるのもアレだけど、それを言うと僕だって魔界のプリンスだからね。
いやー、でも日本のポテチは最高だなー。バリバリ、ボリボリ。
なお僕の国は既に世界征服済みなので、人間が住んでいる地上界でジャガイモ栽培をし、油で揚げてポテチも作っている。けど、なぜか日本で買えるポテチと違って、あまりおいしくなかった。
僕の国って科学的にも魔術的にも、地球より発達しているのだけど、不思議なことにポテチを始めとするお菓子の味では、日本に全くかなわない。
いや、お菓子以外でも、食べ物の味は確実に日本の方が上だった。
「こんなに甘いチョコレートなんて、わたくし初めて食べますわ!」
お菓子に関しては、王女様も物凄く気に入っていて、特にチョコレートの甘さに目がなかった。
この国って中世レベルの文明なので、砂糖を大量に使った甘いお菓子は、王族でも滅多に食べることが出来ない高級品のようだ。
「チョコレートは砂糖があまり入ってない方がいいなー」
僕個人としては、甘すぎるお菓子はNG。
ポテチに代表される、糖分と関係のないお菓子がよかった。
「モグモグモグ、ボクはチョコレートなら、何でもいいや。ああっ、とっても幸せー」
そして絶はチョコレートが大のお気に入りで、今にもほっぺたが落ちてしまいそうな満面の笑顔。
リゼの笑顔と違って、絶の笑顔には怖さが全くないから、見ている僕もつい嬉しくなってしまう。
「食べ過ぎると太りますよ。あと、鼻血が出ても知りませんから」
「ムー、リゼのイジワルー」
あまりに絶がチョコレートばかり食べるものだから、意地悪を言うリゼ。
絶が不機嫌そうに頬を膨らませるけど、リゼはホホホなんて笑ってる。
リゼって、性格が悪いよね。
なおヤヌーシャは我関せずで、相変わらずポッキーを1人でポリポリ食べ続けていた。
「……シオン、食べる?」
なんて思ってたら、口にポッキーを加えた状態で、ヤヌーシャが尋ねてきた。
これはあれだね。
2人で1本のポッキーの端と端を食べていって、やがて2人は口付けを……という奴だ。
「ヤヌーシャ、抜け駆けはダメですわ!」
もっともすぐに、リゼが笑顔で止めに入った。
顔は笑っているけど、目が笑っていない、リゼの恐怖スマイルだ。
「私はリゼに聞いてない。シオン様、早くポッキーを食べよう」
「ヤヌーシャ、僕は甘い物は好きじゃないから遠慮しておくよ」
「ムウッ」
甘い物が苦手というより、ここで僕がヤヌーシャと"ポッキーキス"なんてしたら、リゼが煩そうだ。
(ガルルルルルッ)
今だって、リゼはそんなオーラを立たせてるんだ。
ヤヌーシャは残念そうに眉毛を曲げたものの、それも一瞬の事。
すぐに無表情になって、またポリポリと1人でポッキーを食べ始めた。
「ポッキーというお菓子は、素晴らしいですわね。男性の唇を奪い取る、乙女の武器なのですね」
あと、王女様が一連のやり取りを見て、そんなことを呟いた。
「ポッキーは美味しい。ひと箱上げる」
「ありがとうございますわ、ヤヌーシャ様」
結果、なぜかヤヌーシャと王女様の間で、友情が築かれていた。
ま、どうでもいいや。
この後、僕たちはお菓子を堪能しつつ、適当な談笑をしていく。
と言っても、僕たちの世界について王女様が尋ねてくるので、それを僕が答えていくだけだ。
ただし僕たちの故郷である魔界でなく、"異世界留学"していた日本の事をメインで話す。
いやさ、僕の故郷(魔界)の事をここで話したら、今魔王軍と戦ってるこの国の人たちにとって、かなーり不味いことになると思うんだ。
王女様の傍にいる護衛の人たちに、「この魔族どもが!」
なんて言われて、いきなり切りかかられるかも。
この世界の魔王軍と、僕たちの世界の魔王軍では、名前が同じだけでそれ以外全く関係ない。けど、そんなことはこの世界の人たちに分かるわけないだろうしね。
なので、地球の話をメインでしていく。
学校の話や、道路の上を走っている車の事。
スマホとかテレビなど。
「勇者様の世界は、とても進んだ世界なのですね。私では、想像することもできません」
とは、王女様の言葉だ。
見た目は白豚でも、頭はそんなに悪くないらしい。
ただ文明レベルが違いすぎるので、地球の事を理解しきれないだけだった。
でも、僕が王女様に丁寧に説明していたからか、
「勇者様はまだ年端もいかない子供ですのに、随分と大人びた説明が出来るのですね」
なんて褒められた。
王女様は褒めているつもりなんだろうけど、
「王女様、年端がいかないって言いますけど。僕、これでも15歳ですから」
「え、15!だったら、わたくしよりも一つ年上!?」
「僕は背が低いので、よく勘違いされちゃうんですけどね。ハハハ」
「まあ、ごめんなさい。まさか勇者様の方が年上だったなんて」
すみませんね、見た目10歳並みの身長で。
いや、頑張れば僕の背丈でも、ギリギリ12歳児の仲間入りができるはずだ。
そ、そうだ、僕はそこまでチビじゃないんだぞ!
