悪の衝動
正月に母方の祖母の家に集まる。
年が明けて2日目、家族で祖母の家に出かけた。
俺は正直、親戚と会うのが億劫だった。
しかし、お年玉のためには行くしかない。
うちはお小遣いなんて大してもらえないから、
重要な収入源をみすみす逃すわけにはいかない。
そんなこんなで、欲まるだしで間抜け面をさらしにいくわけだ。
「タカちゃん、大きくなったね」
小さくなるわけがないなどと、心の中でつぶやきながら、
親戚一同と顔合わせを済ませ、テーブルを囲んでぺちゃくちゃ話す。
母の兄の陽一は、にたつぎながら言った。
「タカちゃん、最近どう? 」
返答に困った。
特にこの眼鏡のたまにしか合わないおっさんに言うことはないのだ。
俺がクラスで苛められていることや、通知簿が2で統一されていることや、
運動ができなくて、友達にウンチと言われていることを話して、
自分を下げるようなことを言ってもなあ。
などと、思案していると、陽一おじちゃんは、すでに田舎の名士と自称する、
やたらこうるさくて、自慢しいの親父、隆と話始めた。
ふ、大人の挨拶に頭を悩ませるなんてまだまだ子供だなと、
強がりつつ、孤独を感じて、トイレに向かう。
トイレは話しべたで、輪に入れない俺の逃げ場所だった。
あーかったるい、お年玉ももらったことだし、早く帰りたいよ。
小便で時間稼ぎもできず、また俺は適当な席に腰を下ろす。
「そうなんですよ、だから、お父さんは僕のことを笑って」
隆の息子であり、今日集まったいとこの最年長の卓が、
大人に混じって、会話を仕切り始めた。
とにかく、明るくて、ぺらぺらよく話す卓。
2歳年上で、ルックスもよく、田舎ではもてるらしい。
「卓は本当に頑張り屋でね~」
彼の母親正子も、息子に合わせる調子で宴席を盛り上げ始めた。
毎年集まると、この田舎家族がえらそうに席を仕切り始めるのだ。
別にそれについてはどうでもよかった。
名士の親戚というだけで、へこへこする母の兄貴陽一は、
俺の家族などを無視して、田舎家族との会話を弾ませる。
まあ、俺は気楽でいいわ。
ずっと盛り上がっていてくれ。
俺の話題に飛び火しなければ問題はない。
「タカは、友達できたんか? 」
「え? いや、まあ、 あはは 」
いきなり弱点を突いた話を振ってくる卓。
俺は言葉を濁して、その場をやり過ごした。
もう夜になったというのに、帰ろうと言わない。
しかも、卓が大人たちの間でずーーーっと子供とは思えない、
饒舌ぶりで周りの大人たちに笑いを取っている。
よくしゃべる奴だ。
俺とは正反対だ。友達も多いし、口も達者、要領もいいし、
機転もきく。
「この間、書店にいったけど、もう漫画なんて読めないですよ、卒業しました、小説を読んでいますよ、
あれは楽しい――」
「えらいなー卓君は」
ちちち、いらいらしてくるぜ。卒業ってなんだよ。
だんだん、こいつの話がうざくなってきた。
ほかのいとこもだんまりしているし。
それに――絶対こいつは無理をしている。
背伸びをしている。
俺は流暢な会話を話すこの、田舎名士の子供に違和感を感じていた。
なんていうか、たった二歳しか離れていないのに、
大人にこびすぎている。
子供ながらに、俺はそれを感じていた。
だから……俺は奴の足をつねりたくなった。
「痛いな~、タカちゃん、めっ」
まだまだ耐えられそうだ。
大人ぶりやがって。
もう一度俺は卓の太ももをつねった。
「やめなさいって」
まだ微笑むか。どこまで大人ぶってるんだ。
子供らしく怒れよ。この野郎。
その後は意地になって、こいつを怒らせるために、
何度もつねってやった。
5度目に攻撃を加えたとき、卓がいきなり怒鳴った。
「いいかげんにしろよ! この野郎! 」
それだよそれ。眉間にしわを寄せたその顔。
それが子供だよ、その切れた顔が見たかったんだ。
「ごめんなあ」
俺は奴の気取った大人顔をつぶしてやったので満足すると、
席を立った。
人間、年相応に振舞わないとな、背伸びしているガキなんてガキじゃねえ。
なんだか語彙や文章力が劣化してきているので、
リハビリついでに、根暗なことを書いてみました。
ところが、日付を見るとイブでした。
俺、こんなおめでたい日になにを書いているんだろう・・
いや、俺は非リアなので、別にいいか。