第2話:ネオタイガーショット
日曜の昼下がり、佐々木探偵事務所の応接室にひとりの男が座っていた。
佐久間と名乗った男は黄色地に黒の縞模様のハンカチを握り締め、目の前の相手に向かって叫び声をあげている。
「ジュリアーニィィィィィィィィ!」
名探偵はこの難題にどう立ち向かうのか。
小太郎と次郎少年が見つめる応接室のテーブルの上。そこには堂々とした、実に堂々とした虎の写真があった。
「それで先生、本当に探すんですか? どちらかと言うと警察、むしろ猟友会向きの話じゃないですか」
猟友会と言う言葉に反応した佐久間が残り少ない髪を振り乱してもだえる。
「そそそそんなジュリアーニがぁぁぁぁぁ!」
「こらこら次郎君、君の発言にはデリカシーが足りないよ」
「あ……すみません」
「猟師のおじさんと言いなさい」
「ジュリアーニィィィィィィィ!」
事態は深刻さを増し、佐久間はテーブルに何度も頭をぶつけ始めた。
「ちょ、ちょっと落ち着いてください! 先生! 先生も止めてください!」
「次郎君、男は頭をぶつけたい時があるんだ。黙って見守ってやりなさい」
「そんな馬鹿な。佐久間さん、落ち着いてくださいってば!」
5分後
落ち着いた佐久間は、肩で息をしながら次郎少年の入れたコーヒーを口に運んでいた。
「申し訳ありません、取り乱してしまって」
佐久間はコーヒーをテーブルに置くと、姿勢を正して小太郎の方をまっすぐ向いた。
「それでは改めてお願いします。ジュリアーニを助けて下さい」
佐久間の真摯な視線の先には、真っ赤な顔した小太郎が煙草を口一杯に咥えてマッチで火をつけようとしていた。
「何やってんですか先生!」
「ふぉふぉふぃろうふん、ふぉれふぃがふふぃにふい」
「まずそれを出せー!」
次郎少年のビンタが小太郎に炸裂した。煙草はバラバラと床に落ち、応接室中に転がる。
ぶたれた小太郎は頬を押さえながら立ち上がると、次郎少年に微笑みかけた。
「次郎君、腕を上げたね。もう教えることはないよ」
「何言ってんですか先生! しっかりしてください!」
「そうか……それでは佐々木流最終奥義を伝授しよう! とうっ」
小太郎はその場でジャンプ、着地で足をひねってうずくまった。
「意味がわからねええええ! って先生、ひょっとしてさっきのウイスキーで酔っぱらったんですか?」
「酔ってなどいない!」
勢いよく立ち上がろうとした小太郎は、テーブルに膝をぶつけてうずくまった。
「いや、もう先生分かりましたから、ちょっと落ち着いてください。水持ってきますから」
「おうよ、矢でも鉄砲でも持って来い!」
「ててて鉄砲!? ジュリアーニィィィィィィ!」
ハンカチを引きちぎる佐久間、指で鉄砲の形を作ってバキューンバキューンとうるさい小太郎。
その様子を見ていた次郎少年は、黙ってキッチンに行くと冷蔵庫から取り出したジュースを一口飲んで、深いため息をついた。
毎度の事ながら物語は混迷の度合いを深め、いよいよ収拾がつかなくなってきた。
名探偵は酒に弱かった。この新事実に対し我々はどうするべきか。
次回【断熱材はやっぱりアレ】お楽しみに。