#6 feeling of guilt
いくら呼んでもクローンは反応しなかった。
身体を大きく動かし、夢中でピアノを弾いている。
まるで、自分の想いをすべてピアノにぶつけているようだった。
その間にも、木は演奏の邪魔をしないように成長し続け、演奏が終わるとやっと成長を止めた。
演奏を始める前はまだピアノの下にあったのに、今では見上げるほど大きくなってしまった。
でも葉っぱは生えていなくて、枯れた木に見える。
このままだと少し可哀想だけど、またクローンの演奏で成長するしいいか。
それにクローンは今になってビックリしてるみたい。
呆然と木を見ている。
なんだろう……今、すっごくおどかしたくなってきた。
そろりそろりと忍び足でクローンに近づき、背中をバンっと叩いた。
「わっ!!」
目に見えてビックリしたことが分かるように、肩を大きく震わせこっちを見た。
肩を大きく震わせたこともそうだけど、目をぱちくりさせてこっちを見てるクローンを見て、大きな声で笑ってしまった。
大人でも、こんなにもビックリするなんて思ってもなかったから、余計に笑いが止まらない。
クローンは恥ずかしかったのか、ピアノの音がちゃんと出るか確かめて、さっきのことをなかったことにしている。
一度クローンと一緒に遠くから木を見てみることにした。
遠くから見て初めて分かったけど、私が落ちてきた窓にもう少しで届きそうだった。
多分、あと少しで戻れるけど……いいのかな……。
子供のオバケは、「きみは帰してあげる」みたいなことを言ってた。
これって……わたしは帰れるけど、クローンは帰ることはできないってことだよね。
帰る道を作ってくれたクローンは帰ることができなくて、何もしてない私が帰れる。
本当にこれでいいの……。
わたしは例外みたいだけど、クローンを差し置いて一人だけ帰るのになんだか気が引ける。
罪悪感とまでは言わないけど、ずうずうしく思えてしかたがない。
せっかく帰る道ができているのに、クローンは帰ることが許されない。
本人は知ってるか分からないが、もし知らなかったら本当に心が痛い。
帰る道ができて、きっと希望を持ち始めていると思う。
それを最終的に壊すことになると、本当に心が痛い。
どうしようもなく痛い。
ついに堪えられなくて、涙が出てきた。
しゃがみ込んで、しゃっくりあげながら泣いた。
するとクローンもしゃがみ、わたしの頭に手を置いた。
やめて、優しくしないで! 優しくしても、わたしは何もできないよ!
それでも、クローンは頭から手を離さないで泣き止むまでずっとそばにいてくれた。
その時、私は思った。 誓った。
無理やりでもクローンを元の世界に帰す
と。