【一話】 恵美、シルヴィーと出会う
「んー、やっぱ私だけなのか。こっちに来たのって……。」
恵美がセムナターン国に来てから、早くも一週間が過ぎていた。
日々サツキを探し回っていた恵美だったが、既に若干の諦めムードが漂い始めていた。
「サツキさんも一緒にこっちの世界に戻って来ていると思ったんだけどな……。私、それに巻き込まれただけなんじゃないかなって思ってたけど………、こうも姿を見せないところを見ると、私だけ召喚された感じなのかな……」
大きな溜息と共に、絶え間なく押し寄せて来る愚痴の嵐を吐き出しながら、恵美はユキの残したノートへと視線を移した。
「……ってか、この観察日記何冊あんのよ………。あの子一体どれだけ情報メモってんの……。」
異世界の情報を少しでも入手しようと、暇があればノートに目を通してはいるが、手に入るのはサツキの行動パターンと好み情報ばかり。
目を覆いたくなるほどのサツキ溺愛ノートに、もはや読む気すら失せてきていた。何十冊も部屋のあちこちに隠されていたノートにはビッシリと文字が刻まれていたが、どれも他愛のないどうでもいい事ばかりが書き綴られており、心底肩を落とす。
「そもそも、『サツキくんが出窓でうたた寝してた。場所:x12y45。ここは今日から新しい聖域に認定。』………もはや意味が分からないわ。こんな事で聖域化されるならこのお城は全部聖域でしょーよっ!!!」
思わず一人でツッコミたくもなる文章ばかりで、読んでいるだけだというのに恵美の体力は奪われていく一方。
「とりあえず、騎士塔に行ってみますか……」
恵美はユキの観察日記を参考に、サツキが生息していたとされる騎士塔へと足を向ける。広い廊下を歩くこと数分。空中に浮かぶような長い橋を渡り、騎士塔へと足を踏み入れた。
「おやおやおやぁ? 見ないお顔ですねぇ~?」
桜色の綺麗な髪をリズミカルに揺らしながら、一人の少女が近寄って来る。
「あ、あの……、初めまして。お邪魔しています。」
丁寧に頭を下げ挨拶をする恵美に対し、少女はいきなり恵美の腕を強く掴み上げ、匂いを嗅ぎ始める。
異世界は変態を育てるのか……と一人で納得していると、少女は徐に顔を上げ、今度はまじまじと顔を見つめて来た。
「あの……何か……?」
「ふっしぎぃ~~♪ ねぇ、キミ誰なの? 」
不思議なのはあんただよ!!!!
と内心ツッコミを入れたくなるところを必死に我慢し、名前を告げると「ふーん」とだけ返される。
聞いといてソレかよ………。
「恵美ちゃんっていうんだねェ~! ま、名前なんて本当はどうでもいいんだけど、最近サツキと一緒に居たでしょ?」
?!!!!
どうしてサツキの名前が出てきたのか分からない恵美は、どう応えていいのか分からず、そのまま表情を強張らせる。
「キミから、本当にかっすかにだけど、サツキの香りがするんだよねぇ~。」
「か、香りですか? 」
思わず確認して匂いを嗅いでみるが、まるでそんな香りはせず恵美は頭を傾げる。
そもそもこっちに来て既に1週間経過しており、その間お風呂はもちろん洋服だって着替えている。
匂いなどそもそもあるはずなどないのだ。
「ン~~、恵美ちゃんにはわっかんないかぁ♪ サツキの香りは強烈だけど判別つかないんだよねェ?」
「……えっと、すいません。そもそもサツキさんの匂いが分からないので……。」
「ま、そうだよねェ~。そもそも魔力も見えないもんねェ~? んで、サツキは?」
「え?」
「いや、だからサツキはどこぉ?」
「いや、それはこちらが探しているんですけど……」
「ところで、恵美ちゃんなんでサツキ知ってるの? 絶対セムナターンの人間じゃないよね? どっちかというと巫女臭がする。巫女族の人間なのかにゃ?」
『巫女族』聞き覚えのあるフレーズ。
自分を召喚した人間らはそう呼ばれていた。
「ち、違いますよ!! サツキさんの事は確かに知ってますけど……、なんていうか……、知っているようでよく知らないというか……」
「随分煮え切らない返事ねぇ~、ま、いいけどぉ~~」
いいんかい!!!
