表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1/3

第1話:コンクリートジャングル

 日曜の昼下がり、佐々木探偵事務所の応接室にひとりの男が座っていた。

 男は次郎少年が置いたコーヒーに手をつけず、やや薄くなった頭を抱えている。

「先生はもうすぐ来ますからもう少しだけ待っててください」

 次郎少年が言い終ると同時に事務所のドアが開いた。

「お待たせしました。黙って座ればぴたりと当たる」

 開いたドアから、癖のある髪に眠そうな細い目をした男、佐々木探偵事務所所長の佐々木小太郎が現れた。

 小太郎は力強い足取りで男の向かいのソファへ歩き、どっかと座った。

「さっそくですが生年月日を教えてください」

「え、1965年の5月3日ですが」

「なるほど。あなたは43歳ですね」

「何故それを……」

「占星術の基本です」

「それ算数です。あと間違ってます」

 次郎少年が小太郎の前にコーヒーを置きながら口をはさむ。

「おお、ありがとう次郎君」

 コーヒーカップを手に取り、香りを楽しむ小太郎。

「うむ、バレンタインの30年物だね」

「……それをいうならバランタインですし、大体これウイスキーじゃなくてコーヒーです」

 小太郎は顔を次郎少年の方を向けると指を鳴らした。

「じゃあそのウイスキーをもらおうか」

「今昼ですが」

「飲み物に昼夜は関係ないさ。大事なのは乾いた喉を潤わせるかどうかだよ」

「……じゃあウイスキー持ってきます」

 次郎少年はキッチンに行き、琥珀色の液体が入ったグラスを持って戻ってきた。

「どうぞ」

「それじゃ、この世に生きる全ての命に乾杯」

 グラスを掲げた小太郎はそのまま一気に飲み干し盛大に噴いた。

「げーっほ! げほげほ、強いねこれ」

「ウイスキーですから」

「なるほど、一つ勉強になったよ。ところでこちらの方は?」

「……依頼人の方です」

 小太郎は大げさに両手を広げて男の方に向き直った。

「おお、気付くのが遅れて失礼しました。私が当事務所の所長の佐々木小太郎です。今回はどのようなご依頼で」

 呆然としたまま小太郎を見ていた男は、ズボンのポケットからハンカチを取り出し額を拭った。

「あ、ああの」

「はい?」

「わわたしのジュリアーニを探してください!」

「ジュリアーニというと、ニューヨーク市長の?」

「先生、”元”ニューヨーク市長です。というか何でそこで外国の市長が出てくるんですか」

「探偵にとって直感は大事な物さ。例えばそこの依頼人の方は多分40歳だ」

「何故それを……」

「それはもういいですから。話を進めてください」

 次郎少年の指摘に小太郎は改めて依頼人の男性の方に向き直った。

「まずは御名前を教えてください」

「は、はい、わわ私は佐久間新造といいまして、ふふふ不動産を経営しております」

「とりあえず落ち着いてください。それではジュリアーニさんについて詳しく」

 佐久間はハンカチで顔のあちこちを拭いていたが、小太郎の言葉を聞くと落ち着きを取り戻し盛大に鼻をかんだ。

「ジュリアーニは……私にとって生きる価値そのものです。それなのに、それなのに散歩に出したら急に逃げ出して……! わわ私はどうしたら」

 過熱し始めた佐久間を小太郎は冷静になだめる。

「まあまあ冷静に。まずは落ち着いて現状の確認をしましょう。ところでジュリアーニさんってどんな方ですか」

 小太郎の言葉に佐久間は遠くを見るような目をして語りだした。

「ジュリアーニは、そう、気高く美しい野生を残したまさに自然の芸術です。ああ、一体どこに行ったのか。お願いです! ジュリアーニを、ジュリアーニを!」

 小太郎は煙草に火をつけた。紫の煙が応接室に漂う。

「ジュリアーニさんは佐久間さんにとって余程大切な方らしいですね。ところでジュリアーニさんの写真などありませんか」

「しゃ、写真ならあります! これです!」

 そう言って佐久間は懐から写真を取り出した。

 そこには黄色地に黒の縞模様が美しい虎が鋭い牙を剥き出しにして写っていた。

 次郎少年はこわばった表情で小太郎を見た。

 小太郎は涼しい顔をして佐久間に視線を戻した。

「えーと、確認しますが、ジュリアーニさんを散歩に連れて行こうとしたら逃げてしまった。それで私に探して捕まえて欲しいと、そういうことですか?」

「そそそそそ、そうです! ジュリアーニを、ジュリアーニをお願いします!」

「分かりました。依頼を受けましょう」

「受けるの!?」

 次郎少年が驚いた。

「ジュリアーニィィィィィィィ!!」

 佐久間は吼えた。


 名探偵VS猛獣

 運命に導かれた対決が今まさに始まろうとしている。

 次回【ラブハンター】お楽しみに。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