表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

真実―まこと―

作者: RALA

これは、小説家を目指す、RALAとしての処女作になります。

どうか、最後まで読んでいただけると嬉しいです。

 あのことは数年経った今でも思い返す度に複雑な想いがよぎる。皮肉にもハッキリ覚えている。

きっとこれからもこの傷は癒えないのだろう、私の罪は消えないのだと。

 ――私には、忘れられない恋があります。



 私は、新垣宏乃(にいがきひろの)

男っぽい性格で、あまり女の子らしさは無い。

肌も生まれつきこんがりとした茶色だし、背は高いし、太り気味。着ヤセするタイプだから何とか救われてる、今日この頃。

強いて言えば、地図がダメなところとか………、極度の恥ずかしがりなところ(?)とか。

ただ、一途なことが取り柄の私。


「ヒロっ!!」

 私は彼の会社の前で待っていた。

制服を着たまま突っ立っていたので、警備員とすれ違う会社員に変な目で見られた。

こんな面倒くさいことは滅多にしないけど、今日は下心があるから特別な日。

「迎えに来てくれるなんて珍しいねっ!俺に早く会いたくなったの?」

 いつも冗談で笑わせてくれる明るい彼、小山歩(こやまあゆむ)

彼は24歳の会社員で、私は16歳の高校1年生。なんと年の差8歳のカップルです。

「違うよ〜。今日はね、歩の誕生日でしょ?」

「そっかあ………、気遣ってくれたんだねっ!優しいなあ………おじさんグッとくるよ!」

「外食しようッ♪歩のオゴリ!」

「援助交際じゃないんだよ、ヒロ………。」

 渋々だけど、彼は進み始めた。

 彼は私と一緒にいるときは、仕事の愚痴をもらしたりしない。

ため息も、疲れた顔も一切見せない。私の前では若い自分でありたい、と思ってるのかもしれない。

「ねえ………、洋服買ったげるよ。制服じゃ、援助交際にしか見えないっしょ。」

「え〜!!マジで??歩優しい〜〜〜〜!」

 見た目が年相応でない彼は、それをひどく気にしている。

年の差も、ひどく気にしている。私がもっと早く生まれていれば良かった、って最近よく思う。


 結局、歩好みの“お姉系”の服を着せられていた。

私はもともと“ギャル服”が好きだけど、まあ買ってもらっておいてそれは言えない。

それに、今日は彼の誕生日なんだし………遠慮しとくか、なんて。

「綺麗だ。」

 彼は夜景の見えるレストランでそう呟いた。

「何が?っつうかドッチが?」

全く、色気の無い言葉だと思って発言してるけど、彼が“ヒロらしい”って言ってくれると分かってたから。

「ヒロらしい言葉だね」


 そう、私は大人な恋に憧れていた。

同世代の子の恋愛といえば、手を繋いだり、キスしたりするのにいちいちドキドキしてるようなイメージ。

だけど、私の理想はエスコートしてくれる素敵な紳士、こうやって夜景の見えるレストラン。

歩と一緒に生活するときの全てが、幸せだとかみ締める瞬間。

 私と歩は、いつもふたりで食事するときは大体、私の学校の話とか、歩の学生の頃の話をする。

私が学校で告白されたと言うと、内心妬きながらも「モテるんだね」って言う。

歩が昔、告白されたときのことを聞くと、内心妬きながらも「モテるんだね」って言う。

お互い、いわゆるポーカーフェイスで。


「美味しかったね〜っ♪」

「歩、また連れてきてね〜♪」

「今度はヒロのオゴリでな〜♪」

 会計を済ましているとき、ふと歩はコッチを向いた。

冗談抜きにカラッポな財布を私に見せ付けて、眉をゆがませた。

 店を出ると、歩はすぐに大きく背伸びした。

「疲れるね〜、ああいうお店は。ん"〜………」

「そうっ?この高貴なワタクシにはお似合いだったけどね。あなたにはそうじゃなくても。」

「ははっ、何それ〜。どっちが年上だよ〜」

 そう言って歩は立ち止まった。もう私にはこれから何が起きるのか、分かっていたけど照れ隠しで、いつものポーカーフェイス。

 歩はそっと、キスをした。触れるだけの本当に優しいキス。

震えるくらい、ゾッとした。長いキスの後、唇を離したときの切なそうな歩の表情が大好き。

本当に通じ合えてるって感じる、私の憧れたこの恋。



         *         *         *



 あんなロマンチックな夜の後なのに、歩は何もしてこなかった。

そのまま家に送り届けて、私を大事に大事にした。16歳には大人すぎる恋だと。


 こんなとき、ふと思い出す。

 ――里見謙(さとみけん)

 私の、すごくすごく大事な人。そして、儚く終わりを告げた恋を。

あんな気持ち悪い別れ方があるだろうか………、確かに彼は言った。

あの言葉がずっと私を悩ませ、苦しませている。

 私が悪かったから………、謙には非は無いって分かってるから余計に辛かった。


――いつまでも愛されてると思うなよ。



       *       *       *



 いつの間にか寝ていた。怖い夢を見た、――悪夢。

ひどい寝汗をかいていた。

 “歩、助けて!!!助けて!!!!”

