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望まれた転生。帰る世界はありません。  作者: レイザーライト
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少女出現

 まさかこんなことになるなんて…


 エルフの村の娘、シーの後悔の言葉は尽きることはない。


 村から南の森。人間の間では迷いの森と恐れられていたがエルフにとっては庭も同然。村以外の数少ない安息の地であった。


 だった。今までは。


 シーは追われていた。僅か50メートル後ろには盗賊‥そして、人間だった‥


「どうすればいいのっ‥!?」


 口にしたところで解決はしないがおもわず言葉が漏れる‥

 そう、シーの状況は良くなかった‥いや、控え目にいっても絶望的だった。

 村に逃げ込めば盗賊たちをむらまで案内してしまう。皆でかかれば盗賊を倒しきることはできるが盗賊が仲間に場所を報せる手段なんていくらでもある。


かといって自分一人が戦って勝てるわけがない。

 捕まればどうなるか‥予想するのは容易い。




 しかし、非情。シーは追い詰められてしまった。

 大木を背にシーは囲まれていた。


「こ‥ないで‥」

 シーは震える声で懇願するが聞き入れてもらえるはずもなく盗賊たちはじりじりと距離を詰めていく‥

 人数にして13人。圧倒的な有利に対して慎重すぎる行動は盗賊らしからぬものだった。


 しかしその行動故にシーの頭の中は恐怖で埋め尽くされ違和感を感じる余裕なんてなかった。


 ″私はもう終わりなんだ″

 そんな達観した考えも持つことを許されずシーは懇願し続ける


「やめ‥て‥」

 盗賊の一人が前に出る。シーの絶望した瞳はその一人で視界を埋める。

 盗賊は手をシーの身体に伸ばす。


「いやっ!!」

 シーは身体を丸め目を思い切り瞑る









 ‥‥?



 だが、シーの恐れていたことはなかなか来ない‥


 何かがおかしい‥

 シーは身体を丸めたまま涙等でぐしゃぐしゃな顔を前に向ける。そして目を見開く‥


 地面に伏せた盗賊の一人‥それを踏みつける者


「まだいるのか‥」

 響くように良くとおる鈴のような声‥


 呟いた瞬間踏みつけていた盗賊から短剣を奪い喉に突き刺す。その行為に躊躇いは一切ない。

 シーの視線はその者に釘付けにされた。

 その華奢な身体に‥その長い綺麗な黒髪に‥その獣のように鋭く相手を睨む赤い瞳に‥そんな少女の横顔に‥


 少女がこれから起こす殺戮に‥




「何者だ!?」

 盗賊達は一斉に武器をかまえるが少女の顔には焦りは微塵もない。

 ゆらりと立ち上がりながら死体から短剣を抜くが、その間も獣の目は獲物を探していた。


「矢を放て!!」

 掛け声に盗賊の内三人が弓矢を射つ。距離は短いため矢は真っ直ぐと少女に向かうが最低限の動作で身体を反らしそれをかわす。


「な‥‥!?近接隊!行け!」


 盗賊の内7人が剣や斧を手に少女へ向かっていく。


「いやっ‥‥‼」

 これには今までは放心していたシーも手で顔を覆う。

 盗賊達も自分達の勝利を確信していたようで口元に下劣な笑みを浮かべていた。


 しかし、その笑みは消える。顔からは血の気が引き、恐怖の表情に変わっていく。

 理由は少女にあった。返り血を浴びた頬ではない。右手に握られた短剣ではない。口元であった。少女は嗤っていた‥‥

 獣の目を見開き口端を吊り上げ。それはまるで獲物を発見したかのように‥‥

 少女は動き出す。短剣を思い切り前方へ放つとそれを追うように走り出す。


 短剣は付着した血を軌道上に残しながら盗賊の首に突き刺さる。

「ヒィッ‥‥!?」

 突然仲間が喉から血を噴き出しながら倒れたのだ。盗賊達から短い悲鳴が上がる。


 そして、少女はその動揺を見逃さない。

「よそ見しないでよ」と喉を掴み

「やめ‥!?」




 ブチィ‥


「ア゛‥ア゛‥ア゛ッ!」盗賊はうまく叫ぶことも出来ず喉を押さえ呻く。


「おい!?なんてことしやが‥ッ!?」

 短剣で首に一閃。


 舞う血飛沫の中少女は回るように‥踊るように盗賊達の喉を切り裂いていく。返り血で髪と白い肌は赤く染まるがそのなかでも少女の瞳は輝くような赤で、目立っていた。そしてその瞳にシーは心を奪われていた。



 一通りの獲物を殺し、少女はまるで壊れた機械のようにピタリと動きを止める。

 まだ斬りかかってきた敵以外は健在だが少女にはその余裕はないようだ。

 目を見開き、じっと死体を見つめている。


「危ない!」

 何かに気が付いたシーが声を荒げると少女は微かに挙動を見せるがその瞬間─────

 盗賊のひとりが詠唱を終了し「フレア!」と叫ぶと火炎弾が出現する。

 中級魔法フレア。火炎弾の大きさは術者の技量にもよるため今回は直径三メートル程の球だ。フレアにしては小さい方だが身長が150にもいかない少女には十分致命傷になりうる。


 地面の草や周りの木を燃やしながらそれは少女に衝突する。

 ゴウッと音をたて回りに炎が広がり少女の姿を完全に隠した。魔術の炎は収まるまで時間がかかるため火柱は小さくならない。それは受けたものの生存率を下げる。


 少女は絶命した。予想の範疇ではない。確信の域だ。

 その場に生き残った盗賊は全員がそう思った。

 シーも最初はそう思い悲観したがそれをすぐに捨てることになる。




 蒼。炎の中揺れる蒼の光。それは少女の片目だった。

 炎を、突っ切り現れる蒼と赤の光は今度こそ生き残った盗賊の全てを捉える。


 そして少女は残党を‥‥




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