真実―まこと―
これは、小説家を目指す、RALAとしての処女作になります。
どうか、最後まで読んでいただけると嬉しいです。
あのことは数年経った今でも思い返す度に複雑な想いがよぎる。皮肉にもハッキリ覚えている。
きっとこれからもこの傷は癒えないのだろう、私の罪は消えないのだと。
――私には、忘れられない恋があります。
私は、新垣宏乃。
男っぽい性格で、あまり女の子らしさは無い。
肌も生まれつきこんがりとした茶色だし、背は高いし、太り気味。着ヤセするタイプだから何とか救われてる、今日この頃。
強いて言えば、地図がダメなところとか………、極度の恥ずかしがりなところ(?)とか。
ただ、一途なことが取り柄の私。
「ヒロっ!!」
私は彼の会社の前で待っていた。
制服を着たまま突っ立っていたので、警備員とすれ違う会社員に変な目で見られた。
こんな面倒くさいことは滅多にしないけど、今日は下心があるから特別な日。
「迎えに来てくれるなんて珍しいねっ!俺に早く会いたくなったの?」
いつも冗談で笑わせてくれる明るい彼、小山歩。
彼は24歳の会社員で、私は16歳の高校1年生。なんと年の差8歳のカップルです。
「違うよ〜。今日はね、歩の誕生日でしょ?」
「そっかあ………、気遣ってくれたんだねっ!優しいなあ………おじさんグッとくるよ!」
「外食しようッ♪歩のオゴリ!」
「援助交際じゃないんだよ、ヒロ………。」
渋々だけど、彼は進み始めた。
彼は私と一緒にいるときは、仕事の愚痴をもらしたりしない。
ため息も、疲れた顔も一切見せない。私の前では若い自分でありたい、と思ってるのかもしれない。
「ねえ………、洋服買ったげるよ。制服じゃ、援助交際にしか見えないっしょ。」
「え〜!!マジで??歩優しい〜〜〜〜!」
見た目が年相応でない彼は、それをひどく気にしている。
年の差も、ひどく気にしている。私がもっと早く生まれていれば良かった、って最近よく思う。
結局、歩好みの“お姉系”の服を着せられていた。
私はもともと“ギャル服”が好きだけど、まあ買ってもらっておいてそれは言えない。
それに、今日は彼の誕生日なんだし………遠慮しとくか、なんて。
「綺麗だ。」
彼は夜景の見えるレストランでそう呟いた。
「何が?っつうかドッチが?」
全く、色気の無い言葉だと思って発言してるけど、彼が“ヒロらしい”って言ってくれると分かってたから。
「ヒロらしい言葉だね」
そう、私は大人な恋に憧れていた。
同世代の子の恋愛といえば、手を繋いだり、キスしたりするのにいちいちドキドキしてるようなイメージ。
だけど、私の理想はエスコートしてくれる素敵な紳士、こうやって夜景の見えるレストラン。
歩と一緒に生活するときの全てが、幸せだとかみ締める瞬間。
私と歩は、いつもふたりで食事するときは大体、私の学校の話とか、歩の学生の頃の話をする。
私が学校で告白されたと言うと、内心妬きながらも「モテるんだね」って言う。
歩が昔、告白されたときのことを聞くと、内心妬きながらも「モテるんだね」って言う。
お互い、いわゆるポーカーフェイスで。
「美味しかったね〜っ♪」
「歩、また連れてきてね〜♪」
「今度はヒロのオゴリでな〜♪」
会計を済ましているとき、ふと歩はコッチを向いた。
冗談抜きにカラッポな財布を私に見せ付けて、眉をゆがませた。
店を出ると、歩はすぐに大きく背伸びした。
「疲れるね〜、ああいうお店は。ん"〜………」
「そうっ?この高貴なワタクシにはお似合いだったけどね。あなたにはそうじゃなくても。」
「ははっ、何それ〜。どっちが年上だよ〜」
そう言って歩は立ち止まった。もう私にはこれから何が起きるのか、分かっていたけど照れ隠しで、いつものポーカーフェイス。
歩はそっと、キスをした。触れるだけの本当に優しいキス。
震えるくらい、ゾッとした。長いキスの後、唇を離したときの切なそうな歩の表情が大好き。
本当に通じ合えてるって感じる、私の憧れたこの恋。
* * *
あんなロマンチックな夜の後なのに、歩は何もしてこなかった。
そのまま家に送り届けて、私を大事に大事にした。16歳には大人すぎる恋だと。
こんなとき、ふと思い出す。
――里見謙。
私の、すごくすごく大事な人。そして、儚く終わりを告げた恋を。
あんな気持ち悪い別れ方があるだろうか………、確かに彼は言った。
あの言葉がずっと私を悩ませ、苦しませている。
私が悪かったから………、謙には非は無いって分かってるから余計に辛かった。
――いつまでも愛されてると思うなよ。
* * *
いつの間にか寝ていた。怖い夢を見た、――悪夢。
ひどい寝汗をかいていた。
“歩、助けて!!!助けて!!!!”
