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ぼく、人を殺しました

作者: 頭山怚朗

今日は元旦なので、ハッピーエンドにしました。


でも、よいこの皆さんはマネしないでください。

 ぼくは眠そうで迷惑そうな駐在所の巡査に言った。「ぼ、ぼく、人を殺しました」


 やってきた刑事、制服警官、鑑識職員を現場に案内した。でも、そこにはどういう訳か彼女の死体はなかった。二十分後、ぼくは警察署の取調室にいた。刑事さんはぼくが殺したはずの女性の所在確認に追われているようだった。四十分後、刑事が戻ってきて言った。「君の言うとおりの場所から女性の死体が発見された。絞殺だ! 」

「ほら、言ったでしょ! ぼくは人殺しだけれど嘘つきじゃない」 ぼくは思わず笑みを浮かべた。

「笑い事じゃない! 」と、刑事が言った。「殺人だぞ! 」

「すみません」と、ぼくは言った。

 でも、次に出てきたのは刑事の言葉は意外だった。「帰ってもらっていい……。ただし、黙ってこの街を出ないこと」 アメリカのテレビドラマで出てくる台詞だ。ぼくは興奮でぞくっとした。でも、何故、帰っていい?


 女の自宅を訪ねると、母親は娘の遅い帰宅を心配していた。“やはり何かあったのか?! ”と思っていると、母親の携帯に当の娘自身から電話がかかってきた。コンビニで買い物をして「これから帰る」とのことだった。母親が「大丈夫? 」と尋ねると「大丈夫よ。何? 」と言った。「警察が来ている」と言うと「何故? 」と言った。母親の話を聞くとスマホの向こうで娘は笑い転げた……。

 確認のため、待っていると何時まで経っても帰ってこなかった。電話にも出なかった。もしもと現場に戻ると、先にはなかった女の死体があった……。

 コンビニで確認すると、「女性がガムとチョコを買った」と店員が言った。殺された女の写真を見せると、「間違いなくこの女性だ」と言った。女の遺体の首には手の後がくっきりとあったが、店員は「そんな物はなかった。綺麗なひとだったから良く覚えている」と言った。

 女は美人だった。それをいいことに女は“結婚”を匂わせ大勢の男達に貢がせていた。さらに、女には“貢いでくれる女”もいた。女は“金”より“人を操る”ことに満足を覚えたようだ。女に恨みを抱いていた者は余りにも多い。女が殺されたのは“平日の夜の十時前後”。普通、人は家にいる時間だ。一人暮らしは勿論、家族の証言は有効なアリバイ証言にはならず、容疑者全員にアリバイがない……。

 女の首の残された手の大きさはあのとぼけた男の手の大きさだった。でも同じ手の大きさ男なんていくらでもいる。推定死亡時間ではあの惚けた男が殺した可能性もありえるが、実際にはあの惚けた男は女を殺していないだろう……。コンビニで女が、一端、手にした(防犯カメラに写っていた)チョコには指紋が残っていた。

女は男に首を絞められ気を失しなったが、男が駐在所に行っている間に蘇生し現場を離れた。トラブルを言わなかったのは女にも思惑があった。女はそういう人間だった。コンビニを出た後(女のバックの中にガムとチョコがあった。)、今度は本当にあの男以外の何者かに現場で絞め殺された。と、考えるのが自然だ。「ぼくは人殺しだけれど嘘つきじゃない」と言ったあの惚けた男には“警察にいた“という完璧なアリバイがあることになる……。 ひょっとして、あの男、惚けたことを言っているけれどとても頭のいい男で、我々警察を手玉に取っている?

馬鹿な、ありえない。あの男に限って。全くのお手上げだ。迷宮入りだ……。


 美人だったこともあって女が殺されて二・三週間はマスコミで話題になったけれど、犯人が捕まらないまま事件は人々の記憶から消えていった。女の両親も娘が大勢を騙した“悪女”として報道され家に引きこもってしまった。

 女が殺されてから半年後(事件があった年の最後の日の真夜中)、ぼくはあるカラオケ店の個室にいた。

 大勢の男と女で個室は一杯だった。みんな、とても愉快そうだった。普段は飲まないぼくも愉快な酒を飲んでいた。ほとんどの人が彼女の知人だった。で、ぼくは彼等にちょっと協力、アドバイスをした。でも、この宴の後、個室を出たら皆、見たこともない他人になる。

 ぼくの右横には昔からの友人であのコンビニ店員がいた。反対隣にはぼくの彼女。彼女は背格好が何故か殺された女によく似ていた。彼女はフリマネと声色こわいろがうまく、松田聖子の“赤いスイートピー”を歌うとまるで殺された女が歌っているようだった。皆、笑いながら悲鳴を上げた。


“もし、彼女に殺された女のふりをされたら……”と、思ったらぞっとした……。


ヤフーブログに再投稿予定です。

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