 何度も、そう叫んだ。降りしきる雨の中で、ぼやけていく視界。

リアルすぎて、吐きそう………。あの日の光景によく似ていた。


 時刻はもう、朝の2時。

 怖くて怖くて………誰かに助けてほしかった。

手に持っていた携帯の画面に映っていたのは、“小山歩”。


―プルルル………    ガチャ。


「もしもし〜?広乃はもうっ………何時だと思ってるんだよ〜」

「………怖いよ、歩う………。」

「どうしたの?俺に話して?きっと楽になれるから」

「怖い夢、見たの。もう、すっごく怖い夢だよっ!?」

「………俺、そっち行こうか?ひとりで怖いだろ??」

きっと歩はそう言ってくれると思ってた。歩の優しさに甘えたかっただけなのかもしれない。

ただ、分かってるんだ。歩はウチには来ないこと。

「平気だよ………、おやすみなさい。」


 長い、長い一日だった。



       *       *       *



 次の日は休みの日だった、日曜日。

正直、どうやって過ごそうか迷ってた。

歩とまったり過ごすのも良し、友達と買物に行くのも良し、ひとりで過ごすの良し。

 日曜日に歩の家に行くのは迷惑かな。仕事しているときに行くと、私の前では絶対仕事はしたりしないから中断させてしまうもんね。

 歩は、会社では“スーパー会社員”。任せられた自分の仕事はバリバリこなしていくし、きっと女性にもモテてるんだろうなあって………。

 

 〜♪〜♪〜


「もしもし?」

「あ、俺だけど〜。元気してる?」

 元気そうに話す向こう側に、パソコンのキーボードをたたく音がする。


 ――やっぱり、仕事してるんだあ………。


「ウチくる?暇だしさあ〜ここはひとつ………」

 歩が話していたとき、

「あ〜ゆ〜むう〜!!誰に掛けてんのー?」

 奥から聞こえたので、小さな声だったけどあれは女性の声だった。

 いつか会った歩の元カノ、加藤崎(かとうさき)さん………。

 彼女との思い出は、………罵られたことしか覚えていない。

 初めて会った日は、“歩とは別れてない、あなたは遊ばれてるのよ”。

次に会ったときは、“私、デキちゃったの。あなたって本当馬鹿な人ね、可哀相。まだ若いのに”。


「おい………、静かにしろって!!」

 歩はできるだけ静かに言ったつもりだと思うけど、ハッキリ聞こえた。

「崎さん、いるんでしょ?いいよ、隠さなくても」

 奇妙な()ができた。

「ごめんな………、でも仕事の相談だから!!別に怪しいことは一切………」


 ―ブチッ ツーツー………―


 電話は、切れた。



      *      *      *



 それからは、頻繁に友達と遊ぶようになった。男友達もできたし、普通に遊んだ。

嫉妬しているのだと、分かってるけど止められない。

歩から何度も電話があったけど、出る気はしなかった。

何度電話を拒んでも、冷たい態度をとっても、歩は迎えに来てくれると信じてるから。



 あれから、頻繁に謙のことを思い返すようになっていた。


 謙と出会ったのは、大雨の日。

 他校だった謙だけど、ここらへんの地区の中学では有名人だった。

 “マジかっこいい人がいる!”

