第6話 光差す者の称号
6.
曇天。
いつ降り出すとも分からぬ曇り空を見上げながら市場を歩く人々の流れに乗る。人々の熱気によってじめりとした水気を含んだ空気が温められ、それが肌に粘りつくような嫌気を産み出していた。そんな中、しゃらんと腕輪の音を鳴らしながら歩く。
時折、私を見て嫌そうな表情をする人達は、けれどそれも今はあまり気にならない。肌に触れてくる空気の気持ち悪さとは対象的に気分的には快晴のつもりだ。そして、快晴になれば見えてくるものもあるもので、以前エリザを車椅子に乗せて街を歩いていた時に向けられた嫌悪の視線は、私に向けたものだったのかと今更ながらに気付いた。
冷静に考えればこの都市は自殺志願者塗れなのだから怪我をしている人も多い。今もあちらこちらに怪我をしている人達を見かける。大なり小なり、人それぞれに。だから、怪我人なんてこの街の人達には気にもならない日常なのだ。非日常だったのは私の髪の色。
そんな風に周囲を見渡しながら、時折見られながら、市を行く。
彼是十日程だろうか。
指折り数えながら並ぶ出店に目を向ける。アルピナ様に最初に出会ったのはこの辺りだっただろうか。そういえば吐瀉物を掛けられたなぁと思い返せば自然、頬が緩む。もはや懐かしさすら覚える程だった。けれど、思い返すように見た所でアルピナ様の影は見えず、あの時の屋台も無い。当たり前のことだった。
加えて、案の定その店にも目的の物は無く、ため息が出てくる。
「はぁ……」
心は晴れやかでも、どんよりとした空が今の私には御似合いだった。
そんな私の態度に店主が酷く嫌そうな表情をする。あぁ、ごめんなさいと急いで頭を下げれば、しゃらんとなる腕輪の音に今度は一歩引いたような表情をして、店主はあっちへ行けと手を振った。その仕草に誘導されるように移動すれば、視界の端にはほっとする店主の姿。
「……うーん」
少し離れた道の隅に立ち、腕を組み、悩む。
噂が噂を呼び結果としてかなり広まっているらしい。誰があんな二つ名を付けたんだと言いたい。ほんと……。でも、ここまで露骨だと逆に気も楽になってくる。苦手に思われているのが分かっている分こちらの態度も取りやすいというものだ。陰湿な行動の方がよほど面倒だ。それを思えば面と向かって嫌がられていた方がまだましというものだ。
ともあれ、今はそんな事を考えていても埒があかない。考えても仕方のない事なのだから考えるだけ徒労だ。
腕を下ろし、再び店を見て回る。
出店もあれば普通の店もある。一段と背が高く、人の多い建物が自然、視界に入る。それは服飾屋だった。建物がなんともいえぬ煌びやかで、思わず目を疑う程だった。目が痛い。色があまりにも多すぎて目が痛い。だが、その店は人気店らしく店の外からでも客が多いのが分かる。客層としては中流階級以上の女だった。中にはその体躯から自殺志願者なのだろうという人もいるが、そういう人はそこまで多くは無い。……いやはや、死と隣り合わせの生活をしていても、着飾る事に意味を見出せるというのはある意味凄いと思う。でも、ある意味でそれが人間だからなのかな、とぼんやりと自分の着たきり姿を見て思う。
相変わらずの着たきり姿。所々の解れやらは直しているが、アルピナ様に頂いた黒い服に黒い短いスカート。腰元にはディアナ様から頂いた包丁を下げ、加えて首には首輪とエリザの首飾りといういつもの格好。何の代わり映えもなく、貰った時より幾分かぼろぼろになった姿。
「まだ使えるし、新しいのを買うのもなぁ」
店の方を見ながら、思う。
もっとも貰い物でもなければこんな服飾屋で買う理由もないのだが。どちらかといえば防具屋の類だろう。しかも軽装用の。…いや、そもそも先立つ物もそれほどあるわけでもない。エリザを養ったり義手義足用に払ったり何やらその他もろもろの御蔭であまりお金がない。ディアナ様から金ではなく功績をと言われ、言われたは良いが、御金の面では楽になったようななっていないような状況になったわけで、それはそれで良いのだが……いや、良くは無いんだけれど。ともあれ、先立つ物を稼がねばならないわけで……今は節約の日々である。使える物はまだまだ使うのだ。
よし、と空を仰げば陽光が雲の隙間を抜けて差し込んでいた。その陽光に釣られたのか何なのか、突然、よっ!と手を挙げて声を掛けてくる男がいた。
「黒夜叉姫がみられるとは今日は運が良いな。なぁ、おい」
視界に映るその男は、一見して精悍そうな、けれどカカッと楽しそうな笑みを浮かべる様は柔和な印象も与えてくる。気の良さそうな、おじさんとは言わないが、それでも学園長以上ジェラルドさん以下といった所だろう。すらりとした体躯はしかし筋肉に包まれており、その四肢を見るに如何にも彼が屈強な歴戦の者であることを伺わせる。纏う服こそ普通なれど、通常より長い剣を背負う姿からはまさに物語に出てくる勇者の如くだった。
そして彼のその後ろには部下なのか、或いは同輩なのか分からないが屈強な男や見目も体躯も良い女を連れていた。彼を含めて5人。