恵美は一瞬迷っていた。
サツキさんの知り合いで、同じ騎士塔に所属しているということはおそらく親しい間柄。なのにどこか詳細は語ってはいけない。そんな気がしていた。
「サツキを探しているなら、心当たりあるけどぉ~、聞く?」
「……はい。」
信用出来るかはこの際置いておいて、情報が一つでも増えるのは有難い。
そう思い、耳を傾ける。
「サツキはね、おそらくラムトゥにいるよ? ストーカー君が随分と奮闘していたみたいだしぃ~」
「ストーカー?!!」
恵美の脳裏には当然『ストーカー』という単語と同時に友人の顔がチラリと見れる。
だが、こちらに来ているはずもなく首を振る。
「なになに? 百面相してぇ~? ストーカー君が気になるのかなぁ~? サツキは本当に熱狂的な信者が多いよねぇ~」
「………まぁ、確かにそうですね。何考えてるかまるで分からないタイプの方ですよね。」
「自己中だし、興味ないことには絶対的無関心、冷血で容赦なく、言葉も選ばない。デリカシーの欠片もなければ思いやりも皆無。いいところと言えば………」
「「顔!」」
同時に口にした言葉が同じで思わず二人で含み笑い。
「くれぐれもキミまで信者にならないでねェ~、泥沼化するからねぇ~」
「それはないです。」
やはり自分の価値観は間違ってないんだと、深く頷きながら恵美は少女に別れを告げる。その足で『ラムトゥ』へと向かうため、まずはクラウスを訪ねた。
*********
【ラムトゥ】
「とういうわけッス。アルラ様は奮闘したんスけど……、まさかコロ様に追放されるとは……。本当にお気の毒なんス~~~」
大口を開け豪快に泣き散らすミミルの頭を優しく撫でながら、ロウは事の詳細を整理し始める。
「要するにだ、アルラって女は長をしていて、精霊奴隷解放を宣言したんだよな? そのせいで追放されたって話で間違いないんだな?」
「そうッス。巫女のババ共は精霊を使役し奴隷化することで、エネルギーの配給を精霊と分担することなく巫女族だけのものにしてたんス。エネルギーは世界、……人々にとってかけがいのないもので、なくてはならないものッス。それの分配を担っている巫女族は言わば王なんス。」
「巫女族の匙加減一つで、どんな大きな国を滅亡される事も、逆に小さな国を大国にすることすら可能ってわけだな。それで私腹を肥やしてきたってことだな。」
ミミルはロウの言葉に深く頷く。
「その甘ぁ~い汁を永遠と啜って生きようとしていた老師たちは、アルラ様って人を快く思わなかったってことかぁ」
「はいッス。元々長を決める儀式は勾玉によって決まるんス。祭壇前に掲げられている勾玉の意思によって選ばれると聞いているッス。」
「でも、長になるまでアルラはその信念をひた隠しにしていたんだよな?」
「そうッス。勾玉が選ぶ前にそういった反思想論者は抹殺対象にされるッスから。ババ達にとって不利益しか生まない連中は害、いわば反逆者扱いにされているッス。」
ゼンはお茶を一口啜り、深いため息を漏らす。
「まるで独裁国家だね」
ミミルはその言葉に同意し、言葉を続ける。
「アルラ様は懸命に奴隷解放を訴えたッス。その活動を一緒に行っていたのが今の巫女族の長コロ様ッス。コロ様はアルラ様の一番親しい付き人だったッス。幼い頃から共に過ごし、ずっと寝食を共にして来られていたんス。ですが………」
「そのコロという女に最後は追放された、ってわけだな?」
「そうッス。コロ様は本当に真摯にアルラ様に尽くされていたッス。なのに急に裏切るなんて……、一体何があったのか………。それでもアルラ様は最後までコロ様を信じておられたッス。目の前で追放され転送されても尚、コロ様を信じると言っておられたッス……」