みんな口を揃えてそう言った。まだ、私が中学2年生・14歳だった頃。

「好きです!!!!」

ダメもとで言ってみた私だけど、それは奇跡だった。

「俺も………お前が好き」

 そのとき交わしたものが、私のファーストキスだった。

 綺麗な思い出、のはずだった。



       *       *       *



 私たちはだんだん、離れられない仲になっていった。良い意味でも、悪い意味でも。

“倦怠期”というものが訪れた。別れたのは、出会った日と同じ、大雨の日だった。1年前。まだ1年しか経ってない。

 別れた原因はお互いにあった。お互いを責めて、お互いの傷を舐め合った。

私は異様にモテる謙に激怒し、謙は付き合い始めた頃とは明らかに違う、私の態度に激怒した。

 ふたりをつなぎとめる思い出は、少なかった。

もっと私が考えていれば、大人だったら良かったのに。大人になれてたら。

あんなに好きだった謙を失ってしまった。

 やがて謙は、すぐに他の誰かと付き合い始めた。

それでも忘れ切れなかった私は、もう一度やり直そう、そう言った。


――いつまでも愛されてると思うなよ。


 それは、いつかで聞いた言葉だった。愕然として、しばらく動けなかった。


 幼い頃に母は病死し、父は酒乱気味だった。

私はほとんど毎日のように頬を殴られ、腹を蹴られ大変な日々を送っていた。

 でも、私はお父さんが大好きだった、お父さんが死んだ今でも大好き。

ただ、お父さんは私を恨んでた。恨まれてたんだよ、私は………。

母さんに迷惑ばかりかけてた私のせいで、母さんは死んだんだと言い聞かされた。


 父さんは直腸癌だった。最後に言った言葉は


 ――“いつまでも愛されてると思うなよ”。



       *       *       *



 自分でも驚いた、まだこんなに好きだったなんて。

1週間が経ち、私は学校を休みがちになっていた。

 週がはじまったばかりの月曜日、正直、今日は登校しようかどうか、迷っていた。


 ―ピンポーン―


「はい………」

 歩は勢いよく私を抱き寄せた。

「会いたかった、ヒロ………」

「何?」

私は冷たく言った。強引に体を離した。

「最近学校に行ってないだろ〜?悪い子だな〜!オシオキだ〜っ」

 歩はそう言って、無理矢理家の中に入ってきた。

誰も居ない家、殺風景な家。

「へえ〜!ヒロはここで生活してるんだあ」

「幻滅した?」

少し笑ってみせた。歩は安心したように続けた。

「崎のこと、気にしてる?」

「うん」

「そんなハッキリ言われると言い難いなあ〜。でも、本当に仕事の話だったんだからね〜っ??」

 分かってる、本当に仕事の話だったことくらいは。

ただ………、

歩も謙も両方手に入れたいと願っている、欲深い自分が許せない。

一度手に入れたものは、色褪せてしまうのに。

「………気になる人、できたのか?」

 心臓が高鳴った。まさに、その通りだったから。

いつものポーカーフェイスは効果が無かったみたいだ。

「そっかあ〜………。でもそれはしょうがないよね、好きになるのに理由は要らないもんね」

 そう言うと、歩は徐に私を押し倒した。

 ゆっくりと、そして激しく愛し合った。歩とは、これが初めてだった。


 でも、お互いが一番分かっていた。

 愛の無い行為だったこと。



       *       *       *



 朝起きると、隣には歩が居なかった。

 

 “もう、全て終わったんだ”


 この言葉が何度も胸に突き刺さっていた。どうしようもなく不安で、何度も名前を呼んだ。

 “歩、助けて………助けて”。

 私は、謙を手に入れられなくて嫉妬してた。そして憧れの恋と称して自分勝手な行為をしていたこと。

歩に申し訳なかったと思ってる、自分の罪を増やしただけでなんの解決にもならなかった。

 机の上には、歩の字で書かれたメモが残してあった。


 『 広乃へ。


  短い間だったけど、俺は最高にヒロを好きだったよ。

  お前がもし、ソイツにひどいことを言われたなら、

  いつでもおいて。俺はずっと待ってるから。

  いくつ年をとっても、お前を忘れないから。

  さようなら、ヒロ。幸せに。


                  歩       』



 こらえていたものが溢れた。

 ありがとう、歩………。ヒロもあなたが大好きでした。

あなたが私を大人にしてくれたんだよ、いつまでも優しかった歩。

甘やかした歩。


 今、全ての思い出が過去に変わった。



       *       *       *



 あれからは、ちゃんと学校にも登校するようになった。

 きっと、歩はもう新しい彼女もできたんだろう、あんなにモテてたんだから。


 私も頑張らなくちゃいけないね。

こんなにも人に大切に想われた時期があったこと、一生忘れないよ。

私の罪は消えなくても、たとえ最愛の人に深く傷つけられても。忘れられなくても。

 明日にうっすらと、希望を持てるんだ。


 



 こんなに、人を愛しいと思ったことはあっただろうか。



 こんなに、人を欲しいと願った夜はあっただろうか。



 こんなに、人を憎いと感じた日々はあっただろうか………。



 今でも私は必死に生きています。

 虚実が絡み合い、溶け合っているからこそ

 自分の真実に近づいていきたい。

 自分に素直に生きていきたい。

 

 罪を背負いながら、私は生きるよ

 


 たとえ、あなたを傷つけても。

この小説を読んで、何か感じていただけたら光栄です。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