彼以外に男は1人。その人は私を横に3人程並べてもまだ幅が足りないといった感じの巨漢であった。だが、贅肉で作り上げられた肉体ではなく、その筋肉量は服の上からでも良く分かると言う物だ。勇者のような彼と同じく今は軽装だが、洞穴に入る際には重装備になるのだろうというのが容易に想像できる程だった。大きな盾でも持てば通路すら塞ぐ程だろう。
残り3名が女だった。3人よれば姦しいという例にはよらず3人共に静かだった。いや、私の様子を伺っているのか……。大きめの弓を肩に背負った人、剣を腰に携えた人、そして大きな荷物入れを背負った少し背の低い人。
この人達の誰もがきっと自殺志願者で死にたがりなのだろう。そんなのが一目で分かる人達だった。が、
「……えっと?どなたですか?」
分からなかった。こんな勇者様ご一行に声を掛けられる理由もない。
「おいおい……忘れちまったのかよ。同じ戦場を駆け抜けた奴を忘れるなんて酷いやつだな!ちくしょうめっ!」
そんな私の不躾な言葉に、一瞬呆とした後、大げさに手を広げ彼は叫ぶようにそう言った。が、言っている内容の割には笑っていた。それも面白い、とばかりに。表情も感情も豊かな男だった。もっとも、彼以外の視線は痛い。特に女性3人からの何あいつ?といった視線が痛い。でも知らないものは……いや、知らな……くもないか。
「もしかして……生きていらしたんですね」
「おうよ!ま、逃げ遅れて怪我はしちまったけどな。だが、今はもうぴんぴんよ。って、表彰された時、一緒にいたじゃねぇかよ!?」
腰に手を宛て、清々しいまでに天に向かい屈託なく笑う。まるで彼が太陽を呼んできたかのようなそんな錯覚すら覚えるほどに。
彼は、ドラゴンゾンビに昇っていた人だった。そういえば、こんな顔だったかもしれない。あの時は腐肉に塗れていたし、状況が状況である。いちいち覚えているわけがない。表彰された時なんてさらに覚えているわけがない。だから忘れていても仕方ないのだ。えぇ。
「しっかし、最近調子良いなぁ姉ちゃん。あん時ほとんど素人だったろ?それが早々に二つ名が知れ渡ってるってんだからなぁ」
「正直、迷惑しています」
「かっ!そういうなよ。皆噂話が好きなのさ。国の政策でドラゴンを打倒した事は確かに話題になった。だがな、それだけで話題が続くわけもなし、だ。人間ってのは慣れるからな。で。そうなりゃそれに貢献した者の話題が出るのは必然だろう?酒の肴にゃちょうど良いってな!ま。それだけじゃないんだけどな……蛇の道はやっぱり蛇だぜ?」
カカッ、と再び往来で笑う。道の真ん中で笑う。私のように隅っこを歩けとはいわないが、流石に往来の真中は邪魔だと思う。何が蛇の道は蛇だ。思いっきり往来で人間だ。そう思っていたらば、男が私のいる道の端に近づいてきた。
「誰がつけるんですかね。あんな名前……恥ずかしい」
「あぁ、あれの発端は俺じゃないか?」
「貴方ですかっ!?」
吃驚した。吃驚してついつい指まで差してしまった。これが包丁じゃなくて良かったと思う。えぇ。
しかし、今の声で周囲の視線までも集めてしまったわけで……あぁもう。奴隷が目立つ行為をするとか駄目奴隷である。ただでさえ目立つ色をしているというのに。
「白夜姫と一緒に居るし、髪が黒いし、あの時は装備も似たようなもんだったし、リヒテンシュタインの白黒コンビってな感じで呼んでいたらいつのまにな!……いやー尾鰭がつきまくって焦ったぞ」
「そんな理由で…………」
膝が崩れ落ちそうだった。ほんとに先輩とのコンビ名だったのか……。
でも、二つ名なんて、命名なんてそんな単純なものなのかもしれない。誰もが皆考え抜いて発言しているわけではないのだから……にしてもこれは、ない。泣きそうだった。これの御蔭でここ最近の私がどれだけ振り廻されたかと思えば、正直、泣きたくもなる。神様ついでにこの男も一発殴っても良いかもしれないとさえ思う。
「悪い、悪い。詫びに飯でも奢ろう。かっ!噂の黒夜叉姫と一緒に飯が食えたとあればこのファルコの名声も更にあがるというものだな!」
打算だった。
しかし、そういえばそんな名前だった気がする。でも、なにか他にも先輩に……
「か、かい……かいじぇ?」
「あぁ、カイゼルとも呼ばれているな。ギルドバルドゥールの2代目マスターだからな、俺。カッカッカ!闘うギルドマスターってんで皆に嫌がられているぜ!」
どうよ俺と言わんばかりに親指をぐっとやっている。後ろの人達は一言も喋らず呆れていた。しっかりしてよギルドマスターといったところだろうか。
……いやはやしかし、それは自信満々でいう事なのだろうか。
「マスターならマスターらしくギルドを管理してないと破たんしますよ?」
「おいおい、うちの秘書みたいな事言うなよ。マスターはどっしり構えていて何かあったときに責任さえとりゃいいんだよ」
「自ら先頭に立っているのにどっしりですか?腰軽マスターさんですね」
「尻軽マスターみたいに言うなよ。しかし、こりゃ、一本取られたな。これはやはり飯の一つでも奢らないと気がすまんな。是非付き合ってくれよ」
かっかっか、と楽しそうに笑う。
「別に構いませんが……どうせ探し物は見つからないので」
そう答えた瞬間の女性達の視線が痛かった。市場を歩く女性客からもまた視線が痛かった。
なんだろうこの人そんなに有名人なのだろうか。
そんな有名人に食事に誘われた私は運が良いのだろうか……?