大きな瞳に涙を溜め、嗚咽交じりに語るミミルの背中を優しく叩き、ロウはサツキへと視線を流す。
「サツキ、このアルラって女、コロってやつをどうしたいって言ってたんだ?」
突然話を振られ、こたつの上に置かれていた煎餅を頬張っていたサツキはお茶で喉のつかえをとり、口を開く。
「あー、んー………、コロ……コロ………、コロねぇ……」
「サツキ様、煎餅こぼされておりますよ。」
アキラに介抱されながら、肩ひじをつき、考え込むサツキ。
「あー………、うん、もういいよ、サツキ。わかんないんだね。」
「そいつをどうするのかは知らないが、巫女族を止めたいとは言っていた。むしろそれしか覚えてない。それに俺も巫女族には用がある。潰してくれるならそれはそれで有難い話だし、協力くらいで済むなら安い話だろ?」
「サツキくん? ミミルたんに『泣いてる場合じゃねぇーだろ』的な熱い説教したキミはどこにいったのかな?」
「海に捨てた。」
「捨てんなよ!!! むしろ大事に胸に抱えていろよ!! 」
「まぁ、でも早く召喚はしてやらねぇーと、とは思ってる。」
ロウはサツキの言葉の意味を察し、息を大きめに吐きながら呟く。
「自分のためにな。」
「クス、ご名答。」
お茶を啜りながら、サツキは楽しそうに笑みを浮かべ、ロウは呆れた眼差しを向ける。
「その性格の悪さ、どうにかしたら?」
「別に悪いとは思ってないけど? 確かに打算的ではあるが、世を生きるのに損得を計算しないで生きるヤツらの方が滑稽だろう? 多かれ少なかれ皆算段して生きている。それを表に出すか出さないかの差でしかない。ならば、むしろ俺はそういうヤツだと自ら示しているのだから性格は良いほうだと思うけどね。」
「屁理屈。」
「屁理屈も理屈。どちらにせよ、アルラに協力する事実は変わらない。それで十分だろう? 俺の思惑がどうだろうとアルラに損はない。互いにとって利益しかないのであれば、腹など関係ない。」
「仰る通りで。それで、召喚するにあたり媒体は持ってきたのか?」
当然だろうといわんばかりに、サツキは懐から髪の束をこたつへと置いて見せる。
「女の子の髪を切ってきたのか?!!!」
「煩いね。別に髪くらいいいだろう。あいつは俺の指を切り落としたんだから。髪くらいで文句を言われる筋合いはない。」
「?!!!! サツキ様指をご切断されたのですか?!!」
「アキラ、落ち着け。話がややこしくなるから、その話はあとでな。」
鼻息を荒くするアキラを抑え、ロウはアルラの髪へと手を伸ばす。
「まるで絹糸のような髪だな。十分媒体として使える。」
「問題は暦の方だ。俺は暦の媒体を持っていない。」
「暦?」
疑問と同時に一気にサツキへと視線が集まる中、説明するのが面倒だというのを悟ったミミルが横から口をはさむ。
「アルラ様の従者の一人ッス。コロ様よりも後から付いた方ですが、とてもアルラ様に可愛がられていた方ッスね。アルラ様を慕うあまり、共に異世界への転送刑を共に受けられたと聞いているッス。」
「そいつの言う通り。一緒にこっちに戻してやるのが理想だったんだが、こうも早くに召喚されるのは想定外だったからな。まだ媒体をもらってない状態だ。」
「なら、先にアルラって女だけ召喚するか?」
「まぁ、致し方ないね。」
ご拝読頂き、ありがとうございました。
奇跡的に気に入って頂けたら、ブクマや評価をくださると大変嬉しいです!!
どうやら最近新しいネタを考えるのが好きになってきてしまっていて、どうしても書きたい物語が増えていく一方です。
近々、また新しい小説を投稿しようかなって思ってます。
筆がのった小説からランダムに更新していきます。
今度は天使と悪魔の純愛ものにしようかなと。




