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赤ずきんの世界1

 魔法陣から顔を覗かせた語里は、辺りを軽く見渡し危険がないことを確認するとそこから体を出す。どうやら森の中らしい。

「んーと、とりあえず、赤ずきんちゃんでも探そう」

 ストーリーハンターは自分の目にしたことしか物語を記録できない。本の世界にいても遠くで起きたことは認識できないのだ。そのため、ハンターは最初に物語の重要人物を探さなくてはならない。語里もそのことを理解しているので、この世界で最も重要な赤ずきんの捜索を始めた。

 森をしばらく歩いていると少し開けた場所に着いた。どうやら道に出たようである。

 道沿いに歩いていけば何かに遭遇すると考えた語里はそれに沿って歩いていく。すると視線の先で何かが動くのが見えた。語里は目を細めて確認すると人間だと分かった。赤いフードのようなものを被っている。

 語里は急いでその人物を追いかけた。この世界で赤いものを被っている人物がいたとしたら、それは赤ずきんちゃんのはずだ。

「待って! 赤ずきんちゃん!」

 ストーリーハンターには2種類のタイプの人が存在する。1つは物語の住人を陰で観察し、自身は関わらないタイプの人、もう1つは住人に直接関わり物語の登場人物になるタイプの人である。隠れるのが苦手な語里は後者だ。登場人物になるといっても、いてもいなくてもどちらでもいいという程度の役である。少しくらい目立ってもいいが、重要な人物になりすぎてはいけないのだ。

 語里に声をかけられたことに気づいた赤ずきんは足を止め、こちらを振り返った。

「何か用か?」

 赤ずきんが発した声の低さに語里は思わず目を見張る。

「……え?」

 語里の様子に赤ずきんは不思議そうに首を傾げた。

「お前が俺を呼んだんじゃないのか?」

「……呼びました」

 語里には赤ずきんが16歳か17歳くらいの少年のように見えた。少なくとも少女ではない。撹乱具の影響で性別が変わってしまったようだ。

「で、何の用? 用がないならもう行っていいか? 俺、急いでるんだ」

 赤ずきんの言葉で語里は慌てて言葉を発する。

「え! ちょっと待って! ……今からどこに行くの?」

 赤ずきんは胡乱な目で語里を見る。いきなり声をかけてきてそんなことを聞くのは明らかにあやしい。

「なんでそんなこと教えなきゃいけないんだ? そもそもお前誰だよ」

 赤ずきんからの正論に語里は何も言い返せず視線をうろつかせる。あかずきんは1つ溜息を吐き、語里に背を向けた。

「じゃあ、俺行くから」

 歩き出してしまった赤ずきんに語里が二の足を踏んでいると、後ろから何かが聞こえてきた。それは少しずつ大きくなっていく。

「赤ずきんー!! 赤ずきん!! 見つけたわよ!」

 その声を聞いた赤ずきんは肩をびくりと震わせると、おそるおそる振り返る。その顔は真っ青だ。

「オオカミ……」

 赤ずきんの言葉で語里は声の正体に気づいた。彼が振り向くとすごい勢いでこちらに向かって走ってくる少女が見える。彼女がオオカミだろうか。

「赤ずきんー! 今日こそ私のものになってくれるわよね!?」

「ひっ……!」

 オオカミは赤ずきんに勢いよく抱き着き、そのまま2人で倒れ込んだ。上機嫌のオオカミに対し、赤ずきんは怯えてきっている。

「大好きよ、赤ずきん! あなたも私のことを愛してるってもうわかってるんだから。早く観念しなさい!」

「あ、愛してない……! お前のことなんて愛してない!!」

「もうそんな嘘は言わなくてもいいのよ。2人の愛を妨げるものは私が壊してあげる!」

 一方的に話すオオカミの気迫に押された語里はその様子を呆然と見ていることしかできない。赤ずきんはそんな語里に気づき、手を伸ばしてきた。

「助けてくれ! お願いだ!」

 語里はその言葉で我に返り、赤ずきんを助けるために動き出す。オオカミの肩に手をかけるとすごい勢いで彼女が振り返った。

「あんた何!? 私たちの邪魔をするの!?」

 語里は思わず怯んで立ちすくむ。オオカミが語里に気を取られている隙に赤ずきんは一瞬で彼女の下から抜け出した。

「……っ! 赤ずきん!」

 オオカミが赤ずきんの名を呼ぶが、彼は見向きもせずに走っていく。語里とオオカミも赤ずきんの後を急いで追いかけた。

「ついてくるな! もう俺に関わらないでくれ!」

 赤ずきんの悲痛な叫びを聞いたオオカミは、眉を下げ悲しそうな表情をする。

「かわいそうな赤ずきん。私たちの関係を誰かに反対されてるからそんなことを言うんでしょ? 大丈夫よ、私が何とかしてあげるから!」

 赤ずきんが本気で嫌がっているのが伝わっていないのかオオカミはめげずに追いかけてくる。怯えた赤ずきんはさらにスピードを上げて走っていった。



 オオカミを振り切ることに成功した赤ずきんは立ち止り深呼吸を繰り返す。赤ずきんを追いかけてきた語里の息も切れていて、苦しげに呼吸をしていた。

 肩で息をしている語里に赤ずきんは問いかける。

「なんでお前はついてきたんだ?」

 語里は息を落ち着かせてからその問いに答えた。

「思わずついてきちゃった。どうしていいか分からなかったし」

「……オオカミの仲間とかじゃないよな?」

 赤ずきんの心配そうな表情を見て、語里は慌てて首を振る。

「違うよ! あの子とは無関係!」

 語里の様子から嘘ではないと理解した赤ずきんは強張っていた表情を崩した。

「ねえ、赤ずきんくん。あの子とはいったいどんな関係なのかな?」

 語里の問いかけに心底嫌そうな表情をした赤ずきんは、その場に勢いよく座り口を開いた。

「どんなって、ただの他人だ。オオカミは意味の分からないことを言って勝手に付きまとってくるんだ」

「それってストーカーじゃないの?」

 語里の言葉に赤ずきんは首をかしげる。

「ストーカーって何だ?」

「そういう風に付きまとってくる人のことだよ」

 赤ずきんは語里の言葉に納得して項垂れた。

 語里はそんな赤ずきんの様子を眺めて溜息を吐く。撹乱具で物語を改変したので原作と全く違う展開になっているのは理解していたが、こんな風に変わっているとは思わなかった。赤ずきんが男でオオカミにストーカーされている世界など予想外だ。

「お前、俺を助けてくれないか?」

「助ける?」

 赤ずきんの言葉を語里は反芻する。助けるとはどういうことだろうか。

「俺はこれからおばあさんの家に行かなくてはいけないんだ。その道中でオオカミから守ってほしい」

 語里はその頼みに戸惑う。守ってほしいと言われても、語里は弱いため役に立ちそうにない。そのことを告げると、赤ずきんはそれでも協力してほしいと言ってきた。

「2人いればオオカミの気を逸らすこともできるはずだ」

 赤ずきんの真剣な様子に語里は協力することを決めた。

 語里はどうなるか見当もつかないこの物語を完成させるために、気合を入れ深呼吸をした。

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