―――
連れて来られたのは学園と城の間ぐらいだろうか。多少城よりの場所に位置する飯物屋だった。城に近いからなのかは分からないが、高級感を表そうと備え付けられているというか何というか、入口を飾る大理石で出来た柱を見上げ、何だか場違いだなと思うに至り、ついついそわそわしてしまう。
今すぐ帰りたい、と。
とはいえ、どちらにせよ探し物は見つからないのだから帰った所でどうしようもない。本来なら依頼主であるガラテアさんに聞けば良いのだが、先日からずっと顔を見せていない。ほんとどこに行っているんだろうか?あのドラゴン師匠は。ちなみに妖精さんは次の日には帰って来た……なんだかえらく慌てた様子で飛んで帰ってきたが、その割に店に着いて私の所に顔を出してからはいつ通りのんびり風味である。テレサ様と二人で店の中を飛び回っている始末である。何がしたいんだろうあの二人。そんなに飛べるのを自慢したいのだろうか。私だって飛んだことあるんだから!などというわけのわからない虚勢を張っていれば、あれよあれよとお店の中に連れていかれてテーブル席へと。
内装も高級の一言。高級な店は服装に問題があれば追い出されると聞いたような記憶もある。およそ私なんかがという以前に、こんな恰好で来て良い場所ではないと思ったのだが、服装を気にされる事もなく、武器をお店に渡しただけで済んだ。武器と言われて包丁を取り出した結果、勇者様が何とも言えない表情をしていた。使いやすいのだから良いと思う。もう一本柔らかい肉……内臓を切るための奴が欲しい所である。
テーブルに座り、周囲を見渡せば彼に付き従っていた彼女らや巨漢の男も同じテーブル席へと座る。対面に彼。隣に荷物を持っていた少女が座った。その反対側には巨漢の男が。
四面楚歌である。女集に至っては何だかずっと嫌な睨まれ方をしているし。
この類の視線は村の強い男に囲われていた女達と同じである。なので、睨まれている理由は分かる。彼に声を掛けられた私が疎ましく、私が彼に懸想しないか心配なのだろう。馬鹿馬鹿しく、面倒な話だった。
見えないように、はぁと小さくため息を吐き、店内に流れる音楽に耳を向ける。
雇われの音楽家なのだろうか。楽器や音楽の類の知識は皆無と言って良いが、そんな私でも分かるぐらいに耳に優しい音だった。心穏やかに、音楽に意識を傾けていればカイゼルが呼んだのか、店員が注文を聞きに訪れる。もう酒は飲まない事に決めたので水を頼み、他の人達の飲み物を聞いた後、店員が下がり、暫く押し黙っていたかと思えば、カイゼルが開口一番、
「どうだ?うちのギルドに来ないか?」
そんな台詞を口にした。次の瞬間の女達の視線が酷い。えぇ、視線が合わないようについ視線を逸らしてしまった。あぁ、怖い。さながら今の私はドラゴンに睨まれた蛙のようだった。
でも、そんな視線よりも、もっと怖いのは私の存在だろう?世間的には。
「そんな事をしたら全員不幸になりますよ?」
くすり、と笑いそう告げる。
巧く、言えただろうか。
ちゃんとそんな馬鹿な台詞を笑って言えただろうか。先輩が聞いてもハイハイと聞き流してくれるぐらいに笑って言えただろうか。
「かっ!そりゃ大変だ。だが、そんな眉唾でどうにかなるほどうちの連中は柔じゃないでね。伊達や酔狂で最大大手を名乗っちゃいねぇ。……だから、真面目に考えてみてくれねぇか?」
「お断りします。いえ、それ以前の問題です。私はリヒテンシュタイン家の奴隷ですのでそのような自由意思はありません」
「洞穴攻略のためという理由ならば問題なかろう?」
「なるほど……」
それならば是となるのだろうか。いや、そうすると得たもの全てがギルドの名声になってしまうのだからディアナ様がそれを良しとするわけもなし。それこそ壁に吊るされるに違いない。えぇ。あれは正直身の危険を感じるほどに怖かった。えぇ。ほんとに。あぁいや、貞操の危機と言った方が良いのだろうか……
「……いえ、我が主はそれを良しとはしないでしょう。ですから、お断りします。個人的にも御断りします」
と、そんな事をおくびにも出さずに言ってのければ、カイゼルが凹んだ。がっくりとテーブルに顔を突っ伏し、その勢いに任せて跳ねるように顔をあげる。何とも感情豊かな人である。
「ちくしょう。なんだよ、あれかよ。リヒテンシュタインの奴隷は俺を振るのが趣味なのか?まったく、白夜姫に続き黒夜叉姫にまで振られるとはな。……どうだ、お前ら。俺、やっぱもてないじゃないか」
凹んだかと思えば笑ったりと忙しい男だ。カカッと笑みを浮かべ、そんな戯れた事を言っていた。それが彼なりの精神安定の手法なのだろうか?
