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冬の使い  作者: 銀子
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01.冬が来る

 毎年、冬になるとあの子はやって来る。大きな白い狐と一緒に。多分、今年もやって来ると思うんだ。


「今日も寒いねー」

「そりゃー、冬だもん。どんどん寒くなるよ」


 学校帰り、どこかの子供達がこう話していた。確かに言うとおりだと思う。葉も落ちて、寒い風が吹いている。そろそろ冬になるのは間違いない。あの子は、もう少し寒くなるとこの町にやってくるんだ。

 この町じゃ、冬は嫌われている。寒し、作物がないしで。でも、あの子が言っていた。冬が来ないと春が来ないって。冬は準備期間って言ってた。それをあっさり信じちゃう僕も僕だけどさ。でも、本当にそう思うんだ。皆は知らないだけで。


「今年は冬の使い何か来なきゃいーのに」

「いや、来た所を捕まえればいいんだよ」

「あ! それ、凄くいい! 捕まえれば冬はもう来ないもんね!」


 さっきの子たちが笑いながらそう話している。僕はその話を聞いて、心の中で笑った。だって、冬の使いを捕まえるだって? そんなの無理に決まっている。大体冬の使いが誰かもしらないくせに。笑っちゃうよね。そんなことあの子たちには出来やしないのに。あ、でももしかしたらお兄ちゃんなら出来ちゃうかもしれない。お兄ちゃんは頭いいし、何かよくわからないけど町のために凄い仕事をしているらしい。まだ若いのに、皆凄いって言ってた。僕は、お兄ちゃんが何をやっているのかよくわからないんだけどね。

でも、もし冬の使いが捕まっちゃったらどうなっちゃうんだろう? 本当に冬が来なくなっちゃうのかな? そうすればスノーウィーも冬眠しない? そんな考え事をしながら歩いていると、誰かに頭をポカっと叩かれた。


「いたっ!?」

「足りない頭でなーに、真剣そうに考えているんだ? ベルのくせに」


 叩かれた頭をさすっていると、意地の悪い声が上から降ってきた。この声は、あれだ。


「お兄ちゃん」


 僕と同じ茶色い髪をしたお兄ちゃんが僕の横にいた。僕とお兄ちゃんは歳が離れていて、背の高さだって違い過ぎる。お兄ちゃんは背も高く、スタイルもいいし、スマートで。本当に兄弟なのかって思っちゃう。スーツを着ているってことは、仕事の帰りか途中か……。


「にしても、寒くなったなー。そろそろ冬が来るな。長くて暗い冬が」


 お兄ちゃんは曇っている空を見上げた。お兄ちゃんの言うとおり、この町は冬が厳しくて長い。だから、皆冬が嫌いなのかもしれない。でも、僕はそんなに嫌いじゃないよ。イベントもあるし、雪だってキレイだし。雪合戦とか雪だるまを作るのは大好きなんだ! なにより、雪が降ると学校が長い休みに入る。それは、僕にとっては凄く嬉しいことなんだ。


「冬の使いを捕まえれば冬は来なくなるか……。上もバカなことを考えやがる」

「え?」


 お兄ちゃんのまるで、独り言のようなセリフに僕は思わず反応した。お兄ちゃんは、僕の方を見ず、どこか遠い所を見ている気がした。僕はそんなお兄ちゃんを、ぼんやりと見ていた。


「ん? 何アホヅラしているんだ? あぁ、俺の言ったことがよくわからなかったんだな。しょうがないさ、お前バカだから」


 僕の視線に気づくと、お兄ちゃんはそう言って僕をバカにし始めた。やっぱりお兄ちゃんは意地悪だ。きっと、さっき言ったことだって教えてくれない。だから、僕も聞かない。聞いても、バカにされるから。どうせ教えてくれないから。お兄ちゃんっていうのは、そういう生き物なんだ。長いお兄ちゃんとの付き合いで、僕はそう理解した。でも、どのこお兄ちゃんもこうなのかな。


「そういえば、お兄ちゃん。仕事はどうしたの? まさか、サボリじゃ……」

「なわけないだろ。俺はお前と違って優秀だから、もう終わったの」


 ほら、また僕のことをバカにする。えばった態度で僕をバカにする。でも、こうやって一緒に家に帰るのがちょっと嬉しいとか感じちゃうのは、やっぱり兄弟なのかなって思っちゃう。たわいもない話をしながら、並木道を通って家に帰るんだ。この並木道も、すっかり何もなくて、落ちた葉が風に舞ってひらひらとしている。この雰囲気が、余計冬を寒くさせるのだと思った。

 もし、冬が来なくなったらどうなるんだろう。あの子は春が来なくなるって言ってたけど、でも、食べ物とかに困ることはなくなるんじゃないのかなぁ。一年中の中で、冬が一番長い町。冬が来なければ動物達は冬眠しないから、冬に備える必要もない。夜以外は眠らないという冬以外と同じになるのだから、仕事だってはかどるはずだ。難しいことはよくわからないんだけどね。

 僕達の町では、冬になると熊みたいに冬眠する人がいる。姿形は僕達と同じだけど、その人達には尻尾がある。動物みたいな尻尾。ふわふわの尻尾だったり、ふさふさの尻尾だったり。尻尾のある人は冬眠するんだ。僕達と同じように生活して、学校に行ったり仕事に行ったりするけど、冬は冬眠する。だから、冬になるとその人達がいなくなって、仕事が大変になったり、物を買う人が少なくなるから景気が悪くなったりするらしい。全部、お兄ちゃんが言っていたことだからよくわからないんだけど。いつだって、お兄ちゃんの言っていることはよくわからない。


「ねぇ、お兄ちゃん。スノーウィーたちは、いつ冬眠するのかな。今日はまだ学校に来ていたよ」


 スノーウィーっていうのは僕の友達で、尻尾のある子。たまに尻尾を触らせてくれることがある。


「雪が降る前には確実に冬眠するだろうな。いいよなー、子供は。その頃には学校は休みだろ? 俺達はあいつらが冬眠したって休みになんかならない。これから忙しくなるぞ……」


 お兄ちゃんは、そう溜息をついた。学校が休みになるのは、冬眠する子達が授業に遅れないようにするためらしい。でも、仕事はそうはいかないんだね。そうだよね。人が減る分、仕事が増えるもんね。お兄ちゃん、また帰りが遅くなるのかな。


「ほら、さっさと帰るぜ。今日も早く寝るか」


 お兄ちゃんは、そう眠たそうにあくびをすると、僕の前に出て歩き出した。僕は、そのお兄ちゃんの後を追った。


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