「勘違いされるのは、慣れてますので……」
心の中では物凄く気にしている。けど、僕は口では「いつもの事なので、気にしてませんよー」という感じで、軽く答えておいた。
僕って魔王の息子だけど、外っ面をやたらと気にする性分なんだよねー。
これは性格なので、どうしようもない。
「でも、勇者様が15ということは、もしかしてリゼ様や絶ちゃん、ヤヌーシャちゃんも……」
王女様、なぜリゼだけ様付け?
まあ、それはいいとして。
「わたくしたちの年齢ですか?さあ、数えるのが面倒くさくなったので……」
「みんな僕と同じ15ですよ!」
おおーっと、リゼ。
ここで本当の年齢を答えなくていいから。
僕は大慌てで、リゼのセリフに割って入った。
自分たちの年齢がいくつなのか、とっくの大昔に数えるのをやめたなんて、正直に告白しなくていいから!
リゼたちは、僕以上に見た目と全く違う年齢をしている。
僕だけは、本物の15歳。
そして僕以外のメンバーだけど……女性の実年齢は、知ってはならないとだけ答えておこう。
「まあ、皆さま15歳だったとは!では、異世界の方々は勇者様たちみたいに、皆背が低いのでしょうか?」
「いいえ、僕たちの背がひ、低い、だけ、で……」
ウッ、自分で自分の背が低いことを認めないといけないとは、なんて辛いんだ。
クッ、声が震えるだけでなく、目に涙が溜まってきた。
「シオン様、御自分の背が低い事をまだ気にされてるのですね」
「そ、そんなことは、全然、ない、から……」
「ウフフッ、ムキになって可愛いですわ」
「ムキになってないから!」
リゼが面白そうに笑うけど、やめてほしいよ、本当に。
「あら、勇者様はご自分の背の高さがコンプレックスなのですね」
あと王女様は気を使って誰にも聞かれないように小声で言ったんだろうけど、そのセリフ、僕の耳にちゃんと届いてるから!
「と、とにかく、僕たちの背が低いだけで……僕の世界では、15歳だともっと背が高いですから」
「ホホホ、泣かずによく言えました」
王女様に説明しただけなのに、なぜかリゼに母親みたいに褒められてしまう。
「な、なんだか納得いかない」
「フフフッ、勇者様はとても可愛らしいですわね」
「……それ、全然褒めてないですよね」
「ホホホッ」
リゼだけでなく、王女様からも、僕は微笑ましいものでも見るように笑われてしまった。
チ、チクショウ。
僕の見た目が、母性をくすぐるショタに見えるのがいけないのか!
僕は、絶対に背が高くなるんだからな!
例え今はチビでも、絶対に大人になるまでに、背を伸ばしてやるんだから!
今に見てろよ!
「ねぇシオン、ミルクたっぷりのホワイトチョコレート食べる?」
「食べる!」
そんな僕に、絶が助け舟を出してくれた。
牛乳を飲めば背が大きくなるなんて、ただの嘘っぱちだ。
だけど、僕は絶に勧められるまま、ミルク入りホワイトチョコレートを早速食べる事にした。
嘘だとしても、少しでも背が伸びる可能性のある食べ物は食べとかないとね。