ともあれ、もてるもてないという事に関しては、単に周りの女どもが牽制し合っているだけだろう。呆れるような表情でカイゼルを見つめる女子3名。巨漢の男だけは苦笑していた。
「ファルコはもてるんです!自覚してくださいっ。この黒ずくめの女と白いのがおかしいんですっ」
そう言ったのは剣を持っていた人だった。今は帯剣していないのであれだが、短めに切りそろえられた金色の髪が艶やかで奇麗だった。釣り目がちの眼が一見気の強そうな印象を与えるが、声質が子供のような可愛らしさで、全く迫力が無い。
「何言ってんだよミリア。この歳になっても交際する女の一人もできやしねぇんだから俺はもう諦めるべきなんだよ。なぁ?そう思わないか?黒夜叉姫」
そんなやり取りを聞きながら、そういえば、髪まだ切ってなかった……。髪を指先で触れば案の定、ぼさぼさだった。
「私に意見を求められても困りますが……私から言えるとすれば、私がいた村だったら強い者の子が欲しい女の人達にモテモテですね。ひっきりなしのとっかえひっかえが可能だったでしょう」
「是非、紹介してくれよその村。今すぐ行って村の発展に貢献してくるぜ」
視線がきつい。
「という女性は嫌なのでしょう?だったらそういう態度を即刻止めて相応の女性に声を掛けるべきです」
見れば分かる。忌諱の視線には慣れている。が、彼は本当に一切そんな視線を見せていない。それぐらい私にも分かる。いや、周りの女や男が露骨だから尚更分かりやすいだけだろうか。そんな人間があのような閉鎖社会で生きていけるとは思わない。彼が清廉潔白であるとは言わない。が、しかし、軽薄だとも思えない。寧ろ、かなりお堅い感じだ。たとえば、昔からずっと一人の女性を想っているかのような。そんな印象さえ覚えるほどに。
「でもな、声を掛けると振られるのよ。……いやはや、ほんと俺ってもてないねぇ」
「好きになった人に好きになってもらうのは大変なのでしょうね。私には良く分かりませんが」
好きになってくれる人と、好きになる人が違うように。きっとそういうものだろう。神様だってそうなんじゃないかな、なんて事を思った。
「かっ!やっぱお前、欲しいようちのギルドに。どうだ?白夜姫と一緒に来ないか?」
「お断りします」
「だよな」
再び笑っていれば飲み物が届く。彼にはエール、私は水、他の者達はカクテルやらエールやらである。酒が入ったからだろうか。皆が気ままに会話する。が、私にはカイゼルしか話し掛けてくることは無い。
「それで?なんか探し物みたいだったけど、何を探してたんだ?」
エールをごくりと喉を鳴らしながら注ぐように、浴びるように体に蓄えていく。まさにに蓄えているという表現が的確だった。一気に飲み干し、追加を頼み、落ち着いた、とばかりにタンっと音を鳴らしてグラスをテーブルへと。
「あぁ、脳みそ蛙という蛙を探しているんですが、情報も無ければ市場にもなくてさてどうしたものかと……」
「脳みそ蛙?そんな蛙、聞いた事もなければ、そんな依頼を見た事もねぇぞ?」
ケタケタと笑いながら頭の中でそれを想像して気色悪くなったのか、わざとらしく吐く真似をする。この男、茶目っ気たっぷりである。そんな彼を見る女性の視線が悪戯好きの弟を見るような、或いは面白い男というのが良いのか、はたまた私のような輩相手にも気軽に声を掛ける優しさに逆上せあがっているのか。そんな視線を無視しながら顎に手をやりながら返答を考える。ドラゴン師匠の事を彼に伝える理由もないわけで……。
「依頼というわけでもないのですが……個人で受けている頼まれごとっていえば良いんですかね?」
「なるほどな。んー、聞いた事はないな。……おい、お前らは知ってるか?」
視線こそ彼に向けていたが、話はきっと全く聞いてなかったであろう彼女らや彼に向けてカイゼルが呼び掛ける。
「何、ファルコ?」
その問い掛けに、今の今まで話の途中であったろうに、話し相手が呆気にとられるぐらいに即座に話をぶった切り応答したのは弓を持っていた女だった。挙句、振り向いた勢いで長い髪が、背に垂らした髪が揺れていた。ちなみにこの中ではこの人が一番スレンダーである。弓を打つには都合は良いだろう。えぇ。
「いや、この姉ちゃんが脳みそ蛙とかいうのを探しているらしいんだが。クローゼは知らないか?」