何度も、そう叫んだ。降りしきる雨の中で、ぼやけていく視界。
リアルすぎて、吐きそう………。あの日の光景によく似ていた。
時刻はもう、朝の2時。
怖くて怖くて………誰かに助けてほしかった。
手に持っていた携帯の画面に映っていたのは、“小山歩”。
―プルルル……… ガチャ。
「もしもし〜?広乃はもうっ………何時だと思ってるんだよ〜」
「………怖いよ、歩う………。」
「どうしたの?俺に話して?きっと楽になれるから」
「怖い夢、見たの。もう、すっごく怖い夢だよっ!?」
「………俺、そっち行こうか?ひとりで怖いだろ??」
きっと歩はそう言ってくれると思ってた。歩の優しさに甘えたかっただけなのかもしれない。
ただ、分かってるんだ。歩はウチには来ないこと。
「平気だよ………、おやすみなさい。」
長い、長い一日だった。
* * *
次の日は休みの日だった、日曜日。
正直、どうやって過ごそうか迷ってた。
歩とまったり過ごすのも良し、友達と買物に行くのも良し、ひとりで過ごすの良し。
日曜日に歩の家に行くのは迷惑かな。仕事しているときに行くと、私の前では絶対仕事はしたりしないから中断させてしまうもんね。
歩は、会社では“スーパー会社員”。任せられた自分の仕事はバリバリこなしていくし、きっと女性にもモテてるんだろうなあって………。
〜♪〜♪〜
「もしもし?」
「あ、俺だけど〜。元気してる?」
元気そうに話す向こう側に、パソコンのキーボードをたたく音がする。
――やっぱり、仕事してるんだあ………。
「ウチくる?暇だしさあ〜ここはひとつ………」
歩が話していたとき、
「あ〜ゆ〜むう〜!!誰に掛けてんのー?」
奥から聞こえたので、小さな声だったけどあれは女性の声だった。
いつか会った歩の元カノ、加藤崎さん………。
彼女との思い出は、………罵られたことしか覚えていない。
初めて会った日は、“歩とは別れてない、あなたは遊ばれてるのよ”。
次に会ったときは、“私、デキちゃったの。あなたって本当馬鹿な人ね、可哀相。まだ若いのに”。
「おい………、静かにしろって!!」
歩はできるだけ静かに言ったつもりだと思うけど、ハッキリ聞こえた。
「崎さん、いるんでしょ?いいよ、隠さなくても」
奇妙な間ができた。
「ごめんな………、でも仕事の相談だから!!別に怪しいことは一切………」
―ブチッ ツーツー………―
電話は、切れた。
* * *
それからは、頻繁に友達と遊ぶようになった。男友達もできたし、普通に遊んだ。
嫉妬しているのだと、分かってるけど止められない。
歩から何度も電話があったけど、出る気はしなかった。
何度電話を拒んでも、冷たい態度をとっても、歩は迎えに来てくれると信じてるから。
あれから、頻繁に謙のことを思い返すようになっていた。
謙と出会ったのは、大雨の日。
他校だった謙だけど、ここらへんの地区の中学では有名人だった。
“マジかっこいい人がいる!”
