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冬の使い  作者: 銀子
11/11

11.兄弟妹の選択

 一面真っ白な所を歩いていると、どこを歩いているのかわからなくなる。前も真っ白だし、本当にわからない。そうすると、ルーの「あっち」が始まるんだ。あっちに行かないと暴れだすしで、大変。ルーが一体どこに行きたいのかもわからないし、ビアンカも見つからない。寒さが増すばかりだ。


「もしかして、ルーは白い狐の居場所を知っているんじゃないのか?」


 ふと、お兄ちゃんが呟いた。僕もそれを聞いて一瞬、そうかなって思ったりもしたけど。ルーはまだ何も知らない赤ちゃんだ。それに、いつの間にか僕達はお兄ちゃんの職場に戻ってきていた。


「え?」


 ルーの奴、一体何がしたいんだ? ここにはさっきまで居たじゃないか。でも、大人しくなったってことはここに来たかったってことなんだよね。僕達は結局一回りしただけ? ルーは、ただ我侭を言っただけ?


「見て!」


 だけど、僕はあることに気づいた。溜息をつき、下を向いたからか、動物の足跡が雪の上に残っている。吹雪で消されてないってことは、まだ新しい。もしかして、ルーはビアンカの後を追っていた?


「おい、ベル! あっち見てみろよ!」


 お兄ちゃんも何かに気づいたようだ。一体何に気づいたんだろう? お兄ちゃんについて行くと、窓ガラスが割られ、職場の中に雪が入っていた。窓の近くにはあの足跡もある。


「ここから中に入ったんだ」


 お兄ちゃんはその割れた窓ガラスから中に入ろうとしたけど、ブランカに止められた。


「中に入らなくても大丈夫だよ。探している人物はここにいるんだし、向こうから来てくれるよ」


 ブランカは笑っていた。僕とお兄ちゃんは顔を見合わせた。ここはブランカの言うとおりにした方がいいかもしれないね。割れた窓ガラスから入るっていうのも危ないし。僕達は中に入らずに、吹雪の中で待った。寒い。春が恋しいよ。このさい普通の冬だっていい。

 暫くそこで待っていると、ブランカの言うとおりになった。一面真っ白でよくわからなかったけど、何かが雪の中で動いた。


「来たね」


 ブランカの声で、それがビアンカだとわかった。ビアンカは僕達に敵意を向けている。僕とお兄ちゃんは息を飲んだ。僕達だっていつ氷付けにされるかわからないぞ。


「冬……。白い狐、俺達が悪かった。俺達が間違っていた。冬の使いは返す。だからこの町を、冬で押しつぶさないでくれ」


 お兄ちゃんはビアンカに近づき、語りかける。お兄ちゃん、緊張している。だけど、ビアンカは変らず僕達に敵意を向けるだけだ。もしかして、僕達もこのまま氷付けにされてしまうんじゃ? そうだ。もとを返せば友達を裏切った僕が悪いんだ。ビアンカがこんなふうになったのも僕のせいだ。僕と同じなんだ。家族をバラバラにされた僕と同じ気持ちで、こんなことをしているんだ。だって、僕達のせいでブランカとバラバラになってしまったんだから。ビアンカもブランカも何も悪くないのに、僕は……。しかも、僕はまだ謝ってないじゃないか。


「ごめんなさい……。僕が友達を裏切ったから、こんなことになったんだよね? もう、冬はいらない何て思わない。冬のせいにしない。だから……」


 もしかしたら、僕が全部いけないのかもしれない。学費が払えないなら、学校なんてやめて働けばよかったのかもしれない。時間が戻ればどんなに嬉しいことか。僕はいつの間にか泣いていた。


「きつねしゃん、にーちゃをいじめるの?」


 ルーがそう言ったのが聞こえた。ルーはいつも泣いて笑って、あまりしゃべる方ではない。しゃべれることを忘れてしまうが、ルーはちゃんと言葉を知っている。ルーはお兄ちゃんに抱っこされていたけど、飛び降りて雪の上に落ちた。


「ルージュ!!」

「きつねしゃん、にーちゃをいじめちゃ、め! なの。ルーは、ゆきも、ふゆもだいすきなの」


 お兄ちゃんの声。ルーはよちよち歩きで、ビアンカに近づき、にっこりと笑ってビアンカの頭を撫でた。ルーがビアンカの頭を撫でた瞬間だ。ビアンカは、冬はピンク色に変って行った。ピンク色に変わり、ピンクの色の光を発し、その光があたりを包んだ。


「一体、何だ?」


 お兄ちゃんの声。僕達もピンクにつつまれた。何だろう、この光暖かい。まるで、春みたいだ。


「ルーちゃんの気持ちが、ルーちゃんのベル達を思いやる気持ちと、冬が好きだという思いが、ビアンカの冬の怒りを静めた。凍てついていた冬の心が溶け、春が近づいてきている。でも、今春が来ると……冬は溶けて消えてしまう。冬が溶けるということは、冬がなくなるということ。君達の望んだ世界になる。冬をなくならせたいなら、春を呼ぶ。一番簡単な方法だよ」


 ブランカの声。どこにいるの? それに、春が来るって……? だめだ。春が来るには早すぎる。まだ春になっちゃダメだ。僕はお兄ちゃんを見た。多分、お兄ちゃんも同じことを考えている。


「でも、よく考えて欲しい。何故、冬が来るのか。冬が存在しているのか……」


 そのブランカの言葉を聞き終わること、ピンク色の光や止み、僕達は雪の上に立っていた。もう、吹雪いてはいない。だけど、ビアンカもブランカもいない。あたりを見渡すと、凍っていた家も元に戻っている。空に太陽は輝き、ルーは雪の上で寝ている。一体何がおこったんだろう。さっきの暖かい光はなくなったけど。僕には何が何だかわからなかった。


 家に帰るとロッシは元気そうにしていて、今までのことは覚えていなかった。お母さんは相変わらず寝込んでいて、お父さんは帰って来ない。それでも、毎年冬はやって来た。だけど、あれからビアンカとブランカの姿は見ていない。

 あの時僕達は春を来ることを願わなかった。僕も、お兄ちゃんも。物事にはちゃんと順序っていうものがあるってことを知った。この世に必要じゃないものはないってことも知った。多分、あの時春を望んだら、春は来たのかもしれない。でも、夏が過ぎて秋が来てその後は? 冬は来ない。冬が来ないってことは春も来ない。あの時は既に冬は来たから春が来られたんだ。確かに冬眠もしなくなって、冬の備えもいらない。でも、秋の後はどうなっちゃうんだ? 何が来るの? だから冬は必要なんだ。

 それからも、ずっと相変わらず冬は来て、スノーウィー達は冬眠するけど、冬の使いはもう来ない。だけど、冬は来る。でも、もう誰も冬の使いを捕まえることは出来ない。僕達のせいで、僕達の前に姿を現さなくなったから。冬の使いの話は、この町から徐々に消えて行き、誰も語らなくなった。あのロッシも。誰もブランカとビアンカの話をしなくなった。


 そして、僕達は何も変らない毎日を送る。

 少し、冬の見方は変ったけれど。


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