「やだ何その名前……知らないわよ」
手をフリフリ、想像したくもないとばかりに否定する彼女の嫌そうな顔。さもありなん。
「だよなぁ……ボストンもしらんよなぁ?」
「ん」
巨漢が頷いた。
「セリナも……?」
「あ、はい……」
物静かな声は隣に座る少女の声。小柄な感じの、しかし多くの荷物を軽々しく持っていた事を思えば私よりも相当に力はあるのだろう。不躾ながら、まじまじと彼女に視線を向ければ、
「でも……もしかしたら、エルフの森に」
いるかもしれない、そう彼女の言葉は続いた。
「エルフの森……ですか」
それはエリザの産まれた場所。
エリザを呪いつきだと断じて捨て、守ってあげなかった場所。伝聞だけで判断するのはどうかとは思うが、正直、良い印象はない。そう考えたのが表情に出たのだろうか。いや、そうじゃない。私が掛けた声の所為だろう。引き攣るような表情をして、彼女が椅子を鳴らす。
「っ……あ……えっと、はい」
どうにか答えながら、けれど言い様、気付いたらもう駄目なのだとそう言わんばかりに彼女の椅子が今一度、鳴る。
怖がっていた。この人は私を怖がっている。
私と言う存在がどれほど怖いというのだろうか?何の力もないただの奴隷を何故怖がるのだろう。こんなに強そうな男や仲間がいてくれているというのに。自分自身も力持ちであろう。それが、何だろうただ髪が黒いだけでそれほど怖いのだろうか。
「セリナ……いや、全員だ。彼女は、俺の客だ」
その仕草を、その対応を見てカイゼルが言い放った。力強くも大きくもない、ひたすら平坦な物言いだった。だが、言い放つという表現が一番適しているように思う。
言い様、空気が変わる。
彼以外の顔が、真剣な表情に変わる。ギルドマスターの客を蔑にし、貶める対応はギルドの名を汚す事になる、ということだろうか。奴隷の行動がリヒテンシュタイン家の名を汚すようなものか。それなら、分かる。
しかし、全く気にしていないというのは流石に嘘だが、大して気ならないというのもまた事実だ。でもまぁ、そう言ってくれる人がいるのはありがたい事だった。ともあれ、こういう所が彼のモテル所なのかもしれない。
お幸せな事だ。羨ましい程に幸せそうだった。それはとてもとても良い事だ。不幸なんてものはどこにも無い方が良いのだから。だから、自然と出た苦笑に似たそれは、別に皮肉があっての事じゃない。
「なんだなんだ?」
「いえ、楽しそうですね」
「そりゃそうさ。毎日が冒険だ。毎日が未知との出会いだ。それが楽しくないなんて、あるわけがないさ。だから俺達は集ったんだからな」
「重度ですね」
「そりゃもう当然よ。末期だよ。一日たりとも離れられない重度の自殺志願さ。だからいつ死んでも良いように毎日楽しんでるんだよ。いやぁ、あれも楽しかったよなぁ。ドラゴンゾンビ」
「いえ、私は別に」
「なんだよ、なんだよ。俺は楽しかったぞ?俺とお前と白夜姫。しがみ付きながら、剣を振り下ろして殺し合う。確かに奇策を利用した正々堂々の闘いじゃなかったかもしれねぇけどさ。人間なんだ。頭を使わなきゃ戦えねぇ弱い弱い人間だ。けれど、それでも必死に戦ったじゃないかよ。な?俺らはもう戦友だぜ?それだけは認めてくれよな」
そこだけは譲れないとそう彼は言った。その時の彼の瞳はきっと真剣なもので、だからそこだけは……頷いた。その私の頷きに彼はほっとしていた。
別に楽しい時間じゃなかった。けれど、でも気持ちは分かる。彼にとってはとても楽しい、忘れたくない時間で、それを一緒に過ごした者と共有できない寂しさは私にも分かる。だから、
「先輩は大はしゃぎでしたが、私は大して役に立った記憶はありませんけどね」
言って、苦笑する。
「かっ!謙遜、謙遜。結果的に巨石で潰されたけど、俺らだけが攻撃を喰らわせられていたんだぜ?俺らだけが生き残ったんだぜ?そりゃ顔も名前も売れるってもんよ!」
かかっ!とエールを体に蓄え、大手を振る彼を余所に、思いだす。
そういえば、あの時、ドラゴンゾンビが殺されたのは地震で割れた巨石が落下してきたからだった。悲しみに泣く神様は、その身を壊し、けれど……それを持って私達を助けてくれた。死にたがりの神様が、ドラゴンから私達を救ってくれた。なんだか皮肉だな、なんてそんな馬鹿な発想が……けれど、嬉しく思えた。だから、ついつい笑ってしまう。