みんな口を揃えてそう言った。まだ、私が中学2年生・14歳だった頃。
「好きです!!!!」
ダメもとで言ってみた私だけど、それは奇跡だった。
「俺も………お前が好き」
そのとき交わしたものが、私のファーストキスだった。
綺麗な思い出、のはずだった。
* * *
私たちはだんだん、離れられない仲になっていった。良い意味でも、悪い意味でも。
“倦怠期”というものが訪れた。別れたのは、出会った日と同じ、大雨の日だった。1年前。まだ1年しか経ってない。
別れた原因はお互いにあった。お互いを責めて、お互いの傷を舐め合った。
私は異様にモテる謙に激怒し、謙は付き合い始めた頃とは明らかに違う、私の態度に激怒した。
ふたりをつなぎとめる思い出は、少なかった。
もっと私が考えていれば、大人だったら良かったのに。大人になれてたら。
あんなに好きだった謙を失ってしまった。
やがて謙は、すぐに他の誰かと付き合い始めた。
それでも忘れ切れなかった私は、もう一度やり直そう、そう言った。
――いつまでも愛されてると思うなよ。
それは、いつかで聞いた言葉だった。愕然として、しばらく動けなかった。
幼い頃に母は病死し、父は酒乱気味だった。
私はほとんど毎日のように頬を殴られ、腹を蹴られ大変な日々を送っていた。
でも、私はお父さんが大好きだった、お父さんが死んだ今でも大好き。
ただ、お父さんは私を恨んでた。恨まれてたんだよ、私は………。
母さんに迷惑ばかりかけてた私のせいで、母さんは死んだんだと言い聞かされた。
父さんは直腸癌だった。最後に言った言葉は
――“いつまでも愛されてると思うなよ”。
* * *
自分でも驚いた、まだこんなに好きだったなんて。
1週間が経ち、私は学校を休みがちになっていた。
週がはじまったばかりの月曜日、正直、今日は登校しようかどうか、迷っていた。
―ピンポーン―
「はい………」
歩は勢いよく私を抱き寄せた。
「会いたかった、ヒロ………」
「何?」
私は冷たく言った。強引に体を離した。
「最近学校に行ってないだろ〜?悪い子だな〜!オシオキだ〜っ」
歩はそう言って、無理矢理家の中に入ってきた。
誰も居ない家、殺風景な家。
「へえ〜!ヒロはここで生活してるんだあ」
「幻滅した?」
少し笑ってみせた。歩は安心したように続けた。
「崎のこと、気にしてる?」
「うん」
「そんなハッキリ言われると言い難いなあ〜。でも、本当に仕事の話だったんだからね〜っ??」
分かってる、本当に仕事の話だったことくらいは。
ただ………、
歩も謙も両方手に入れたいと願っている、欲深い自分が許せない。
一度手に入れたものは、色褪せてしまうのに。
「………気になる人、できたのか?」
心臓が高鳴った。まさに、その通りだったから。
いつものポーカーフェイスは効果が無かったみたいだ。
「そっかあ〜………。でもそれはしょうがないよね、好きになるのに理由は要らないもんね」
そう言うと、歩は徐に私を押し倒した。
ゆっくりと、そして激しく愛し合った。歩とは、これが初めてだった。
でも、お互いが一番分かっていた。
愛の無い行為だったこと。
* * *
朝起きると、隣には歩が居なかった。
“もう、全て終わったんだ”
この言葉が何度も胸に突き刺さっていた。どうしようもなく不安で、何度も名前を呼んだ。
“歩、助けて………助けて”。
私は、謙を手に入れられなくて嫉妬してた。そして憧れの恋と称して自分勝手な行為をしていたこと。
歩に申し訳なかったと思ってる、自分の罪を増やしただけでなんの解決にもならなかった。
机の上には、歩の字で書かれたメモが残してあった。
『 広乃へ。
短い間だったけど、俺は最高にヒロを好きだったよ。
お前がもし、ソイツにひどいことを言われたなら、
いつでもおいて。俺はずっと待ってるから。
いくつ年をとっても、お前を忘れないから。
さようなら、ヒロ。幸せに。
歩 』
こらえていたものが溢れた。
ありがとう、歩………。ヒロもあなたが大好きでした。
あなたが私を大人にしてくれたんだよ、いつまでも優しかった歩。
甘やかした歩。
今、全ての思い出が過去に変わった。
* * *
あれからは、ちゃんと学校にも登校するようになった。
きっと、歩はもう新しい彼女もできたんだろう、あんなにモテてたんだから。
私も頑張らなくちゃいけないね。
こんなにも人に大切に想われた時期があったこと、一生忘れないよ。
私の罪は消えなくても、たとえ最愛の人に深く傷つけられても。忘れられなくても。
明日にうっすらと、希望を持てるんだ。
こんなに、人を愛しいと思ったことはあっただろうか。
こんなに、人を欲しいと願った夜はあっただろうか。
こんなに、人を憎いと感じた日々はあっただろうか………。
今でも私は必死に生きています。
虚実が絡み合い、溶け合っているからこそ
自分の真実に近づいていきたい。
自分に素直に生きていきたい。
罪を背負いながら、私は生きるよ
たとえ、あなたを傷つけても。
この小説を読んで、何か感じていただけたら光栄です。