#End SOAVE's Music
これでよかったのだろうか。
ソアと話せるせっかくのチャンスをケンカで潰してしまった。
本当はもっと楽しい話をしたかった。 思い出に残るような話をしたかった。
それも、もう叶わない。
ソアもあれから一言も話さない。
木に登る時も一言もなく行ってしまった。
これは嫌われてしまった。
自業自得と言えば、そうかもしれない。
仲を取り戻すこともできない。
ただ無事に帰れることを祈るしかできない。
椅子に座りずっと祈っているが、窓付近にソアの姿が現れない。
何かあったのではないかと気が気でない。
そわそわしていると、ソアの大声で私を呼んだ。
すぐにソアの居場所を見つけると駆け足で近寄る。
「降ろして!」
か、帰らないのか……?
そんなのダメだ! ソアは帰らないといけない!
「降ろして!!」
はい!!
ソアを降ろすといきなり抱き付いてきた。
顔を私にうずめてきつく抱き付いていた。
「クローン、ありがとう。 わたしね、元に世界に戻ったらピアノを始めるの。 それでクローンに負けないぐらいに上手になって、絶対にこの世界にわたしの音色を届けるの。 だから待っててね」
話してる間も顔を私にうずめているせいか、くぐもって聞こえた。
そうか、音色を届ける……か。
ありがとうの言葉よりもうれしい言葉だ。
この音しか楽しみのない世界に新しい音が響くなら、私は歓迎しよう。
私はいつまでも待っている。
ソアの背中を優しく叩き鼓舞してやると、どこからかピアノの音が聞こえた。
ソアを見てみるが、聞こえてないのかまったく反応がない。
耳を澄まし音の出どころを探すと、本棚の方から聞こえてきた。
ソアを抱え、本棚に行くと次第に音が大きくなった。
本棚を注意深く見ると、ホタルの光のように淡い光を灯している楽譜を見つけた。
なんだこれ……。
『Sound Tree』
私はこの曲を知らないぞ。
本棚はここに来た時に全部読んだから分かる。
忘れているということもあるかもしれないが、こんなボロボロの楽譜をそう簡単に忘れられないだろう。
裏を見てみると、なぜ私が知らないのか合点がいった。
裏には
ピアノを弾いてるソアと、後ろでそれを見守ってる私が描かれていた。
そうだな……この力はソアがいたから目覚めた。
ソアが使えても不思議ではない。
あの時、ここで初めてピアノを弾いた時にこっそりとこの本棚に出ていたのだろう。
私はこれをソアに渡した。
ソアにはこの絵が見えてないみたいだけど、それでもいい。
いいお土産ができたのではないだろうか。
ソアが元の世界に帰ってずいぶん時が経った。
私は相も変わらずピアノを弾く。
まだ、ソアの演奏は聞こえない。
それでも私は待つ。
ソアとの約束だ。
いつまでも、私はここで待っている。
ピアノを弾きながらずっと……。
ピアノを弾いていると、ふと上から音色が出ているのに気付いた。
私が弾いてる曲とまったく違う、ゆるやかで優しい音色が部屋全体に響いてくる。
どうやら約束の日が来たみたいだ。