「ははっ。そういえば、そうでしたね。潰れてぺちゃんこになったんでしたね。あいつ。折角だからモツだけでも回収しておけば良かったですねぇ」
「いやいや、何だよその発想」
「私、内臓好きなんですよ」
「そこはせめてモツと言ってくれ。いつも持ってる包丁で腹かっさばかれて中身取り出されるのかと思ったじゃねぇかよ」
「……あー。そういう風に見られますか」
「あぁ。だから、セリナ。こいつはそんな奴じゃないからな。いくら夜叉だとか言われていてもお前の腹をかっさばこうなんざ思ってねぇよ」
「っ……あ……えっと。その」
視線を逸らす少女が一人。そうか。怖がられていたのはそういう理由か。
「……まぁ、別にどう見られても良いんですけどね」
「カカッ!ま、そういうなよ。んじゃあれか。ここはその手の物でも頼むかい?」
「それは是非」
基本、私は現金な人間なのだ。
食べられる内臓は食べたいのである。
―――
「華奢な体の割に良く食うなお前」
「食べられる時に食べたいのもそうですが、内臓は別腹です」
「いや、そこは本腹にしとけよ人間として」
違いない。
「オークの腸というのは初めて食べましたが、こりこりしてて美味しかったです。こういったものって普通の御店にないと思ってたんですがあるんですねぇ。流石の高級店ですね」
ちなみに彼らは一切口にせず、普通に普通の食事をしていた。美味しいのに。
「いやいや、高級店とか関係ねぇよ。特別に出してくれたみたいだぞ。ここの店長が懇意にしてる人が長旅に出るってんで蓄えておいたのを貰ったらしい。普段は店長が自分で食べてるそうだが……なんだよその顔。さっきトイレに行ったら店長がいたんでな。聞いてみたんだよ。あんな化け物の内臓良くあったよなって」
「あー……あぁ」
出所の想像がついた。なるほど、御店にあんまり内臓が残っていなかったのはそういうわけか。私の為に全部残しておいてくれても良かったのにっ!という逆恨みにもならない思考はさておいて。
「洞穴内の魚的な何かは良く食べていたんですがそれにも飽きてきていましたから丁度良かったです。ありがとうございます」
洞穴内でオークと遭遇した時には、うん、がんばろう。
「そんなに喜んでくれりゃ奢るかいがあるってもんだ。つか、あれも食うのかよ!あれだろ?壁をかさかさ走りまわっている奴らだろ?うへ……」
「あれ?普通に食用だと聞いていたんですけど……意外と美味しいですよ?特に足とかささみっぽくて」
「いや、普通は喰わねぇよ。ゲテモノ喰いならいざ知らず」
どうやら聞いた相手が間違っていたらしい。あれか、もしかしてエリザは遠慮してがんばって食べていたのだろうか。それは申し訳ない事をしたが、あの駄エルフめ。今度会ったら『やっぱり私達って遠慮し合う仲だったんだね』とか言ってやらないと。
「好きこそもののなんとやらってのか?しかしまぁだからこそ一人でも生きてられるのかもな。普通、食事ってのは現地調達しねぇし」
「……なんと?」
「食が極端に細いお前の所の白い奴はいざしらず、普通は事前に持っていくんだよ。その場その場で喰うってどんだけ自殺志願なんだって話だぜ」
「いや、でもお腹が空いていたら仕方がないじゃないですか」
「仕方なくないっ!!ちょっとさっきから聞いていたけど貴女発想がぶっとびすぎじゃない!?あと、さっきから突っ込みたかったんだけどオークの内臓とかも良く食えたものよねっ!」
弓使いの人……クローゼといったかが堪らず突っ込んできた。失敬である。あの魚然とした奴もオークの内臓も美味しかったのに酷い話もあったものである。リザードマンとかもきっと美味しいに違いないと思う。焼けばどうにかなると思うし。それを思うといつでも焼けるようにやはり着火用の魔法だけは覚えておきたくなってくる。
「カビを食わされるより相当ましでは……」
「その選択肢もないわっ!なんで食べ物の話をしてるのにカビがでてくるのっ」
続いて剣の少女、ミリアが可愛らしくも甲高い声で突っ込んできた。ただ、そんな事を言われてもそれは私の言葉ではないのだからどうしようもない。
