自称盗賊
外に出ると剣を持ったエルフ達が集まっていた。木の上には弓を構えた者もいる。
そして、前方に敵。同じ防具、武器を持っていた。
明らかに盗賊ではない。軍のような装備だ。もう取り繕う気はないらしい。
隊長らしき一人が前に出る。一人だけ目立つ赤色だから隊長で間違えないだろう。
「抵抗は無駄だ!大人しく投降しろ!今なら命までは取らん!」
声を張り上げて響かせる傲慢かつ不愉快な言葉。
エルフ達が動揺をみせる。「あの装備はライト国の物だ」とか「協定はどうなった」とか「どうせ皆奴隷堕ちにするきだ」とかざわめきから聞こえてくる。
この世界は奴隷制度が有るのか…
「貴様らに従う気はない。それに我らには協定がある!」
協定というのは現在一番数の多い人間が他の種族に対して種族を理由に虐げることは出来ないというものらしい。
「協定?我らは盗賊なのだ。人間だって同じように襲う。たまたま襲う場所がここだっただけだ。それに国が関与してなければ協定なんぞに意味があるのか?」
「な…なにを!?」
うわあ…元々協定なんて人間基準で作られてたらしい。
しかも盗賊と名乗り出す始末。元より話すつもりもないらしい。
「それに…」敵隊長はニヤニヤと醜く笑いながら続ける。
「国がお前らを殺したとして他のエルフとの交流がないお前らの死を同胞が気付くか?」
「ッ…!?」
どうやらあの森にかけられた魔法はあらゆる者を拒んでいたらしい。もともとエルフがそういう種族なのかもしれないが…しかしこれはまずい。
エルフ達は反論するが自称盗賊側は何の反応もしない。
────そして、遂に一本の矢が盗賊の一人に突き刺さる。
受けたものは恐らく即死。その瞬間隊長は笑みを浮かべながら叫ぶ。
「向こうから来たぞ!いいか?男は皆殺しだ‼」
盗賊たちが動き出す。
どこまでも腐った奴らだ。
僕はパニックとなっているエルフ達を残し隊長に向かって駆け出した。
それなりの距離はあったが身体能力向上のお陰で一瞬で距離を詰める。
「なッ!?」
遅い!
隊長は剣を抜こうとするが僕の短剣が刺さる方が速い。
しかし、もう少しのところで異変に気づく。隊長の溝内の辺りがキラリと光った気がする。
嫌な予感がして身体を横に反らす…
予感は当たり隊長の溝内からは剣が飛び出しさっきまで僕がいた場所に届いている。
仕込んでいたのか!?隊長の顔を睨み付けると予想とは少し違っていた。
隊長は驚きと苦痛に表情を歪め、口からは血が溢れる。突き出た剣はそのまま隊長を斬り捨てるがそこに人の姿はなかった。
近くにいる筈と短剣を構え辺りを見渡すと後ろから腕が伸びて僕の胸の前辺りで組むようにホールドされた。
───しまった!?
「みぃつけた」
耳元で囁かれる。
まさか…
僕はこの感覚を知っていた
僕は前の世界の幼馴染みの名前を呼ぶ
「『まい』ですか?」
「んむ…当たりぃ」
ホールドから解かれた僕は幼馴染みの方を振り向くと見知った人物…とは少し違っていた。
銀色な長髪に赤い瞳小さい身長に幼い顔つき。まるで子供の吸血鬼のようだ。でも、雰囲気は変わらない。
ならば。
「力貸して?」
「んん。いいよー」
契約完了だ。
─────さあ、屑どもを皆殺しだ。─────