「……お腹が空いていたら魚然とした奴ぐらいなら食べたくなるでしょう?」
「なりません。何のためのポーターですか」
怖がっていたセリナと呼ばれた子もまた、私に突っ込んでいた。普通に喋る事もできるのだなと関係ない事に感心しつつも、これじゃ私が馬鹿な奴みたいじゃないか。
けれど、確かにその言葉を知らないという意味では馬鹿のようだった。
「ポーター?」
「荷物持ちの事だな。白夜姫やお前は特殊なんだよ。自覚しろよ。特に白夜姫に至ってはありゃなんだよってレベルだ」
「まぁ、先輩ですからねぇ」
松明すらいらないのだからそれはそれは身軽だろう。人間の生命線である所の水も洞穴にはそこかしこに流れているのだから尚更だ。先輩が持つのは服と刀と収集品袋……しかも宝石などの小さい物を入れる袋ぐらいだ。
「とはいえ、先輩には良く助けられてはいますけど実際、どういった評価されているのかとか客観的な凄さっていうのは私、わからないんですけどね」
「あー……まぁ、塔の下は暗いってなものかね?」
「えーと……凄いんですか?」
言い様、皆が一瞬、呆れたような表情をして、
「洞穴の主」
怯えるようにセリナが口にする。
「紅薔薇の姫君」
憧れるようにミリアが口にする。
「闇の支配者」
恐れるようにクローゼが口にする。
「白雪の化身」
敬うようにボストンが口にする。
「そして、慈悲なき白夜の君こと……白夜姫」
そして、恭しくカイゼルが口にする。
「……はぁ。今度ネタにして笑っておきます」
「流石、黒夜叉姫だなおい」
「いえ、それの何が凄いのかが良く分からないと言いますか……」
「この街で二つ名を与えられる存在がどれほどいるか分かってるのか?いや、分かってないからだよなぁ」
「えぇ。そりゃもう勝手にいつのまにか貴方様の御蔭で呼ばれているわけですし」
「いやそりゃ悪かったよ。……でも普通は名誉だと思うんだぜ?俺とかな」
「……カイゼル?」
「その通り。ギルド、バルドゥール。小さな、けれど確かに俺の、俺の仲間達の居場所だ。ゆえにカイゼル。小さな国の王。それが俺だよ。そりゃ名誉に思うってもんだ」
楽しそうだった。やっぱり、物語の主人公というのは彼のような存在を言うのだろう。戯曲の主人公にしてもおかしくはない。最高の冒険譚を書けるだろう。帰ったらテレサ様に伝えてみるのも良いだろう。そして、そんな彼につき従う者たちもまた英雄となる資質を持った者達ばかりに違いない。そんな仲間達と出会い、別れを繰り返しながら彼らは行くのだ。
「楽しそうですね……きっと、とても素敵な集まりなのでしょうね」
「だぜ?どうよ?」
「お断りしますけどね」
「だと思ったよ。ま、良いさ。気が向いたらでいいさ」
私には明る過ぎる。彼らの居場所は明る過ぎる。私には沈まない陽の光ぐらいがちょうど良いのだ。地の果ての更にその地下にある薄暗い店の中で、そんな無慈悲な光に照らされるのがちょうど良いのだ。
「それで、先輩のどこが凄いっていうのは」
「おぉ。すまんすまん。って茶化したのはお前よな?」
「茶したつもりはないといいますか……人間は経験に基づいて行動する生物だと思うわけですよ」
「そりゃ至言だ。ま、一騎当千。いや、力的な意味じゃないぞ?流石に白夜姫といえど、うちのギルドのメンバー数人で囲んでしまえば、いくらでもやれるしな」
「嫌な想像をさせますね、貴方。爆破しますよ?ドラゴンの時みたいに」
そのために久しぶりにアーデルハイトさんの所にいくのも良い。どっかん何号かを貰って小さな国の王にぶつけるしかない。
「すまんね。一騎当千、それは稼ぎのことだ。中堅ギルド程度だったら白夜姫1人の方が稼いでいるな。経費を考えて利益だけを考えたら尚更差がつくだろうよ。流石にうちだったらそうでもないが、こっちは160……いや、昨日から150名か。普通、個人とギルドは比較する対象じゃないんだが、うちの稼ぎでも半分は、いやそれ以上には値してるだろうよ。なんとも恐ろしい話だぜこれは」
「なんともはや……」
それは飼い主であるディアナ様にあんな態度を取っていても怒られないわけである。
「それはそうと、ちゃんと管理されているじゃないですか」
「嫌な管理だけどな。仲間の死を忘れるわけにゃあいかんのでね。それぐらいはマスターとしてやるさ」
「しかし、凄い数ですね」
「流石に10年もやってりゃそれぐらいはなぁ。前ギルドマスターの時は、最盛期はもっといたんだぜ?」
「それはまた大所帯で」
「逆に大所帯じゃないと普通はやっていけねぇんだよ。部隊ごとに動かないとどうしようもない。最低限ってことで今も5人でいるだろ?」
「あぁ、そうですね。やっぱり行かれる予定だったのですか?」
「まぁな。でも、黒夜叉姫に出会えたって事は幸運を使ってしまったってことさ。今日、洞穴に行くには運がもう足りてねぇさ」
「……運も実力のうちですか?」
「そりゃそうだ。もっとも、それを掴み取るために努力はするがね」
「当然ですね」
何もせず、何も行わずに奇跡が起こるのを待っている馬鹿が生きられる場所じゃない。この世界は、この大陸はそんな優しい場所じゃない。
「あ。そうだとするとあれですか。第2階層とかにも結構行ってらっしゃるんですかね?」
「うちのギルドは第2階層が主だな。もっともその時は最低限10人体勢。物量でどうにかするのさ。まぁ……プチドラとかと遭遇するとそれでも心もとないといえばそうだけどなぁ。事実昨日の10人はプチドラにやられたみたいだしな」
脳裏に浮かぶ気色悪いドラゴンの姿。エリザの呪いがなければ私はあれで死んでいただろう。たまたまエリザがあの場所にいたから。たまたまあの場所に天使の痣を持った彼女がいたから私は助かったのだ。天使の痣という存在がなければ、私は森で……
「あぁ、エルフの森です。森」
気を抜けば沈んでいきそうな思考を打ち消し、強引にそちらに意識を持っていく。
「そうだったな。おい、セリナ。ちょっと教えてやってくれよこの馬鹿に」
「馬鹿!?」
「いや馬鹿だろ。一人で自殺洞穴に潜って今の今まで生き残ってるって時点で。まじで白夜姫の再来だと思われてんだから。リヒテンシュタインの奴隷はたまにこういうのを産むから怖いんだよなぁ」
「……はぁ」
「世の中、見えない物の方が大事だぜ?自分、とかな」
「それはまた、至言ですね」
「誰かの言葉さ。俺がそんな詩的な物言いできるわけねぇよ。出来てたら女侍らかしてギルド館の奥でしっぽりしてるっての!」
「してるじゃないですか。奇麗どころ揃えて」
折角だからと彼女らを持ちあげてみたら、良くやったとばかりに期待の視線を浴びる。現金である。流石、自殺志願者達だ。
「あ?こいつらは仲間だぜ?そんな眼で見ちゃワリィだろ。あぁ、別にお前らに魅力がないってわけじゃねぇぞ?」
そんな彼の台詞に喜んでいいのか、悪いのか、3人とも微妙な顔をしていた。ちなみに巨漢の男だけは声も出さずに笑っていた。
「いやはや、あれですね。カイゼルさん。塔の下は暗いらしいですよ?見えない物の方が大事らしいですよ?」
「全部俺が言った言葉じゃねぇかよ」
「えぇ。まぁ、あれですよカイゼルさん。魅力的な女性なら声を掛けてあげないと失礼に値しますよ?例え、身内でも。じゃないと……不幸になりますよ?今日の運、使い果たしたんですよね?」
くすりと笑う私に、カイゼルは一瞬呆然とし、次いで笑った。
「それも俺の台詞じゃねぇかよ。かっ!はーっ。黒夜叉姫に不幸になると言われたんじゃあ致し方ねぇよなぁ。うっし、お前ら今度遊びにでもいくか?俺なんかじゃ不満だろうけどさ」
言われ、今度こそ3人娘が嬉しそうだった。よくやったお前とか視線で言ってくる。いえいえ。そう視線で返す。まぁ、あとはご自分の努力でお願いします。
「というわけで、セリナさんでしたか?情報料は払ったと思いますのでお願いします」
「本当に色々ありがとう……そしてごめんなさい。これは情報だけじゃ足りないかも」
そんな彼女の言葉にカイゼルがきょとんとしていた。……鈍感にも程があるだろうこの男。
「いえいえ。情報に勝る物はないと思うので。それだけで十分ですよ」
「こっちは……3人分の料金を貰ったのだからね。良いわよね?」
「あー、はいはい。了解。ここまでやられちゃね」
「確かに。これで一歩出し抜けるなら、安い安い」
あぁ、つまりなんだ。まだ他にもいるのかこういう女の人達が。いや、まぁ確かに市場の一般人もそんな視線を向けていたのだから当然なのかもしれない。
「案内するわ。エルフの森……怨霊の森へ」
「……怨霊?」